2008年12月31日水曜日

相対性理論:『ハイファイ新書』 (みらいRECORDS/XQFA-1233)

 

 今年5月にリリースされたデビュー・ミニアルバム『シフォン主義』で、多くの音楽ファンの話題をさらった相対性理論(そうたいせいりろん)が、初のフルアルバムを09年1月7日にリリースする。
 音源を入手して約1ヶ月聴き込んでの感想だが、前作では垣間見られなかった彼らの新たなスタイルを発揮した傑作に仕上がっていると思う。 
 個性的なヴォーカリストやくしまるえつこと、全てのソングライティングを手掛けるベーシストの真部脩一を中心とするバンド・サウンドのコントラストの妙というべき、前作『シフォン主義』の世界観はそのままに、更にポップスの可能性を広げたその内容に、聴き込む毎に耳を奪われている。

 本作『ハイファイ新書』は、彼らのMySpaceでデモ・ヴァージョンで発表されていた、「テレ東」や「四角革命」をはじめとする全9曲から構成され、既にライヴ披露されていた曲も含まれるが、先ずは、会場に足繁く通う熱心なファンにも馴染みの薄い曲から紹介しよう。
 「品川ナンバー」はシカゴ・ハウスのエッセンスを持った80代末期の打ち込み系シティポップ(今井美樹「キスより吐息より」etc)のサウンドを、彼らなりの解釈で料理したダンスナンバーといえるだろう。またどことなく、桐島かれんをヴォーカルに起用した頃の再結成サディスティック・ミカ・バンド(Sadistic Mica Band)をも彷彿させる。 
 「バーモント・キッス」はキーボード主体のサウンドに、ピュアなヴォーカルが乗るバラード調の曲。歌詞の世界観とのギャップは相変わらずだが、ピーター・ガブリエルのサウンドに近いかも知れない。 キックの4つ打ちとマルチタップディレイをかましたリズム・ギターが印象的な「テレ東」は、洗練された16ビートのポップスというべきか。アルバム・トップのリード・トラックとしての完成度は随一である。

 70年代末期イギリスのニューウェイヴ系ギタリスト(アンディ・サマーズ,アンディ・パートリッジ)的な非トニックのインパクトあるギター・リフで始まる「地獄先生」は、そのサウンドとやくしまるのコケティッシュなヴォーカル・スタイルのギャップが実に新鮮で、真っ先に興味を持ってしまった。因みに先行配信された本曲のPVは、映画『パビリオン山椒魚』で知られる冨永昌敬が監督し、女優の洞口依子(故伊丹十三作品からトレンディ・ドラマまでこなす一流女優)らが出演しており、早くも業界内でリスペクトを集めているようだ。 
 「四角革命」も70年代末期ニューウェイヴ・サウンドの影響が強く、2トラックに配したギターのアルペジオのコンビネーションやスネアの残響処理は、スティーヴ・リリィホワイトが手掛けていた頃のXTCを彷彿させ、コーダのリフレインの雰囲気などは、まるで「When You're Near Me I Have Difficulty」(『Drums And Wires』収録)だな。
 一方「学級崩壊」ではサウンドがポリス的なホワイト・レゲエで、ギタートラックの構築はアンディ・サマーズの影響が強そうだ。またこの曲では、やくしまるのウィスパーヴォイスが効果的に使われていて艶めかしい。 
 「さわやか会社員」はタイトル通りというか、80年代初期ネオ・アコースィック・サウンドを彷彿させる、ジョニー・マー(The Smiths)的なソングライティング・センスが素晴らしく、ハイライフ的ギター・アルペジオや歌詞を含めた完成度では個人的にはベスト・トラック候補である。

 アルバム全体を通した印象としては、前作で聴かれたラウドなギター・サウンドが後退し、ポップスの方法論を模索した結果出来上がったサウンドではないかと感じられる。実際バンド内でもメンバー間で生じる化学変化というべき、偶然性の産物的アプローチが繰り返されているのではないだろうか。前途有望なバンドの成長とはそういうものであろう。
(テキスト:ウチタカヒデ


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