2013年9月18日水曜日

杉瀬陽子:『遠雷』(Happiness Records/HRCD-050)

 

大阪在住の女性シンガー・ソングライター杉瀬陽子が2年振りとなるフル・アルバムを9月20日リリースする。 キャリア2作目となる本作では、レコーディング・メンバーにHICKSVILLEのギタリスト中森泰弘や細野晴臣のバックバンドに参加するベーシスト伊賀航など手練のミュージシャン達を迎え、そのリラックスしたサウンドが70年代のシンガー・ソングライター・サウンドを彷彿させる好盤となったので紹介したい。 杉瀬陽子は奈良県の出身で現在は大阪府在住、音楽活動も関西を中心にピアノの弾き語りやバンド・スタイルでライヴを展開している。2010年には広沢タダシの『雷鳴』、12年には奇妙礼太郎トラベルスイング楽団の『桜富士山』の各々のアルバム・レコーディングにゲスト・ヴォーカルとして参加し、bonobosのドラマー辻凡人のソロ・プロジェクトであるShleepsにもゲスト・メンバーとして渚音楽祭を始めとする多くのライヴ・イベントにも出演するなどその活動の幅を広げている。 11年6月には待望のファースト・フルアルバム『音画』を全国リリースし、その世界観に魅了されたファンを増やし続けて現在に至る。 そして本作『遠雷』であるが、前作に比べ格段に熟成させたバンド・サウンドにより彼女の魅力を大きく引き出している。やはり中森や伊賀を起用した狙いは的確だったと言えよう。また流線形や最近ではMISOLAに参加する名ドラマー、北山ゆう子の参加も見逃せない。この三人の演奏と杉瀬の相性は初合わせとは思えないほど抜群である。 アルバムは中森の円熟したスライド・ギターと伊賀の重く安定したウッドベースの対比が素晴らしい「N.Y」から幕を開ける。抜けるような青空と広大な大地が目に浮かぶサウンドだ。 続く「夜行列車にて」は軽快なアコースティック・スイング・スタイルの曲で、ノスタルジックな詩世界を無垢な歌声で描く。中森のマンドリンや北山のドラムのブラシさばきは唯々さすがである。 シンプルにアコースティック・ギターとバンドネオンのバッキングだけの「ゆうげ うたげ」は、奇妙礼太郎がゲスト・ヴォーカルで参加して素朴な雰囲気をさらに高めている。

   

レゲエのリズムで演奏される「クジャク」のサウンドもセンスが際立っており、ひたすらグルーヴしていくリズム・セクションとホーン(2管か?)の効果的なアレンジに呼応するかの様に、杉瀬のヴォーカルも徐々に熱を帯びて最高のヴォーカル・パフォーマンスを聴かせてくれる。 そしてこのアルバムのハイライトと言えるのがタイトル曲「遠雷」だろう。筆者は一聴して、その放たれるエヴァー・グリーン感にやられてしまい、もう昔から耳にしているかと錯覚してしまったほどだ。荒井由実の『ひこうき雲』や吉田美奈子の『扉の冬』を愛聴するポップス・ファンであれば絶対に聴くべき曲である。中森のレイジーなギターのフレージングなんて、まるで荒井の「卒業写真」での鈴木茂のプレイを彷彿させて鳥肌が
立ってしまった。

   

印象的なジャケットにも触れておこう、一枚の絵の中でアンリ・ルソーと横尾忠則が出会ったような深くインパクトのあるイラストレーションは、京都造形芸術大学出身のアーティスト西祐佳里が手掛けたものである。
(ウチタカヒデ)

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