2024年1月28日日曜日

Ian Stewartについて

 The Rolling Stonesのファンからは "Stu(スチュ) "としてよく知られているであろうIan Stewartというピアニスト。以前の記事で書いたDownliners Sectの1stアルバム、『The Sect』でもセッションピアニストとして参加していると言われていて、(Ian Stewart ではなくJohn Paul Jones、もしくはBrian Jonesという説もある。) 私はここから初めてその名前を知り、しばらくThe Rolling Stones結成時のメンバーだったと知らなかった。

 One Ogly Child / Downliners Sect

 彼はスコットランドの出身だけれど、1962年、化学会社の事務員としてロンドンで勤務していた。本業とは別にジャズクラブでブギウギピアノを弾いたりもしていて、ある日ジャズ・ニュース誌の、R&Bバンドへの参加者募集の広告に応募する。その広告主だったBrian Jonesと出会い、その後Mick Jagger、Keith Richards、Bill Wyman、Charlie Wattsが加わりThe Rolling Stonesが結成されたそうだ。

 ところがレコードデビューよりも前に、マネージャーだったAndrew Loog OldhamがIan Stewartをメンバーから外してしまう。彼の容姿がThe Rolling Stonesのアウトローなイメージに合わないことや、メンバーが6人もいるバンドは顔を覚えてもらえないとの考えからだった。許されたのは、ツアーやレコーディングにはセッションミュージシャンとして参加し、ロードマネージャーとして関わっていくことだった。そんな不当な扱いにも関わらず、彼はその立場を受け入れたという。Ian Stewartという人物の懐の深さを想像すると同時に、バラードやマイナーキーの曲など、弾きたくないものは頑なに断ったという彼のスタンスを考えると、結果的に正式メンバーではない自由な立場も悪くなかったのかもしれないとも思った。Ian Stewartが断った曲は別のセッションピアニストNicky Hopkinsが補い、その後もBilly Preston やChuck Leavellなど、複数のピアニストが参加している。

 正式メンバーではなくなったものの、その後20年以上The Rolling Stonesと共に活動したIan Stewartのピアノやオルガンなどの演奏は

「You Can Make It If You Try」(1964 年『The Rolling Stones収録』)

「Let It Bleed」(1969 年『Let It Bleed』収録)

「Brown Sugar」、「Dead Flowers」(1971年『Sticky Fingers』収録)

「It's Only Rock 'n Roll (But I Like It)」

 (1974年『It's Only Rock 'n' Roll』収録)

「Honky Tonk Women」

 (1970 年『Get Yer Ya-Ya's Out! The Rolling Stones in Concert』収録)

その他、彼らのアルバムの中で多数聴くことができる。

 Mick JaggerやKeith Richardsよりも5歳年上で、ドラッグに手を出さずゴルフや古い蒸気機関車が趣味だったような彼は、グループの調和を保つ役割でもあり、メンバーからは大きな信頼を寄せられていたそう。

 The Rolling Stonesが所有していた移動式のスタジオ "モービルユニット" の管理も行っていたIan Stewartは、このスタジオを他の様々なミュージシャンに貸し出していたのでそれらの録音に参加することもあった。特に有名なのはLed Zeppelin が1971年にリリースした「Led Zeppelin IV」収録の「Rock And Roll」への参加。その後もLed Zeppelinとは交流が深かったようで1975年のアルバム『Physical Graffiti』では「Boogie with Stu」という曲も収録されている。

 他の有名な共演として、The Rolling Stones にも大きな影響を与えたシカゴ・ブルースの巨匠Howlin' Wolfとのセッションがある。チェス・レコードのプロデューサーNorman DayronがEric Claptonに話を持ちかけたことで1970年、Howlin' Wolf、Hubert Sumlinとイギリスのミュージシャン達とのセッションが実現した。ロンドンのオリンピック・サウンド・スタジオで行われ、Eric Clapton、Steve Winwoodなどと共にBill Wyman やCharlie Watts 、Ian Stewartも参加している。この録音は『The London Howlin Wolf Sessions』として1971年にリリースされた。

 彼が共演したミュージシャン、参加した作品はその他数多くあるけれど1981年にリーダー作となるアルバムを残している。1979年から、Ian StewartはRocket 88というプロジェクトグループの中心となって活動していた。メンバーは流動的だったようで数多くのミュージシャンがこのプロジェクトに参加している。唯一公式公開されたのがドイツ、ハノーバーのRotation Clubで録音された1981年リリースのライブ盤 『Rocket88』で、この時のメンバーは

Alexis Korner(ギター・ボーカル)

Jack Bruce(ベース・ボーカル)

Charlie Watts(ドラム)

Ian Stewart(ピアノ)

Bob Hall(ピアノ)

George Green(ピアノ)

Hal 'cornbread' Singer(テナーサックス)

Don Weller(テナーサックス)

John Picard(トロンボーン)

Colin Smith(トランペット)

Ian Stewart自身の演奏は「Swindon Swing」の1曲のみで、プロデュースがメインになっている。

Swindon SwingRocket88

  1962年にIan StewartとBrian Jonesが出会った時、Wynonie Harrisのような音楽を期待していたIan Stewartに対して、Brian Jonesが考えていたのはSlim Harpo、 Jimmy Reed、Muddy Watersのような音楽だった。ピアノやテナーサックスが活躍するスタイルではなく少しがっかりしたそうで、『Rocket88』は、長年彼が実現したかったことを追求した作品のようだ。"Rocket88" という名前はIan Stewartが敬愛するPete JohnsonのRocket88 Boogieという曲に由来。The Rolling Stones加入前グラフィックデザイナーだったCharlie Wattsがジャケットデザインを手がけている。

Rocket88』(Atlantic – SD 19293)

 1985年、The Rolling Stonesはアルバム『Dirty Work』を制作していた。Ian Stewartもこれに参加していたのだけれど、呼吸器の問題を抱え始め、症状を見てもらう為にこの年の12月診療所を訪れていた。ところがその待合室で心臓発作を起こし47歳の若さで亡くなった。翌年の1986年にリリースされた『Dirty Work』にはIan Stewartへの追悼として、彼が弾くブルースのスタンダード「Key to the Highway」の30秒程の演奏がシークレットトラックとして収められた。

 時が経った2011年、Ian Stewartから多大な影響を受けたイギリスのピアニストBen Watersは『Boogie 4 Stu』というトリビュートアルバムをリリースした。ハイライトとされるBob Dylanのカバー曲 「Watchin’ The River」など、このアルバムにはThe Rolling StonesのメンバーやIan Stewartを愛する多くのミュージシャンが参加した。ラストの「Bring It On Home」(Sam Cookeのカバー曲)は1984年のモントルー・ジャズ・フェスティバルでのRocket88の未発表ライブ音源で、生前のIan Stewart本人の演奏を聴くことができる。


参考・参照サイト:

https://timeisonourside.com/chron1962.html

https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/music/features/ian-stewart-the-sixth-rolling-stone-2236089.html

https://web.archive.org/web/20080222190116/http://www.out-take.co.uk/ot/ray_connelly.php

https://web.archive.org/web/20130203015627/http://www.beggarsbanquetonline.com/decades.htm

https://iorr.org/talk/read.php?1,1396603

 https://www.scotsman.com/whats-on/arts-and-entertainment/rolling-stones-pay-tribute-to-forgotten-scots-bandmate-ian-stewart-1435783

 https://ianstewartsixthstone.blogspot.com/

 https://www.irocku.com/history-lesson-the-rolling-stones-piano-players/

 https://www.timeisonourside.com/SOWatchingThe.html


執筆者・西岡利恵

60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。


【リリース】
8thアルバム『The Pen Friend Club』をCD、アナログLP、配信にて発売中。

【ライブ】
・2024/1/28 (土)​
      東京タワー・Club333
・2024/3/17 (日・昼)​
      高円寺JIROKICHI
・5月5日(日・昼)
  御茶ノ水・KAKADO
・6月29日(土)
  栃木・岩下の新生姜ミュージアム
・7月13日(土)
​  神戸・Wメリケン波止場




amazon

0 件のコメント:

コメントを投稿