2018年12月5日水曜日

Saigenji :『Compass』 (Happiness Records/HRBR-013)



日本においてジャンルを超えたシンガー・ソンングライター兼ギタリストとして唯一無二の存在で、圧倒的ライヴ・パフォーマンスにより多くのファンを魅了しているSaigenji(以降サイゲンジ)が、2012年の『ONE VOICE,ONE GUITAR』以来6年振りのオリジナル・アルバム『Compass』を11月21日にリリースした。
2002年10月にアルバム・デビュー後ソロ活動の他、MISIA、MONDO GROSSO、冨田ラボ、今井美樹、平井堅等々超一流のシンガー、クリエイター達のアルバムやライヴにゲスト・ボーカルやギタリストとして参加し、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても注目されている存在であることは読者もご存じかも知れない。
15年には東芝EMIからリリースしたリオ録音の『ACALANTO』(05年)の10周年記念リマスター盤をリイシューしており、当時筆者がおこなったインタビューをこちらで再掲載したので記憶にも新しいと思う。 

そんな彼の満を持しての9作目となるオリジナル・アルバム『Compass』だが、レコーディングには04年のサード・アルバム『Innocencia』からサイゲンジ・サウンドに欠かせないドラムの斉藤良をはじめ、コントラバス(ウッドベース)の小美濃悠太、パーカッションの南條レオと、近年のレギュラー・ライヴ・メンバーが集められている。

その他にも渡辺貞夫から椎名林檎までの幅広いセッションで活躍し、ピアニストとして高名な林正樹が4曲、また一十三十一などのバッキングで知られる女性キーボーディストのスミレディが2曲でエレピとシンセサイザー、アコーディオン奏者の佐藤芳明も1曲でそれぞれ参加しているのでそのプレイに注目すべきだろう。


 

では筆者が気になった主な収録曲を解説していこう。 「First song(for our tales~Magia)」は、サイゲンジのこれまでのアルバム冒頭曲に比べたら穏やかなテンポのサンバ・ワルツで、斉藤と小美濃の緩急あるリズム・セクションに林の繊細なピアノがパッセージを加え、映像が浮かぶ歌詞の世界を美しく演出する。
続く「Dance of Nomad」はリード・トラックとして先行配信された、サルソウルとサンバが融合したダンスナンバーだ。トニーニョ・オルタ・スタイルのギターワークと斉藤のドラミング(アール・ヤングのようだ)の相性は非常によく、フックでのスミレディのフェンダー・ローズのコード・ワークとスペーシーなアナログ・シンセのリフからギター・ソロへの繋がる流れが凄くいい。また南條のクイッカーにはディレイがかけられて獣の遠吠えのようでいいアクセントになっている。アルバム中最もライヴで聴きたくなる曲だろう。


ハイテンポな4ビート・ジャズの「朝と摩天楼」は、リズム隊2人とトリオで同時録音された曲で、生ならではのスウィング感がたまらない。本来そちらのフィールドが本職といえる斉藤と小美濃のプレイが炸裂して、縦横矛盾なスキャットと掛け合うパートは圧巻である。
タイトル曲の「Compass(Horizonte)」もジャズ色が強いが、こちらはスピリチュアルなECM系サウンドに通じるクアルテットの演奏で、林のピアノはキース・ジャレットを彷彿とさせるタッチがこの上なく美しい。叙情的な前半部から徐々に熱を帯びた全員のプレイと共にサイゲンジのヴォーカリゼイションがコーダで最高潮に達する。

一転してメランコリックなボサノバの「夜光虫の海」は、サイゲンジにしては世俗的な曲調かも知れないがやけに心に響く。この曲ではスルドのリズムで刻まれる小美濃のベースもとにかくいいのだ。
続く「Heartbeat」は、嘗ての「テレスコープ」(『Innocencia』収録)にも通じるアコースティックなヒップホップ感覚と、ビル・ウィザースの匂いがするコード進行などは筆者好みであり、ブラック・ミュージック・ファンにも大いにアピールするだろう。
ラストの「Midnight departure」はロードムービー的歌詞がとにかくいい。深夜バスの車窓から見える移り変わる風景と、1人旅立つ心情が交差していく世界を温かくサイゲンジの歌声が描く美しいロード・バラードだ。


アルバム・デビュー前の2001年から交流があり、彼のサウンドを知り尽くしたつもりでいたが、この9枚目のオリジナル・アルバムを聴いて、新たな魅力に気付いたと同時に今後も長く聴き続けると心に決めた、とっておきの作品となった。
 興味を持った音楽ファンは是非入手して聴くべきだ。
 (ウチタカヒデ)


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