2007年11月1日木曜日

☆Roger Nichols & The Small Circle Of Friends:『Full Circle』(ビクター/VICP64023)

何年に一度出会えるかどうかの奇跡のアルバム、そういうアルバムを紹介する時が音楽を紹介する仕事をしていて幸せを感じる時だ。そしてこのロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのほぼ40年ぶりのセカンド・アルバムが、その奇跡の1枚になった。
 ただ新録と聴いて、ほとんどの方が警戒するだろう。そう、今まで再結成ものでいいアルバムはひとつもなかった。ハーパース・ビザール、ゾンビーズしかり、このロジャー・ニコルズでさえ10年前の新録のソロアルバムは期待を大きく裏切っていた。メロディのクオリティが達していない、アレンジが今風、逆にただレトロなだけ、そしてヴォーカルの声質が変わってしまう、歌い方も違う、そんな要因で新録音ものには常にガッカリさせられてきた。
しかしこのアルバムだけは違う。60年代後半から70年代にかけて作られた、ロジャー・ニコルズの素晴らしい楽曲のセルフカバーから、ポール・ウィリアムスとのコンビで書き下ろされた新曲まであるが、そのメロディのクオリティは同じレベルで保たれている。さらに驚かされたのが、25年ぶりに出会ったというロジャーとマレイ&メリンダのマクレオド兄妹の3人によるソフトで暖かく、ジェントルな歌声だ。1曲目を聴いた瞬間、1968年のファースト・アルバムとまったく変わらない3人のユニゾンのハーモニーに一気に引き込まれてしまった。そして素直でシンプルで計算されつくしたそのアレンジ、「え?これって当時の未発表テイクが見つかったってこと?」と誰もが思うだろう。初めてスモール・サークル・オブ・フレンズのアルバムを聴いた時の心のときめきが、そのまま蘇ってきた。まさにこのアルバムは彼らのセカンド・アルバムなのだ。時空が連続している。さらに楽曲のクオリティはファースト・アルバムをずっと上回っている。まさに奇跡。眩暈がするほどの感動だ。このレビューは決して知り合いだから、ファンだからというおせいじまじりのものではない。このアルバムを聴いてみれば分かる。小西康陽さんの「21世紀に入って最初に好きになったアルバム。」というとてつもない賛辞が実感できるはず。このアルバムを好きにならない人とは私は永遠に音楽の話をしたくない、それほどのアルバムなのだ。
では全曲を紹介しよう。冒頭はシロー・モーニングのテイクで熱心なファンの方の間で人気が高い「Talk It Over In The Morning」だ。イントロのコード感、ユニゾンのコーラスで一撃で打ちのめされてしまう最高のオープニング。ロジャー本人の自信作であり、実にキャッチーな仕上がりだ。続いて名曲中の名曲「The Drifter」。当時のシングルはロジャーとセッション・シンガーで録音していたため、スモール・サークル・オブ・フレンズでのヴァージョンはこれが初めてになる。この曲を聴くと浮き浮きしてしまうような高揚感に包まれるが、この忠実なセルフ・カバーもとてもいい。ロジャー自信のテイクである。カーペンターズのテイクで知られる「Let Me Be The One」が素晴らしい。この曲は当時の録音と言えば誰もが信じるだろう。なぜ、同じ歌声が、なぜ同じ空気感のアレンジができたのだろう。何度聴いても新録とは信じられない。名曲中の名曲「Out In The Country」が続く。スリー・ドッグ・ナイトの歌声よりも、ジェントルで気品があるスモール・サークル・オブ・フレンズの歌声の方がもっと魅力的だ。ポール・ウィリアムスというより私にとってはヘブン・バウンドのヴァージョンが特別に好きな「I Kept On Loving You」もいい。アコースティックでシンプルで、ソフトでジェントルで、実に心地いい。こんなサウンドにずっと包まれていたい。「The Winner's Theme」はロス五輪のために作られたものの未使用で終わったインストだ。金管がリードを取るエキゾチックなナンバーで、ハープ・アルバートのために作った「Treasure Of San Miguel」を彷彿させる。当時に書いて譜面だけ残っていたという初披露の「You're Foolin' Nobody」には本当に驚かされた。メロディ、サウンド、これってパレードそのものだ。あのパレードのサウンドが40年後に再現されるなんて夢のよう。この感激はファンなら誰もが共有できるだろう。本当におすすめ。当時マリアン・ラブというシンガーのカバーがあったという、私にとっては初めて聴く「Watching You」が大好きだ。美しいバラードなんて山ほどあるが、このコード展開、このメロディ、ロジャー・ニコルズしか書けない、気品溢れる極上のナンバーだ。このアルバムの最高の収穫と言っていいだろう。ため息しか出てこない。そして前奏があり、ベースのリフから入る「Always You」の登場だ。アレンジ的にはサンダウナーズのカバーにとても近く、サンダウナーズのカバーが大好きな私としてはとても気に入っているテイクだ。当時のスモール・サークル・オブ・フレンズの楽曲リストにこの曲があり、我々ファンの間ではスモール・サークル・オブ・フレンズの「Always You」を聴くことが夢だった。これで夢が本当にかなった。次はこのアルバムの中ではちょっと意外なキャス・エリオットの「I'm Comin' To The Best Part Of My Life」だ。ママ・キャスの粘っこい歌声に比べ爽やかで、別の魅力を見せてくれた。そしてスティーブ・ローレンスの「I'm Gonna Find Her」。このアルバムを全面的にコーディネイトしたのは濱田高志さんだが、その濱田さんが数年前、このスティーブ・ローレンスのカバーを見つけた時に私の家へ電話をかけてきて、電話越しで聴かせてくれた時のことを今でも思い出す。私はあまりの素晴らしさに絶句してしまったのだが、ゲイリー芦屋さんも電話越しで聴いて「泣いた」と言っていた。まさに隠れた名曲なのだが、こんな曲を歌ってくれるなんて、感動以外ない。エンディングは新曲の「Look Around」だ。実に美しい、気品のあるバラードで、こういったバラードは往々にして朗々としてしまう事が多いのだが、ライトなスモール・サークル・オブ・フレンズの歌声だから曲の良さがさらに引き立った。全12曲、全ての曲が素晴らしく、こんなアルバムに出会えて本当に幸せだ。長くこのアルバムが世に出るよう、ロジャー・ニコルズと連絡を取り合い、プロデュースしてくれた濱田高志さんにも本当に感謝したい。(佐野)
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