2017年12月3日日曜日

THE LAKE MATTHEWS:『Gimme Five!!』 (Happiness Records/HRBR- 006)



今回紹介する“THE LAKE MATTHEWS”(ザ・レイク・マシューズ)の『Gimme Five!!』は、過去筆者によるレビューで評価が高かった女性シンガーソングライターの杉瀬陽子が、自身のイベント企画のために結成した“一夜限りのミステリーバンド"のファースト(ラスト?)・ミニアルバムで、今月の6日にリリースされる。 

メンバーは杉瀬のサポート・バンドからは、ベーシストの伊賀航(細野晴臣バックバンド等に参加)、ドラマーの北山ゆう子(曽我部恵一のバックや流線形等の参加で知られる)がピックアップされ、加えてゆずやキリンジ(KIRINJI)など多くのメジャー・アーティストのセッションやライヴ・サポートからアレンジャーとして活躍するキーボーディストの伊藤隆博が参加している。
そして何より特筆すべきは、元キリンジからソロに転向した堀込泰行が、杉瀬と共にフロント・メンバーとしてヴォーカルとギターを担当していることだろう。
杉瀬のアルバム『肖像』(15年)収録の「五月雨二鳥」を2人で共作したことで、彼女のライヴにもゲスト出演した機会があり筆者も聴いたのだが、2人のハーモニーのブレンドは実に調和していて味わい深かった。

このTHE LAKE MATTHEWSの活動としてはライヴの他、今年9月に7インチ・シングル「Pegasus」をリリースし既に完売状態だという。その後押しもあり、このミニ・アルバムに至ったという見方も出来る。
収録曲はこの「Pegasus」以外は各メンバーが選んだ昭和時代の楽曲カバーということで、各々のルーツや趣向が垣間見られて興味深い。
楽曲と選曲者は下記の一覧を参照してほしい。

1. 氷の世界 <井上陽水カバー>(選曲:杉瀬陽子)
2. 星くず <久保田真琴と夕焼け楽団カバー>( 選曲:北山ゆう子)
3. 水に挿した花 <中森明菜カバー>(選曲:伊藤隆博)
4. 渚・モデラート <高中正義カバー>(選曲・伊賀航)
5. Pegasus  <THE LAKE MATTHEWSオリジナル>
6. 地球はメリーゴーランド <GAROカバー>(選曲:堀込泰行)

 

ここでは筆者が気になった主要な曲を解説したい。 
冒頭の「氷の世界」は説明不要と思うが、国内初のミニオンセラー(100万枚)となった井上陽水の同名アルバム(73年)のタイトル曲である。アルバム『氷の世界』は、当時の日本における『狂気(The Dark Side of the Moon)』(ピンクフロイド 73年)のようなロングセラー・モンスター・アルバムだった。
この曲はロンドンのソーホーにある、かのトライデント・スタジオで全面的にレコーディングされており、当時としては非常にファンキーなアレンジが施されているのが特徴的だ。現地のセッション・ミュージシャンは、後にロキシー・ミュージックに関わるベーシストのジョン・ガスタフソンや彼と同じくクォーターマスのメンバーだったピート・ロビンソンがクラヴィネットをはじめキーボードを弾いており、コーラスには後にグリース・バンド(ジョー・コッカーのバックバンド)と合流してココモの母体となったアライヴァルのヴォーカリスト3名も参加している。なんでも当時陽水達はスティーヴィー・ワンダーの「迷信 (Superstition)」 (73年)にインスパイアされたサウンドを目指していたという。
前置きが長くなったが、THE LAKE MATTHEWSのヴァージョンでは、べースラインにデオダートの「摩天楼(Skyscrapers)」(『Deodato 2』収録 73年)のそれをモチーフにしており、原曲以上にバックビートを強調している。数々のセッションをこなしている伊賀と北山のリズム隊のコンビネーションは完璧と言える演奏でたまらない。また肝心のヴォーカルだが、1番と2番でワンコーラスずつ堀込と杉瀬で分け合い、間奏後に2人のツイン・ヴォーカルとなり曲を盛り上げている。

先行のオリジナル・シングル「Pegasus」は、杉瀬1人によるソングライティングだが、堀込とのヴォーカルを想定したようなミディアム・メロウな曲調であり、嘗て堀込がキリンジ時代に残した稀代の名曲(最近CMに起用されている)「エイリアンズ」(『3』収録 00年)に通じる、心情風景を背景とした不毛の愛がテーマとなっている。
堀込の荒削りなギター・ソロに続き、アレンジにも貢献したと思しき伊藤隆博が自らプレイするトロンボーン・ソロのコントラストも非常に効果的だ。
そしてラストはガロの「地球はメリーゴーランド」であるが、原曲が和製ソフトロックとしてエヴァーグリーンな存在であることは、古くからのVANDA誌読者なら言わずもがなだろう。自らもその読者だったらしい堀込ならではの趣味性と言え、前曲「Pegasus」からの流れからもこのミニ・アルバムの着地点としてこれ以上相応しい選曲はないかも知れない。
ニール・ヤングの「Out on the weekend」(『Harvest』収録 72年)を彷彿とさせるダウントゥアースなビートをバックにして、堀込の叙情的なヴォーカルに寄り添う杉瀬の無垢なハーモニーは慈愛に満ちあふれている。この曲を歌うために組んだのではないかと思わせる必然性に感動するばかりだ。
興味を持った音楽ファンは入手して是非聴いてほしい。
(ウチタカヒデ)

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