2020年11月1日日曜日

Foreign Correspondent:『The First One』(*blue-very label* / blvd-015)


 
オーストラリアはメルボルンで活動するネオアコ・バンド、フォリン・コレスポンデント(Foreign Correspondent)が、7インチのセカンド・シングル『The First One』を11月3日(レコードの日)にリリースし、同18日より全国流通させる。
 
 海外特派員なる意味を持つバンド名にまず興味を惹かれるが、彼らは2017年にメイン・ソングライターであるMarcus Campbell(ヴォーカル、ギター)のオンラインでの呼びかけにより5名のメンバーで結成されたという。いかにもSNS社会を象徴するエピソードであるが、Marcu以外のメンバーはリード・ギタリストのChris Haggertyに、キーボーディストのKepler Ryan、ベーシストのSun-Jong Chung、パーカッショニスト(ドラム含む打楽器類)のBruce McIntyreで構成されている。
 2018年にデビュー作となるファースト・シングル『American High School Fashion』を配信のみでリリースし、その後フルアルバムの制作が進行しているが、今回先行として日本の*blue-very label*から『The First One』を7インチでリリースすることになった。  


 本作のジャケットを見てピンとくる(『Andromeda Heights』(97年)している)読者もいるだろうが、彼らはプリファブ・スプラウト (Prefab Sprout)や、スウェーデンのザ・レディオ・デプト(The Radio Dept.)やクリアキン(Kuryakin)、エッグストーン(Eggstone)と、欧州から北欧のバンドに影響を受けているという。また弊サイトではデビュー作からお馴染みのLampをはじめ、Spangle Call Lilli LineやSugar Plantといった日本のバンドもお気に入りらしい。 
 なおジャケット・デザインは、名古屋でグラフィックデザイン事務所”AIRS” を主宰する伊藤敦志が担当している。タイトル曲の音像をよりよく表現した素晴らしいアート・ワークであり、この7インチの所有欲をそそるのだ。

 ここでは筆者による収録曲の解説と、Foreign Correspondent のメンバー5人が本作のレコーディング中に聴いていた曲を選んだプレイリストを紹介する。

 
Foreign Correspondent - the first one ep trailer 

 タイトル曲の「The First One」は、ジーン・ペイジ・スタイルのストリングス・アレンジにヴィブラフォンのオブリが絡むメロウなサウンドに、モジュレーション・ディレイをかました甘い女性コーラスがMarcusのヴォーカルに絡んでいくというものだ。ファースト・シングルの「American High School Fashion」のスタイルを踏襲したロマンティシズムは、プリファブ・スプラウトの『Jordan: The Comeback』(90年)や『Andromeda Heights』を愛する音楽ファンには大いに勧められる。 

 カップリング1曲目の「Crying in Your Sports Car」は、一転してホーンセクションが入ったリズミックなギター・ポップにシフトしている。凝った転調の仕方はプリファブの「I Never Play Basketball Now」(『Swoon』収録/84年)にも通じる、所謂スティーリー・ダン・シンドロームの流れを汲んでいるソングライティング・センスと言える。 
 同じく2曲目の「If I Had a Visa (Anguk)」は、女性コーラスのYunmi Jungがリード・ヴォーカルを取っており、空間系エフェクターでトリートメントしたサウンドは既出2曲とも異なり新鮮である。この曲の様な16ビートのダンスビートになるとドラマーとベーシストの演奏の荒さが気になるが、ヘタウマ的要素もギター・ポップの魅力だろう。 

【フォリン・コレスポンデントのレコーディング中のプレイリスト】 
 

●Les cactus / Jacques Dutronc (7”『Les Cactus』/ 1966) 
●Canto de Ossanha (Let Go) / Astrud Gilberto
 (『September 17, 1969』/ 1970) 
◎Selected by Chris Haggerty:lead guitar 

●Where do the Girls of Summer Go? / Mark Eric 
  (『A Midsummer's Day Dream』/ 1969年)  
●Caroline, No / The Beach Boys (『Pet Sounds』/ 1966年) 
◎Selected by Marcus Campbell:vocals, rhythm guitar 

●The Meaning of Love / Karin Krog (『We Could Be Flying』/ 1975年) 
●Hair / John Sangster (『Ahead of Hair』/ 1969年) 
◎Selected by Bruce McIntryre:percussion

●Stairway to the Stars / Bill Evans Trio (『Moon Beams』/ 1962年) 
●Alison Limerick - Where Love Lives (『Where Love Lives』/ 1990年) 
◎Selected by Kepler Ryan:keys 

●We Will Turn You On / Joey Negro Presents the Sunburst Band
  (『Until The End of Time』/ 2004年) 
●These Words / The Lemon Twigs (『Do Hollywood』/ 2016年) 
◎Selected by Sunjong Chung:bass


 数量が限られた7インチ・シングルなだけに、興味を持った音楽ファンはリリース元のレーベルや大手レコード・ショップから早めに予約して入手しよう。
リンク先:Disques Blue Very
 
(ウチタカヒデ)

 

2020年10月25日日曜日

一色萌:『Hammer & Bikkle / TAXI』(なりすレコード / NRSP-789)

 

 女性プログレ・アイドルグループXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ エクストリーム)のメンバー、一色萌(ひいろもえ)がソロデビュー作となる7インチ・シングル『Hammer & Bikkle / TAXI』を11月3日(レコードの日)にリリースする。 
 カップリング曲を見て気付いた人は、なかなかの英国ロック・マニアだ。70年代に活動した伝説のパブロック/パワーポップ・バンド、デフ・スクール(Deaf School)の代表曲「TAXI」(77年)の日本語カバーである。  

 まずは一色と彼女が所属するXOXO EXTREMEについて紹介するが、2015年5月結成のxoxo(Kiss & Hug)(キス・アンド・ハグ)を母体に、翌年12月に一色萌らが参加してXOXO EXTREMEとなり、現在4名のメンバーで都内のライブ・イベントを中心に活動している。プログレッシヴ・ロックでパフォーマンスするという斬新さで注目されており、現メンバー中一色が最も活動歴が長いのでリーダー格といえる。

 ここでは筆者による収録曲の解説と、一色が本作のレコーディング中に聴いていた曲を選んだプレイリスト(プラス 筆者選デフ・スクール・ベスト)を紹介しょう。 
 「Hammer & Bikkle」は、佐藤望と共にカメラ=万年筆の活動で知られるキーボーディストの佐藤優介のソングライティングとアレンジによる書き下ろしのオリジナル曲だ。筆者は8月半ばに入手した音源を聴いて気付いたのだが、この曲のイントロはニック・ロウの「Half a Boy and Half a Man」(『Nick Lowe and His Cowboy Outfit』収録 / 84年)のそれをオマージュしている。
 このモッドでパブロック色の強いサウンドと、一色の正確なピッチで艶のあるキャンディ・ボイスとのギャップは新鮮でいたく感動した。パンキッシュなコンボ・オルガンを中心に殆どの楽器は佐藤がプレイ(及びプログラミング)しており、ギターのみbjonsの渡瀬が参加している。その渡瀬はいつものギター・スタイルとは異なるクランチ・サウンドでプレイしており、この曲に大きく貢献している。 


 カップリングの「TAXI」は、熱心な英国ロック・マニアには説明不要だが、リバプールで結成された70年代英国のパブロック/パワーポップ・バンド、デフ・スクールの77年のシングル曲の日本語カバーである。しかも今回そのデフ・スクールのメンバー本人達が、本カバー・プロジェクトのためにリレコーディングを敢行してくれたというのから信じられないニュースなのだ。

Deaf School

 因みにこの曲は彼らのセカンド・アルバム『Don't Stop the World』(77年)にも収録され、バンド史でも代表曲の筆頭に挙げられるが、チャート的には振るわなかった。このバンドには強烈な個性と才能のあるメンバー達が多く在籍し、元アップル・レコード重役のデレク・テイラーがA&Rマンだったのにも関わらず大きな成功には至らず、3枚のオリジナル・アルバムを残して78年にバンドは解散してしまう


 その後ギタリストでメイン・ソングライターだったクライヴ・ランガーは、エンジニアのアラン・ウィンスタンリーと組んでプロデューサー・チームとして、マッドネスの『One Step Beyond...』(79年)やデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの『Too-Rye-Ay』(82年)、エルヴィス・コステロの『Punch The Clock』(83年)等々名作を数多く制作している。筆者は特にコステロの2枚やゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの『Flood』(90年)、モリッシーの『Kill Uncle』(91年)を愛聴していたので、クライヴのことは一流プロデューサーとして認識していたのだ。
 またベースのスティーヴ・リンジーは、79年にニューウェイヴ・バンドのThe Planets(ザ・プラネッツ)を結成し2枚のアルバムをリリースしており、レゲエのビートをロック的解釈で取り入れて注目される。そのサウンドは日本のムーンライダーズや一風堂(リーダーは土屋昌巳)にも大きな影響を与えた。  

 今回の一色のカバー・ヴァージョンの話題に戻すが、実に43年の歳月を経てデフ・スクールのメンバー達にリレコーディングさせてしまった、彼女とレーベル代表やスタッフの情熱には敬服するばかりだ。激しいパート転回を持つ3分半のソナタというべきこの曲は、それ相当の演奏力を伴うがここでも色褪せることはなく、オリジナル・ヴァージョンより円熟感を増したプレイを聴くことが出来る。
 ここでも一色のキャンディ・ボイスとのギャップは成功していて、不毛の愛をテーマにした歌詞の世界観を引き出している。
 日本語の訳詞とナレーションは、伝説のバンド“シネマ”(日本のデフ・スクールといえる。リード・ヴォーカルは松尾清憲)のベーシストで、現在“ジャック達”を率いる一色進(いっしき すすむ)氏が担当しているのも見逃せない。

【一色萌がレコーディング中に聴いていたプレイリスト・プラス】

●TAXI / Deaf school(『Don't Stop The World』/ 1977年)

●The Celtic Soul Brothers / Kevin Rowland & Dexys Midnight Runners (『Too-Rye-Ay』/ 1982年)

●So It Goes / Nick Lowe(シングル『So It Goes』/ 1976年)

●Believe me / Madness(『One Step Beyond...』/ 1979年)

●The Invisible Man / Elvis Costello & The Attractions (『Punch The Clock』/ 1983年)

●あ!世界は広いすごい / ゆるめるモ!(『Talking Hits』/ 2017年)

●恋のすゝめ / 僕とジョルジュ(『僕とジョルジュ』 / 2015年 )


 数量が限られた7インチ・シングルなだけに、興味を持った音楽ファンは大手レコード・ショップで早急に予約して入手しよう。
JETSET  

(ウチタカヒデ)

2020年10月21日水曜日

【ガレージバンドの探索・第十回】The Pirates

 昨年末、関西に帰省するバンドメンバーに頼んで大阪のレコード屋さんで買ってきてもらったThe Piratesの7インチ (Back Stage Records – 5001)。バンドのことを少し調べてみたのだけれど、数ある一発屋のガレージバンドと同じように情報はあまり見つからなかった。僅かに出てくる情報も、Jonny Kidd & The Piratesと間違えられていたり、カリフォルニア出身だ、ニューオーリンズ出身だ、とかだいぶ錯綜しているけれど、おそらく正しくはルイジアナのバンドと思われる。オリジナル盤のリリースは65年か66年のようだ。

Cuttin'Out  /  The Pirates

 コンピレーション『VA - Don't Be Bad! 60s Punk Recorded In Texas』(CDSOL-8345 Solid Records/Big Beat)に収録されていて分かったのだけれど、プロデューサーは、Sir Douglas QuintetやBarbara Lynnのプロデュースで知られる Huey P. Meaux(The Crazy Cajun)だった。このコンピはHuey P. Meauxが60年代に手掛けたガレージパンク作品を集めたものだそう。

 ガレージのコンピは地域で括られているものをよく見る。音楽性によってジャンル分けされたりするのは、自分好みの音楽に出会える道しるべとして便利なものだと思うのだけれど、ガレージは地域性が色濃いことや、バンド自体よりも曲単位で知られることが多い特性もあって、どこの地域のバンドかを知るのがジャンル分けと同じように特に役立つのかもしれない。

 The Piratesについて、レコードコレクターの間でこれはガレージじゃない、R&Bだという人もいて意見が分かれるらしい。そういえば、ガレージが好きだという話をすると、ガレージって何?と聞かれることがあるのだけれど、いつも上手に説明できない。

 よく成り立ちとして説明されているのは、60年代半ばにブリティッシュ・インベイジョンの影響を受けたアメリカの若者がガレージ(車庫)で演奏していたことが始まり、というもので、そういう形式なのでもともとは本当に音が悪かったのだろう。そんな環境の中で生まれた味わいを含む音、音楽が今はガレージという1ジャンルとして確立した、ということかもしれない。

 激しいのもあれば、大人しそうなのもあったり、傾向として演奏が下手な場合も多いけれど、下手ならガレージになるわけでもなく、どういうものかと考えると難しい。ただガレージが好きな人は、聴いた時にそれがガレージだと分かる、というような音楽なんじゃないかと思う。

【文:西岡利恵