2009年11月11日水曜日

フラッシュバックあの人:『摩天楼と、蜃気楼』(Coa records/COAR-0055)

 

以前紹介したfrenesiの『キュプラ』を手掛けたプロデューサーの山口洋輔と、Terry&Francisco(テリー・アンド・フランシスコ)のメンバーとして活動中のヴォーカリストの福山輝彦によるポップス・ユニット"フラッシュバックあの人"が、ファーストアルバム『摩天楼と、蜃気楼』をリリースした。 21世紀型のシティポップとしての可能性はもとより、新人離れしたソングライティング・センスは注目に値するクオリティなので、拘り派のポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。 

彼らは共にソングライティング(歌詞は福山のみ)を担当し、アレンジ及び各種楽器の演奏とプログラミングを山口、ヴォーカルとコーラスのパートを福山が各々受け持ち、合理的役割分担によって、このユニットを構成している。 サウンド的には(例:「恋する惑星」)、プログラミングされたドラムトラックのスネアとキックは、意図的にアタック感を殺し、ハイハットのデイケイもカットするという、まるでヒップホップのそれを思わせ、リミッターを極端に効かせたアコギの刻み(マイキングもかなり接近している)の方が高域ではハイハットより抜けている。また硬質なスラップのアクセントが入る饒舌なベースや、独特なうねりのグルーヴを生んでいるウーリッツアーの刻みなど、細部に渡るビザールな音作りには感心するばかり。
一方、福山のヴォーカルは正統派といったらいいだろうか、バラード系の曲で聴かせるファルセットや独特のこぶしは山下達郎を彷彿させ、シンガーソングライター系にありがちな、所謂"アジ"で逃げるというような、プロ意識の低さを微塵も感じさない安定感を誇っている。つまりその歌唱力は説得力を生み、サウンドの完成度を更に高めている。 

収録曲10曲中2曲は、四つ打ちのキックと八分刻みのベースライン(「「Witch Tai To」~「風の回廊」的)のコンビネーションが面白い、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」(『SONGS』(75年)収録)と、ニュージャックスイング風のリズムトラックで仕上げた、小沢健二の「さよならなんて云えないよ」(95年)のカバー曲であり、原曲を換骨奪胎なアレンジで解釈した感覚には脱帽してしまう。 とはいえ、話題先行的な以上のカバー曲より、個人的にはオリジナル曲のクオリティの高さに興味がいってしまう。アルゾ&ユーディーンの現代的解釈といった「恋する惑星」、タイトなヤングソウルの「夜街チェイス」。「Shooting star」から「シルクロードロマンス」の流れのメロウネスもたまらなく好きだ。「Shooting star」はライトリスナーにも長く聴ける普遍性を持っているし、このユニットの処女作(とは思えない)らしい「シルクロードロマンス」の完成度の高さは、アルバム随一じゃないか。まるでドン・ブラックマンやエリック・タッグが、東横線沿線の団地の一室で、ユーラシア大陸横断を舞台に不毛の恋愛を綴った、宅録ライトメロウ・ソウルの傑作だ。本当に掛け値無しに素晴らしい。



アルバム全体的なイメージとして例えるなら、最近紹介した、流線形と比屋定篤子の『ナチュラル・ウーマン』が、音楽通のミドルクラスが、陽の当たるリビングのスピーカーで聴くシティポップなら、今回の『摩天楼と、蜃気楼』は、拘り派の理系ピープルが、書斎の高性能PCで音源を取り込み、プリアンプを通してヘッドホン(MDR-CD900)で聴いている様なシティポップだろう。 とにかく、いい曲を探しているポップス・ファンを虜にするのは間違いない。
(ウチタカヒデ)


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