2009年2月23日月曜日

Rob Galbraith:『Too Long At The Fair』(VIVID SOUND/VSCD3377)

 

Rob Galbraith(ロブ・ガルブレイス:カナダ出身)は、1970年に『Nashville Dirt』でデビューしたナッシュヴィルのスワンプ系シンガーソングライター。自身がアーティストとして成功を得られなかったため、早々にソングライター、プロデューサーへと活動をシフトしつつ、1976年にはセカンド・アルバムの『Throw Me A Bone』(2月4日に世界初CDリイシューされたばかり)をリリースし、ブルーアイドソウル風のサウンドを聴かせていた。その後表舞台からは消え、2004年にリリースされたのが、今回紹介する『Too Long At The Fair』である。

2004年にナッシュヴィルのインディー・レーベルからプレス2,000枚のみでリリースされ、マニアの間では幻のアルバムとしてオークションで高額取引されていた、その Rob Galbraith のサード・アルバム『Too Long At The Fair』が、この度2曲の未発表ボーナス・トラックを追加して日本初登場となった。
結論からいうと、四半世紀以上前になる前作『Throw Me A Bone』のブルーアイドソウル感を更に深化させたジャジーでメロウなサウンドで、スティーリー・ダンやベン・シドランのファンは必聴の傑作である。
今回のリイシューもプレス数が気になるところなので、興味を持った人は早急に入手して欲しい。

本作のプロデューサーは、『Angel Heart』をはじめ、『Ten Easy Pieces』『Twilight of the Renegades』など近年のジミー・ウェッブ作品を手掛けている、Fred Mollin(フレッド・モーリン)。『Ten Easy Pieces』と音像が非常に似た、バリー・マンの『Soul & Inspiration』もフレッドのプロデュース作品として知られている。
ライナーノーツに掲載されているフレッドのインタビュー記事(金澤寿和氏)によると、彼はロブが住むナッシュヴィルにわざわざ拠点を移してまで、このアルバム制作に入れ込んでいたらしく、参加ミュージシャンのクレジットにも一流どころの名前を確認することが出来る。
フランク・ザッパの The Mothers of Invention からウェザー・リポートと渡り歩き、ジェネシスのサポート・ドラマーとしても知られるチェスター・トンプソン、70年代中期から数多くのセッションをこなしデビューから全盛期の TOTO を支え、現在はナッシュヴィルを拠点として活動している、デヴィッド・ハンゲイド(但しこのアルバムではベーシストではなく、ギタリストとしてクレジットされている)。また殆どの曲でリード・ギターを弾いているのは、97年から99年までオールマン・ブラザーズ・バンドに参加し、ドニー・フリッツやダン・ペンなどのスワンプ系から、2000年にグラミー新人賞を獲得した美人カントリー・シンガーのシェルビー・リンなど、幅広いセッションで活躍しているジャック・パーソンで、このアルバムのカラーを決めているエレメントとして重要なポジションを任されている。

アルバム冒頭から AOR の名曲として知られる、ビル・ラバウンティの「Living It Up」のカバーではじまる。オリジナルはフェンダー・ローズの印象的なリフで幕を開けるが、ここではジャジーなオクターブ奏法のギターから展開される。続くロブのオリジナル作「We'll Always Have Detroit」は、活動再開後のスティーリー・ダン的なホーン・アレンジを配しており、全体のサウンド構築自体もまるでスティーリーそのもので思わず唸ってしまった。
カバーとして他に取り上げられているのは、ランディー・ニューマンの『Bad Love』収録の「Everytime It Rains」。そもそもこの曲、ニューマンがあのマイケル・ジャクソン直々(?)に電話でオファーされておきながら、ボツになったという曰く付きの曲であるが、こういう味わい深いバラードを歌いこなせるのはテクニックを持ったシンガーより、作者であるニューマンや今回のロブなど「渋系・味系」のシンガーに相応しいのだ。
他にオリジナルの書き下ろし曲では、テクニカルなジャンプ・ナンバーの「She Ain't My Baby」が素晴らしい。これも正しく、近年のスティーリー・ダン・サウンドを彷彿させる。
なお本作にはセカンドの『THROW ME A BONE』から4曲が再演されているので、アレンジの違いを聴き比べるのも面白いだろう。特にラムゼイ・ルイス風ファンキージャズに変貌した「Throw Me A Bone」は聴きものだ。
未発表のボーナス・トラック(80年前後のデモ・テイクらしい)では、イギリスのR&Bシンガーであるルルが69年にジェリー・ウェクスラーの下マッスル・ショールズでレコーディングして、スマッシュ・ヒットさせた「Oh Me Oh My」のカバーが特にいい。アープ・オデッセイのリフやローズの刻みなどキーボード類のアレンジには、ボビー・コールドウェルの匂いがする、爽やかでメロウなAORに仕上がっている。
最後にまた念を押すが、2009年上半期リイシュー・アルバム最上位候補の傑作であるので、興味を持った人は早急に入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)

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