生活の設計
生活の設計はリーダーでボーカル兼ギターの大塚真太朗と、実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平による2人組のロックバンドである。前身バンドの“恋する円盤” “Bluems (ブルームス)”時代を含めると、9年以上の活動経歴を持ち、音楽家の小西康陽氏からも高評価を得ている。昨年11月にはファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』に小西氏との対談取材が掲載されるなど、一般層にもその存在は広がりつつあり前途有望なのだ。
待望のこの新曲「稀代のホリデイメイカー」のプロデューサーであるが、2012年に活動を再開させたGREAT3(1994年~)と、妻のChocolatとの夫婦デュオ Chocolat & Akito(2005年~)の活動で知られ、プロデューサーとして手腕を発揮し、初期フジファブリックやDAOKOなどを手掛けている片寄明人を迎えている。
筆者は『ソフトロックA to Z』(初版96年)シリーズをはじめ、片寄には幾度かインタビューをしてきたので、昨年秋にこのプランを大塚(真)から聞いた時から非常に期待していた。その後今年7月にこの「稀代のホリデイメイカー」を含めたアルバム収録予定の全音源が送られてきたので直ぐに聴き込み、片寄がもたらしたアレンジ・センスやレコーディング・テクニックの向上をひしひしと感じることができたのだ。
本曲のレコーディングにも片寄のテリトリーにより、GREAT3のサポート・キーボディストで、THE CORNELIUS GROUPをはじめ複数のバンドへの参加や数多くのセッションで知られる堀江博久、GREAT3のオリジナル・ドラマーで堀江同様に多くのセッション・ワークもこなしている白根賢一はドラムテックとして参加しているのがGREAT3ファンには嬉しい。またべーシストとして自身のバンド”Burgundy”の他、セッションマンとしてメジャー・ワークも多い井上真也もレコーディングに参加している。
片寄明人
堀江博久 井上真也
ここからは本曲「稀代のホリデイメイカー」を解説しよう。
アップテンポなシェイクビートに、Pico(樋口康雄)の「I LOVE YOU」(1972年)を彷彿とさせる和製ノーザンソウル風コード進行とスキャットのイントロでまずは耳を奪われる。「とにかく外へ出て、旅に出て、さまざまなものを体験しよう」というテーマを持つ歌詞と大塚(真)の溌溂としたボーカルが、令和のヤングアダルトたるメンバー2人のポジティブなスタイルをよく現わしていて、渋谷系の遥か以前1970年代の親しみやすく、メロディアスでポップなロック・ミュージックの心地良さを思い起こさせるナンバーに仕上がった。
大塚(薫)のやや前乗りのドラミングに、井上のバックビートにアクセントを持つべース・ラインがコンビネーションすることで独特なグルーヴを形成し、堀江によるオルガンもメインのコード・ワークの他、グリッサンドのアクセント、スタッカートを活かせたオブリガード的リフなど多彩なプレイを繰り広げている。
また最終サビの後にテンポ・チェンジして、大サビが現れてくるドラマチックな展開のアレンジなどは、プロデューサーである片寄のセンスではないだろうか。その曲が持つべき方向性に的確に導いていくという、片寄のプロデュース力(りょく)を垣間見れた。
(テキスト:ウチタカヒデ)
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