2025年10月18日土曜日

無果汁団:『ナサリー』対談レビュー★ゲスト~フレネシ

 ショック太郎が主宰する”無果汁団”が、待望のフォースアルバム『ナサリー』(Mukaju Records / MKJR-004)を10月24日にリリースする。無果汁団は、元blue marbleのソングライター・チーム、とんCHANとショック太郎が結成したテクノロジー・ポップス・ユニットで、これまでにボーカルにみさきを迎え『マドロム』(2020年)、『うみねこゲイザー』(2021年)、ボーカルをひなふに変えて『ひなふトーン』(2023年)をリリースしていた。

 本作では4年振りにみさきが復帰しオリジナル・ラインナップでレコーディングされており、収録された全10曲の内、前半が現代編、後半が未来編と位置付けされ、アレンジ、サウンド共にヴァラエティに富んでいるが、鮮烈な歌詞内容を通じて「現代の病理と未来への希望」をテーマにして、アルバム全体の世界観を統一させたコンセプト・アルバムとなっている。
 メンバーも「これが本当の意味でのファーストアルバム」と自負する自信作になっている。

無果汁団

 本作でも作詞と編曲、全ての演奏とプログラミングをショック太郎、作曲をとんCHANと完全分担制で無果汁団のサウンドは制作されている。共に音楽大学卒業のエデュケーションに裏打ちされた楽曲は、blue marble時代から音楽マニアを中心に高く評価されている。
 マスタリングもこれまで同様microstarの佐藤清喜が手掛け、高品質なサウンドに磨きを掛けているのが頼もしい。ジャケットのアート・ディレクションとデザインはショック自身が担当し八面六臂の活躍をしている。

 ここではblue marble時代のレーベルメイトで、自身のサポートバンドにショック太郎が参加して関係性が強かった、シンガーソングライターのフレネシとの対談レビューと、ショックが曲作りやレコーディング中にイメージ作りで選曲したプレイリストを紹介する。



対談レビュー★ゲスト~フレネシ

●今回は多忙な中でありがとうございます。
フレネシさんはショック太郎さんとはblue marble時代にレーベルメイトで、ご自身のサポートバンドのキーボディストでもあったという間柄でしたが、blue marble解散後、2020年にファーストアルバムをリリースした“無果汁団”についてどのように感じていましたか?
無果汁団結成時フレネシさんは音楽活動休止期間中でもあり、現在活動を再開されたばかりなので、当時と今では感覚が違うと思いますが。


◎フレネシ:本質的には、blue marbleと同質と感じていました。職人のお2人と有機的だったり無機的だったりする、イノセントヴォイスの女性ボーカルのユニット、という印象でしょうか。

無果汁団がなぜ「無果汁」団なのか…は気になるところです。無果汁と付く飲料はジュースの体をしたジュースを名乗れない飲料を指すわけで。「消費者が果物の味を期待して購入するのを防ぎ、意図しない選択をさせないための配慮」として存在する、消費者に向けたお断りをわざわざバンド名で名乗るというのは、どこか本気でなさそうというか。こっちは気負わずにやるんで、聴く方も気負わずに聴いてねってことなんでしょうか。(前もこの話しましたっけ?) 


●”意図しない選択をさせないための配慮”というのが、フレネシさんらしい鋭い分析でさすがです。この点は昨年暮れに久しぶりにお会いした際、ショックさんの近況を訪ねた時にお聞きましたね。 
そう考察させる因子になるかも知れませんが、blue marble時代は、ベテランでメジャー・ワークスも多かったオオノマサエさん特徴ある声質で溌溂としてアイドル的要素もあった武井麻里子さんという個性の塊のようなボーカリストから、無果汁団ではみさきさん、ひなふさんという、80年代テクノ歌謡アルドルに通じるフラット気味な歌唱で、サーモスタットが常に効いて、決して熱く(暑く)ならないというスタイルに変わったという点ですかね。それも立派な個性だと思うんですけど。


◎フレネシ:式波・アスカ・ラングレーから綾波レイへ…みたいなイメージですかね。
でも、でも、今回のアルバム、静かな情熱を感じるトーンではあったんです。
無機質ってほど無機質でなく、原田知世的オーガニックさも感じられて。


●社会現象になった名作アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のヒロインに例えるのが、無果汁団のサウンド・スタイルにも通じていて、原田知世イズムにも妙に納得します。音楽とアニメの二刀流マニアの読者にも説明が分かり易いという。
では彼らはこれまでに『マドロム』『うみねこゲイザー』『ひなふトーン』と、3枚のアルバムをリリースしていましたが、特に気になった曲はあったでしょうか?


◎フレネシ:「タイムズスクエアのガールズバンド」のサビで世界がこう、サラウンドになるような開け方が好きです。
転調の心地よさはすべての無果汁団の持ち味の一つでもありますが、この曲は特に楽曲の展開と詞の一体感が美しく感じます。

マドロム

●ファースト『マドロム』のリード曲ですね。イントロのコード進行とサウンドがトッド・ラングレンの『Hermit Of Mink Hollow』(1978年)していて、そのパートで早くも転調を仕掛けているという。ショックさんのアレンジ、とんCHANさんの作曲は共に”音大卒メソッド”に裏打ちされているので、よく計算されて聴き飽きさせないんですよね。
しかもショックさんは極めて音楽マニアなので、次曲「魔法サイダー」というシティポップの香りがするタイトルの曲では、70年代末~80年代初期のユーミン・サウンドをオマージュしていて、松原正樹風のギターソロまで弾いているという。
フォースアルバムの本作『ナサリー』では、これまでの作品より、ソングライティングやサウンド面で無果汁団の新境地が現れていると思いますが、お聴きになって全体的な感想はいかがでしたか?


◎フレネシ:なぜだか、みさきさんの声が鋭く刺さるのです。
どういう変化があったのかとショックさんに尋ねたところ、今作ではボーカル・トラックをシングルにしているとのことで。ダブルならではの質感も無果汁団の都会的なサウンドにはとても合いますが、シングルのより生々しいニュアンスがフックとなって、言葉が入ってくる感じはありますね。
 
みさき

●成る程、そんな変化を直接ショックさんに聞いてみたんですね。確かにボーカルをダブリングすると、歌に広がりを持たせてピッチの誤差を曖昧にさせる効果もありますね。その起源はビートルズ『Revolver』(1966年)のレコーディング時ジョン・レノンの歌入れとされています。
今回ボーカルをシングル・トラックにしたことで、言われるように歌詞の言葉がビビットに聴き手に伝わると思います。そんな歌詞の中で最も心に刺さった曲を教え下さい。


◎フレネシ:「ナサリー」、「舞鶴姫」、「スタビライザー」とか。物語が映像で見えてくるような。とくに「スタビライザー」、一体何のことを歌っているんだ?とものすごく惹かれるものがあります。


●スタビライザーは広義的には「安定化装置」のことで、自動車や航空機のパーツです。歌詞を辿ってもそれをイメージさせるストーリーではないので、そのワードの独特な響きが優先された、架空な固有名詞と捉えた方がいいでしょうね。例えばタンホイザー(中世期ドイツの詩人)的な。 
歌詞の面でいくつかの曲を挙げて頂きましたが、収録された全収録の中で特に気になった曲を挙げて、その感想をお願いします。


◎フレネシ:何といっても最後の曲!「都会」に行きそうになるAメロの出だしで、「都会」に行こうとして置いてきぼりになる感じが好きすぎて、思わず何度も聴いてしまいました。私は音楽には、いつもどこか裏切られたい気持ちがあります。


●「モノローグ」ですね。洗練された曲調を全編打ち込みでやっていながらテクノ・ポップにはならず、ハーモニカやハモンドオルガンでヒューマンな味付けを施して、ポスト・シティポップとして完成度を高めているのが、ショックさんのアレンジ力(りょく)の真骨頂だと考えます。
私個人としてはリード曲「アトモスフィア」や「コズミック・カフェ」から「サーマル・ソアリング・グライダー」の流れなどなど1曲を選べないんですが、9月にプレスキット音源を入手して聴き続けた結果、タイトル曲のバラード「ナサリー」がグッときています。
特にサビの8小節目で解決させるコードが入る瞬間は鳥肌が立ちますね。新主流派以降のジャズ・ピープル(ドナルド・フェイゲン含む)やスティーヴィー・ワンダーとそのフォロワー達しか自在に使いこなせない高度なコード進行というか、こういった普遍的なバラードにそんなサムシングなスパイスを付けられるのが、彼らの音楽理論の教養の高さやセンスなんだと強く感じますね。
では最後に、本作『ナサリー』の特徴を端的に表わした総評をお願いします。


◎フレネシ:サウンドの緻密さは今更私が言うまでもなく…凄腕のお二人による完璧な様式美の建造物。
 隙なく構築されたトラックにいつまでも浸っていたいような、反面、迷宮からそろそろ抜け出したいような…一度聞くだけでは細部の仕掛けを味わい切れないと思います。緻密なのに一切の気負いを感じさせない、無果汁団の余裕を手に入れるまで、私はあと音楽人生何周したらいいんでしょうか。


 ●今回はありがとうございました。


フレネシ プロフィール
唯一無二のウィスパーボイスに、かわいさと潔さが同居する――海外の音楽ファンから「渋谷系のビョーク」とも称される、フレネシ。2009年6月に乙女音楽研究社からリリースされた「キュプラ」は、HMV渋谷店のインディーチャートで1位を獲得し「ネオ渋谷系」の代表作として各所で話題を呼んだ名盤。この秋、満を持してLP盤が発売となる。
2015年より活動休止中であるものの、2020年にストリーミング配信が開始されたことで再び注目を集め、海外のSNSでも人気が拡大。クリープハイプのベーシスト、長谷川カオナシのソロアルバムにアレンジャーとして参加し、今秋ついに活動再開の機運が高まりつつある。



 
無果汁団 / アトモスフィアMV

 対談レビューで細部に触れていない収録曲についても解説しよう。
 リードトラックで冒頭曲の「アトモスフィア」は、無音階気味で低音が強く響くシンセべースとタイトなリズムマシンのグルーヴ、そしてマイナーキーの美しいメロディーに鮮烈な歌詞が乗る。そんなコントラストをみさきの独特な歌唱がよりビビットに耳に残してくれる。サビでクリシェが効いたコード進行や全体的に音数を削ったシンセサイザー類など楽器配置が計算されていて、単なるテクノ・ポップとは一線を画す完成度である。
 この曲はMVも制作されていて、監督したのは、新進気鋭のアメリカ人フィルムメーカー兼ファッションデザイナーのダレル・ウィリアムス(Dahrell Williams)で、彼によるカメラワークやコンポジションは必見である。
 続く「TOKIO モノクローム」は、ミドルテンポのドナルド・フェイゲン風ブルース進行のイントロ~ヴァースのイメージが強い渋めの曲調だが、サビではメジャーナインス系のコード進行が効いた転回でポップスとしてよく練られている。そのサビ冒頭で”TOKIO モノクローム・・・”の歌詞が入る瞬間などは、ユーミンイズムを感じさせて好きにならずにいられない。曲順的にも冒頭曲のインパクトからクールダウンさせる効果はさすがである。
 ジャパネクスな歌詞とそれを引き立てる美しいスケール(音階)のメロディーが印象的な「舞鶴姫」。アルバム後半に収録され、ヴァースのタンギングが効いた、みさきのボーカルが歌詞に通じるアンドロイドの様な「全自動」。共にシンセ・パッドや空間系エフェクターの処理のサウンド全般は、トーマス・ドルビーが手掛けていた頃のプリファブ・スプラウトなど1980年代中後期の英国ポップスを彷彿とさせる。

 「コズミック・カフェ」は、blue marble時代の「未来都市ドライブ」(『ヴァレリー』収録/2010年)に通じる、英国モダンロック風シャッフルのリズムで進行し、未来的な歌詞に呼応する様々なサウンドがみさきの無垢なボーカルを引き立てる。また10cc(Godley & Creme)風のギズモをかましたギター・フレーズなど、細部に渡ってショックのマニア性が滲み出ている。
 続く「サーマル・ソアリング・グライダー」も前曲から引き継がれたギズモ・ギターのフレーズ、アッパーストラクチャーで鳴っているシルキーなアナログ・シンセ、ダブル・ドラムの定位など英国プログレ感が聴き逃せない。これら前時代の音楽資産を自らの音楽に昇華させているのには感心させられる。
 9曲目の「レムリア」は本作収録曲では比較的ストレートで、Lampの「夜会にて」(『彼女の時計』収録/2018年)に通じる曲調は、ポスト・シティポップ・サウンドといえる。爽やかな曲調とは裏腹にタイトルと歌詞は、紀元前3000年インド洋に存在したとされるレムリア(Lemuria)大陸とその古代文明がモチーフとなっている。みさきのボーカルと相まって、サイエンスファンタジー・アニメのテーマ曲のようでもある。サウンド的には続くラストの「モノローグ」に繋がり、未来編の締めに花を添える。



無果汁団選『ナサリー』プレイリスト
 
ショック太郎 
◎ここ数年の女性ボーカル系から。
普段聴くのは60年代から80年代まで音楽が多いですが、創作する上で強く影響を受けるのは、やはり同時代の新しい音楽からですね。


 ■Lovegame / Yerin Baek (『tellusboutyourself』/ 2021年)
■Pit-A-Pet / YUKIKA(『Soul Lady』/ 2020年)
■Salang Salang / meenoi(『In My Room』/ 2021年)
■End Of The World / Michelle(『After Dinner We Talk Dreams』/ 2022年)
■Side Quest / Pearl & The Oysters(『Planet Pearl』/ 2024年)
■Visionary / Genevieve Artadi (『Forever Forever』/ 2023年)
■Tic Toc Tic Toc / SUMIN & Slom(『MINISERIES 2』/ 2024年)
■Mystery Village / Lee Jin Ah(『Hearts of the City』/ 2023年)
■Bubble Gum / NewJeans(『How Sweet & Bubble Gum』/ 2024年)
 ■A Merry Feeling (feat. Layton Wu) / 9m88(『9m88 Radio』/ 2022年)



無果汁団 プロフィール
元blue marbleのソングライター・チーム、とんCHANとショック太郎が結成したテクノロジー・ポップス・ユニット。ヴィンテージなシンセサイザーを駆使した80年代風味のポップなサウンドが特徴。
ボーカルにみさきを迎え「マドロム」(2020)、「うみねこゲイザー」(2021)、新たにボーカルにひなふを迎え「ひなふトーン」(2023)、ボーカルにみさきが復帰し「ナサリー」(2025)と、計4枚のアルバムを発表する。
声優の井上ほの花のアルバム「ファースト・フライト」(2016)では全曲の作詞作曲アレンジを手がける。更に「太鼓の達人」などのゲーム音楽の制作や、南波志帆や鈴木みのりなどの女性歌手への楽曲提供なども担当。
★無果汁団 official site:https://mukajudanjapan.amebaownd.com/


(企画、設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ














amazon



2025年10月11日土曜日

ザ・スクーターズ:『Listen』


 今年2月にその活動の集大成となる6枚組コンプリート・ボックスを発売し話題となった、ザ・スクーターズが新曲『Listen』(VIVID SOUND/HIGH CONTRAST / HCR9727)を7インチ・アナログシングルで10月22日にリリースする。

 タイトル曲は先月Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)として、『Night In Soho』を7インチでリリースしたばかりで、本バンドのべーシストであるサリー久保田が作曲し、作詞はメンバーのターバン・チャダJr.こと高橋秀幸とサリーが共同で手掛けている。カップリングにはザ・スクーターズのライブ・レパートリーで、60年代モータウン・レコード黄金期のヒットナンバーをメドレーで収録しており、両面共にDJプレイでも盛り上げてくれるだろう。
 それとひと際目を惹くジャケ・フォトグラフは、米ロサンゼルス出身で現在は神奈川県葉山町在住の写真家ブルース・オズボーン(Bruce Osborn)が、来日直後の1984年に撮影した東京モッズ・シーンのショットで、センターのカスタム・ベスパに乗って存在感を放っているのは、他でもない現在ザ・スクーターズでテナー・サックスをプレイする、ルーシーの当時の姿というからファンは驚喜するに違いない。

The Scooters

 バンドのプロフィールにも触れるが、説明不要のカリスマ・ジャケット・デザイナーの信藤三雄をリーダーとし、周辺のデザイナー仲間で結成されたガレージ・バンドがその始まりで、東京モータウン・サウンドとして、音楽通に知られることになった。1982年のファースト・アルバム『娘ごころはスクーターズ』でレコード・デビュー後、僅か2年間の活動で解散してしまうが、その後91年と2003年にコンピレーション・アルバムがリリースされ再注目され、30年振りとなる2012年に橋本淳・筒美京平コンビ、宇崎竜童から小西康陽の著名ソングライター陣が楽曲提供したセカンド・アルバム『女は何度も勝負する』をリリースして活動再開に至った。以降は不定期でライヴ活動を続けている。
 現在のバンド・メンバーは、ボーカルのロニー・バリー、ボーカルとコーラスを兼務するビューティ、コーラスのココとジャッキーの女性4名がフロント・メンバーで、リズム・セクションにギターの薔薇卍、ベースはサリー久保田、ドラムとタンバリンはオーヤ、キーボードとバンド内アレンジャーの中山ツトム。ホーン・セクションはアルト・サックスのサンデーとビートヒミコ、テナー・サックスのルーシーの3名で、バンドのムードメーカーとして不可欠なMCとVocalのターバン・チャダJr.で構成されている。 


 
New Single “Listen” The Scooters

 ここからは収録曲を解説していく。タイトル曲の「Listen」は、嘗てリーダーだった信藤三雄が生前温めていたアイデアを基にサリーが作曲している。この曲は"LOVE & UNIVERSE"というテーマの歌詞を持つダンサンブルなラブソングで、イントロから全般にかけてギター・カッティングは、アーチー・ベル&ザ・ドレルズの「Tighten up」(68年)に通じるハネ方をしており、60年代英国のオリジナル・モッズが好んだノーザンソウルのサウンドである。 
 キュートなロニーのボーカルを引き立てる3名のコーラスとチャダのレスポンスも見事で、若かりし頃の姿がジャケットに写る、ルーシーのムーディなテナー・サックス・ソロを交えながら曲は進行していく。何より新藤の志を引き継いだサリーのセンスが光る一曲となった。

 カップリングの「Motown Medley」は、彼女たちのステージではお馴染みで、60年代モータウン・レコード黄金期のナンバーばかりだ。曲目をオリジナル・アーティストと共に下記に記すが、曲を提供したのはソングライティング・チームの最高峰とされる、ホーランド=ドジャー=ホーランドをはじめ、初期モータウンの柱だったスモーキー・ロビンソン、また歌手兼ソングライターのバレット・ストロングやプロデューサーとしてもモータウンを支えたウィリアム・スティーブンソン、ノーマン・ホイットフィールド、ヘンリー・コスビーなどである。このような名曲群は、現在の音楽にも引き継がれている遺伝子とも言えるので、筆者が作成したサブスク・プレイリストを聴いてみて欲しい。 

 Reach Out I’ll Be There / Four Tops(1968年)
It’s The Same Old Song / Four Tops(1965年)
I Can't Help Myself(Sugar Pie, Honey Bunch)/ Four Tops(1965年)
Stop! In the Name of Love / The Supremes(1965年)
Come See About Me / The Supremes(1964年)
Jimmy Mack / Martha Reeves & The Vandellas(1967年)
Stubborn Kind of Fellow / Marvin Gaye(1962年)
I Heard It Through the Grapevine / Marvin Gaye(1968年)
Money (That’s What I Want) / Barrett Strong(1959年)
Get Ready / The Temptations(1966年)
Fingertips / Stevie Wonder(1963年)  

The Scooters Motown Medley


(テキスト:ウチタカヒデ















2025年10月4日土曜日

Shel Naylor 「One Fine Day」

 前回の記事で触れた、『キンクト!~キンクス・ソング&セッションズ 1964~1971(PCD17745)』に、シェル・ネイラーの「One Fine Day」という、キンクスのギタリストのデイヴ・デイヴィスが提供した曲が収録されている。ザ・ベンチャーズの「Walk Don't Run」の影響を受けて作られた曲だそうだ。フリークビートのコンピレーション『The Freakbeat Scene』(Decca-772 467-6)(Deram-844 879-2)にも収録されているので、そこから知られることの方が多いのかもしれない。

One Fine Day / Shel Naylor

 この「One Fine Day」を歌うシェル・ネイラーというのはどういう人物なのか気になって調べてみると、70年代に人気のあったノベルティ・バンド、ルーテナント・ピジョンの中心人物として知られているロブ・ウッドワードが60年代初期に使用していた別名義だそうだ。

Mouldy Old Dough / Lieutenant Pigeon

 英国中部コヴェントリー出身のロブ・ウッドワードは17歳の時、キンクスやトロッグスのマネージャーとして知られるラリーペイジが開催していた、オーキッドボールルームでの新人発掘コンテストに参加。グランプリを受賞し、この時の賞品だったデッカレコードとのレコーディング契約が決まったそうだ。当時ラリー・ペイジは、リバプール・サウンドに匹敵する "コヴェントリー・サウンド" なるものを生み出そうと、地元の才能ある人材を集めていたらしい。プロデューサーとして、シェル・タルミー、マイク・ストーンを説得して参加させていた。"シェル・ネイラー" というのはラリー・ペイジが名付けたそうで、シェル・タルミーへのトリビュートの意味合いがあるよう。

 シェル・ネイラー名義では2枚のシングルがリリースされている。初のシングルはアーヴィング・バーリンのポピュラーソング「How Deep Is The Ocean」(Decca F.11776)。B面は「La Bamba」。「One Fine Day」は翌年の1964年にリリースされたものだ。この演奏には、後にレッドツェッぺリンとなるジミーペイジとジョン・ポール・ジョーンズが参加している。ドラムはおそらく、キンクスの「You Really Got Me」などの演奏でも知られるセッションドラマーのボビー・グラハムではないかと言われている。冒頭に書いた通り、作曲はデイヴ・デイヴィスだけれど、シングル盤にクレジットされたスペルには誤りがあり、"Davies"ではなく"Davis"になっている。B面は「It's Gonna Happen Soon」という曲で、エジソンライトハウス「恋のほのお」などで有名なセッションシンガーのトニー・バロウズ、英国の著名なソングライター、ロジャー・グリーナウェイ、J. Brooksの3人が作曲者にクレジットされている。J. Brooksについては詳しい情報が見あたらなかった。

 「One Fine Day」には、1965年にラリー・ペイジが結成したラリー・ペイジ・オーケストラによるバージョンも存在する。こちらが収録された『Kinky Music』(Decca LK4692)は、キンクスのヒット曲をインストゥルメンタルアレンジしたアルバムで、キンクスに無断で制作したことで裁判沙汰になったそう。このラリー・ペイジ・オーケストラでもジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズが参加している。

One Fine Day / The Larry Page Orchestra



【LIVE】

2025年11月23日(日) 東高円寺UFO CLUB
The DROPS New 7inch Single “Get On A Train” Release Party!
チケット予約


リリース

■ベストアルバム第二弾『Best Of The Pen Friend Club 2018-2024』
(試聴トレーラー)

■カバーアルバム『Back In The Pen Friend Club』
(試聴トレーラー)

8thアルバム『The Pen Friend Club』
(試聴トレーラー)


現在、2枚組NEWアルバム
​[Songularity - ソンギュラリティ]​ 制作中