2009年4月12日日曜日

Who:『The Who Sell Out(Deluxe Edition)』(ユニヴァーサル/UICD94048/9)

 数あるフー(The Who)のアルバムの中でも個人的に最も思い入れがあるのがこの『Sell Out』。『Tommy』『Who's Next』は評価されても、このアルバムについては長い間、語られることもなかった。
私は『Sell Out』を初めて聴いたのはリイシューのLPだったが、一度聴いただけでそのクオリティの高いポップな曲の数々に打ちのめされ、曲間のジングルのセンスにも脱帽で、あまりに気に入ったので近所に住む友人と2人でアルバムのほぼ全曲のカバーを録音したほどだった。今から30年前のことだが、録音したカセットテープは残念ながら行方不明になってしまった。当時はそのカセットを二人で聴きながら、このアルバムのカバーなんてやる奴は他にいない、俺たちだけだね、なんて密かに幼稚な優越感に浸ったものだった。その後、1992年のVANDAのフー特集や1998年の『All That Mods』(シンコーミュージック)でフーについて書く時には必ず『Sell Out』を名盤とプッシュし、このアルバムを聴いてもらおうと努めていたが、最近になってようやく一般的にもこのアルバムが高い評価を受けるようになり喜んでいたところに、この「デラックス・エディション」でのリリースという朗報が舞い込んできた。先日、このサイトでも紹介した多くの別テイクを含むモノラルと、ステレオの両ヴァージョンを完璧に収録し、さらに未発表テイクも含む27曲(シークレットトラックを入れると29曲)ものボーナストラックが追加され、まさに決定版となった。では初登場の音源のみ、紹介しよう。まずディスク1では「Summertime Blues」だ。スタジオ録音は『Odds & Sods12』に収録されていたヴァージョンがあったが、これはまったくの別テイク。アップテンポでハンドクラップがなく、ソリッドなテイクだ。ジョンの低音のヴォーカルが2番でもちゃんと入っているなど、こちらの方がいい。『Sodding  About』は、ブートではお馴染みのインストで、ジョンのホーンをフィーチャーしたヘヴィなロックンロール・ナンバーである。『Premier Drums』は、アルバムでのつなぎのジングルだが、なんと完奏していて最後は拍手で終わる。『Real 1 & 2(Remake Version)』はアルバム・ヴァージョンと同じ67年に再録音されていたテイクで、音はいいし、アレンジは練られているし、演奏もいいと、いいことづくめ。「Undertureの前身である「Real 2」はティンパニーが入り、変な擬音もなく、そのまま『Tommy』で使えるクオリティがある。なぜ採用されなかったのは不思議でならないが、このデラックス・エディションのハイライトと言えよう。ディスク2の『Relax(Early Demo)』はまさにデモで、サビの部分がほとんどできていないので盛り上がらない。でも曲が作られる過程が見えて興味深い。「Glittering Girl(Unreleased Version)」は1995年版の『Sell Out』のヴァージョンとはまったく違う完成度の高いテイク。演奏に厚みがあり、歌もダブル・トラックと、よく練られている。Tattoo(Early Mono Mix)」「Our Love Was(Unused Mono Mix」と続く2曲だが、まず「Tattooは大きく印象が異なることがないテイク。一方「Our Love Was」はギターが少なく、ヴォーカルもシングルトラックで新鮮な感覚がある。もちろんモノなので間奏はハワイアン風のギターだが、和音にならないのでちょっと驚いた。「Rotosound Strings(With Final Note)」はアルバム内のジングルだが最後にベース音が入る。それだけ。「I Can See For MilesEarly Mono Mix)」は初めて聴くヴォーカルがシングル・トラックのテイク。ベースは小さくてよく聴こえないし、オーバーダビングのギターも聴こえない。これは「The Smothers Brothers Comedy Hour」やBBCライブのベーシック・トラックで、これにオーバーダブして演奏していたのでは?それだとBBCライブでなぜ異常にベースが大きかったのか納得がいく。最後は「Real(Early Mono Mix)」だ。ここではアルバム・ヴァージョンでの頭の方で、歌が不自然につなっがっている部分があったが、それがなく自然に歌が推移している。ライナーではオリジナル・マスターが毀損していたためにこう編集されたとあるが、原型が分かってよかった。このテイクでは、「Underture」部分の「パーン」という擬音は既に入っていた。なおディスク2ではシークレット・トラックとして「Armenia City In The Sky」の頭の逆回転のギターのみ、延々入っていた。これも初登場。日本盤の曲の解説はこの手のブリティッシュ・ビートものの音源比較では他の追従を許さない犬伏功氏であり、これは嬉しい限り。さらに日本盤はディスク1をUK盤の紙ジャケに入れ当時、封入されていたポスターのミニチュアを同封、ディスク1は既に復刻された日本盤の帯び付紙ジャケに入れてあった。さらにジャケットが違うドイツ盤、オランダ盤の紙ジャケも入っていて至れり尽くせり。これは絶対、日本盤CDを買わないと後悔する。(佐野)
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