2015年7月12日日曜日

杉瀬陽子:『肖像』(Happiness Records/ HRVD-007)



 前作『遠雷』(13年)が高い評価を得た大阪在住の女性シンガー・ソングライター杉瀬陽子が、約2年振りとなるアルバム『肖像』を7月15日にリリースする。
 3作目となる本作には、前作から引き続きHICKSVILLEのギタリスト中森泰弘や細野晴臣のバックバンドに参加するベーシスト伊賀航の手練ミュージシャンに加え、元キリンジの堀込泰行がコーラスと楽曲提供で参加するなど話題は尽きない。
 前作から比較するとリラックスしたサウンドが多く耳にも心地よい、グッドタイム・ミュージックに仕上がっているので紹介したい。

 杉瀬曰く「とにかく楽しいアルバムを作りたかった」 との言葉通り、アルバム全体に通底しているのはラグ・タイムなど古き良きルーツ・ミュージックや70年代ロックへの憧憬である。
 レコーディング・セッションは前回からの中森泰弘と伊賀航、ドラムの北山ゆう子を基本に、ペダルスチール・ギターの安宅浩司、ピアノやフェンダー・ローズのキーボード類をローズ高野、ハモンドオルガンを岩井ロングセラーが分け合い、ハピネス・レコードのセッションではお馴染みのシーナアキコはグロッケンとヴィブラフォンで参加している。

 では主な収録曲を紹介しよう。
 冒頭の「諜報員の恋」はアコーディオンとマンドリンの音が美しいワルツのリズムでプレイされる小曲で、フェアーグラウンド・アトラクションにも通じる愛らしいアコースティック・スイングだ。
 続く「マドロスの小瓶」もオールドタイム&グッドタイムなアレンジで、 前曲のアコーディオン同様高野のラグ・タイム・ピアノがサウンドの核となっている。因みに間奏のトロンボーン・ソロは杉瀬自身によるプレイというから恐れ入る。
 そしてWebVANDA読者をはじめソフトロック・ファンに特にお薦めなのは、堀込泰行(定期誌VANDAの読者だったらしい)が曲を提供し、杉瀬が詞を書いた「五月雨二鳥」である。多重録音されたアコースティック・ギターの刻みと、ベース&ドラムのコンビネーションが絶妙にポリリズムになった上にローズが漂っている風通しのいいアレンジに、心地よく杉瀬が歌っている様は多幸感に溢れている。特にヴィブラフォンが入る瞬間はマリアッチな雰囲気に展開し、誤解を恐れずにいうと70~71年頃のポール・マッカートニーの作風に68~70年頃のエンニオ・モリコーネがアレンジした様なサウンドである。
 「キャンディ」は77年の原田真二のヒット曲のカバーである。ここではダン・ヒックスにも通じる渋いアコースティック・スイングでアレンジされており、クラリネットとバンジョーのオブリガートが曲を大きく演出している。
 「悲しみよ、愛を孕め」は名曲揃いの本アルバムの中でも白眉な出来といえるだろう。伊賀と北山による鉄壁なリズム隊と高野のピアノ、安宅のペダルスチールに導かれた杉瀬の歌声は一聴して存在感に溢れ、前作の「遠雷」をも凌ぐ完成度を誇っており、筆者もベスト・トラックとしてこの曲を挙げる。
 ジャケットのイラストレーションは前作同様西祐佳里によるもので、この曲の世界観を表現していると思しき、インパクトのある実に美しいタッチではないだろうか。
(ウチタカヒデ)

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