2013年8月16日金曜日

Frankie Valli:『Frankie Valli Solo』(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-27825)


 9月の初来日公演に合わせたかの如く、フォー・シージンズのリード・シンガーとして有名なフランキー・ヴァリのソロ・アルバムが今月続々とデジタル・リマスターでリイシューされた。
 驚くことにどのアルバムも国内でのCDリイシューは初というから、権利関係の問題があるにせよ日本での過小評価振りには嘆かわしいばかりだ。ともあれワーナーミュージック・ジャパンの【MASTERS OF POP BEST COLLECTION 1000】シリーズからは、記念すべきファースト・ソロアルバム『Frankie Valli Solo』(67年)がリイシューされたので紹介しよう。

 フォー・シージンズについては弊誌VANDA監修の『Soft Rock A to Z』の諸シリーズで紹介されてきたので詳しくはそちらを一読頂きたいが、西海岸のビーチ・ボーイズに東海岸のフォー・シージンズといった具合に60年代のアメリカン・ポップスを二分した最重要グループであることはご存じの通りである。
 65年リード・シンガーのフランキー・ヴァリは、同僚のボブ・ゴーディオと5人目のメンバーと言えるソグライター兼プロデューサーのボブ・クリューのアイディアでグループと平行してソロ活動を開始させ、ファースト・シングル「The Sun Ain't Gonna Shine (Anymore)」を同年8月にリリースする。この曲は翌年3月にウォーカー・ブラザーズがカバーしてヒットさせた。
 67年5月には5作目のシングル「Can't Take My Eyes Off You」が全米2位の大ヒットとなり、ヴァリのソロ活動を成功へと導いた。クリューとゴーディオによるこの曲はその後多くのシングル・カバー・ヴァージョンを生み、各時代でヒットさせた希有な曲でもある。
 68年のアンディ・ウィリアムスをはじめ、82年のボーイズ・タウン・ギャング、98年のローリン・ヒル(The Fugeesからソロに転向直後)が一般的に知られるが、アルバム収録カバーとしては英国シンガーのエンゲルベルト・フンパーディンクからブラジルの国民的歌手だったエリス・レジーナ等々国境を越えて未曾有に取り上げられているので、20世紀のポピュラー・ソング・ベストの上位に入るのではないだろうか。

 また筆者が欠かさずチェックしているBS-TBSの音楽番組『SONG TO SOUL』で昨年この曲が取り上げられた際、作者の一人でアレンジも手掛けた(アーティー・シュロックと共同)ボブ・ゴーディオはホーンのヴォイシングや構築方法に、スタン・ケントン楽団で活躍したアレンジャーのピート・ルゴロ(ジューン・クリスティやフォー・フレッシュメン等を手掛けていた)の影響を受けていると語っており、単なるポップスではない奥深いサウンドを目指していたことを物語っていて嬉しくなったものだ。

 アルバムの方に話を戻そう、収録曲は上記の代表的な2曲の他、「(You're Gonna) Hurt Yourself」、「You're Ready Now」、「The Proud One」とカップリングの「Ivy」の2~4作目と、「Can't Take My Eyes Off You」のカップリング曲「The Trouble With Me‎」のシングル曲、ロジャース=ハート作のスタンダード・ナンバーの「My Funny Valentine」、映画『Calamity Jane』(53年)挿入歌でドリス・デイが歌った「Secret Love」等、当時ティーンエイジャー向けポップスを多く取り上げていたフォー・シージンズとは異なる、ヴォーカル・オリエンテッドな方向を目指したと思われる。
 これも収録曲10曲中7曲を手掛けたクリューとゴーディオが意図したもので、本作のアレンジを分け合っているチーム・フォー・シージンズと言えるチャーリー・カレロをはじめ、アーティー・シュロックやハーブ・バーンスタイン等の仕事にも現れているのだ。
 クリューの独創的なアレンジが光る「My Funny Valentine」は意表を突くマリアッチなホーンの展開が面白い。「Ivy」はフォー・シージンズの「Working My Way Back To You」や「Let's Hang On!」、クリューと共に「Opus 17 (Don't You Worry 'Bout Me)」を手掛けているサンディ・リンツァーとデニー・ランドルの作品で、その「Opus 17」のアレンジャーであるハーブ・バーンスタインのスコアがいたく美しい。
 フォー・シージンズのセッションの常連であるバディ・サルツマンの巧みなドラミングがアルバムの随所で聴けるのも本作の魅力である。

(テキスト:ウチタカヒデ


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2013年8月11日日曜日

KGM:『リトルファーブル』(Music Life Lab/Happiness Records/HRBD-018)



仙台在住のシンガーソングライターKGMがサード・アルバム『リトルファーブル』を8月7日にリリースした。
セカンド・アルバム『CARAMELISE』(09年)のリリースから約4年を経て完成させたこのアルバムには、息子の誕生や東日本大震災等様々なエピソードをモチーフにした楽曲が収録されており、聴く人の心をつかんで離さないサムシングがあるので紹介したい。

KGMは08年にファースト・アルバム『Life Music』でデビューし、翌09年には自らレーベルLife Music Lab.を設立し、現在もロングセラーを続けているセカンド・アルバム『CARAMELISE(カラメリゼ)』をリリースしている。
仙台在住ながら全国のカフェやバー、野外フェス等様々なイベントに出演するなどアクティヴにライヴ活動をしているのも彼の魅力なのだ。

ではこの収録曲を紹介していこう。
冒頭の「ドーナツ」はリズム・セクションと弦楽六重奏をバックに素朴に歌い込まれた、生まれてきた息子に捧げるナンバーである。弦が入ることによって70年代前半のキャロル・キングやジェームス・テイラーの匂いもする。続く「リトルファーブル」はサウンド的にはウォルター・ベッカーがプロデュースした『Flying Cowboys』(89年)の頃のリッキー・リー・ジョーンズを彷彿させ、Pedal Steelがアクセントになったリラックスした雰囲気がいい。コーラスにはKGMとの共同プロデュースでデビューした女性シンガー・ソングライターの千尋が参加している様だ。



吉田拓郎の「結婚しようよ」にインスパイアされたという「TEN」は、軽快なカントリー・ウエスタン調のアレンジが楽しいが、元々レゲエ・シーンで活動していた彼がここまで自らのスタイルを転換させたのは凄い。
前作にも収められていた「遥かなる(Back in the Days)」のリアレンジ・ヴァージョンは歌唱、演奏共に完成度が高く、長く聴き続かれるクラシックになりうる楽曲である。筆者的にもこのアルバムのベスト・トラックとして挙げたい。
「あれから」と「HOPE STREET」は、共に東日本大震災後の人生観について吐露している曲であり、ホームタウンが震災に遭ってしまったという重いテーマではあるが、直向きに生きていこうとする人生賛歌でもある。後者ではシーナアキコのハモンド・オルガンと松崎和訓のアルトサックス・ソロのプレイが出色である。
アルバムを通して感じたのは、やはり彼のヴォーカルの存在感が際立っていることだ。小坂忠を彷彿させるそのブルージーな声質は、ブルーアイドソウル系のサウンドにマッチするはずなので、是非『ほうろう』(75年)の様な傑作を作り上げて欲しい。
(ウチタカヒデ)




2013年8月4日日曜日

中塚武 with イガバンBB:『Big Band Back Beat』(Delicatessen Recordings/P.S.C./UVCA-3018)


 今年2月に3年振りのソロ・アルバム『Lyrics』をリリースしたばかりの中塚武が、ビックバンド、イガバンBBとタッグを組んだ『Big Band Back Beat』を7月24日にリリースした。
 ソロ活動を開始して10年目となる今年は彼にとってアニバーサル・イヤーであり、本アルバムに掛ける意気込みは計り知れないものがある。
全編その審美眼によって選び抜かれたカヴァー曲の数々は、ポップス・ファンやVANDA読者を大いに唸らせるものなので紹介したい。

 中塚武は98年にQYPTHONEのリーダーとして、ドイツのコンピレーション・アルバムに楽曲提供をして音楽活動をデビューさせた。ジャンルを超えたそのサウンドは国内外で評価を得て海外ツアーも成功させた。
04年にソロ・アルバム『JOY』をリリースしシンガー・ソングライターとして活動を開始、平行してCM音楽、テレビドラマや映画のサウンド・トラックの制作等のクリエイターとしても活躍しており、メディアを通して彼の曲を耳にしない日はないかも知れない。これまでに5枚のオリジナル・ソロアルバムをリリースしている。
 そして本作『Big Band Back Beat』である、多岐に渡るカヴァー曲を中塚サウンドというべきサウンドで構築しているのだが、コ・プロデューサーとしてリズム・プログラミングからギター・プレイまで担当しているQYPTHONEの盟友である石垣健太郎と、ホーン・アレンジで中塚とコラボレートしているイガバンBBのリーダー兼トロンボーン奏者、五十嵐誠の二人の貢献度は極めて大きい。そのイガバンBBは総勢13人のホーン奏者からなるビッグ・バンドで、各メンバーのプレイヤーとしての技量も高く、本作でも全ての曲でその巧みなソロが聴けるのだ。

 では主な収録曲を紹介していこう。64年マンチェスターで結成されたモッズ・ジャズ・バンド、ザ・ペドラーズの「Just A Pretty Song」(『Three in a Cell』(68年)収録)。オルガン・ボッサを基調としたグルーヴィーな原曲のリズム感覚をラテン・ビッグ・バンド・アレンジにアダブトさせて、重厚なサウンドに発展させている。歌物としてもナンシー・エイムスの『Latin Pulse』(66年)に通じる素晴らしさだ。



 渋谷系の文脈からデビューしたというイメージがある彼なのだが、実は熱烈な桑田佳祐及びサザンオールスターズの熱烈なファンということで、ここではKUWATA BANDの 「スキップ・ビート」(86年)を取り上げている。スティーヴィーの「Superstition」(72年)風の原曲のリフを活かしつつ、ホーンの生演奏がスインギーに展開していく。五十嵐誠のトロンボーン・ソロも必聴である。
 アルバム中最も原曲のイメージをいい意味で裏切っていて換骨奪胎なアレンジを施しているのが、ビートルズ「Across The Universe」(『Let It Be』(70年)収録)だろう。共に石垣によるアコースティック・ギターのボッサの刻みとジャミング・ファンク系の変拍子のドラム・プログラミングに、5管のホーンが絡むといったもの。このサウンドの雰囲気に合わせた中塚のヴォーカルの存在感も聴き逃せない。
 またトッド・ラングレンの隠れた名曲「Be Nice To Me」(『Runt. The Ballad of Todd Rundgren』(71年)収録)を取り上げているのも、彼ならではの審美眼による選曲ではないだろうか。ここではまるでクインシー・ジョーンズが手掛けたルイ・ジョーダンのバラード曲かと思わせる程素晴らしいムードがある。筆者的には本アルバムのベスト・トラックに挙げたい。
 そしてソフトロック・ファンやVANDA読者が喜びそうなのが、NOVOの「白い森」(73年)のカヴァーだろう。同曲が持つブラジリアン・バイヨンのグルーヴから、ここでのアレンジは一転してスイング・ジャズをベースにした多幸感溢れるビッグ・バンド・サウンドで、アルバムを締めくくるに相応しいトラックとなっている。
 他にもワイルド・チェリー「Play That Funky Music」(『Wild Cherry』(76年)収録)やギル・スコット・ヘロン「It's Your World」(『It's Your World』(76年)収録)、アンリ・サルヴァドール「Carnaby Street」(67年)等音楽通を唸らせる選曲で聴き所は多い。
(ウチタカヒデ)