2019年3月4日月曜日

1970年代アイドルのライヴ・アルバム(郷ひろみ編・Part-2)


 Part-1の歩みに続き、今回は彼がデビューした1970年代のライヴ・アルバムを紹介する。ちなみに、彼のライヴ・アルバムは10作あるが、70年代には8作(うち1枚はフォーリーブスとの共演)を発表、初期2枚がジャニーズ事務所時代のものになる。

1974.『フォーリーブス・郷ひろみ/ジョイント・リサイタル』(CBSソニー)
※1974年大阪フェスティヴァル・ホールで行われたフォーリーブス(以下、FL)結成7周年、郷ひろみデビュー3周年公演。 26曲(ソロ7曲、FLと8曲)収録 6位 


 このライヴ・アルバムは、ファン・クラブ主導のもので、共演者には元FL八田英二とジャニーズJr.も並んでいる。なおこの時期の郷は出す曲全てがトップ3ヒットと、すでにジャニーズを代表する地位に上り詰めており、その存在感は際立っていた。
 トップには公開前の楽屋での談話が収録されているが、これはジャニー氏とは因縁の関係にあったアソシエイション(注1)のライヴ・アルバム(1969年)を連想してしまう。
 肝心のライヴは<ハイウェイスター>のインストで幕が開き、FLの定番曲Slyの<I Want To Take Higher>に突入する。他にも<Get Ready>や<Thank You>などFLの得意とするソウルフルなステージを披露している。
 そんな先輩FLに対し、郷が歌っているナンバーは最新新曲が中心になっている。特にその後彼のライヴ定番となるユーライヤヒープの<七月の朝>など、新旧交代を感じさせるレパートリーが際立っている。



1974.『HIROMI ON STAGE ! よろしく哀愁』(CBSソニー)

※ファン待望の郷単独ライヴ・アルバム。最大ヒット<よろしく哀愁>発売直後という絶好のタイミングで発表され、彼のライヴではトップ・セールスを記録している。 
13曲収録 4位

  

 ライヴ会場には2日前からかけつけたという熱狂的なファンで埋め尽くされ、開演前から興奮のるつぼと化している。
 肝心の公演は、レッド・ツェッペリン風のハードなインストで幕を開け、エルトン・ジョンの<彼女はツイストを踊れない>(注2)で郷が登場。こんなマニアックな選曲でもファンたちは大きな歓声を上げて酔いしれている。
 前半の洋楽から一転して後半ではお待ちかねのヒット曲を歌いまくるも、それらには洋楽的なアレンジが施されている。まず<モナリザの秘密>にはブラック・サバスの<Paranoid>風のヘヴィなテイストを、また<花とみつばち>では元ネタと思われるキンクスの<All Day Of The All Night>で聞かれるような鋭いギター・リフが響いている。
 なおここにはFLと親交のあったオズモンズの意欲作『Crazy Horses』(注3)から<That's My Girl><Utah>がカヴァーされているが、このライヴ作は『Crazy~』の構成によく似ている気がする。これはジャニー氏が意図的にお手本としたものなのか気になるところだ。



1976.『GO GOES ON! HIROMI IN  U.S.A. Part 1』(CBSソニー)
※ロス・アンジェルスのスコティッシュ・ライト・オーデトリアムにおける郷初の海外公演の前半。バックは郷専属のSuper Jetで、収録曲は全曲洋楽カヴァー。帯には翌月発売になる後半の『Part 2』のセット購入特典「アメリカ公演写真集」告知も掲載されている。 13曲収録 4位


 
 オープニングはファンにはお馴染みの<七月の朝>、続く2曲目には郷の和太鼓をフューチャーしたエルトン・ジョンの<血まみれの恋はおしまい>(注4)という大胆な選曲。この太鼓はオリジナル曲でのパーカッション奏者レイ・クーパーのプレイを意識しているようで興味深い。またこの和太鼓は<American Woman>にもフューチャーされ、うまくサンドに溶け込んでいる。ただ、インスト。ナンバーにしたのはもったいない感じだ。

 このライヴでは万人向けのポップスやカントリー・ソングが大半で面白味にかけるきらいもある。ただ、<SAKURA SAKURA>はジミ・ヘンドリックスの演奏した<アメリカ国家>を連想するようなロック・アレンジで興味深い仕上がりになっている。

 ラスト・ナンバーは欧米では幅広く聴かれている<兄弟の誓い>(注5)を取り上げている。日本では馴染みが薄い曲ではあるが、選曲にセンスの良さが感じられる。



 

1976.『GO GOES ON! HIROMI IN  U.S.A. Part 2』(CBSソニー)
※ロス・アンジェルスのスコティッシュ・ライト・オーデトリアムにおける郷初の海外公演の後半。収録曲は本人のヒット曲が大半で、明らかに日本のファン向けと思える。 
9曲収録 7位

 



 ここで目玉となっているのは英詞で歌われている<花とみつばち><よろしく哀愁><逢えるかもしれない>だろう。中でもロック調にアレンジされた<花と~>は、洋楽風な仕上がりでいかしている。
 個人的にはラストの<恋の弱み>のギター・リフを<Brown Suger>風にアレンジして、かつ英詞で披露してくれたら、この公演がより華やかになったのではないかと感じる。





 

1977.『ヒーロー』(CBSソニー)

※1977年4月1~2日中野サンプラザにおける公演を収録。収録された14曲中、10曲が洋楽カヴァーと、彼のライヴ・アルバムでは比較的洋楽が多い。ただその半分以上のにあたる6曲は日本語の訳詞で歌われている。 14曲収録 8位


 
 長年バック・バンドを務めるSuper Jetとのコンビネーションは良好で、ハードからバラードまでをそつなくこなしている。
 ここでは80年代以降の郷を象徴するようなバラードも積極的に取り上げており、その代表ナンバーはシカゴの<If You Leave Me Now>(注6)といえるだろう。なお、大半を占める訳詞で歌った洋楽のベスト・テイクは<愛という名の薬がほしい>と題されたポール・マッカートニーの<May Be I'm Amazed>だろう。
 なおアルバムのラスト曲<真夜中のヒーロー>のエンディングは、郷のシャウトでブラックホールに吸い込まれるように幕が下りるというドラマティックな構成になっている。この曲は翌年開催される郷初の武道館公演のオープニング曲となっていて、このアルバムとの連動性が感じられる。






1978.『フェニックス-HIROMI In BUDOUKAN-』(CBSソニー)

※1977年12月25日(日)に開催された郷にとって初の日本武道館公演を収録。
11曲収録  17位


 
 オープニングは前ライヴ・アルバムを閉めた<真夜中のヒーロー>だが、キャパの大きさを意識したスケール・アップされた雰囲気で披露している。
 ここでのセット・リストは、前作から一転して郷のオリジナルが中心となっている。それも<禁猟区><洪水の前><悲しきメモリー>といったノリの良いナンバーを会場のサイズに合わせ、ダイナミックなアレンジで聴かせている。その盛り上がりたるや、後の2010年に開催した「55 Birthday」武道館公演を彷彿させるようだ。
 そして数少ない洋楽カヴァーも、サンタ・エスメラルダ(注7)のラテン・ディスコ<悲しき願い>をチョイスして流行に敏感なところを覗かせている。また<MIND反比例>(注8)といった、これまでライヴでは披露することのなかったアルバム曲を収録するなど、彼の意気込みが伝わる興味深いものになっている。
 なおこの公演の音楽監督は服部克久と三原綱木、演奏はいつものSuper Jetにストリングスが加わっている。特に三原はこの時期、テレビの歌番組でも共演しており、彼のギターを大きくフューチャーしているのが印象的だ。補足ながら、彼とは1980年のライヴ・アルバム『My Own Road』でもタッグを組み、こちらでは洋楽カヴァーを中心とした抜群のライヴを披露している。




1978.『IDOL OF IDOLS』(CBSソニー)
※1978年7月16~17日に大阪フェスティヴァル・ホールで行われた公演を収録。この年、二作目となるライヴ・アルバムで、バックはThe Croos Overに変わっている。

17曲収録  22位




 

 
 前半のⅠ部は、つのだひろ・芹澤廣明・惣領康則によるオリジナル・ミュージカル仕立て。後半のⅡ部は最新作『Nari-rhythm』収録曲を核に、当時彼が夢中ににななっていた映画『サタディナイト・フィーバー』収録曲をベースにした構成になっている。なおこの最新作からは4曲が披露され、うち<METAL POINT>は英詞に変えており、彼のアルバムへの愛情が伝わってくる、
 またヒット・メドレー(モナリザの秘密~裸のビーナス~君は特別~よろしく哀愁)は”ORIGINAL DISCO”ORIGINAL DISCOとして聴かせるなど、ライヴ・アルバムでありながらオリジナル・アルバムのように統一感を意識している。
 ラストでは樹木希林をゲストに迎え、楽屋の現況をファンに伝えさせてお約束のヒット曲をデュエットと、ご愛嬌も覗かせている。
そしてオオトリにはばり、バリー・マニロウの<Even Now>を取り上げており、シンガーとしての力量とセンスの良さがうかがえる幕引きとなっている。

ここまで1970年代に郷ひろみがリリースしたライヴ・アルバムをレビューさせていただいた。なお、彼は1980年代にも3作のライヴ・アルバムを発表しているので、参考までにリストのみ紹介しておく。

1980.『My Own Road』
1981.『At The Starting Live~Ready Set Go!~』
1986.『郷ひろみライブ Concert Tour Labyrinth』

この3作を合わせて郷ひろみのライヴ・アルバムは10作となる。どのアルバムも捨てがたい魅力にあふれたものなので、ぜひ復刻されることを願ってやまない。
(鈴木英之)

(注1)アソシエイションの代表曲の1つ<Never My Love>は、元はジャニーズのあおい輝彦のため書あれた曲だった。しかしながら、諸事情で発売されずアソシエイションがレコーディングして全米2位の大ヒットとなった。この件については、あおい輝彦が自身のライヴ・アルバム(1978年『あおい輝彦 オン・ステージ』)でもコメントしている。 

(注2)原題:Your Sister Can't Twist(But She Can Rock'n Roll。エルトン・ジョンが1973年10月に発表した2枚組大作『Goodbye Yellow Brick Road』に収録されたオールディーズ調のロックンロール・ナンバー。

(注3)オズモンズの第10作アルバムで、全曲メンバーの自作によるロック・アルバム。プロデュースも彼ら自身(長男のアランとマイケル・ロイド)が担当している。

(注4)原題:Love Lies Bleeding。『Goodbye Yellow Brick Road』のオープニングを飾ったドラマチックな作品で、デル・ニューマンのプログレッシブなアレンジが光っている。なおパーカッション奏者レイ・クーパーはこの作品からエルトン・ジョンのバック・バンドに参加している。

(注5)原題:He Ain't Heavy...He's My Brother。ホリーズが1969年に発表したドラマティックな傑作バラードで、全英1位、全米7位を記録。その後、ニール・ダイヤモンドなど多くのシンガーに歌い継がれている名曲。

(注6)1976年にシカゴが発表した極上のバラード。彼ら初の全米1位獲得曲。

 (注7)1977年にサックス奏者リロイ・ゴメスが結成したラテン・バンド。アニマルズの代表作<悲しき願い>をラテン・アレンジで発表し、世界中で大ヒットを記録。

(注8)1977年10月1日リリースの第9作『アイドルNo.1』。

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