2016年9月18日日曜日

ゲントウキ 『誕生日』(Victor Entertainment/VICL-64642)



03年のメジャー・デビュー時から本誌でも高く評価していたポップス・バンドのゲントウキが、10年ぶりのアルバムを9月21日にリリースする。
オリジナル・アルバムとしては、06年のミニアルバム『路面電車とチーズケーキ』以来となるが、07年からヴォーカル兼ギタリストの田中潤のソロプロジェクトとして活動しており、田中個人はSMAP(今なにかと話題の)をはじめ土岐麻子やMay J.といったシンガーへの楽曲提供、倖田來未の楽曲アレンジなどクリエイター業が主となっていただけに、まさに「満を持して」という言葉が相応しい作品に仕上がっている。

筆者はメジャーデビュー・シングルの「鈍色の季節」(03年2月)や続く「素敵な、あの人。」(03年6月)をFMラジオで耳にして直ぐに田中のソングライターとしての才能を見抜き、60~70年代のシンガー・ソングライターを引き合いにして高評価し、WebVANDAでインタビューをしていたので、このニューアルバム『誕生日』のリリースを心より喜んでいるのだ。
音源を入手して1ヶ月ほど聴き込んでいるが、高純度なソングライティングはそのままに、バンド時代とは異なるプログラミングを中心としたサウンドながら、ヒューマンで温かい独特のグルーヴを生み出している。
これは田中のヴォーカリストとしての表現力が向上しているのも一つの要因だろう。 またリリックの世界観にも心境の変化が投影されており、ゲントウキの新境地を感じるのは筆者だけではないと思う。

 

ではアルバム収録曲で筆者が気になった曲を解説しよう。 タイトル曲で冒頭の「誕生日」は、新生ゲントウキを象徴する曲といえるだろう。プログラミングされたメロウでファンクネスなトラックに、これまでにない愛溢れるメッセージを持つリリックで歌われる。ここでの田中のフロウ(唱法)はバンド時代と明らかに異なるノリを持っており、一人多重のコーラスを含め、彼が好むブラック・ミュージックからの影響を感じさせる。歌詞が持つメッセージ性含め、ゲントウキ(田中)流の「Isn't She Lovely」(スティーヴィー・ワンダー 『Songs in the Key of Life』収録76年)なのかも知れない。
続く「5万年サバイバー」は前曲から淀みなく耳に入ってくる同傾向のサウンドであり、グルーヴのシンコペーションはやや強い。この曲の魅力はハイブロウなテーマを持つリリックながらスムーズに韻を踏んで聴かせている点だろう。蛇足だがコーダのフェードアウト部で披露するスキャットは彼がファンと公言しているsaigenjiのそれを思わせる。
「カモメの気持ち」は09年頃からライヴでも披露していたジャジーなナンバーで、ゲントウキとしては今までになかったタイプの曲といえるだろう。ヴァースAとBは完全にジャズピープル的アプローチで、サビでの展開はジョー・ジャクソン(ロックとジャズのボーダーを壊した英国の名ミュージシャン)を彷彿とさせて素晴らしい。

「ByeBye」は12年に女性シンガー宮崎薫に提供した曲のセルフカバーで、ゲントウキとしては珍しくストレートなラヴ・バラードである。この系統のソングライティングとしては嘗ての「鈍色の季節」や「満たされて心は」(『いつものように』収録03年)に匹敵するクオリティーじゃないだろうか。
「アルゴリズム」は「カモメの気持ち」同様にジャジーな曲調だが、特にホーン・セクションが秀逸である。アレンジと全てのプレイ手掛けたのは、ノーマン・コーナーズ・バンドへの参加から国内の多くのメジャー・アーティスト(Dreams come true、The Boom、平井堅等々)のレコーディングやツアーの参加している竹上良成氏で、和声の構築から巧みな演奏まで一級の完成度を誇っている。
ラストの「BusyDays」は非常にハイブリッドな構成で、ヴァースはリリック、フロウ共に初期のスガシカオに通じるスタイルだが、サビの展開はギター・ポップ風なサウンドで解決している。
そしてボーナス・トラックは、筆者が03年のベストソングとして真っ先に挙げたい「素敵な、あの人。」をアコースティック・アレンジでリメイクしたヴァージョンで収録している。ここでのイントロはロジャー・ニコルズとのコンビで知られるポール・ウィリアムズの「I Won’t Last A Day Without You」(『Life Goes On』収録72年)のそれを思わせるシンプルながら慈愛に満ちた導入部と、本編は2本のギターによりボサノヴァのリズムで奏でられる。
アレンジが変わっても原曲が持つクオリティーは普遍的で、まさに「エバーグリーンをなめるなよ」と言うべきだろう。
さて繰り返しになるが、高純度なソングライティングを誇るゲントウキが10年ぶりにニューアルバムをリリースしたことは16年の大きなニュースであることは間違いないので、WebVANDA読者やポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)


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