2014年7月23日水曜日

☆Crosby Stills Nash & Young:『CSNY1974』(ワーナー/WPZR30524/7)CD3枚+DVD1枚

何年も前から海外のサイトで出る出ると予告されていて、どんどん延期され、半ば諦めかけていたCSN&Yが再結成してライブ・ツアーのみを行った1974年の伝説のライブが遂にCD3+DVD1枚という素晴らしいヴォリュームでリリースされた。先に紹介したSmall Facesの『Here Come The Nice The Immediate Years Box Set 1967-1969』に続いて、ずっと前から告知されていた待望のボックスがこれで出揃ったことになる。バーズのデビッド・クロスビー、ホリーズのグラハム・ナッシュ、バッファロー・スプリングフィールドのステファン・スティルスの3人で始め結成されたCS&Nはアルバム『Crosby Stills & Nash』①が全米6位と大ヒット、3人の絶妙なハーモニーが魅力だったが、スティルスはロックの要素も入れたいと、バッファロー・スプリングフィールド時代の同僚で、ソロで活躍していたニール・ヤングを加えてスーパー・グループCSN&Yが生まれた。
しかしスティルスとヤングのエゴの対立もありスタジオでのアルバムは1970年の『Deja Vu』②1枚だけ。翌年1970年のツアーを収録したライブ・アルバム『4 Way Street』③をリリースしたのみだったが、どちらも全米1位と大成功を収めていた。その後はメンバーはソロで活躍、特にヤングは70年の『After The Gold Rush』④が全米8位だがダブル・プラチナム、72年の『Harvest』⑤は1位でフォース・プラチナムと最も成功を収めた。しかし73年のライブ・アルバム『Time Fades Away』⑥は22位で終わる。スティルスは70年の『Stephen Stills』⑦が3位、71年『Stephen Stills2』⑧が8位、72年の『Manassas』⑨が4位とここまでは順調だったがマナサス名義のセカンド73年の『Down The Road』は26位と低調な成績で終わる。グラハム・ナッシュは71年のソロ『Songs For Beginners』⑩が15位、ナッシュ&クロスビーの72年の『Graham Nash & David Crosby』⑪は4位、73年のソロ『Wild Tales』⑫が34位とそこそこ好調、デビッド・クロスビーは71年のソロ『If I Could Remember Only My Name』が12位、それだけだった。4人がこれだけの成功を収めたのはビートルズ以外なく、まさしくスーパー・グループだったが、73年の時点では成績は下がっていた。それも背景にあっただろう、1974年に再結成ツアーが行われる。しかし7月~9月にアメリカ、カナダ、イギリスで29回行われただけで、スタジオ録音アルバムも実現せず、それぞれまたソロで活動することになる。その後完全に仲たがいしたという訳でもなく、C&NCS&Nは多く組んでアルバムを作り、Y&Nのシングルがあったり、CN&Yのツアー、はたまたStills-Young Bandという組み合わせのアルバムがあり、1988年にはCSN&Yでスタジオ・アルバムが作られた。ニールは基本がソロだが、他のメンバーは自由で緩やかな共同体、それがCSN&Yの魅力だった。しかし彼らの絶頂期であり、それぞれソロとしても成功し、多くの名曲を持ち込んだ1974年のツアーはライブ・アルバムになることもなく、ライブ盤は『Smile』のように出ないお化けのように出る出ると語られていたが、ついに40年後の今年、こうやって『CSNY1974』として遂にオフィシャル・リリースされた。さて選曲だが、ヤングは既発表曲が②③④⑤⑥から各1曲と5曲しかなく(厳密には「Ohio」はシングルだが)、74年の『On The Beach』に収録される2曲(ツアー直前発売なので新曲扱いとする)、75年の『Tonight The Night』に収められる1曲、76年のスティルスとの合作アルバムの『Long May You Run』に収録される1曲があり、74年に計画されボツになったアルバム『Homegrown』からは「Hawaiian Sunrise」「Love Art Blues」の2曲、同時期の「Traces」と「Pushed It Over The End 」は再結成アルバム用にストックされたまま、加えてライブ用の小品「Goodbye Dick」の5曲はそのまま未発表で終わるというヤングならではの贅沢な使い方。このライブでのヤングの曲は14曲もあるが、9曲が新曲という今に生きるヤングらしい選曲だった。この中では厳密にはイタリアだけのヤングの全LPをボックスにしたセットのみにオマケで付けられたという「Pushed It Over The End 」は厳密には未発表と言えないのかもしれないが、堂々たるロックナンバーで聴きごたえがある。そして「Hawaiian Sunrise」は美しいメロディを持つ佳曲で未発表なのが惜しい。既発のライブでは4人のハーモニーが美しい「Only Love Can Break Your Heart」と、ナッシュとのデュオが素晴らしい「Old Man」がベストの出来。スティルスは①が1曲、⑦⑧が各2曲、⑨が1曲、75年の『Stills』に収録される2曲、そして『Woodstock』で披露されたビートルズの「Blackbird」のカバーの9曲が収録された。乾いた曲が多いスティルスだが流麗な「Change Partners」がベスト。グラハム・ナッシュは①⑪が1曲、②⑩⑫が2曲、75年の『Wind On The Water』に収録される1曲で計9曲。ナッシュはどの曲も魅力的で、ヤングと並んでCDの目玉となる曲が多い。その中でも平和主義者で知られるナッシュの「Military Madness」「Chicago」がハイライトで、選曲を担当したというナッシュが、最後に「Chicago」「Ohio」と持ってきたところに変わらぬ強い信念が感じられて嬉しくなる。アメリカ国籍を取るまでの税関職員の冷たい態度を描いた「Immigration Man」もいい出来だ。そして②の2曲はいつ聴いてもいい。最後にクロスビーだが、①から3曲、②から2曲、③から1曲、75年の『Wind On The Water』に収録される1曲、76年の「Whistling Down The Wire」に収録される1曲の8曲。クロスビーらしからぬポップな「Carry Me」がベスト。ライブDVD8曲しかなく、Amazonでも売っていたセミ・ブートのようなライブDVDLive At The Wembley Stadium』の方が32曲とはるかに曲が多いし、このボックスに入っていない曲を6曲も聴くことができる。こんな少ない曲数のライブ映像ではなく、ライブはライブでちゃんとしたDVDを出してもらいたいもの。ただし、画質は前述のもの(74914日収録。イギリス)よりいいし、最初の4曲「Only Love Can Break Your Heart」「Almost Cut My Hair」「Grave Concern」「Old Man」は74820日、アメリカLandoverCapital Centreの映像でこれは初。Wembleyではニールの2曲のバック・コーラスにジョニー・ミッチェルが入り、邪魔だったのが、こちらはメンバーだけなのでずっといい。ライブDVDを出すときは、Capital Centreの方を期待したい。それにしても本ボックスのDVDはヤング3曲、ナッシュとクロスビーが各2曲なのにスティルスは1曲しかなく、CDの曲数といい控えめなのが少し気になるところ。(佐野邦彦)
商品の詳細

2014年7月15日火曜日

☆酒富デザイン「D's Talk Session 22 Part2」がアップされました。

 Dennyオクヤマさんのサイト「酒富デザイン」で、6月の対談がトーク・セッションのPart1として掲載されましたが、7月に今度は「ソフト・ロック」をテーマにして対談したPart2がアップされました。
をご覧ください。どういう音楽をソフト・ロックと呼んでカテゴライズしたか、どんな店でそういうレコードを探したのかなど、今までどこにも書いていないことを語っています。また「Soft Rock A to Z」でお勧めしたレコードが、18年経ってほとんどCD化された中、お勧めのCDをメジャー編、マイナー編で10枚ずつ選びましたので、是非。
かつてVANDAのビートルズのアンケートに山下達郎氏が答えてくださった時に「影響を受けるのでできるだけビートルズを聴かないようにしていました」と記されていましたが、自分も他からの影響を受けると嫌なので、音楽ライターなる方々とは関わらないようにしていました。音楽的な趣味が合う友人達とだけ情報を交換して。だから「師」のような人は誰もいない。でもこういう「新興勢力」が出てくると、様々な形で妨害してくるポップス系の某大物評論家などがいたりして、まあ音楽ライター業界というのは汚いものだと幻滅しました。ますます関わり合いは御免こうむると独自路線に。こういう一部の音楽ライターなどよりも、我々、一般の音楽ファンの方がよく研究しているし、センスのいい人も多い。レコード会社のタイアップ企画ばかりの音楽誌や、古いカウンターカルチャーとしてのロック観に縛られた音楽ライターの評論なんてほぼ参考になりません。レコード会社や同じ会社でも担当者が変わるたびに、音楽ライターが企画を売り込んで同じものを手を変え品を変えCD化するので、日本のリイシューはうんざりするものが多いでしょう?ネット時代の今、既存の音楽誌や音楽ライターこそが逆に体制派で、市井の我々の方がカウンターカルチャーかも。
数多いロック評論家に対しては声を大にして言いたいが、プロのソングライター、プロデューサー、アレンジャーがその持てる能力を注いだ音楽は、少しもバカにされるものではない。職人の仕事は実に美しい。ロックが上でポップが下、自作自演しか認めない、主張がないものはクズ、なんて音楽観なんてロックが巨大ビジネスになった時に意味を失った。自分が聴いて快感が走る音楽こそベスト。そういう音楽を「ソフト・ロック」と呼んだだけのこと。(佐野邦彦)

 

2014年7月5日土曜日

ウワノソラ:『ウワノソラ』(Happiness Records/HRVD-004)


 新人バンドのファースト・アルバムで、この様な完成度の高いソングライティングとサウンドを僕はいまだかつて聴いたことがない。まさしく一聴して耳を奪われてしまった。
 ウワノソラは関西在住の現役大学生からなる、平均年齢23.5歳という若さながら才能溢れる前途有望なポップ・バンドである。
 saigenjiを筆頭に流線形、あっぷるぱい、千尋、杉瀬陽子等良質なミュージシャンを多く送り出してきたハピネスレコードから7月23日にリリースされるこの『ウワノソラ』は、ポップス・ファン必聴のアルバムなのだ。そのスタイルを分かり易く表現すると、シュガー・ベイブの『SONGS』(1975年)と荒井由実(以降ユーミン)の『MISSLIM』(1974年)を融合させた世界観を非常にナチュラルに展開しているというべきだろうか。
 近年では筆者が絶賛しているLampの『ゆめ』(2014年)、流線形の『TOKYO SNIPER』(2006年)や『ナチュラル・ウーマン』(比屋定篤子とのコラボ・2009年)を心より愛するシティポップ・ファンも間違いなくハマるだろう。
 1ヶ月程前からラフミックス、マスタリング音源を続けて聴いているが、こうして一足先に紹介する機会を得られたことは極めて幸運である。

 ウワノソラのバンド・メンバーは、ヴォーカルとコーラスのいえもとめぐみ、ソングライティングとアレンジを担当するギタリスト兼コーラスの桶田知道、角谷博栄の男女3人から構成され、特にプロデュースからストリングス・アレンジ、エンジニアリングまでをこなす角谷が全体のイニシアティブを握っていると思われる。
 メンバー構成からはLampを彷彿させるが、いえもとの存在感溢れるヴォーカルを二人のソングライターが各々演出するという役割分担がされているのがウワノソラの特徴で、このアルバムを聴く限り桶田と角谷のソングライティングの決定的な違いは聴き分けられない。バーサタイルに曲を書き分けられるセンスは両人とも持ち合わせているので後半の曲解説で触れてみたい。



 今回のレコーディングに参加した主なセッション・ミュージシャンにも触れよう。「恋するドレス」他2曲でベースをプレイしているのは、今やKIRINJIのメンバーとなった名手・千ヶ崎学、また今年3月末に活動を休止したNatural Recordsの越智祐介は、千ヶ崎と同じ3曲で巧みなドラミングを披露している。ハピネスレコード関連からHARCOなど多くのセッションに参加しているシーナアキコは5曲でフェンダー・ローズを担当しており、5月にソロ・アルバムを紹介したばかりのヤマカミヒトミもここでは3曲でサックス、2曲でフルートで参加と引っ張りだこだ。
 以上のミュージシャンのセッションは都心近郊にあるスタジオ・ハピネスでレコーディングされており、エンジニアは同スタジオの主である平野栄二が担っている。ベーシック・レコーディングはウワノソラの拠点である関西のCollege and Room403でも行われ、角谷自らエンジニアを担当し地元で活動するミュージシャンが集められてセッションを行ったようだ。
 そしてアルバム全体のミックスダウンとマスタリングは、信頼厚い平野の確かな耳により、きめ細かい音像に仕上がっている。

 では肝心の収録曲の解説を始めたい。
 アルバム冒頭を飾るのは16ビートのギター・カッティングとパーカッション、クラヴィネットの刻みがリズム隊のコンビネーションに絶妙に絡んでグルーヴィに展開する角谷作の「風色メトロに乗って」。リズムに呼応する跳ねるホーン・セクションと流暢なストリングスのコントラストも効果的でアレンジ・センスも申し分ない。また幼さが残る、いえもとの無垢なヴォーカルが歌詞の世界観にマッチしていて引き込まれてしまう。
 続く桶田作の「摩天楼」は、前曲がアイズレー・ブラザーズ風グルーヴだったのに対し、デオダートの「Super Strut」に通じるシェイクでプレイされる。コード進行に引き寄せられる様にハモンドオルガンのオブリガートやソロが、アル・クーパーの「Jolie」(『Naked Songs』収録・1973年)からの引用で思わず唸ってしまった。ここでのいえもとのヴォーカルはユーミン風のフラット気味でクールに迫っており、曲毎にそのスタイルを変えられるのはヴォーカリストとしての器の大きさだろう。
 角谷作の「さよなら麦わら帽子」はヤマカミのアルト・サックスをフューチャーしたジャズ・ピープルが好みそうな曲調であり、ジョー・ザヴィヌル風のシンセ・ソロは関西を中心に活動する宮脇翔平によるものだ。なるほどサビはウェザー・リポートの「Black Market」(1975年)風のスケール感覚で納得させられる。後半のコーラス・アレンジも効果的で曲構成もよく考え抜かれている。
 一転してクールダウンしてくれるのは桶田作の「マーガレット」で、短編の純愛ストーリーを音数少ないアレンジで聴かせる。「海を見ていた午後」(『MISSLIM』収録)にも通じる、ソーダ水の泡の様に儚く消えていく世界観に涙する。千ヶ崎と越智によるリズム隊の手堅いプレイが曲を演出しているのはさすがだ。
 タイトルからスタンリー・キューブリックへのオマージュとおぼしき角谷作の「現金に体を張れ」は、歌詞の内容とは裏腹にシュガー・ベイブの「SUGAR」(『SONGS』収録)を思わせるラテンのリズムで軽快に展開する。シーナがプレイするフェンダー・ローズのリズム・キープがこの曲の肝になっていて、角谷自身によるギター・ソロも完全にラテン・フュージョンの風で、後半の泣きのフレーズはサンタナ~高中正義を彷彿してしまった。ここでのいえもとのヴォーカル・スタイルは「CHINESE SOUP」(『COBALT HOUR』収録・1975年)におけるユーミンのそれで、終始表情の変化の面白さを感じさせる。
 ヤマカミのフルートをフューチャーしたブラジリアン・フュージョン・テイストの角谷作の「海辺のふたり」は、近年のLampサウンドにも通じるが歌詞の世界観はからっと乾いているのがウワノソラ的といえる。ここでもシーナのフェンダー・ローズと角谷のギターが活躍している。




 ラストとなる角谷作の「恋するドレス」は、千ヶ崎と越智の最良のプレイが発揮されたリズム・セクションと、フィラデルフィア・ソウル風のホーン&ストリングスのアレンジで完成度が高い。コーダのアルト・ソロはヤマカミによるプレイでかなりフリーにブロウしている。
 曲の所々に山下達郎の「永遠のFULL MOON」(『MOONGLOW』収録・1979年)やユーミンの「Destiny」(『悲しいほどお天気』収録・1975年)のテイストを感じるが、無理なく自分たちのスタイルとして消化しているのは素晴らしいことだ。

 若き新人バンドのファースト・アルバムとしては極めてクオリティが高く、次回作への期待がハードルを高くしないかと心配するほど聴き応えがあり、個人的にも今年2014年のベスト・アルバムに入るであろうと確信している。
 最後に筆者のレビューを読んで、少なからず興味を持った読者は入手して聴いて欲しいと思うばかり。いや聴くべきアルバムであると保証するので必ず入手すべきだね。

(テキスト:ウチタカヒデ