2017年1月8日日曜日

COUCH:『リトルダンサー』 (Happiness Records / HRBR-004)


 benzoの平泉光司を中心とするスリーピース・バンドのCOUCH(カウチ)が、前作『恋が焦がす温度』(11年)から約5年振りとなるフォース・アルバム『リトルダンサー』を1月18日にリリースする。
 メンバー3人の演奏のみでレコーディングされたそのサウンドは、究極のバンド・アンサンブルの賜物と言えるだろう。平泉の巧みなソングライティング・センスもあり、日本におけるブルーアイドソウル・アルバムとしては聴き継がれるべき作品である。
 1月25日にはアルバム収録曲から大貫妙子のカヴァーである「都会」と、アルバムのリード曲と思しき「街の草原」を7インチ・シングルでリリースするのでこちらも非常に楽しみである。 ここではこのアルバムの魅力を紹介したい。

 COUCHは、98年にメジャー・デビューしたbenzo(ベンゾ)が01年の活動休止後(13年にオリジナル・メンバー5名で再編している)、ヴォーカル兼ギタリストの平泉が02年に意気投合した、シアター・ブルックのベーシスト中條卓、ブルース・ラボやセッション・ドラマーとして活動している小島徹也と結成したスリーピース・バンドである。2003年にファースト・アルバム『今日風、』をリリース後これまでに3枚のアルバムをリリースしている。
 因みにバンド名のCOUCHは、「カウチ・ソファのように、掛け替えのないマイルストーンであり続けることをモットーとするところから命名」されたという。
 レコーディングはsaigenjiや流線形、昨今は千尋や杉瀬陽子、ウワノソラ等の諸作で知られるスタジオ・ハピネスでおこなわれ、エンジニアリングからミックス、マスタリングまでを平野栄二(初期Love Tambourinesのパーカッショニストで流線形もサポートしている)が一人で担当し、本作のサウンドを陰で支えている。

 

 では筆者が注目した主な収録曲を解説しよう。
 タイトル曲の「リトルダンサー」は、ミディアム・テンポのリズムとシンコペーションが心地よいメロウ・ナンバーで、イントロやヴァース・パートでベースとユニゾンするギターリフのパターンがラテン・フレイバーなのが効果的だが、例えばアラバマ・シェイクスの「Don't Wanna Fight」(『Sound & Color』収録・15年)等に通じて興味深い。
 続く「TODAY」は比較的ストレートだが骨太のファンキー・ロックで、タイトでバネのある中條と小島のリズム・セクションのプレイが光っている。こういうサウンドこそスリーピース・バンドの真骨頂と言えるね。
 そして筆者が本作のベスト・トラックとして推すのが3曲目の「街の草原」である。平泉のソングライティングとヴォーカル、バンド・サウンドが見事に調和されていて、もう何十年も前から聴いていたようなエバーグリーンさを感じてしまう。
 それはゼネラル・ジョンソンの「Only Time Will Tell」(73年)等良質なソウル・ミュージックから得られる多幸感に近いものだ。17年は始まったばかりだが、昨年12月初頭にラフミックス音源を一聴した時点で、早くも17年のベスト・ソング候補に入れてしまったほどである。

 他にも「リトルダンサー」と同系列のミディアム・ナンバー「シャボン玉」のイントロには、山下達郎の「SOLID SLIDER」(『SPACY』収録・77年)のホーンリフがギターによってさり気なく引用されていたり、ファンク・ナンバーの「OUTBACK」はアヴェレージ・ホワイト・バンド等のサウンドからの影響を感じるなど聴きどころは多い。
 アコースティック・ギターの刻みによるバラード「ちいさな星」にも触れておこう。平泉のソングライティングの巧みさは自身のヴォーカルの表現力から得られることを証明したハートウォームな名曲である。

 また本作には2曲のカヴァーが収録されており、既出で7インチ・シングルカットされる大貫妙子の「都会」と、青山陽一の代表曲である「最後はヌード」(98年)を取り上げている。
 「最後はヌード」はキーボードレス編成ゆえにエレクトリック・ギターの比重が大きく、潜在的に原曲が持っていたラテン・ロック色がより浮かび上がっており、カウベルを入れたのも正解と言える。この曲リフレインされるサビが非常にキャッチーで親しみやすいので、次に7インチでシングルカットしてもらいたい。
 シティポップ・クラシックの「都会」はボーナストラック扱いだが、08年のトリビュート・オムニバス盤『音のブーケ 大貫妙子カヴァー集』に収録されていたものを今回リマスタリングしたと思われる。
 大貫のセカンド・ソロアルバム『SUNSHOWER』(77年)収録された原曲は、全編のアレンジを担当した坂本龍一の当時のサウンドが色濃く、ドラムはスタッフのメンバーだったクリス・パーカーが起用されていた。曲調はスティーヴィー・ワンダーの「Golden Lady」(『Innervisions』収録・73年)や「Summer Soft」(『Songs In The Key Of Life』収録・76年)の影響下にあるが、本作では各種ギターをオーバーダビングにより配置し、隙間を活かした風通しのよいサウンドに仕上がっている。

 なおこの『リトルダンサー』のリリースを記念したワンマンライブが、1月9日に東京・gee-ge.にて開催され、会場で本アルバムの先行発売もあるので、興味を持った読者は彼らのオフィシャルサイトでチェックして欲しい。

COUCH OFFICIAL WEB SITE  

(テキスト:ウチタカヒデ

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