2010年9月28日火曜日

☆Gary Lewis:『Listen!』(New Sounds/CRNOW20)

私はかつて『Soft Rock A to Z』の中で「ゲイリー・ルイス(&ザ・フレイボーイズ)の最高傑作は『Listen』」と書き、ゲイリー・ルイスを紹介する度にその事を強調してきたが、その一押しのアルバムが遂にCherry Red傘下のNew Soundsよりリリースされた。
このCherry Red傘下にはRev-Olaがあり、VANDAの別働隊のようにVANDA Recommendのアルバムをリイシューしてくれるので、実に頼もしい存在だ。このアルバムが素晴らしいのはサウンドと選曲である。前作の『New Directions』からそれまでのようなイージーなヒット曲のカバーを収録曲から外し、当時としてもレベルの高い曲をカバーとして選ぶようになった。これはスナッフ・ギャレットに変わって中心となったプロデューサーのゲイリー・クレインと、タートルズへの曲提供で知られるアラン・ゴードン=ゲイリー・ボナー(ゲイリーはプロデュースを担当したゲイリー・クレインではなくこの二人が中心とはっきり語っている)のセンスが大きい。そしてアレンジャーもレオン・ラッセルからジャック・ニッチェ(『New Directions』にはニック・デカロなども含む)に変わり、サウンドに深みが出た。ただスナッフ・ギャレット=レオン・ラッセルのコンビはシングルを作らせたら最強で、ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズの大ヒットは全てこのコンビが担当(デビューから7曲連続全米トップ10入り。その後の2曲もトップ20内)していて、この二人のサウンドがゲイリー・ルイスのサウンドとなっていることは間違いなく、私も大好きなのだが、ことアルバムになると、シングル以外の曲が往々にしてチャチだった。明らかに手を抜いていた。トップ10に入るヒットがなくなったのは1966年で、ビーチ・ボーイズが『Pet Sounds』、ビートルズが『Revolver』をリリースしたこの年はポップ・ミュージック・シーンがシングル中心からアルバムの時代へとシフトする転機だった。この年の暮れにゲイリーは徴兵されたため、ライブは出来なくなったが、レコーディングは続けられた。スタッフを一新したゲイリー・クレインとボナー=ゴードンは、アルバムを価値のある曲で埋め、1967年という時代にふさわしいアルバムを作ることに成功する。『New Direction』で試行した洗練されたサウンド作りがこの『Listen!』で結実している。メイン・コンポーザーはゴードン=ボナーが担当、静と動の変化が聴きものであるタートルズでお馴染みの「She'd Rather Be With Me」、牧歌的で深遠なサウンドを持つハーパース・ビザールでも知られる「Small Talk」、解放感のある「New Day」、重量感のあるシングル曲の「Jill」(シングルにしては地味で52位止まり)の4曲は、メロディの深度、洗練されたサウンドでまさにソフト・ロックと呼べる傑作に仕上がった。そして雄大な「Look Here Comes The Sun」、3拍子を巧みに組み入れた「Angel On The Corner」、ジャック・ニッチェと一発で分かるウォール・オブ・サウンドの「Happiness」が素晴らしいし、ティム・ハーディンの書いた「Don't Make Promises」「Reason To Believe」もいい味を出している。しかし最も素晴らしいのは最後を飾る「Young And Carefree」だ。流麗で心地よいこの3連符の曲は、ソフトロック・ファンなら誰でも一瞬で心を奪われる大傑作と言えよう。そして難しい曲が多いこのアルバムでのゲイリー・ルイスのヴォーカルは裏声も使いこなし、声に透明感があって実に見事だった。ヴォーカル面でも最高傑作である。ライブが出来なかった時期なので、ソロ名義にしたのだろう。ただこのアルバムはノン・チャートで終わり、ゲイリーは次作のプロデュースをスナッフ・ギャレットに戻すことになる。かつて来日した時にゲイリーに直接インタビューができたが、そこで感じたのは、ゲイリーはエンターティナーであり、ヒットした曲には思い入れがあり雄弁に話すが、どんなに素晴らしい曲であってもアルバム曲でしかない「We'll Work It Out」の話題などには興味を示さなかった。この2枚のアルバムについてははっきりと「いいとは思うけど40人のオーケストラを雇わないといけなくてステージではできない。今までのファンはついてこられなかったからさっぱり売れなかった。お金をたくさん損して、自分にとっての利点はなかった。」とにべもなかった。そして成功していた時の実質的なボスはレオン・ラッセルで、彼が最高だとも語っていた。成功しなかったからゲイリーの評価は低いが、音楽的な評価は間違いなく『Listen!』が一番だ。このCDはステレオ、モノと2イン1で、シングルのカップリングだったゴードン=ボナー作の「New In Town」も収録されていた。このWeb VANDAの読者の方なら必ず購入すべき、マスト・バイ・アイテムである。(佐野)
Listen


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