2013年11月29日金曜日

☆ザ・タイガース:『ザ・タイガース フォーエヴァーDVD BOX-ライヴ&モア』(ユニバーサル/UPBY6006/10)DVD

先日、ザ・タイガースのコレクティング・リストを沢田研二のソロと共に掲載したが、映像としてはこれ以上ない、究極のDVDボックスがリリースされた。
 本ボックスはDVD5枚で、ディスク4は1982年の同窓会コンサートなので、これは再結成ものとして除外する。(ディスク3の後半も同様。後述)購入した動機はディスク5の67年、68年の全盛期のテレビ映像が見られるから。ただこの一点に尽きる。ともかくファンにとっては夢のようなディスクで、この1枚で大枚をはたく価値は十分。ではディスクを順に紹介しよう。

その前に、個人的なタイガースと沢田研二の事について、当時の事を振り返って書いておきたい。自分は1957年生まれなので、テレビに登場したばかりのタイガースを見たのは10歳、小学校4年になる。以前にも書いたが、自分がこんなにロック&ポップスにはまったのは、その10歳の時に、父親が買ってきていたベンチャーズの「キャラバン」のシングルを自分でかけて聴いてからだ。ロックンロールのビートと、ノーキー・エドワーズの超絶エレキ・ギターのカッコ良さに瞬時に心を奪われてしまった。そして小学校4年の月のこずかい、400円(小学生時代は100円ずつ上がった)は、ベンチャーズのシングル盤1枚に消えていくわけだが、テレビを見るとそのエレキ・ギターを持った人達が歌っているではないか。GSの登場である。いつも歌番組があると見たい!とテレビの前に陣取ってGSの登場を待った。ただしその頃一番好きだったのはスパイダースで、タイガースではなかった。その当時からマイナーメロディーよりも弾む様なビートのある曲の方が好きだったからだ。しかし681月の「君だけに愛を」を聴いて、タイガースの魅力にとらわれた。ほぼ同時期にスパイダースは「あの時君は若かった」を出していて、期せずして両グループの最高傑作が出そろい、GSは黄金時代を迎えた。ただしそれも一瞬。翌69年にはGSのヒットは途絶え、70年代冒頭には相次いで解散していくことになる。自分も小学校5年の終わりにはビートルズに出会い、ビートルズのレコードばかり買うようになり、中学に入った1970年にはピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンのアルバムを買っているのだから、ロック・レボリューションのこの時代の変化は激しかった。70年代に入り日本の音楽でまだ聴いていたのはGAROCSN&Yの影響下で生まれた彼らは洗練されていてアコースティック・ギターとそのハーモニーに心を奪われる。しかし「学生街の喫茶店」の大ヒットで、彼らはオリジナルが書けるのに、プロライターの歌謡曲路線の曲を連発したため、興味を失ってしまう。筒美京平全盛期だったので南沙織を筆頭に女の子の曲はポップで心引かれるメロディがあって追いかけたが、基本的に男性ヴォーカルが好きな自分としては、女性歌手はつなぎでしかない。そこに救世主のように現れたのがソロになった沢田研二である。沢田研二のシングル・アルバムを買い、その中でもビートがあってキャッチーで最も出来が良かった「危険なふたり」には夢中になった。そしてこの曲は年末の歌謡大賞で、五木ひろし(演歌は旧世代の代表、敵だと思っていた)の「ふるさと」を蹴落として、大賞を取ったのである。これには狂喜した。思わず、自宅の家の前に手書きで「祝・沢田研二歌謡大賞」なんて貼り出してしまったほど。自分はその頃は嬉しさが頂点に達すると、貼り紙を出すことがあり、他に貼り出したのは「祝・貴ノ花優勝」である。(プロ野球は巨人ファンだったが1973年までV9で貼り出す必要もなく強かった。その後の日本一は8年後の1981年だが、その頃はそんなみっともない事をする年ではなくなっていた

沢田研二はこの1973年、続いて「胸いっぱいの悲しみ」「魅せられた夜」を出し、アルバムは最高傑作『Julie ある青春』をリリース、曲はいいし、そして男の自分が見ても惚れ惚れするほどカッコいい。パーフェクトだった。しかし音楽はうつろい易く、肝心な洋楽で好きだったプログレ系が揃って失速、イギリスから「ベイ・シティ・ローラーズがビートルズを超えた!」というニュースが入ってから、こんな連中が流行るようじゃもうロックもおしまいと早々に判断してしまって、しばらく音楽を聴くのをやめて、マンガに興味が移る。とまあ、個人的体験を書き連ねてしまったが、音楽へ戻ってきて、ザ・タイガースや沢田研二のこの当時の音源や映像が出ると必ず購入してしまう。懐かしさもあるが、今聴いても見ても確かにいいものはいいのだ。
 ではディスク1から。これは1970822日のライブで、アルバム『ザ・タイガース・サウンズ・イン・コロシアム』としてリリースされたが、そこからの抜粋である。加橋かつみが脱退して岸部シローが加入した時代のものだ。シローはほぼ演奏ができないが、岸部(修造)、森本、瞳の演奏力の3人の演奏力は飛躍的にアップしていて堂々たるロックンロールを聴かせてくれる。モノクロ映像で、CCRナンバーが多くチョイスされ、特に「I Put A Spell On You」は沢田のヴォーカルも狂おしいほどの熱唱で見事。GFRや洋楽の英語カバーが多いが、騒いでいる女の子達のどれほどがオリジナルまで知っているかなと思ってしまう。ザ・タイガース黄金のヒット曲集は加橋時代のものとして、子守唄をはさんで短くメドレーにした「オリジナルメドレー」のみ。あとはシロー時代の曲なので重い。ポップな肌触りの「素晴らしい旅行」のような曲もあるが、爽快感は得られない。沢田は白のタンクトップで、軽快な姿だが、終焉が近づいているグループのわびしさが伝わってくる。
 ディスク2は1971124日の武道館での解散コンサートからの抜粋で、アルバム『ザ・タイガース・ファイナル』としてリリースされたもの。カラーだが、そういう背景もあってディスク1よりさらにわびしさが漂う。ストーンズの「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」から始まるが、シローがちゃんと演奏していて、ちょっと驚かされた。そのあとメンバーがそれぞれソロを取るが「ドッグ・オブ・ザ・ベイ」「イエロー・リバー」「ヘンリー8世君」「ラレーニア」とまあ、何の脈絡もない選曲だ。屈託のなさそうな笑顔で「ヘンリー8世君」を歌っていた瞳が、この後の打ち上げのあとに、外に家財道具一式積んだトラックに待たせていた地元の友人たちと共に京都の実家へ去っていったとは、誰が思っただろう。その後、瞳は復学し、高校教師になり、中国語の大家として知られるほどの見事な転身を遂げるのだが、つい最近まで38年間、ザ・タイガースへの接触を完璧に絶っていたのだから、この時の思いやいかにという感を受ける。ファイナルということで、みな白いスーツに着替え、加橋時代の黄金のナンバーを次々フルサイズで披露するが、楽しく見ることはできない。
 ディスク3の前半は、加橋時代に作られた「レッツ・ゴー・タイガース 真夏の夜とタイガース」を収録。カラーだが、肝心な後楽園球場のコンサートがロングショットのみで、「マイ・ジェネレーション」「銀河のロマンス」「花の首飾り」のライブ音源が流れているが演奏シーンとは一切シンクロせず、切歯扼腕してしまう。ザ・フーのカバーとは大胆な選曲だったが、この頃の岸部のベースはジョン・エントウィッスルのレベルには達していなかった。後半は再集結ものなのでパス。ディスク4も「同窓会コンサート」なのでパス。
 そして肝心なディスク5だ。録画状態が悪くトラッキングが合わない映像が並ぶが、これこそ自分が探し求めていた映像ばかり。フジテレビの超貴重映像だ。67年に収録された「僕のマリー」が2つと「シー・サイド・バウンド」。若きジュリー(ここからは沢田ではなくジュリーの方がいい)の美しいこと!キムタクとか目じゃないわ。他のメンバーもまだ初々しく、爽やかで、タイガースが別格のルックスも持っていたことが分かる。「シー・サイド・バウンド」の振り付けを見て、同じ動きの映像は何度も見ているのに、このテレビ映像で一気に当時にタイム・スリップする。確かに見た。これを見ていた。ディジャヴなのか。その後、「モンキーズのテーマ」の名前を変えた「タイガースのテーマ」と「エブリバディ・ニーズ・サムバディ・トゥ・ラヴ」とレアなテレビ映像となるがこれは今見るとGS風の振り付けが古さを感じさせる。68年のテレビ映像の「モナリザの微笑み」も一気に当時にタイム・スリップ。子供を横に置いて歌う映像だが、自分の頭の中では階段のセットでこの曲を歌っていたことを思い出していた。ジュリーは階段の上りながら踊り場で歌っていたはずだ。自分の頭の中にかすかに残っている当時の記憶。コミカルな画面をつないでそのあとに歌無しの「シー・サイド・バウンド」をスタジアム内で収録したプロモ風フィルム。そして「スター千一夜」のタイトルバックが出て「シーシーシー」。メンバーがみんな黒ずくめで、そう、ビートルズの「Help!」のオープニングのあのコスチュームだ。どこかの山で撮影という設定である。そして「光ある世界」「廃墟の鳩」と続き、ここでは楽器を持っていない。「光るある世界」でジュリーの横顔が長く映るが、眉目秀麗でギリシャ彫刻のよう。男が見ても惚れ惚れするなあ。また67年デビュー当時に戻って「日劇ウェスタンカーニバル」から「シー・サイド・バウンド」「エブリバディ・ニーズ・サムバディ・トゥ・ラヴ」「アイム・オーライト」からの3曲だ。後半の2曲はもちろんローリング・ストーンズの十八番で、彼らとしてもライブの定番。ジュリーの動きはミックを意識しているが、ここでも揃いのステップを入れてしまうところが残念なGSスタイル、そういうステップを一切入れないストーンズやビートルズ、フー、キンクスなどは今見てもカッコいいのだが当時はこれがカッコよく見えたんだろう。その後、いきなりカラーで完璧な映像が出てくる。唯一のTBSテレビの映像で68年の「歌のグランプリ」から「花の首飾り」だ。こんな素晴らしい映像ならジュリーのヴォーカルの曲も見たかったのが残念ながら1曲のみ。そして一気に時代は飛び、シロー時代の70年の「あの娘のレター」と「素晴らしい旅行」。それまでの熱狂的な感じはなく、テレビの歌番組の公開ライブなので、演奏に備え付けのバンド(ステージの下に待機している昔の歌番組の定番)からのホーン・セクションとかが被ってくるのでそこがちょっと残念。ここでテレビ映像は終わり、明治製菓が提供してくれたお馴染みの「明治チョコレート」のフルサイズから始まり、「チョコ・バー」(大好きだった!)のCMの様々なヴァージョンが見られる。当時見ていたはずなの記憶のないものばかりで貴重だ。その後は「スポニチ芸能ニュース」がずらっと続く。モノクロだが画質もいいし、演奏しているシーンもインポーズされる。ただこの手の芸能ニュースは演奏シーンに実際の歌が入ることがないので、言ってみればイメージ映像でしかなく、個人的にはこの手の映像には興味がない。それにしても前半のトラッキングずれまくりのテレビ映像は誰かの個人所有のものなんだろうがよく残しておいてくれたもの、感謝!ただひとつだけ残念なのはテレビで何回か見て録画もした「君だけに愛を」のカラー。蝶ネクタイで、女の子のダンサー達の間で歌うザ・タイガースの懐かし映像といえばこれ、という有名な映像がなぜ入らなかったのか。一番好きな曲なのでなおさらだ。なお、ザ・タイガースの3本の映画では完璧な画質で演奏シーンもたくさん楽しめる。このボックスを購入して万が一持っていない人がいたら、『東宝GSエイジコレクション-東宝GS映画BOX』(東宝)を迷わず購入しよう。3本の映画はもちろん、特典ディスクに演奏シーンだけを集めたものも付いている。価格もほぼ本ボックスと同じ。まあ、このボックスを購入するコアなファンで持っていない人などいないだろうけど老婆心まで。
(佐野邦彦)
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