2008年10月28日火曜日

V.A. : 『TOKYO CITY POPS』 (Happiness Records/HRBD-10) ゲントウキ田中潤インタビュー

 

70~80年代ジャパニーズ・シティポップは、一部ではいまだに根強い人気がある。WEBVANDAでは以前からゲントウキや流線形、オオタユキ、最近ではsummer softといった、現在進行形のシティポップ・アーティストのアルバムを紹介してきた。
そんな彼らを含む9組の代表作や新作をコンピレーションした画期的なアルバムが、11月12日にリリースされる。タイトルは『TOKYO CITY POPS』。 ここではその『TOKYO CITY POPS』に書き下ろしの新曲「アメーバー」を提供した、ゲントウキの田中潤氏に話を聞いてみた。

今回の新曲の話題にとどまらず、ゲントウキの名曲群について、そして定期誌VANDAの愛読者で、大のソフトロック・ファンだった(現在でも)という彼との話は尽きなかった。
U) 先ず今回の『TOKYO CITY POPS』に、新曲を提供することになった経緯を教えて下さい。


田中潤(以下:T) saigenji(サイゲンジ)さんが好きで、ライヴによく行っていまして、ハピネスレコード周辺の方々と知り合いました。
その後、コンピレーションアルバム『TOKYO BOSSA NOVA』に参加しました。それで今年の春くらいに、平野さん(ハピネスレコード・プロデューサー)からシティポップもやるから、曲を提供してってメールがあって。
U:依頼を受けてから曲作りへの着想はスムーズにいきましたか?

T:実はシティポップはやりたくなかったので、レゲエにしたいって言ったら(笑)、平野さんに「あんまりシティポップから離れてほしくない」と言われたんです。
それで、なるべくポップにメロディアスにしました。

U:「シティポップはあまりやりたくなかった」とは、いきなり問題発言だけど(笑)、それはアルバム『感情のタマゴ』までに、自分達のスタイルを極めたからということでしょうか?
田中さんのソロプロジェクトになってから、方向性が変わったという感じはしていますが。

T:ドリー(ドリーミュージック)時代は、シティポップとソフトロックの中間をやっていたような気がします。 その後『路面電車とチーズケーキ』で、一瞬フォー・リズムのロックなバンドサウンドになったけど。いわゆる歌モノって括られることには飽きたという感じはあります。
シティポップ(AORも含む)は大好きなんだけれど、青春時代がそういうのがアンチな時代だったんです。少しの差でカッコ良く感じたり、ダサく感じたり、好き嫌いの線引きがとても難しいジャンルなんです。
ホール&オーツはダメで、スティリーダンは大好きっていう。とにかく線引きがむずかしい!

U:成る程これまでのゲントウキが、シティポップとソフトロックの中間という感じは分かります。
既に「鈍色の季節」と「素敵な、あの人。」で、そのスタイルは完成されていましたからね。
では今作のレコーディング中のエピソードなどはありますか?

T:レコーディングはハピネス・スタジオでスリー・リズムを録音して、その他のダビングを自宅録音しました。

U:スリー・リズムをレコーディングする時は、事前にアレンジを固めていたんですか?
それともヘッドアレンジ的に、ベーシストとドラマーの個性を活かす余地を残した指示だけだったとか?

T:だいたいはデモで大まかにリズムパターンを打ち込んで聴かせます。
で、シンコペーションの位置が記されたリズム譜を書いて、そのグルーヴの上で自由にやってという指示の出し方です。

U:ゲントウキの久し振りのシティポップ作品として、楽しく聴かせて頂きました。
では次に、そのゲントウキの名曲群についてお聞きします。
まずはメジャーデビュー・シングルの「鈍色の季節」。
この曲は2004年頃、Lampというグループにインタビューした時、偶々メンバーに聴かせたことがあったんですが、リーダーの染谷君がいたく感動していました。
優れたソングライターである彼をして名曲と言わしめる、そんな完成度の高い曲だと思います。この曲の着想はどんなものだったんでしょうか?

T:へーそんなエピソードがあったんですね。それは嬉しいですねー。
同時に、渋谷の女子校生達に名曲っていわれない感じはありますけど(笑)。
この曲のイメージは何かをモチーフにしたような気がする。
なんだったかな、クラウデッドハウスのヒット曲「DON'T DREAM IT'S OVER」かな。
あんなバラードが書けたらなあと阪急電車に乗りながら思った、という断片的な記憶が残っています。 ただ、ずいぶん前なので、別の曲かも知れないし正確ではないです。
歌詞の方は、やはりデビュー曲なので大衆性のあるものを書きたかったんだけど、文学的に面白い表現をしなきゃあいけない年頃(25歳)だったので、普段マンガしか読まないくせに難しい言葉を探していました。
リズム録音の日、ギリギリまで書いていましたね。

U:クラウデッドハウスの「DON'T DREAM IT'S OVER」でしたか?僕はリアルタイムでアルバムを買って聴きましたよ。確か86年だから、もう22年前の曲ですね。
成る程、あの美しい曲をモチーフにしたのですね。なんだか感動しました。多くを語りたくない感じです。 「鈍色の季節」も同様に、聴く人の記憶に残る曲だと思いますよ。 このイントロのピアノが流れる度に、記憶の風景が浮かんでくるような感じです。
では次に「素敵な、あの人。」。 FMで一聴して直ぐに入手したシングルです。
この曲はソフトロック・ファンも飛びつきますよ。個人的にはジェリー・ロスが手掛けていたキースを連想させますね。 風光明媚な歌詞が軽快なシャッフル・ビートで彩られる。
今でも本当に大好きな曲です。 この曲についてはどうでしょうか?

T:この曲は渾身の一曲でした。
歌詞とメロディー、コード、基本リズムのみで言及すれば完ぺきだったと思います。ただアレンジがソフトロック、あるいはナイアガラ過ぎたかなあと。
そこは、プロデューサーの佐橋(佳幸)さんと一緒にやったんだから、ある程度予測していたことだけど、最初のデモの頃はジェリーフィッシュ的なイメージだったんですよ。
それが、ライヴでやるようになってベースのイトケン(伊藤 健太)がタワー・オブ・パワーのロッコ(プレスティア)風のベースを入れて、けっこう図太いシャッフルだったんですが、レコーディングが始まって、プリプロしていくうちに変わってきた。
自分でいうのもなんですが名曲だと思います。
歌詞は完全言葉遊びでつくりました。ほとんどパズルです。表現と物語性のつじつま合わせが大変でした(笑)。最終的なモデルは北斗の拳のラオウです(笑)。 当時インタビューではジャッキー・チェンって言っていたような気が。

U:あの曲にロッコ風のベースですか?(笑) そういったヘッドアレンジ的要素も音像全体の面白さを生んでいるんでしょうね。
この曲はドラムのフィルも結構難度が高いんじゃないですか。

T:そう、Aメロの部分ベースが超動いていた。
シャッフルだから音切ってハネ易いから意外とはまっていましたよ。
プリプロ中にああいう抜いた感じになった。
ドラムのフィルですか?難しいんですかね?? わからない(笑)
とにかくトリッキーな曲だと思います。プラス作ったやつはケンカ弱い感じが出ています(笑)

U:次は「満たされて心は」ですね。 この曲にも強烈に惹き付けられました。
個人的なエピソードですが、偶々コンビニの有線で耳にして買い物をする手が止まって、少しして我に帰って気付くってことがありましたよ(笑)。
ゲントウキのライヴでこの曲を聴いて、時間が止まるような思いを何度も体験しました。
ライヴではそういったことはなかなかないですよ。他ではsaigenjiくらいかな。
この曲ってバースはバカラック風だけど、サビでトッド(ランングレン)になる(笑)。黒人コーラス・グループにいかれた東海岸SSW風な感じがして、アル・クーパーやローラ・ニーノとか。

T:まさしくそうですね~。トッドが首吊っているあの感じですね。(『Runt: The Ballad of Todd Rundgren』)
そういえば有線でがんばったな~、この曲。
この曲は、高円寺で天一を食っている時にかかったんですよ。
誰も分かるはずないのに妙に恥ずかしくなって、早く出ようと急いで食って、レジでお金を払っている時にちょうどエンディング。
「どこへ行くのかー♪」
って、そういうオチかって、ひとり納得しました。
また、ああいう生活したいなー。 その日暮らし的な(笑)

U:田中さんは定期誌VANDAの愛読者でもあったそうですが、かなり拘り派のポップス愛好家とお見受けします。
ではそんな60~70年代ポップスやソフトロックとの出会いと、好きなアルバムやアーティスト、プロデューサーについてお聞かせ下さい。

T:出会いはやはり、一番はロジャニコですね。
あれを聴いた時の衝撃に大人になってから、なかなか出会ってないですね。
あれ以来、曲作りの趣向が劇的に変わりました。
あと、VANDAのコンピは最高でした。2枚目の1曲目「The jet song」(Groop)は、ソフロの名曲5曲の中に入るんじゃないでしょうか? 無名だけど超名曲です。
マニアックなところだとクリサリス、サンダウナーズ等サイケ系も好きでした。他にもペパーミントレインボウ、イノセンス、スパギャン、カーニバル、レモンパイパーズ、フリーデザインetc。
切りがないですね~。 もう一回集めなおしたいです。当時は学生だったんで、はした金欲しさにフリマで売ったやつとかもあるし、どこにいったかわからない盤もいっぱいある。
あと意外かも知れないですが、クレジットには興味なくて、プロデューサーという観点からはあまり聴いたことがないんです。でもロイヤレッツは好きなので、テディ・ランダッツォは好きだと思います(笑)。今はプロデューサーとかプレイヤーには興味ありますけどね。

U:『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』が出会いなんですね。
日本でのソフトロックの夜明けじゃないですか。正統派ですね。
VANDAのコンピとは、佐野編集長の監修と解説による『It's A Soft Rock World』シリーズですね。2枚目というと、『Sitting In A Rockin' Chair』だ。このコンピがリリースされた当時(96年)は、正かアルバム『The Groop』がCDリイシュー(2007年)されるとは思ってもみませんでしたね。
またソフトロックのCDやアルバムを集め直したいって人は、結構多いかも知れません。
是非先々大人買いで再入手して下さい(笑)。
しかし、プロデューサーやアレンジャーなど制作スタッフを基準に集めていなかったというのは意外でした。

T:『The Groop』はリイシューされていたんですか??
うわ~、アンテナは張っていないとダメですね。『Sitting In A Rockin' Chair』から10年越しの夢が実現ですね。早速注文します。
多分、当時は渋谷系の末期(笑)だったと思うんですが、僕は関西にいて、しかも高校の時は兵庫の姫路って街にいて、大阪から電車で一時間の田舎町ですが、幸いタワーレコードがあったんです。そこで入手した米国音楽やVANDAを読んでいた。 姫路で渋谷系って笑えますよね。
その後、大阪の大学に進学したので、当時、雨後のタケノコのように次々と出店した中古レコード屋に足を運んでは、買えないオリジナル版を眺めていましたね(笑)
音楽は完全にファッションでしたね。 これ聴いているおれ、カッコいいみたいな。でもそれは全然間違ってなくて、そういうところがないと逆につまらない。
ファッションをどれだけ血肉にできるかどうかで、作る人かDJかに分かれるんじゃないでしょうか。僕は前者だった。

U:ゲントウキ(=田中潤氏)の魅力は、アレンジやサウンドを超えたところで曲自体が完全に自立しているから、ギター一本でも成立しそうなところだと思うんですよね。
その点ではソフトロックの中でも、ロジャー・ニコルスやジミー・ウエッブあたりを引き合いに出したくなります。

T:ありがとうございます。
そうですね。それはあるかも知れません。

U:では最近の田中さんの活動や、今回の『TOKYO CITY POPS』リリース以降の予定も聞かせて下さい。

T:今年春にシガキマサキくんのアルバム(『ハミングムーン』)で数曲プロデュースしました。
あとは曲作りですね。rhythm Zoneと作家契約しました。全然採用されていないけど(笑)。デモは作っているのですが、全てrhythm Zoneに預けているので、採用されれば誰かの作品になるし、そうでなければ自分の作品になるといったタームですね。
自分自身の作品ですが、ゲントウキでの作風とはまったく変わりますよ。
録音物自体は完全に宅録の方向に移行するかと思われますが、いわゆるウタものの打ち込みではないです。って、リリースの予定は決まっていませんが、そのうち。でも来年は出すつもりです。ライヴも作品もガラッと一新したですね。


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