"高野山発★無国籍レゲエ"
この2曲を含め、昨年7月より定期的(当初は月間)に新曲配信しており、これまでに「ユグドラシルのフールたち」(2025年7月)、「Loco Mundo」(同年8月)、「Irie」(同年9月)、「ブランコ1」(同年10月)、「坂道 (Cover)」(同年11月)、「Bet&Draw」(2026年1月)、「ブランコ2」(同年2月)、「Nothing is not」(同年3月)の8曲を発表していた。そしてこの曲群の中から今回7インチ用として選ばれたのが、「Irie」と「坂道」で、フィジカル作品としては、2021年7月の『にっぽん昔ばなし / Fall In Love』以来実に5年振りとなる。
高野山在住の鬼才音楽家で治療家の土屋貴雅によるツチヤニボンドは、2007年のデビュー時「はっぴいえんど×トロピカリズモ」と称され、オルタナティブという言葉だけでは括れない幅広い音楽性を持っており、本作でも唯一無二のサウンドを展開している。レコーディングのエンジニアリングとミックス、マスタリングは、折坂悠太など多くのアーティストを手掛けて信頼を得ている中村公輔が担当している。
Irie / ツチヤニボンド
ここでは本作の解説をする。タイトルの「Irie」は土屋の作曲と、ソロユニットPADOKやツチヤニボンドにも参加した渡部牧人の作詞による新曲で、一聴するとレゲエ・ナンバーだが、主旋律や歌唱スタイルには琉球民謡からの影響がして、左チャンネルのエレキギターのリズム・パターンはサンバと一筋縄ではいかない。パーソナルは最近の彼らのバンド形態と同様に、土屋がボーカルとベースを担当し、ドラムには波照間将、パーカッションには弊サイトでのベストプレイ企画でお馴染みの増村和彦、ギターには本日休演の岩出拓十郎が参加している。
プレス資料によるとコロナ禍に一発レコーディングに近い形で制作されたということなので、前7インチ・シングルのカップリグ「Fall In Love」と同時期のセッションなのかも知れない。渡部による歌詞は、タイトルの「Irie(アイリー)」というパトワ語(ジャマイカン・クレオール語)のポジティブさに、古典文学的ワードの響きがビートに共鳴して実に心地良いのだ。
坂道 / ツチヤニボンド
カップリグの「坂道」は前文の通り、シンガーソングライター折坂悠太作のカバーである。オリジナル(『平成』収録/2018年)は70年代ロックマニアなら一聴して分かると思うが、ハース・マルティネスの「Altogether Alone」(『Hirth From Earth』収録/1975年)における変則ボサノヴァのリズムとサウンド(間奏のアコースティックギター・ソロやドラム・フィルなどアレンジの細部まで)をオマージュしている。またその主旋律の導入部は、小学校で音楽の教材にもなっていた「切手のないおくりもの」(作詞作曲:財津和夫/1977年)を合唱していた昭和世代なら懐かしさを覚えただろう。それから約半世紀を経た令和の現代で音楽活動をしている、この曲を折坂のオリジナルとして筆者は高く評価している。唱歌の伝承にも似た、エバーグリーンな楽曲にはこのような愛溢れるオマージュが必要だと考えるのだ。
ここでのカバーは、演奏やプログラミングの全てを土屋が一人多重のワンマン・レコーディングしており、ウォータードラムのサンプリング音やアナログ系トーンのシンセサイザーを中心とした音数が少ないバックトラックに、エレクトリックギターのアルペジオを響かせた、全く異なるアレンジとサウンドで仕上げている。リバーブを効かせてダブルトラックにした土屋のボーカルもこの深い音像にマッチして、ツチヤニボンド音響派に強く支持されるだろう。
15年前「夜になるまでまって」との衝撃的出会い以来、筆者は土屋貴雅とその仲間達が作るツチヤニボンド・サウンドに魅了され続けているので、今回の5年振りのフィジカルでのリリースは非常に嬉しい。
本作もプレス数が限られているので、筆者の解説を読んで興味をもった音楽ファンは、リンク先のネットショップで早期に予約して入手しよう。
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(テキスト:ウチタカヒデ)



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