2000年12月13日水曜日

DVD/CD『劇場版エースをねらえ!』(バンダイビジュアル/BCBA0657)

映像作品は音楽物以外、紹介しないようにしてきたが、この DVD は作品のBGM 集が CD として付けられた画期的なディスクだったので、紹介することにした。「劇場版エースをねらえ!」は以前 VANDA 本誌でも特集した日本アニメーション史上に輝く金字塔だ。宮崎駿、高畑勲監督と並ぶ名監督、出崎統の作品の中でも最も充実した傑作中の傑作である。TV シリーズとはまったく別の劇場版を作る際、出崎はこの長編を削ぎ落とすだけ削ぎ落とした。私が苦手だった部員のイジメはすべてカットされ、岡の成長と共にサラっと描かれる淡い慕情が、この作品を青春賛歌に変えた。青春賛歌と書くといかにもクサそうに見えるだろうがそうではない。誰の心の中にも、そうこの今でも、心の中に大切に抱かれている、人間の根源への賛歌だ。そしてスピーディーな演出、作品の最大のクライマックスである岡が緑川の弾丸サーブからエースを取り、その力を驚きを持って認めた竜崎が「ひろみ、勝ちに行くわよ」とフォーメーションを指示したその時だ。取材のヘリコプターの爆音がオーバーラップして、画面は試合後の学校へ変わっている。普通の演出家なら、逆転で勝利する感動の場面を必死で描くだろうが、出崎は岡と竜崎の気持ちがつながったその時だけで、私達に勝利を確信させ、さらにカタルシスも果させていた。「ガンバの冒険」、「宝島」とシャープな演出で我々を夢中にさせてくれた出崎監督の真骨頂と言えよう。「エース」が嫌いな人にこそ見てもらいたい作品である。さてこの作品の音楽は馬飼野康二で、BGM も非常にいい。なんといっても基調が爽やかであり、プロの作曲家の実力を十分に見せてくれる。DVD で聴ける少年探偵団が歌う主題歌「まぶしい季節に」は、日本のソフトロックの傑作と言ってもいい1曲。フォーク調ながらダサくならないこの曲は作品を見た後だとさらに光るはず。
(佐野)

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