2008年5月6日火曜日

相対性理論:『シフォン主義』 (みらいRECORDS /XQEH-1002)

 

 20世紀最大の理論物理学者アルベルト・アインシュタインが発表した世界的に有名な理論をバンド名に冠した、ノンカテゴライズなギターポップ系バンド、相対性理論(そうたいせいりろん)のファーストアルバムが本作である。 正確には07年1月から自主制作盤として一部の店舗で細々と販売されていたものだが、評判が評判を呼び、自主制作盤としては異例の2000枚を売上げ、今回新たにマスタリングして全国流通のインディーズ盤として新装リリースに至った。

 バンドの結成は06年9月に遡り、その2ヶ月後には早くも本作を制作して、ライヴ会場で販売していたというから驚きだ。メンバーはヴォーカルのやくしまるえつこを中心に、ギターの永井聖一、ベースの真部脩一、ドラムの西浦謙助の4名からなり、アルバム収録曲全てのソングライティングを真部が手掛けている。
 筆者は1年程前に自主制作盤の本作を入手して以来、その突飛なタイトルのセンスや、無節操(計算された?)に並べられた語句で韻を踏ませる歌詞のセンテンスなど、サブカル的立ち位置の奇妙な魅力に惹かれてしまったのだ。サウンド的にも3リズム・バンドにありがちなマンネリなアレンジは感じられず、メンバー各々から醸し出される音楽的引き出しが絶妙のバランスを保っていて飽きさせない。さらにヴォーカルやくしまるの独特なキャラクターも相まって、バンドの個性は他に類を見ないほどユニークである
 アルバム中もっともキャッチーで、某音楽ダウンロードサイトでも1万近くを叩きだしたという「LOVEずっきゅん」は、アフロ・カリビアンなリズムをバックに、「貝殻集めて歩くの 由比ヶ浜」など昭和歌謡的歌詞がチャイニーズ・スケール風メロディで歌われるなど、支離滅裂な折衷感覚が圧巻でたまらないが、個人的には80年代初期~中期にモリッシーとジョニー・マーという二人の天才を配したザ・スミスのサウンドを彷彿させる、「スマトラ警備隊」と「夏の黄金比」がとにかく好きだ。両曲とも複数のギター・トラックからサウンドを構築させて、分散コード(アルペジオ)のリフをアクセントにしているなど、ジョニー・マー的なセンスを色濃くしている。特に「夏の黄金比」はマイナー・キーのアルペジオが切ない歌詞に共鳴し、その世界観に引き込まれてしまって、昨年もっとも聴いたベストソングの1曲に入れた程だ。
 本作『シフォン主義』(単に語呂合わせではなく、構造主義的な意識を感じるアルバム・タイトルだ)を足掛かりにメジャー展開していくであろう、彼ら相対性理論を今後も応援していきたい。
(テキスト:ウチタカヒデ

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