2019年8月9日金曜日

Minuano:『蝶になる夢を見た』(Botanical House / BHRD-012)☆尾方伯郎インタビュー


パーカッショニスト尾方伯郎のソロ・ユニットMinuano(ミヌアノ)が、2010年のセカンド・アルバム『ある春の恋人』以来9年振りに、サード・アルバム『蝶になる夢を見た』を8月11日にリリースする。
ファーストの『Love logic』(09年)と『ある春の恋人』の2枚のアルバムでは、70~80年代のブラジリアン・ミュージックやジャズのエッセンスをちりばめつつポップスとして昇華していたが、本作では尾方のパーソナリティとイマジネーションをより活かした、一種コンセプチュアルなトータル感に耳を奪われた。
昨年8thアルバム『彼女の時計』をリリースしたLampのヴォーカリスト、榊原香保里をフューチャーしていることで彼等の熱心なファンも本作を待ちわびていたことだろう。
ブラジリアン・ミュージックをはじめジャンルレスなスタンスでポップ・ミュージックをクリエイトしていく姿勢は、 先月全国流通されたがレビューのタイミングを逃してしまったGUIROの 『A MEZZANINE』にも通じており、そのサウンドを構成する数々の音楽的エレメントに興味が尽きないのだ。
ここでは前作から実に9年振りにおこなった、尾方氏へのインタビューをお送りしよう。

●先ずはサード・アルバム『蝶になる夢を見た』のリリースおめでとうございます。 前作『ある春の恋人』から9年が経ちましたが、この期間はどのような活動をされていましたか?
また本作の曲作りやプリプロはいつ頃から始めましたか?

尾方伯郎(以下尾方):ありがとうございます。プリプロですが、セカンド発表後の2011年頃から始めています。ただ、思うように作れなかったり、作っても納得できなかったりで半分ほどボツにしたので、一部を除いたほとんどの収録曲は2015年以降に作ったものかと思います。
この間、Lampのライブやツアーがあったり、別の企画に没頭していたりした時期もありましたが、実感としては9年間、寝ても覚めても本作のことを考えていたという歪んだ記憶しかありません。とにかく時間の流れが早過ぎました。

●ご自分で納得がいかない曲をボツにされるのは理解出来ますが、それが半分ほどになるというとのころに尾方さんの強い拘りを感じました。
収録中11年のプリプロ時に作った曲はどの曲でしょうか?ソフトロック系の「流星綺譚」は前作までのテイストが残っていますよね。
またアルバムの軸となるリード・トラックの「終わりのない季節」はいつ頃作られた曲ですか?

尾方:2011年当時、曲として基本的な形ができていたのは「蜃気楼」、「真夜中のラウンジ」、「夏の幻影」の3曲。また、「機械仕掛けのハートのための不完全な戯曲」は、原型となる曲を2013年頃に作っているので、これら数曲が比較的早い時期の楽曲ということになります。
「終わりのない季節」が出来たのは確か2016〜17年頃、「流星綺譚」はその少し前くらいだったかと思います。

【アルバム・ダイジェスト】  

●音源を聴いたファースト・インプレッションは、前二作に比べて非常にコンセプチュアルで、複雑な展開とアレンジが施されているなと感じました。組曲のように構成されていて、アルバム全体で一つの作品になっていうような印象を受けました。
この様なアルバム・コンセプトは当初からプランしていて、曲作りをしていったのでしょうか?  

尾方:つまらない返しで申し訳ないのですが、一曲一曲を完成させるだけで精一杯でした。その繰り返しと積み重ねの結果としてこの形になったというのが実情で、何らかのコンセプトを狙うような余裕はなかったです。狙って作ってこれだったらもう少し格好もついたのですが、壁に向かって無作為にペンキをぶちまけたら偶然にも自画像になりましたと、それくらい強烈な意外性を私自身も感じています。

強いていえば、曲の並びには工夫を凝らしたと言っていいのかもしれませんが、この曲はこの配置しかありえないという場所に収まるべくして収まった感も強いので、あれこれ腐心した末の成果だと自分の口で言うのもちょっと違う気がします。この辺の感覚は言葉にするのが難しいです。

●成る程、アクション・ペインティング的な偶然性から生まれたトータル感なんでしょうね。でもそれは後で考えると必然だったのかも知れませんよ。曲順に関してはジグソーパズルのピースの当てはめていくような作業だったように感じますが、実はそれもアルバム作りでは非常で大事でもあり、悩みながら楽しめる作業ではないかと思うのですがいかがですか?  

尾方:悩みながら楽しんだという言い方も出来ますし、時間をかけて自然にそうなっていったという意味では、逆にほとんど悩んでいないとも言えます。ただ、普通に考えればこの曲がオープナーだろう、といったような定石からは外れたオーダーになったので、果たしてこれがベストか?という迷いは最後の最後までありました。それでも最終的には、常識的な判断より事の成り行きを優先して現状の配置に落ち着いた次第です。

●このユニットは尾方さんがサポート・メンバーとして参加されているLampの榊原香保里さんをヴォーカリストとしてフューチャーリングして、レコーディングにもサポート・ミュージシャンの方がこれまで同様に参加しています。
ソングライターとアレンジャーが異なるとはいえ、Lampサウンドと区別をつけるためのポイントはなんでしょうか?

尾方:違いを打ちだそう、区別をつけよう、そういった感覚はまったくなくて、彼らのスピリッツに少しでも肉薄したいという思いがむしろ強かったくらいです。録音物を聴くだけでは掴めなかったLampの真髄を、ライブやツアーで実際に演奏する度に体感しているわけですから。
しかし、そういった一種の精神論は脇に置いて純粋に技術的な部分で言えば、誰が何を作ったとしても、その人自身のフィルターを通した独自の作品にしかなり得ないので、そこは人為的にコントロールのできない部分ではないかと思います。

いずれにしても、Lampのサポートで演奏機会のある人間は現時点で世界に数人しかいないので、たまたまその一人として刺激を享受できる立場にいるのは、とても恵まれたことです。双方の共通点も相違点も呑み込んで今回やっと実った果実、それが甘いか渋いかは聴く人それぞれでしょうけれど、その実りの萌芽は、やはり自分の置かれている立場、つまりごく当たり前のようにインスピレーションを得られるこの稀有なポジションに、深く根差していると思っています。

『Love logic』     『ある春の恋人』

●『ある春の恋人』から本作『蝶になる夢を見た』までの間にLampは、『八月の詩情』(10年)、『東京ユウトピア通信』(11年)、『ゆめ』(14年)、『彼女の時計』(18年)と4作品をリリースしていますが、尾方さんが受けたインスピレーションのポイントを強いて挙げたらなんでしょうか?

尾方:挙げて頂いたアルバム個別の影響というよりも、あくまでも全体的な傾向の話になりますが、どの作品も当たり前に「ポップス」なわけです。
聴き手をときめかせるポップさを兼ね備えながら自由で複雑な表現を存分に盛り込んで、でも難解とは感じさせない。そういった印象は、時系列でみれば一定の変遷を辿りつつも、巨視的には初期から現在に至るまで一貫しています。表現の濃密さとポップさをいかに両立させるかというこのテーマは、この9年間に限らず終始、私の中で通奏低音のように鳴り続けていた。そういう言い方が一番しっくり来るように思います。

●尾方さんは90年初頭のクラブ・シーンでSpiritual Vibes(スピリチュアル・バイブス)のメンバーとして、近未来を見据えたかのようにラテン・ジャズやブラジリアン・ミュージックとポップスの融合をされていた訳ですが、昨今のネオ・シティポップ・ムーブメントからジャンルレスで多様な音楽性を持ったバンドが活動している昨今のミュージック・シーンをどう見られていますか?  

尾方:Spiritual Vibesは演奏面での参加のみで、制作プロセスの核心に直接タッチしたわけではないのですが、クラブ文脈で多少デフォルメされているとはいえ、ジャズやブラジル音楽がある種のポリュラリティを得た。そういう時代や現場に立ち会えたのは貴重な体験でしたし、この時に得られた感覚が今の自分の出発点にもなっています。ただ、その流れが後のシーンにどう繋がったかという大局的な視点は持ち合わせておらず、あくまでも私的な経験として非常に重要だったと、そういう話でしかありません。

それくらいの個人的なスタンスで音楽に接しているので、現在のシーンについても、自分が直に体験すること以外はまったく把握できていないのが実状です。勉強不足とは思いますが、世間の動きやシーンの動向よりも、置かれた環境で自分がいま何を感じているかという、そこにしか関心がないのかもしれません。
その対象は、昨日観た映画でも今日の車窓風景でも、あるいは過去への悔恨でも未来への不安でも何でもいいのであって、つまり必ずしも音楽でなくても構わないわけです。

そういう意味では、ミュージックシーンも含めた社会全般と一定の心理的距離があり、自分の中で勝手に作られた並行宇宙でただ一人暮らしているようなものです。一般的にはあまり好ましい状況として映らないかもしれませんが、そういうプライベートな架空世界から今回の作品が生まれてきているという側面は、少なからずあると思います。



●レコーディング中のエピソードをお聞かせ下さい。 

尾方:優等生っぽい答になりますが、参加ミュージシャンやエンジニアの方々との触れ合いは楽しかったです。とはいっても、レコーディング当日は時間の縛りもあって何かと慌ただしく、ゆっくり話をするような余裕はないのですが、そこは音楽関係者同士ですから、こちらの問いかけに音で答えてもらう非言語コミュニケーション中心で。

奏者さんの中にはちょくちょく顔をあわせる人もいれば、お久しぶりの人もいる。昔から知っているのにこれまでお願いする機会のなかった人もいれば、紹介を受けて初めてご一緒した方もいる。皆さん例外なく優秀なので、放っておいても勝手に良いパフォーマンスをして曲を膨らませてくれるし、こちらの至らないところはこっそり補ってくれたりもします。いやミュージシャンやエンジニアって本当にすごいなと、他人事のように実感しました。

特にクラシック系の楽器奏者さんは、いわゆるバンドマンとは異なる文脈で音を出す機会も多いはずで毎回軽く緊張するのですが、皆さん申し合わせたかのように親身で解釈も的確、もちろん演奏も全力投球です。こういった異ジャンル間の接近遭遇は、私の場合レコーディング以外では滅多に起こらないので、振り返ってみれば豊かな時間だったと、懐かしむというと大袈裟ですが、そんな気持ちが今も残っています。

●本作制作中に聴いていた楽曲を10曲挙げて下さい。

尾方:なにしろ長期に渡ったので、聴く音楽も次々に入れ替わりました。取りあえず、この9年間のある時期に繰り返し聴いていた曲、印象に残っている曲を挙げてみます。 ポップス以外のジャンルが多く、今回の新作に直接の影響は見出せないかもしれません。尚、制作期間以前から継続的に親しんでいる定番曲は外しました。

1. Fred Hersch 「At The Close Of The Day」
  『In Amsterdam: Live At The Bimhuis』 (2006) より
 (spotify試聴プレイリストでは別ver)

2. Dani Gurgel 「Depois」
  『Agora - Dani Gurgel E Novos Compositores』 (2009) より

3. Fabian Almazan & Rhizome 「Alcanza Suite: I. Vida Absurda y Bella」
 『Alcanza』 (2017) より

4. Jon Hopkins 「Candles」
 『Monsters (Original Motion Picture Soundtrack)』 (2010) より

5. Michael Franks 「When The Cookie Jar Is Empty」
 『Burchfield Nines』 (1978) より

6. Francis Hime 「Atrás Da Porta」
 『Francis Hime』 (1973) より
 (spotify試聴プレイリストでは別ver)

7. Kurt Rosenwinkel 「Gamma Band」
 『Star of Jupiter』 (2012) より

8. Brian Eno & Harold Budd 「First Light」
 『Ambient 2 The Plateaux Of Mirror』 (1980) より

9. Allan Holdsworth 「Tokyo Dream」 
 『Road Games』 (1983) より 

10. Jóhann Jóhannsson 「Heptapod B」
 『Arrival (Original Motion Picture Soundtrack)』(2016) より





●最後に本作『蝶になる夢を見た』の魅力を挙げてアピールして下さい。  

尾方:アルバム全体にコンセプチュアルな印象があるというお話を頂きました。それは偶然の産物という話もしましたが、成り行きはどうあれ、アルバムトータルで聴いた時にこそ何かが伝わる作品になったという思いは確かにあります。

アルバム単位で聴く習慣が薄れている昨今の時代性とは相反しますが、今回のアルバムをまるまる通して聴いて頂ければ、一周回って逆に新しい体験になるのではないか。
そういうところに、この音楽の持ち味があるのではないか。そんな気がします。本作は化学反応の主体ではなくあくまでも触媒であり、聴いてくださる方それぞれが主人公になって、無自覚に胸に秘めた何かを感じ取る。そんな風景や物語を、私は漠然と思い描いています。 

(インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ)


2019年8月4日日曜日

◎PIPER:2019summer live(Piper、村田和人、Honey & B-Boysレコ発ライブ!) 2019.07.14.(Sun)@目黒ブルースアレイ・ジャパン

 山下達郎さんが体調不良で7月12、13日の中野サンプラザ公演を中止された翌日となる7月14日、東京目黒ブルースアレイ・ジャパンではPIPERのライヴが予定通り開催された。
 

 このライヴには私の後輩であり、古くからの友人音楽評論家近藤正義氏が前座で出演するとあって、この告知を6月5日に投稿させていただいた。その後、レコードコレクターズ誌でもコンサート情報を掲載、また口コミでもこのライヴが伝わり、この会場にはあふれんばかりのファンが駆けつけ、超満員となり大盛況となった。


 では、遅ればせにはなるが、当日の詳細を会場のスナップも含め紹介しておく。まずオープニング・アクトで登場したのは、村田和人さんとPIPERのコアなファンを自認する音楽評論家近藤正義氏率いる“村田和人トリビュート・バンド/Ready September”。前回の投稿でも紹介したが、このバンドは彼が村田さんにそっくりな声を持つヴォーカリストとの出会いから結成された。なお当日はこれまでの編成をパワー・アップさせたツイン・ドラムという布陣でのステージだった。また村田ファンには、このバンド名を見ただけで、ニヤリとする気の利いたネーミングだということがおわかりいただけるだろう。

  では彼らのセット・リストを紹介しておく。なお( )は収録アルバムになっている。

①Ready September 
 ~近藤正義(Gt.) 、井原正史(Gt.,Vo.)、 山田繁毅(B.)、志間貴志(Kyd.)、池田幸範(Per., Cho.)、小倉睦子(Kyd.)、館野順子(Vo.,Cho.)、堀江誠巳 (Ds.) 

1. 134号ストーリー(1989年7作『太陽の季節』) 
2. Lady September(1982年1作 『また明日』) 
3. Summer Vacation(1984年3作『My Crew』) 
4. April shadow(1985年二名敦子2作『“WINDY”ISLAND』) 
5. Love Has Just Begun(1983年2作『ひとかけらの夏』) 
6. リアルは夏の中(1989年7作『太陽の季節』) 
7. マリンブルーの恋人たち(1986年児島未知瑠2作『MICHILLE』)with児島未散 
8. Lady Typhoon(1993年 9作『HELLO AGAIN』)
9. Travrlin’ Band(1983年2作『ひとかけらの夏』) 


 という他者への提供曲も含め9曲を披露した。そして7.の<マリンブルーの恋人たち>には、オリジナル・シンガーである児島未散(こじまみちる)さんがサプライズで登場している。この曲は彼女が児島未知瑠名義でリリースした1986年セカンド・アルバム『MICHILLE』への村田さん提供曲で、村田さんは2013年に発表した16作となるセルフ・カヴァー・アルバム『Treasures in the Box』に収録されている。



 なお、彼女のライヴ出演は数日前に決まったものだったらしいが、未散さんにあわせ彼女のヴァージョンで演奏され気持ちの良いジョイントとなった。近藤氏もこの出来にかなり満足されていたようで、次回からこの曲は村田さんヴァージョンから、未散さんヴァージョンに変更する予定だと伺った。この曲はかなりコアな村田ファンであっても、彼女の生歌を聴くのは初めてだったのではなかっただろうか。この映像は既に動画でもアップされているので、ファンは要チェック!また当日参加できなかった方には彼女が開催する10月12日に中目黒の「THE楽屋」でのソロ・コンサートをお忘れなく。補足ながら、彼女は俳優宝田明さんのお嬢さんで、あの人気ドラマ『3年B組金八先生』にも出演歴のある女優というプロフィールを加えておく。 


 このようにオープニングから大喝采の中、いよいよ当日の主役である山本佳右さん率いるPIPERが登場。サポートには村田バンドの小板橋博司さんをはじめとする強者が整揃い。そのステージは、<Ⅰ部><Ⅱ部>に加え<Encor>も含め、既発アルバム(1981年ファースト『I'm Not In Love』除く)からまんべんなく16曲を聴かせてくれた。

②PIPER  
~山本佳右(Gt.,Vo.)、山本耕右(B.)、志間貴志(Kyd.)   
 With 小板橋博司(Per., Cho.)、樋口達也(Gt.)、今瀬真朗太(Ds.) 

<Ⅰ部> 
1. Angel Smile(1983年2作『Summer Breeze』) 
2. Starlight Ballet(1985年 5作『LOVERS LOGIC』) 
3. 僕のLove Song(1984年4作『Sunshine Kids』) 
4. 夏はどこかへ(1984年4作『Sunshine Kids』) 
5. Photograph(1985年 5作『LOVERS LOGIC』) 
6. New York, Paris, London, Tokyo(1983年3作『Gentle Breeze』) 
7. Ride On Seaside(1983年3作『Gentle Breeze』) 

<Ⅱ部> 
1. 酒とバラ(1987年Honey & B-Boys『Back To Frisco』) 
2. ふいうちのまなざし(1984年4作『Sunshine Kids』) 
3. ACT3(1985年 5作『LOVERS LOGIC』) 
4. Trade Wind(1985年 5作『LOVERS LOGIC』) 
5. New York Review(1985年 5作『LOVERS LOGIC』) 
6. Time & Tide(1983年3作『Gentle Breeze』) 
7. Ride On Seaside(1983年3作『Gentle Breeze』) 

<Encor> 
1. デイドリーム ビリーヴァー(1984年4作『Sunshine Kids』) 
2. Breezing(1983年3作『Gentle Breeze』) 

 そしてこのライヴのトリとなる<More Encor>では、Ready Septemberに山本佳右さん小板橋博司さんが加わり、村田和人ナンバーを3曲披露している。 


 

③Ready September With 山本佳右、小板橋博司 
<More Encor> 
1. Brand New Day Brand New Song(2014年17作『ピーカン』) 
2. 一本の音楽(1983年村田和人2作『ひとかけらの夏』) 
3. We Love You(1984年村田和人3作『My Crew』) 



 このラスト・ステージでは2016年に村田和人さんが亡くなられた際に、彼の師匠山下達郎さんがこの年のツアーのアンコールで、ギター1本で歌い上げた追悼曲<一本の音楽>がファンの間で評判となった。この曲を本家である山本佳右さんと、彼をこよなく愛する近藤正義氏がツイン・ギター・ソロを響かせ、会場のファンにはたまらないプレゼントとなった。ただこの瞬間を一番楽しみにしていたのは、近藤氏だったのは言うまでもない。 

 また、オーラスとなった<We Love You>は、発表当時「オロナミンC」のCMソングとして一般にもヘビロテ状態のナンバーであり、この共演に最もふさわしい締めくくりのナンバーだった。 この共演は当日会場に詰めかけた多くのファンを楽しませていたが、何よりも永年のPIPERファンだった近藤正義氏には永年の夢が叶った瞬間として一生忘れられないステージになったことと思う。「近藤君、お疲れ様でした。そして共演おめでとう!」長年の友人として、遠方より祝辞を送らせていただく。また今回は近藤正義氏が企画・選曲・キャッチコピーまで全てに関わったコンピ『村田和人/エヴァーグリーン・ワークス~永遠に続く輝く~』の発売にも拍手を送りたい。



 なおこのライヴのリポートは、「レコードコレクターズ」9月発売号に掲載予定で、8月発売号には近藤正義氏によるPIPER特集記事等がかなりの枠で掲載される予定だ。 僭越ながら、私も後方支援としてFMおおつ「音楽の館~Music Note」の6月号ラストで、概要告知をさせていただいた。



 そして、7月27日に放送された7月号では「村田和人さん」と「PIPER」の特集を放送している。当日のプログラムは、村田さんのナンバーも佳右さんのギターにこだわって選曲した。以下はその放送でオンエアされたリストだ。 


1. Morning Selection /Honey & B-Boys (1987.『Back to Frisco』) 
2. 部屋とYシャツと私 /平松愛理(1992.Single;1990.3rd『My Dear』) 
3. 電話しても/村田和人(1983. Single;1st『また明日』) 
4. ファーラ・ウェイ/ PIPER(1982. Single;1st『I’m Not In Love』) 
5. 高気圧ガール/山下達郎(1983.Single;8th『Merodies』) 
6. So Long Mrs. /村田和人(1984. 2nd『ひとかけらの夏』) 
7. Summer Vacation /村田和人(1985. 3rd『My Crew』) 
8. Shine On/ PIPER(1984.2nd『Summer Breeze』) 
9. Ride On Seaside/ PIPER(1984.3rd『Gentle Breeze』) 
10. Sunshine Kiz/ PIPER(1985. Single;4th『Sunshine Kiz』) 
11. We Love You/村田和人(1985. 3rd『My Crew』) 
12. Gimme Rain/村田和人(1985. 3rd『My Crew』) 
13. Boy’ s Life/村田和人(1987. 5th『Boy’s Life』) 
14. 電話しなくても/村田和人(1990. 8th『空を泳ぐ日』) 
15.Imaginaly Lover/村田和人(1993. 9th『Hell Again』) 
16. 太陽の恋人/村田和人(1995. 11th『Sweet Vibration』) 
17. マリンブルーの恋人たち/村田和人(2013. 15th『Treasures In The BOX』) 
18. STARLIGHT BALLET/ PIPER(1985.4th『Lovers Logic』) 
19. 一本の音楽/村田和人(1984. Single;2nd『ひとかけらの夏』) 
20. 夏を忘れた瞳に/村田和人(1994. 10th『evergreen』) 

 このなかで最もメジャーな曲といえば、ブルースアレイ・ジャパンのライブ・レヴューでもふれた<11. We Love You>になるだろう。それはこの曲が1984~5年にかけて読売ジャイアンツの人気選手が登場する大塚製薬「オロナミンC」CMに起用されていたからだ。    

 その映像に出演していたメンバーが全員思い出せなかったので、大塚製薬のカスタマーサービスに問い合わせをしてみた。さすがに即答とはいかなかったが、同世代と思われる担当者に調査していただき、以下の6名が判明した。 まず当時、江川卓(えがわすぐる)投手と並び巨人軍投手三本柱として活躍した定岡正二(さだおかしょうじ)投手と西本聖(にしもとたかし)投手。そして「絶好調!」の連発でお馴染み、数年前までDeNAベイスターズの監督だった中畑清(なかはたきよし)選手。さらに「意外性男」山倉和博(やまくらかずひろ)捕手、河埜和正(こうのかずまさ)内野手、松本匡史(まつもとただし)内野手だった。補足になるが、このCMには「5月編」「ファンレターA・B」「クリケット」の4パターンがあったようだが、さすがの私もそこまで詳しく記憶してはいなかった。


 

 そして最後にFMおおつの告知となるが、「音楽の館~Music Note」8月号のプログラムは、2001年に映画化されその後テレビ・ドラマ化もされた「ウォーターボーイズ」の演技シーンに使用された音源の特集をお届けする予定だ。このシリーズは4作あるが、微妙に選曲を変えており、すべて把握している方はよほどのマニアだけのはずだ。 選曲はかなりベタなナンバーばかりにはなるものの、私の肩書である「レトロカルチャー」に相応しい内容を盛り込んだプログラムでお届けするのでこちらもご期待いただきたい。放送は第4土曜日15:30~、再放送は翌日曜8:00~。 

【FMおおつ公式アプリ】https://fmplapla.com/fmotsu/ 

(鈴木英之)

2019年8月1日木曜日

シンリズム:『赤いタワーまで / Moon River Lady』(production dessinee / PDSP-022)


若干22歳のシンガー・ソングライターのシンリズムが7インチ・シングル『赤いタワーまで / Moon River Lady』を8月7日にリリースする。 
出身地の神戸で高校在学中の15年にシングル「心理の森」とアルバム『NEW RHYTHM』でデビューした彼は、続くセカンド・アルバム『HAVE FUN』(17年)でも高い評価を得てきた。
音楽大学進学後は活動拠点を東京に移し、ソングライター&アレンジャーとして今年4月にガール・グループRYUTistのシングル『センシティブサイン』のタイトル曲を手掛けるなどその才能を広いフィールドで発揮している。



ソロ作品として2年程のブランクを経て発表する本作は、ソングライティングとアレンジは勿論のこと全てリズム・セクションを自ら演奏しており、そのマルチな才能には敬服するばかりだ。では収録曲を解説していこう。
 「赤いタワーまで」はダブルトラックのフルート・リフから導かれるメロウなシティポップ・ナンバーで、フェンダー・ローズ系のエレピを中心に構築されたサウンドである。 かつて松任谷由実の「タワー・サイド・メモリー」(『昨晩お会いしましょう』収録 81年)でも歌われた“神戸ポートタワー”をモチーフにした歌詞には、故郷に思いを馳せる彼の心象風景が滲み出ている。またコーラスでゲスト参加した“月の満ちかけ”の熊谷あすみの無垢な歌声とブレンドされたハーモニーが美しい。 

Official Teaser

カップリングの「Moon River Lady」は、イントロにはRah Bandの「Clouds Across The Moon」(85年)の匂いがして心憎い演出だが、アコースティック・ピアノ中心にしたシンプルな編成のファースト&セカンド・バースからサビに入ると、2拍子のカリプソ~中南米系リズムにシフトしてバックビートで3管のホーンが入ってくるという。 一聴して音楽的引き出しが多い彼の才能が伺える曲である。 

なお本シングルはリリース元の『プロダクション・デシネ』製のカンパニースリーブ付属で、初回300枚プレス(非限定)らしいので興味を持った読者は、下記URLから早期に入手して欲しい。
dessinee shop (デシネ・ショップ): http://www.dessineeshop.com/shopdetail/000000023764/ct11/page1/order/
(ウチタカヒデ)

2019年7月21日日曜日

名手達のベストプレイ第4回~チャック・レイニー


70年代を中心にジャンルを超えて、その巧みなベース・プレイでミュージシャンズ・ミュージシャンとして知られるチャック・レイニー。 
チャックは40年6月17日オハイオ州のクリーブランドで生まれた。クラシックのヴァイオリン、ピアノ、トランぺットの教育を受けたが、バリトンホーン奏者としてテネシー州のレイン大学に奨学生として入学する。
軍事兵役時代にはギターをマスターし、大学卒業と兵役終了後にはクリーブランドに戻り、地元のバンドでギタリストとしてミュージシャンとしての活動をスタートしたが、後にベーシストへと転向した。
このように様々な楽器奏者として経験が、彼特有のベース・プレイにフィードバックされていったのではないだろうか。

その後ニューヨークでセッション・ベーシストとして活動を始め、キング・カーティス、アレサ・フランクリンなどアトランティック・レコードの主要レコーディングを皮切りに、クインシー・ジョーンズ、サム・クック、エタ・ジェイムズなどの著名ジャズ・クリエイター、ソウル・シンガーのレコーディングに参加する。
評判になったそのベース・プレイはジャンルを超え、アル・クーパー、ローラ・ニーロなど黒人音楽に影響されたシンガーソングライターのレコーディングでもオファーされ、72年のロサンゼルス移住後には、スティーリー・ダンの多くのレコーディング・セッションで重要な役割を果たしたのは読者にはご存じの通りだ。
これまでにチャックが参加したアルバムは数百以上と言われており、81年にはその功績が認められ、オハイオ州芸術評議会から、厳選された数少ないミュージック・サイドマンとして認可を受けている。

ここではそんなチャック・レイニー氏を心より敬愛するミュージシャン達と、彼のベストプレイを挙げてその偉業を振り返ってみたい。
因みに今回の参加者8組中6名がベーシストなので、その選曲も玄人好みになったといえるだろう。
サブスクリプションの試聴プレイリストを聴きながら読んで欲しい。



【チャック・レイニーのベストプレイ5】
●曲目 / ミュージシャン名
(収録アルバムまたはシングル / リリース年度)
◎選出曲についてのコメント 

【invisible manners(平山大介、福山整)】 
平山大介、福山整からなる音楽作家ユニット。 黒人音楽をベースにしながらも独自のアレンジやメロディメイクで様々なアーティストへの楽曲提供を手掛ける。https://invisiblemanners.tumblr.com/


●Get on top / Tim Buckley 
(『Greetings from L.A.』/ 72年)
◎Tim Bucklyがソウルに歩み寄ったアルバム。60’sのロックバンドの残り香も強く感じさせる質感に加えられた独自のファンクネスはDr.Feelgood同様にパンクの出現を予言している感じもするが、Chuck Raineyまでもがそれに応じたフィーリングに溶け込んでいる。
Get on topの遺伝子はGang of fourなどによって受け継がれ現代まで生き続ける。

●Street Walking Woman / Marlena Shaw
(『Who Is This Bitch, Anyway?』/ 74年) 
◎『Who Is This Bitch, Anyway?』を初めて聴く方へ。 冒頭よく分からない会話が続いて曲をスキップしたくなると思うが、3分だけ待とう。
唐突な曲入り、高速ファンクからスウィングビートへのリズム変化、随所に施されたギミックの数々に圧倒される筈。プログレッシブなだけでなくプレイヤーの個性が溢れ出ていて有機的なサウンドに仕上がっているのもこの楽曲の魅力。

●He is the One / Peggy Lee 
(『Let's Love』/ 74年)
◎当時のシンガーソングライター的な叙情性冴える70’sらしいゴスペル曲。 アルバムタイトル曲はThe歌心ベーシスト・ポールマッカートニーだが今回は控え目。代わりとばかりにこの曲でチャックが低音からハイフレットまでベースという楽器を知り尽くした滑らかな歌心を聴かせてくれる。

●PEG / Steely Dan
(『Aja』/ 77年) 
◎スクウェアなボーカルに対し主役級におしゃべりなベース。小節前半のギターとキーボードのユニゾンバッキングに呼応するように小節後半を台詞で埋める。Rick Marottaの裏打ちアクセントハイハット等、隙間なく敷き詰められたリズムの骨子の中で軽快に喋り歌うことが出来るのは正に匠の技。

●I Don't Know / Syreeta
(『One To One』/ 77年)
◎後半に行くにつれボルテージがブチ上がる演奏陣の妙技を堪能出来る楽曲。本アルバムではSyreetaの2番目の夫でベーシストのCurtis Robertson Jr.もベーシストとしてクレジットされているので正確なプレイヤーは定かではないが、Leon WareとSyreeta共作のこの楽曲のソウルマナーはチャックの手によるものと推測。 


I Don't Know / Syreeta 


https://groove-unchant.jimdo.com/


●Woman's Blues / Laura Nyro
(『Eli and the Thirteenth Confessio』/ 68年) 
◎Laura Nyroの高い音楽性を表現するのにChuck Raineyも必要だったと改めて 認識させられた曲。

●A Ray of Hope / The Rascals 
(『Freedom Suite』/ 69年)
◎ベースのグルーヴがこの曲のブルーアイドソウル感を出す一翼を担ってますよね。

●Lansana's Priestess / Donald Byrd
(『Street Lady』/ 73年)
◎Sky High Productionでもいい仕事しています。 ループでず~っと聴いていても飽きません。

●Green Earrings / Steely Dan 
(『The Royal Scam』 / 76年) 
◎Steely Danの曲の中で個人的にベスト5に入る曲。派手な動きは特にないけど、一番影響受けたベースラインかも。

●It's So Obvious That I Love You / Sergio Mendes & Brasil '77
(『Home Cooking』 / 76年)
◎ポップスの中でもChuck Raineyのベースは生き生きしていて、最高のグルーヴを聴かせてくれます。 

It's So Obvious That I Love You / Sergio Mendes & Brasil '77 


小園兼一郎(small garden)
サックス吹きでもありベーシストでもあります。 https://twitter.com/sgs_kozonohttps://smallgardenstudio.jimdo.com/ 



●You've Got a Friend / Roberta Flack 
(『Roberta Flack & Donny Hathaway』 / 72年) 
◎音数の少ないレイドバック気味の前半から後半の16分アプローチの変化が とても自然で心地良く、盛り上げ過ぎない好演です。
チャック参加の全ての曲に言えますが音価の調節に関して右に出るものは いないと思います。

●The Fez / Steely Dan
(『The Royal Scam』 / 76年) 
◎ほぼ固定フレーズの繰り返しであるが「レイドバッカー」としてのチャックの ジャストの演奏が聴けるのはSteely Danだけ(でも絶対に前には出ない)。曲は前半と後半でドラム、ベースの位置がなぜか違うという変わったミックスです。

●Shine Like You Should / Melissa Manchester
(『Don't Cry Out Loud』 / 78年)
◎ジャストビートとシャッフルの中間、絶妙なハネ具合のオブリが満載。 バスドラと合わせる基本形の演奏ながら玄人好みのビート。 チャックのミュート術。

●Green Flower Street / Donald Fagen
(『The Nightfly』/ 82年) 
◎チャックである必要があるのかというビートの曲だが天然のもたり具合を 最大限にソリッドに持っていった曲として有りだと思っています。 オブリやハンマリングは健在なのですがドラムが打ち込みのせいもあって 冷たい印象のチャックということでそれも有りです。

●君がいない / SMAP 
(『SMAP 007 ~ Gold Singer』 / 95年) 
◎バーナード・パーディとJ-popへのアプローチ。音の歯切れ具合は最高です。 要所のフレーズを聴く限り、かなり自由に演奏していると思われるので チャックの魅力が生かされた名演に入れて良いと思います。


Shine Like You Should / Melissa Manchester


【TOMMY (VIVIAN BOYS)】 
オフィシャルサイト: https://twitter.com/VIVIAN_BOYS 



 ●Spanish Twist / The Isley Brothers
 (7”『Twist And Shout』B面/ 62年)
◎Phil Spectorによる「Twist And Shout」初出版を嫌った作者版、のオケ流用。スペクターのスパニッシュ嗜好との因果な曲名。演奏は、後年メロウグルーヴを多産するKing Curtis組やTrade Martinら。

●God Only Knows / Gary McFarland & Co. 
(『Does The Sun Really Shine On The Moon?』/ 68年) 
◎早逝の作・編曲家/ヴィブラフォン奏者のリーダー作、冒頭のThe Beach Boysの屈指曲。自身のSkye Recordsより。収録のチャック作「Three Years Ago」にも注目。

●Most Of All / The Arbors 
(『Featuring: I Can't Quit Her - The Letter』/ 69年) 
◎「Mas Que Nada」で人気だが、チャック参加の本作にもハーモニー・ソフト・サイケの名曲が。1分43秒〜のベースが導く怒涛の昇天ハーモニー。Moonglowsのドゥーワップ曲(55年)が、新たな美しさで再誕。

●Little Girl / Donny Hathaway 
(『Donny Hathaway』/ 71年) 
◎拍最後尾を狙う打点、悠久の白玉、曲想を担うダブルストップ。ダニー絡みならPhil Upchurch『Darkness,Darkness』(Tommy LiPuma、Nick De Caro参加)の「What We Call The Blues」も名演。

●Eloise(First Love)/ The Chuck Rainey Coalition 
(『The Chuck Rainey Coalition』/ 72年) 
◎上述Skye Recordsでのリーダー作より。チャック作曲。69年録音、ニューソウルを遥かに先取る。P-Vine版CDには自ら歌うSteely Dan「Josie」のカヴァー(82年録音)も。 


Most Of All / The Arbors 




【hajimepop】
https://www.hajimepop.com/ 


●Away Away / The Rascals 
(『See』/ 69年)
◎チャックのワン・フィンガー奏法での細かいフレーズは、ラスカルズの作品でも随所で堪能できる。他のセッションより硬質でロック的な音(しかもこの曲はサイケ!)が実に新鮮。

●Until You Come Back to Me /Aretha Franklin
(『Let Me In Your Life』/ 74年)
◎作曲者のスティーヴィー・ワンダー版も素晴らしいけれど、個人的には胸キュンなアレサ版の方が好き。チャックの"語るベース" の不在が大きいのだ。

●I Got Love for You, Ruby / Frankie Valli 
(『Closeup』/ 75年)
◎最近ではあまり聞かれない、美しいメロディをどこまでも展開していくポップスの名曲。歌ものベースのお手本のような素晴らしい演奏だ。

●Wouldn't Matter Where You Are / Minnie Riperton
(『Stay In Love』/ 77年)
◎国内外で盛り上がりを見せる、シティポップの雛形のようなサウンド。チャックをはじめ、各々のパートの圧倒的な演奏で、音楽の魔法が真空パックされたようなトラックだ。

●Bad Weather / Melissa Manchester 
(『Don't Cry Out Loud』78年)
◎大部分のベースをチャックが弾いている、メリサの大傑作から。これはスティーヴィー節全開のシュープリームスのカヴァーだが、管楽器やコーラスなど、本作の特徴であるゴージャスな編曲が堪らない。


Wouldn't Matter Where You Are / Minnie Riperton 


洞澤徹(The Bookmarcs)
https://silentvillage.wixsite.com/horasawa 



●Where is the Love / Roberta Flac & Donny Hathaway 
(『Roberta Flack & Donny Hathaway』 / 72年)
◎軽やかなのに重心がある感じ。2人のソフトな歌い方に寄り添うようなベースのフレー ジングと音色。

●Summer in the City / Quincy Jones
(『You've Got It Bad Girl』 / 73 年)
◎柔らかな音色で朗々と歌い上げるベース。完全に楽曲の中で主役。

●Stick Together / Minnie Riperton
(『Stay in Love』/ 77年)
◎Chuck Rainey の中ではゴリゴリ感が強い。らしい独特なラインがクセになるダンスナ ンバー。

●Dream On / Bill LaBounty
(『Bill LaBounty』/ 82年)
◎このテンポ、切ないコード感とマッチして数あるAORの良曲の中でもすこぶる気持ち良 いタイム感。Jeff PorcaroとChuck Raineyのコンビネーションが、何を上にのっけても 気持ちよくなるくらいに素晴らしいからだろう。

●I Want You / Chuck Rainey/David T. Walker Band
(『Chuck Rainey / David T. Walker Band』/ 94年)
◎Chuck Raineyのベースに呼応するかのようなDavid.Tのギターのオブリガードがいちい ちグッとくる。このベースがなかったら生まれないであろうフレーズの数々。 


I Want You / Chuck Rainey/David T. Walker Band


【松木MAKKIN俊郎(Makkin & the new music stuff / 流線形 etc)】
http://blog.livedoor.jp/soulbass77/


● Len Novy / Think About It 
(『No Explanations』/1969年) 
◎まず自分内ルールでソウル/ジャズ系を選外としたことをお断りしておきます。これは一発目のボン!という重たい響きから、全体をコード弾きで彩った浮遊感ある演奏へ。 60年代フォークシンガーの作品とは思えない先進性に舌を巻く。

●Hirth Martinez / Djinji 
(『Hirth From Earth』/1975年) 
◎ミュートの効いた音色にワンフィンガーピッキングのニュアンス。3度へのアプローチや繊細なヴィブラート。ソウルベースの何たるかを語り尽くす。

●Leo Sayer / You Make Me Feel Like Dancing
(『Endless Flight』/1976年) 
◎ここにチャックを連れてきた人選の妙。シンプルだが、まさに踊るかのような演奏。楽曲を表現した演奏というより、まるでチャック・レイニー讃歌のようにも聴こえる。堂々の全米No.1ヒット。

●Laura Allan / Yes I Do
 (『 Laura Allan 』/1978年) 
◎シンプルな楽曲と編成だからこそ、メロディやビートに対するチャックのアプローチの基本形がしっかりと残されているという、実は貴重なテイク。教科書のように完璧なラインだが、そのサウンドは決して真似できない。

●Marc Jordan / Marina Del Rey
(『Mannequin』/1978年) 
◎ツボを心得た演奏…と言うとありきたり過ぎるが、まさにツボと言うツボをひたすら押してくるような演奏。歌うようなラインに、音の切り方、ゴーストノート。スチールパンの音色と相俟って夢心地に誘う。


Marc Jordan / Marina Del Rey 


ウチタカヒデ(WebVANDA管理人)】 

●See / The Rascals 
(『See』/ 69年)
◎ヤング・ラスカルズ時代からセッションマンとしてレコーディングに参加していたが、この曲はフェリックス・キャヴァリエのワンマン・バンド化した末期アルバムのサイケデリック・ソウルな先行シングルだ。手数が多いながらもハーモニーを邪魔しないチャックらしいプレイが聴ける。

●Now Is The Time / The Free Design
(『Heaven/Earth』/ 69年)
◎高度で複雑なコーラス・ワークでソフトロック・ファンには特別な存在である、クリス率いるデドリック兄弟のグループのサード・アルバムを代表する1曲。東海岸の技巧派ジャズ・プレイヤーが多く参加した中で、チャックの有機的なベース・プレイはサウンドの中で素晴らしく機能している。

●Kid Charlemagne / Steely Dan
(『The Royal Scam』/ 76年)
◎チャックの名を上げた説明不要な名演中の一曲。グルーヴのトリガーはバーナード・パーディのラテンファンク・スタイルのドラミングだが、トニック~5度~トニックを繰り返すチャックのベースラインが、えも言えぬ快感を生んでいる。このアルバムでのパーディとのリズム隊はいずれも国宝級の名演だ。

●Sweet Sadie The Savior / Patti Austin
(『End Of A Rainbow』/ 76年)
◎スティーヴ・ガッド、エリック・ゲイル、リチャード・ティーというスタッフのメンバー達にチャックが加わったリズム・セクションの名演。特に3分08秒の所謂スタッフ・スイングするパートからは、ゴードン・エドワーズには出せない緻密なグルーヴの核となっている。

●Some People Can Do What They Like / Robert Palmer
(『Some People Can Do What They Like』/ 76年)
◎ミーターズやリトル・フィートにバッキングをオファーし独自のファンク・サウンドを追求した英国ブルーアイドソウル・シンガーの3作目のタイトル曲。ハイハット・ワークからジェフ・ポーカロだろうか?それに呼応し激しくシンコペートするチャックのプレイがとにかく白眉である。


Sweet Sadie The Savior / Patti Austin



(企画 / 編集:ウチタカヒデ)

2019年7月13日土曜日

SOLEIL:『LOLLIPOP SIXTEEN』(VICL-65209)リリース ☆フレネシ・インタビュー


60’モッズ・サウンドをベースに若干15歳の美少女ボーカリスト“それいゆ”を擁するバンド、SOLEIL(ソレイユ)がサード・アルバム『LOLLIPOP SIXTEEN』を7月17日にリリースする。
このバンドは元ザ・ファントムギフトのベーシスト、サリー久保田を中心に結成され、それいゆのルックスとコケティッシュなボーカルで、多くのガールポップ・ファンを魅了している。
現正式メンバーは、それいゆとサリー久保田の2名になったが、弊サイトではお馴染みのザ・ペンフレンドクラブを率いる平川雄一がサポート・ギタリストとしてツアーに同行しているのは注目したい。

アルバム毎に参加している作家陣も実に多彩なのだが、本作にも筆者が高く評価しているガール・グループRYUTistの『青空シグナル』(18年5月)や『黄昏のダイアリー』(18年11月)を手掛けたTWEEDEESの沖井礼二と清浦夏実をはじめ、カーネーションの直枝政広、森若香織、高浪慶太郎、マイクロスターの佐藤清喜と飯泉裕子、のん(能年玲奈)、そしてフレネシらが楽曲を提供しており人選も非常に興味深い。全12曲中2曲はカバー曲で、フランス・ギャルの「Zozoi」(70年)、イモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」(81年/作詞:松本隆、作曲:細野晴臣)を収録している。

冒頭からTWEEDEES組による「ファズる心」(フランス・ギャルの「ジャズる心」のもじりか?)は、Cymbals時代の沖井の作風が色濃く出たハイブリッドなモッズ・ポップで、SOLEILの魅力を引き出している。

メロトロンガール

7インチ・シングルカットされたリード・トラックで作編曲家の岡田ユミがソングライティングを手掛けた「メロトロンガール」は、サイケデリックな上物にモータウン・ビート(まるでH=D=H風だ)をぶつけて完成度の高いガール・ポップに仕上げている。

アルバム中VANDA的にチェックすべき曲は、マイクロスター組が手掛けた「Red Balloon」ではないだろうか。サウンドやアレンジは中期ビートルズのサイケデリック風味だが、メロディ・センスにはトニー・マコウレイに通じる。
歌詞と共に『microstar album』(08年)収録の「東京の空から」を彷彿とさせて好きにならずにいられない。

さてここでは、このアルバムに楽曲提供し筆者が監修したインディーズ・コンピ『Easy Living Vol.1』(06年)以来交流がある、女性シンガー・ソングライターのフレネシに、本作についてのインタビューをおおくりしよう。


フレネシ

●まずは今回SOLEIL(ソレイユ)のサード・アルバムとなる本作に楽曲提供した経緯を教えて下さい。
やはりボーカルのそれいゆさんがフレネシさんのファンを公言していたことが、大きなきっかけでしょうか?

フレネシ:ありがたいことに、そのようで…。全然存じずインタビュー記事を何気なく読んでいたら、突然「フレネシさんの…」と出てきて、思いっきり茶を噴きました。

それから、これはあんまり関係ないかもしれませんが、それいゆちゃんのお母様が私の母校の先輩と伺って、大変な親近感を覚えました。「学校近くのアイスもなか屋さん、閉店したんですってね」など…音楽と無関係な話をするなど。

●これまでも朝ドラで女優として一躍有名になり現在はミュージシャン活動もして、なんとこのアルバムにも楽曲提供している、のんさんがファンであることを公言されていましたが、こういうリスペクトに対してどう思われますか? 

最近では、ウワノソラの角谷君シンリズム君も学生時代にフレネシさんのアルバムを愛聴していたことが判明しましたね。

フレネシ:「全部夢じゃないだろうか?」と思うくらい、会う方に認知されていて、そういうことがあるたび驚いています。

私のアーティスト性には、ずば抜けてうまかったり、ずば抜けてキャッチーだったり、といった、ずば抜けている要素がこれといってあるわけではないので…数ある好きな音楽の1つに入れてもらえているだけでも、光栄なことですね。

●楽曲提供する以前からSOLEILのアルバムは聴いていましたか? 


フレネシ:PVは見ていました。「魔法を信じる」を聴いたとき、これはTEDDY RANDAZZOの「Trick or Treat」(66年)だ!とすぐにピンときて。サリーさんとお会いした際、真っ先にその話をしました。


●「魔法を信じる」は18年のファースト・アルバムのリード・トラックですね。サリー久保田さんらしいアレンジは、モッズ経由モータウンの所謂ジェームス・ジェマーソンの三連ベースラインで、TEDDY RANDAZZO & ALL 6のオリジナル・サウンドと異なるから気付く人は少ないかもしれませんね。

ではメジャー・デビュー時からご存じだったということですか?

フレネシ:すみません、デビュー当時は存じず…。後追いでMVを視聴しました。

この時代感と世界観がこんなにハマっていて、この若さ?と衝撃でした。


●続いてフレネシさんが今回提供された「アナクロ少女」のソングライティングについて聞かせ下さい。

それいゆさん側からはどのようなリクエストがありましたか?

フレネシ:ファーストの『キュプラ』(09年)の「仮想過去」のような曲が良いと具体的にリクエストをいただいたので、とても作りやすかったです。

「なんでもいい」と言われると逆に困ってしまいますね。アウトのラインが分からなくて。

●「仮想過去」のオリジナルは、古くはConnie Francisの「Lipstick On Your Collar(カラーに口紅)」(59年)に通じる50年代ロックンロール・ベースのポップスで、『キュプラ』の収録曲の中では、比較的ストレートなアレンジのサウンドですが、この曲に注目した、それいゆさんの趣向が垣間見られて面白いですね。


フレネシ:そうですね。MVがあるわけでもない、ちょっと異端なこの曲をあえて選んでくださったのは、私としては意外でした。


●デモ制作中のエピソードがあればお聞かせ下さい。  


フレネシ:育児・復職中でとにかく時間がなくて…詞が思い浮かんだ時点で作曲も並行して行い、およそ1日で完成させました。

ちょっと前に種村季弘の「アナクロニズム」を再読していて、引用などはないですが、今作のテーマになっています。

●ストック曲ではなさそうですが、約1日で完成させたのはさすがです。

サビのメロディ・センスが、セルジュ・ゲンスブールが手掛けていた頃のフランス・ギャルを彷彿とさせていい曲です。
サリー久保田さんのアレンジは、デモの時点からどのようにモディファイされていますか?

フレネシ:基本のビートのループにコード、メロディ、歌詞と符割までが私の仕事で、アレンジは全面的にお任せでした。イントロには驚かされました。


 ●ご自分の提供曲以外で気になった楽曲はありますか?


フレネシ:「ハイスクールララバイ」と「Zozoi」のカバー、最高ですね!カバーのチョイスって重要ですよね。アルバムの振れ幅を示す指標の一つだと思っています。


 
ハイスクールララバイ

●ギャルの「zozoi」カバーは、アルバム音源入手後一聴して注目しました。それいゆさんの声質や発声がこの曲とサウンドにかなりハマっていました。本当に素晴らしいカバー・センスだと思います。7インチ・シングルで欲しいですよ(笑)。
フレネシさん提供の「アナクロ少女」のメロディ・センスも含め、60’Sフレンチ・ポップ路線の成果が今後の活動の試金石ともなりそうですね。

フレネシ:そうですね。このラインから大きく逸脱したそれいゆちゃんも見てみたかったりします、個人的には。


●最後にフレンシさんが感じた、本作『LOLLIPOP SIXTEEN』の魅力を語って下さい。

フレネシ:豪華すぎる作家陣に加えていただいて本当に光栄です。これほど多様な楽曲が集まっていながら、アレンジの力か、SOLEILカラーにまとまっているのがすごいですね。 それいゆちゃんの天然なのか計算なのか分からない表現力の素晴らしさにも驚かされました。
(インタビュー設問作成/文:ウチタカヒデ)