2010年4月13日火曜日

Minuano:『ある春の恋人』(witz/Polystar UVCA-2002) 尾方伯郎インタビュー



ファースト・アルバム『Love Logic』から1年、パーカッショニスト尾方伯郎のソロ・ユニットMinuano(ミヌアノ)が早くもセカンド・アルバム『ある春の恋人』をリリースする。
70年代のブラジリアン・ミュージックやフュージョンのエッセンスをちりばめ、ヴォーカリスト榊原香保里(Lamp)の魅力をフューチャーしたソフトロックやシティポップのフィールを持った楽曲群は、拘り派のWebVANDA読者に特にお勧めといえる。
ここではMinuanoを主宰する尾方氏へのインタビューをお送りしたい。

ウチ(以下U):まずMinuano結成の経緯からお聞かせ下さい。

尾方(以下O):Lampがファースト・アルバムを制作していた頃、同じスタジオで私もソロ名義作品を作っていたのがキッカケで初めて顔を合わせ、Lampの制作やライブを手伝ったり、私のCDで(榊原)香保里さんにスキャットをお願いしたりするようになりました。そんな中、日本語歌詞を付けた曲を実験的に制作して彼女の歌を録音させてもらったところ、その出来映えに大きな手応えを感じ、本格的なポップスをやりたいと思ったのがMinuano誕生の経緯です。
この楽曲は、再録音されたテイクが「陽だまりの午後に」というタイトルでMinuanoのファースト、『Love Logic』に収録されています。これがMinuano名義の最初の曲になった訳です。


U:ではその榊原さんの歌声の魅力やのサウンドに影響されているポイントとは?
今作でも「夜明けの冬」などは『ランプ幻想』(08年)の世界に近いものがあります。

O:以前は、歌詞のある音楽よりもインストの方が音楽的自由度が高いと思い込んでいましたが、Lampの音楽を聴き、これだけ凝った内容を変幻自在に盛り込んでもポップスとして成立し得るのだという事実には強く触発されました。
また、香保里さんは声が素晴らしいというだけでなく高い実力も備わっているので、その事も彼女の歌で作品を作りたいという強い動機になっています。
ちなみに、『ある春の恋人』制作時に『ランプ幻想』の作風を特に念頭に置くという事はなかったので、「夜明けの冬」に『ランプ幻想』同様の感触が感じられるとしたら、MinuanoとLamp双方の影響源に似通った部分があるという事が関係しているのかも知れませんね。

U:今作を制作する上で、ファースト・アルバム『Love Logic』(09年)で培ったポイントと注意したポイントとは?またソングライティングやアレンジについて、尾方さんがもっとも心掛けているポイントとは?

O:ファースト・アルバムを制作する中で、香保里さんと私でコーラスパートをどう分担したら良いかがある程度つかめたので、今回は『Love Logic』の時よりも二人の声を効果的に使い分ける事が出来たのではないかと思っています。
今作を制作するに当たっては、主に作曲面でファーストを更に発展させた物にしたいという気持ちはありましたし、前回の内容を単になぞって終わる事のない様、前作の美点を維持しつつ、また異なる側面を見せていく事を心掛けました。
作編曲に関して意識しているのは、たとえ複雑な内容(コード進行やメロディ、アレンジ等)を曲中に盛り込んだとしても、それが難しく聞こえない様な音楽を目指すという事でしょうか。

U:ヴォーカルの榊原さんと芝田那未さんが作詞を担当されていますが、お二人の世界観の違いはなんでしょうか?

O:香保里さんの詞には、少なからぬ「無常観」が漂っていると思います。もちろんそれは厭世的な物ではなく、逆説的に「生」を見つめた結果なのだと私は捉えています。
一方、芝田さんの詞には、仮にもどかしい状況を描いていても、そこに一条の光明が差し込んでいる様なひた向きさが感じられる。一見すると両者の視点は正反対に位置している様も見えますが、永続しない物事の「美」を共に伝えている点で表裏一体であり、そこにMinuanoの世界観が結晶しているのではないでしょうか。

U:Minuanoで尾方さんはパーカッション以外に、ドラムやキーボード類からエレキベースまで演奏されていますが、元々マルチプレイヤー指向があったのでしょうか?

O:マルチ奏者を自称するほどには、各楽器を自由に弾きこなせていないのが実情ですが、「そういう指向」があるのかと問われれば「イエス」です。学生時には仲間内のバンドで下手なキーボードを弾いていましたが、当時からパーカッションに興味を持ち、正しい奏法も知らぬままコンガを叩いたりしていたところに、その萌芽が見出せそうです。その後、本格的に打楽器に転向し、鍵盤は余技になってしまいましたが。
世界の様々な奏者、特にアルゼンチンのミュージシャン、ペドロ・アスナールのマルチ奏者ぶりに驚かされた事も、無意識の内に大きなモチベーションになっているかもしれません。この方面は、これから磨きをかけて行きたいと思っています。

U:Lampのサポートメンバーも多く参加されている本作ですが、このアルバムに携わったミュージシャンの中で、特に「月下夜話」でトニーニョ・オルタを思わせるアコースティック・ギターを弾いている清野拓巳さんはどういった方ですか?

O:清野さんは、バークリー音楽大学を卒業後、主に関西のジャズシーンを基盤に各方面で幅広く活躍されているジャズギタリストです。過去には単発のセッションライブなどで共演もさせてもらっていましたが、レコーディングをお願いしたのは今回が初めてです。参加してもらえてとても嬉しく思っています。正統的なジャズから音響系の即興音楽まで、多岐に渡るスタイルで演奏活動されている方なので、今回のMinuanoのアルバムで聴ける清野さんの演奏は、その全貌のほんの一部でしかありません。
清野拓巳 official myspace

U:最後に今作『ある春の恋人』で最も聴いて欲しいポイントをお願いします。

O:まずは、香保里さんの歌をじっくりと聴いて欲しいです。彼女の様な声質のヴォーカリストは、往々にして雰囲気モノと受け取られがちかと思いますが、香保里さんのリズム解釈の的確さやフレーズ処理の上手さには、いつも感服されられています。また、作曲面ではミナス音楽というジャンルを中心にブラジルのポップスに影響を受けているので、そこを意識しながら聴いて頂けると一層楽しめるかと思います。
更には、ギターの清野さんだけでなく、Lampのサポートドラマー佐々木俊之さん、書道家としての顔も持つギタリストSALONDORANJUさん、長いキャリアを持つ凄腕ベーシスト椎名達人さんのヴィヴィッドな演奏にも、是非耳を傾けてみて下さい。
Minuano official myspace
尾方伯郎 official blog



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