2016年6月26日日曜日

☆Beach Boys:『Pet Sounds(50th Anniversary Super Deluxe Edition)』(ユニヴァーサル/UICY77778)

今から19年前、遅れに遅れてリリースされた『Pet Sounds Sessions(Box Set)』は、①ステレオ&モノ②別テイク&初期テイク集③バッキング完成前のセッション集④バッキング集⑤ア・カペラ集という構成で、もう至福の時間を与えてくれた。そして今回は50周年記念のSuper Deluxe Editionは、プラスの音源が少し入っていたので、それだけを紹介しよう。スタジオの初登場音源は3テイクのみ。まずは「I Know There’s An AnswerAlternate Mix)」。これは前身の「Hang On To Your Ego」の1st Verseの後のマイクの余計なブルルルルが入っていて歌詞は「I Know There’s An Answer」という代物だ。完成ヴァージョンではカットされた歌に巻き付くハーモニーがずっと聴こえる。もうひとつは9分以上と長い「I Know There’s An AnswerVocal Session)」。この曲はセッション集やバッキングトラックは前身の「Hang On To Your Ego」で登場しているので、最後に歌詞の改変があった歌の方だけ今回のボックスでの登場となった。そのため前半はダラダラした歌で、後半になって使用しなかったア・カペラの歌の練習になる。最後は「Good Vibrations(Master Track with Partical Vocal)」。これは無数にあるような「Good Vibrations」の中で演奏はほぼ完成していて、リード・ヴォーカルだけ歌詞が完成していない部分もあるので欠けた部分もあるし仮歌風で軽く歌ったものだ。演奏とバック・コーラスはラストを残してほぼ仕上がっているので少し新鮮ではある。感動するようなものではないけど。後は前述の2枚組のDeluxe Editionで登場したライブ集。まったく同じものが入っているのでそのままの文章をコピペしておく。
まずは一番古い19661022日ミシガン州立大学のライブの「Wouldn’t It Be Nice」「Sloop John B.」「God Only Knows」の3曲が嬉しい。というのもアルバムがリリースされた年のライブだからだ。このライブはあの1997年から2000年にかけてリリースされた伝説のBootlegシリーズ『Unsurpassed Masters』の番外編として、CD3枚組の『Live Box』の中で既にリリースされていたものだが、そのうちディスク1がこの日のFirst Show、ディスク2がSecond Showで、選曲が異なっていた。「Wouldn’t It Be Nice」「Sloop John B.」はFirst Showのみで披露され、「God Only Knows」はどちらでも登場したがFirst Showではイントロのオルガンでマイク・ラブがGod Only Knowsの曲名をつぶやいたが、Second Showでは何も言わなかったので、本CDはこれもFirst Showの音源と分かる。『Live Box』はちゃんとしたライン録音だが、本CD収録に際してはリミックスしており歌と演奏のバランスを改善したと同時に歓声などの部分も編集している。「Good Vibrations」もこの日の録音にあったがテルミンの音程が不安定でサウンドも薄く出来がイマイチなので、この曲と「God Only Knows」「Wouldn’t It Be Nice」は19671119日ワシントンDCDaughters Of The American Revolution Constitution Hallでのライブも収録した。1966年の前述のライブは、歴史的価値はあるが「God Only Knows」はオルガンのイントロなど演奏がシンプル過ぎてライブとしての出来はあまりよくない。「Wouldn’t It Be Nice」はそこまでは劣らないが、こちらの方が弾むようなリズムがあった。3回目の「God Only Knows」は19721123日ニューヨークのカーネギーホールのライブで、ホルン風のキーボードも入り、演奏とコーラスの厚みが格段に進化し、レコードに近くなっている。4回目登場の「God Only Knows」はさらに10年後の1982年のジャマイカのモンティゴ・ベイのライブで、カールの歌とコーラス、バッキングの演奏はさらなる厚みを増した。そして「Sloop John B.」も23年後の1989523日カリフォルニアのユニバーサルスタジオのライブも収録、こちらも歌・コーラス・演奏が比較にならないほどの進化を遂げていた。ラストの2曲は19931126日のニューヨークのパラマウント劇場のライブでの「Caroline No」と「You Still Believe In Me」のライブだが、この時期以降だとオリジナルとの再現レベルを追及してしまうので、ブライアン・バンドでのブライアン・ウィルソンの完璧なソロ・ライブとの比較をしてしまう。そのため面白味が下がってしまうが…。よってこの本Super Deluxe Editionがあれば2枚組のDeluxe Editionの全曲を包括してしまうので、そちらは必要ないことがはっきり分かった。
結局この50th Anniversary Super Deluxe EditionのメリットはDeluxe Editionにも入ったライブ+初登場3トラックだけなので、『Pet Sounds Sessions(Box Set)』を持っている人は、そもそも買うべきか、3トラックは諦めて安いDeluxe Editionで済ませてしまう手もある。もちろんコレクターの自分は1トラックが増えただけでも買うけど。逆に『Pet Sounds Sessions(Box Set)』に入っていた「Here TodayStereo Backing Track)」は450秒と長く、それは曲が終わった50秒後にシークレット・トラックとしておそらく「Here Today」録音時の会話短くが入り「I Just Wasn’t Made For These Times」のア・カペラが10数秒出て終わるが、このシークレット部分は50th Anniversary Super Deluxe Editionではカットされているので前のものを売っぱらったりしないように。なおBlu-ray Pure Audioは、本ボックス収録の重複音源で、音質がいいということだ。
最後に、前のボックス・セットも持っていない人のために、本ボックスの目玉である「別テイク&初期テイク集」の部分の過去の紹介分もコピペしておこう。
目玉となるのは「God Only Knows」で、ブライアンがリード・ヴォーカルを取るBrian Wilson Vocal、エンディングがア・カペラの違うアレンジになるWith A Cappella Tag、間奏がサックスのSax Soloと3ヴァージョンも楽しめる。「I’m Waiting For The Day」でマイクがリード・ヴォーカルを取るMike Lead Vocal、「Sloop John B,」は初期テイクのブライアンが歌うBrian Wilson Vocal、完成度が高くなった一番をカールが歌うCarl Sings First Verseなどが目を引くが、「Here Today」のAlternate Versionのようにブライアンの歌いまわしが少し違うテイクも面白い。「Wouldn't It Be Nice」のAlternate Version2テイクあり)では1番と2番の歌詞が逆になっていた。どの別テイクもヴォーカルが前面に出ていて迫力がある。ただし「Hang On To Your Ego」は『Good Vibrations Box』で初登場した1st Verseのあとマイクが「ブルルル」というテイクが収められた。確かにこちらのテイクの方がバック・コーラスもあるのでより完成ヴァージョンだが、『Pet Sounds』の1988年東芝EMI及び1990Capitolリリースのモノ盤収録の「Hang On To Your Ego」のコーラスが入っていないが、マイクの余計な「ブルルル」がないテイクは収録されなかった。ここまでやったのになぜ?という思いが残る。
このテイクはこの50th Anniversary Super Deluxe Editionにも収録されていない。(佐野邦彦)


 

2016年6月25日土曜日

The Bookmarcs:『追憶の君』 リリース・インタビュー



VANDA30号やWebVANDAの対談でもお馴染みのミュージシャンの近藤健太郎と、幅広いフィールドで活躍する作編曲家の洞澤徹によるユニット、The Bookmarcs(ブックマークス)が、6月29日に3曲入りシングル『追憶の君』を配信リリースする。
14年の『眩しくて』から2年、マイペースながら巧みな曲作りとアレンジ、スウィートなヴォーカルと歌詞の世界観。まさに大人のためのポップスを追求し続けている二人から届けられたサウンドにはいつも虜にさせられるのだ。
ここでは筆者と交流のあるメンバーの二人にこの新作について聞いてみた。 


●「11年のThe Bookmarcs結成から5年が経過した訳ですが、それぞれ職業作編曲家とバンドのヴォーカリストと並行しての活動を振り返ってみてどうでしたか?」 

洞澤(以下 H):「自分のなかではユニットでの音楽制作と、他の制作仕事で気分のモードの違いが昔(11年頃)ほどなくなって来ていると思います。
以前は気分を切り替えてやっていた気がしますが、なぜか今はそうとう追い込まれて締め切り間近でない限り、職業作家仕事とユニットとの制作のスタンスがそれほど変わりません。どちらも楽しみながら苦しみながら(笑)。 TheBookmarcsのリリースにあたっては、数多くの知り合いのプロの作曲家の耳にも届くことになるので仕事同様それなにの覚悟をもって取り組むことになります。」

 近藤(以下 K):「The Bookmarcs結成時、自身のバンドthe Sweet Onionsは活動休止状態でして、その頃はカフェバーで1人弾き語りライブをやってみたり、曲を作って個人的に楽しんだりしていました。 でもThe Bookmarcsの活動がよい刺激となったのか、2012年にthe Sweet Onionsとして3年ぶりの復活ライブ(Little Lounge*Little Twinkleとのツーマン)、そして昨年夏、今年の2月にもライブをする機会に恵まれました。The Bookmarcsも結成以来わりとコンスタントに作品を発表できたりと、振り返るとなかなか充実した活動が出来ていたんだなぁと思います。」


 ●「これまでの『Transparent EP』、『音の栞~Favorite Covers~』、『眩しくて』の3作品を経て、今回『追憶の君』のリリースとなりますが、結成当初と今作でのサウンドの変遷を作編曲担当の洞澤君からお聞かせ下さい。」 

H:「過去作品と今作の一番の違いは、できるだけ打ち込み感を排してドラムとベースも生に差し替えて、ある程度のばらつき感も含めて、いっそう演奏の息遣いを大事にした所だと思います。 イントロからエンディングまで仮に同じパターンが演奏されることになっても、感情のダイナミクスがそこにつくわけなので、打ち込みのキープとは違ってくる訳です。
もちろん打ち込みでもそこそこ凝ればダイナミクスや緻密なアーティキレーション(※音と音のつながりに様々な強弱や表情をつけることで旋律などを区分すること)は表現できますが、生には適わないしアクシデンタルな部分でも人力が良いなと今回は思いました。
そういえば制作時の後半は好んで小島麻由美さんの『面影』(03年)というアルバムを聴いていました。大好きなアルバムの一つで、演奏の息づかいが感じられて気持ちのどこかで雰囲気を寄せたいところがあったのかもしれません。」


●「同様に歌詞の世界観の変化については、作詞を担当している近藤君からお聞かせ下さい。」 

K:「基本的に世界観は変わってはいないと思うのですが、歌詞を作る上でより心がけるようになったこととしては、できるだけ綺麗な言葉を使うこと、風景が思い浮かぶような詩、また夢で見たような景色や希望がほんのりと膨らむような、そんな世界観を築ければなぁと思っています。」


   


 ●「レコーディングの期間とその中で新たな試みなどを含めて、面白いエピソードはありましたか?」 

H:「レコーディング期間はけっこう(曲を)寝かした期間が長かったので、いついつとは言えないのですが、ドラム、ベース、トロンボーンなど外部ミュージシャンに頼んで録音したのは3月 から5月です。
ドラムは基本的に僕が打ち込んだパターンを参考に、奏法などに少しリクエストを加えましたがフィルはすべてお任せでした。音作りはドラムの足立浩さんとスタジオハピネスの平野さんを全面的に信頼していましたので、特に何か言うことは無かったです。
本番録音中、間奏前の足立さんのドラムフィルや北村規夫さんのベースのアドリブ・フレーズなどに思わずグッとくる瞬間があるので、そこは外部ミュージシャンの方にお願いする醍醐味だと思いました。
また「真紅の魔法」ではイントロから和田充弘さんのトロンボーンが入り、その後もずっと歌と絡み合うように演奏され、この曲の大事な要素になっています。一応譜面は書いてイントロやワンコーラス目などは譜面通りに吹いてもらいましたが、後半はほとんどアドリブです。フレーズが美しくてレコーディング中、普通の一オーディエンスになってしまっていました。」 

K:「僕も生楽器の導入が大きな変化でした。ドラム、ベース、トロンボーンのレコーディングにそれぞれ立ち会わせていただきましたが、洞澤さんのアレンジに各プレーヤーの方々が瞬時に対応して、素晴らしい演奏を目の当たりにできたのは大きな喜びでした。 また、スタジオハピネスのエンジニアの平野さんの的確な音作りや、スムーズなレコーディングの進め方にも感銘を受けました。」


●「お二人それぞれで、今作中で個人的に好きな曲をピックアップして頂き、その理由をお聞かせ下さい。」

H:「「追憶の君」です。 歌や楽器、トータルアレンジ、質感などバランスがうまくいった 作品なのでとても気に入っています。
近藤君の落ち着いたトーンがとても曲にマッチしていて、メロディを考えついた当初からは、かなり曲が育った感じが一番します。アレンジで言えばベースとエレピのコンビネーションも巧くいっていると思います。」

K:「非常に悩むのですが、歌詞や歌い方の上で自分的新境地だなと思える「真紅の魔法」を挙げます。メロディがジャジーで、言葉をのせると最初の雰囲気とあまりにもガラっと表情が変わってしまうため、英語詞にしたほうがいいのかなとか、悩んだあげく投げ出しそうにもなりました(笑)。
でもなんとか完成していざ歌入れ。プレイバックを聴きながら洞澤さんが、「ばっちりイメージ通り!いやそれ以上だよ」と言ってくれたので、本当に嬉しかった思い出の曲です。大人っぽさを意識しつつ、気持ちよく歌えました。」 


●「では最後に今作のアピールをお願いします。」 

H:「何度聴いても飽きずに味わえる作品だと思っています。聴いてくれた方々の素敵な日 々の生活の演出の一部になれれば嬉しいです。」

K:「とても丁寧に作られた曲達なので、聴けば聴くほど味わいが出てくると思います。例えるなら、作り手の情熱や愛情を感じることのできる豊穣なワインのような作品を目指しました。 3曲それぞれの表情や世界観を何度もリピートして楽しんでいただければ嬉しいです。」


筆者からも収録曲の解説をしておこう、ジャズ風のギター・イントロを持つ「そばにいるよ」は、洞澤が得意とするスティーヴィ・ワンダーを彷彿させる穏やかなソウル・ポップスだろう。近藤による歌詞は大人の純愛というべき世界を描いている。
タイトル曲の 「追憶の君」 は、『Gorilla』(75年)や『In the Pocket』(76年)の頃のジェームス・テイラーに通じる、70年代中期の良質なシンガー・ソングライター風サウンドだ。薄くフェイザーを聴かせたエレキ・ギターやフェンダー・ローズ系のエレピの刻みなどサウンドも全体に完成度が高く、エヴァーグリーンな匂いがしてたまらない。
ラストの「真紅の魔法」は、The Bookmarcsとしては新境地の曲とアレンジになるだろう。 作曲した洞澤によると、The Style Councilの「The Paris Match」(『Café Bleu』収録・84年)に着想を得たらしいが、最終形は近藤の声質も相まってポール・マッカトニーのジャズ・スタンダード・カバー集『Kisses on the Bottom』(12年)みたいな味わい深さもある。
とにかくレイジーな近藤のヴォーカルに絡む和田充弘のトロンボーンのプレイは際立っている。

なお本作は6月29日から下記The BookmarcsのITunesサイトから配信リリースされるので、本インタビューを読んで興味を持ったポップス・ファンは是非購入して聴いてほしい。
ITunes 『追憶の君』 
https://itunes.apple.com/jp/artist/the-bookmarcs/id530100662

(ウチタカヒデ)

2016年6月24日金曜日

☆Beach Boys: 『The Beach Boys ’66 Live In JAPAN』(ROXVOX/2047

amazonやタワー、HMVでも平気で売られているビーチ・ボーイズのBootlegの数々はこの前に書いたように音質の悪い配信ものを後にCDにしただけの代物なので、無視するに限ると書いたが、この『The Beach Boys ’66 Live In JAPAN』だけは、Bootlegと言えども今から10数年前に登場した貴重な1966年の日本公演のライブなので、性懲りもなくまた買ってしまった。結論から言おう。その10数年前のものの「完コピ」である。このライブは当時のNHKラジオからの録音だそうで、「Fun Fun Fun」の前半がなく、「I Get Around」の途中が少し消えるのだが、そこは全く同じ、さらに最後のオマケの日本公演のインタビューは当時の「Teen Beat」誌のオマケのソノシートから冒頭の木崎義二さんの日本語の挨拶をカットしたものでこれまた全く同じ。要はほぼ完コピである。おや?「ほぼ」とは?曲の尺が違ったので、どこが違うか調べてみたら、チャプターの入れたかの差である。以前のものは「Hawaii」のドラムの短いイントロが前のチャプターの最後にあり「Help Me Rhonda」は歓声で気づかないがわずかにイントロが同じく前のチャプターの最後に、そして「California Girls」はマイクのナレーションだけだが、前の最後ではなく、チャプターの頭にタイトル紹介がくるように編集されていた。ただし通して聴くと何の違いもない。逆に問題は「I Get Around」の122秒から歌が消え、128秒にファルセットでまた音が戻る部分だが、この最新版では空白が長すぎるのは嫌と3秒早めて125秒からファルセットが聴こえる。これは心の中で歌うと明らかに前の方が秒数が合っているので余計な改変である。こちらはいただけない。まあそんな程度。ただこのBootlegはこの時代のものにしては音質が良く、ビーチ・ボーイズのライブは下手だった噂をある程度打ち消す力になっているので、まだ1回も聴いたことがない人は聴くべし。(佐野邦彦)


 

2016年6月21日火曜日

☆井上大輔主題歌&CMワークス(キング/3379/80


 このテレビエイジシリーズの新作、井上大輔の主題歌集とCM集は、非常に画期的で重要なワークスだ。
 まずはディスク1の主題歌集から。特撮の「レッドバロン」「マッハバロン」の主題歌4曲から始まるセンスが素晴らしい。おお、これは井上大輔だったのかという驚きと、この時代のアニメ&特撮テーマのパワフルさで一気に引き込まれる。「レッドバロン」は「テッカマン」を思わせるアレンジが面白い。そして「マッハバロン」はさすがGS出身、ロックの血が流れているなと感じさせてくれる傑作で、マッハバロンの歌詞のところでコードをさげていくアレンジがカッコいいロックナンバーで、ディスク1で一番のお気に入りのひとつ。
 あとはテレビの主題歌で梶芽衣子の「ジーンズぶるうす」は彼女らしい少しやさぐれた歌謡曲。アグネス・チャンの「美しい朝が来ます」はこの頃のアグネスらしい明るく快活なポップソングで、出来はとてもいい。キャンディースの「卒業」はまさに伝統的な歌謡曲。井上忠夫本人が歌う主題歌を挟んでマイナー調でダンサブルな松崎しげるの「JAKA JAKA」が登場。ここから名義が井上忠夫から井上大輔に変名する。
 
 そしてCD1で最も知られる「機動戦士ガンダム」の映画版の2と3の主題歌4曲が登場、一気に盛り上がる。みな井上本人が歌っており「哀戦士」「風にひとりで」「めぐりあい」「ビギニング」は誰でも耳にしたことがある傑作である。
 その後は「スケバン刑事2」の主題歌を南野陽子が歌うが、サビの展開が洒落ている。さらに出来がいいのが山瀬まみが歌う「機甲戦記ドラグナー」の主題歌2曲で、どちらもディスク1で最もメロディアスで華やかな2曲で、山瀬まみの歌唱力の高さにも驚かされた。Switchの歌う「行け!稲中卓球部」のあとは鈴置洋孝のアルバムから井上作の5曲で終わる。

 CM集はブルー・コメッツの「ハチハニーの歌」からスタート。曲の展開、サウンド、歌い方がまさにブルコメで嬉しいオープニング。大和田獏が歌う「コーヒーブラウン」は初めて聴くCM曲だが、キャッチーないい曲だ。そしてこのCDの中でもっとも有名な名曲、シャネルズの「ランナウェイ」が出てきて嬉しくなるが、これはパイオアニアのラジカセのCMで使われていた。
 その後は短い井上本人が歌うコカ・コーラのCM「コカ・コーラAt Home ‘80」で、井上の作曲のセンス溢れる洒落た曲だ。次はアサヒ本生のCMでまさにドゥ・ワップの「夏のハッシャバイ」。井上本人の初出不明の洒落た「24th Street」を挟んで

 ジュエリーマキのイメージソング「魔法でダンス」はなんとデイビー・ジョーンズが歌っていた。リクルート・フロムACMは井上本人が歌うアップテンポで哀調を帯びた佳曲。そしてハウスバーモントカレー83年のCMを西城秀樹が歌うが覚えていない曲だった。
 そして再び誰でも知っているラッツ&スターの名曲「め組のひと」の登場で心が弾むがこれは資生堂のCMだった。TAOというグループの「AZUR」という曲はキューピーマヨネーズのCMだそうで初めて聴く英語のナンバーだが、軽快でポップ、このディスク2の隠れた名曲でお勧めだ。日清UFOのイメージソングで杏里の「気ままにREFLECTION」はどこかで聴いたことがあるような曲。
 ポカリスウェットのイメージソングというOsny Meloの「瞳の中で」はなんとも無国籍風のイメージたっぷりの佳曲。またコカ・コーラのCMI feel Coke '87」が登場するが、記憶の隅にかすかに残る程度の曲。Coors LightCMソングは記憶の隅にも残っていない。上田正樹の「GO WEST ~胸いっぱいの愛を~」は缶入りコーヒーWESTCMだそうだがこれも記憶にない。尾崎紀世彦の「サマーラブ」はアサヒビールのCMで、この曲はどこかで聴いたことがあるようなメロディを持ち、尾崎の素晴らしい歌声により傑作に仕上がった。RDの歌うキリンのコープランドのCMDEAD or LOVE ~薔薇と銃声~」は一転へヴィな曲。
 
 そしてやっと久々誰でも知っているCMの登場だ。楠木勇有行の歌う「ネコ大好きフリスキー」は我々ネコ好きなら知らない人がいない名曲。誰も口ずさめるタイトルのフレーズ以外もこんな爽やかな曲だったとは…。ディスク2のハイライトのひとつ。一転超ベタなのは小林旭 with 東京スカパラダイスオーケストラの「アキラのジーンときちゃうぜ」でサントリーリキュールホワイトのCMだ。Le Coupleの荘厳なハーモニーに彩られた「遠い少年の目」は感動的でこれもディスク2のハイライトのひとつ。最後はアサヒビールのCMで世理奈の「風と花と光と」で、死後5年後の2005年に発表されたが爽やかな佳曲だった。井上大輔の底知れない才能が分かる。

 こうやって初めてまとめて井上大輔の曲を聴いたが、ブルー・コメッツ時代にリアル・タイムで聴いていた時、「歌謡曲ロック」として下に見られていたが、「マリアの泉」を聴いて、これはただものではないと思ったものだが、ブルコメの曲を書いていた井上忠夫は、才能があったと改めて思った。
 GSで作曲家として大家となったのはワイルドワンズの加瀬邦彦とスパイダースの大野克夫、知られていないがアウト・キャスツの穂口雄右と、ブルー・コメッツの井上忠夫の4人のみ。続いてスパイダースの井上堯之、かまやつひろし、ハプニングス・フォーのクニ河内の3人(沢田研二も書いていたがこの3人のレベルにはない)で、コンポーザーとして才能を十分に発揮したのは7人だけだった。
(佐野邦彦)

井上大輔主題歌 Cm Works

2016年6月18日土曜日

☆Beach Boys:『Pet Sounds(50th Anniversary Deluxe Edition)』(ユニヴァーサル/UICY15519/20)


ディスク1はモノとステレオ、ディスク2の前半のインストは既発のものなので紹介は省略する。もういまさら『Pet Sounds』の素晴らしさについては読む方も書く方もうんざりだ(笑)よって初登場のライブ音源のみ紹介する。まずは一番古い19661022日ミシガン州立大学のライブの「Wouldn’t It Be Nice」「Sloop John B.」「God Only Knows」の3曲が嬉しい。というのもアルバムがリリースされた年のライブだからだ。このライブはあの1997年から2000年にかけてリリースされた伝説のBootlegシリーズ『Unsurpassed Masters』の番外編として、CD3枚組の『Live Box』の中で既にリリースされていたものだが、そのうちディスク1がこの日のFirst Show、ディスク2がSecond Showで、選曲が異なっていた。「Wouldn’t It Be Nice」「Sloop John B.」はFirst Showのみで披露され、「God Only Knows」はどちらでも登場したがFirst Showではイントロのオルガンでマイク・ラブがGod Only Knowsの曲名をつぶやいたが、Second Showでは何も言わなかったので、本CDはこれもFirst Showの音源と分かる。『Live Box』はちゃんとしたライン録音だが、本CD収録に際してはリミックスしており歌と演奏のバランスを改善したと同時に歓声などの部分も編集している。「Good Vibrations」もこの日の録音にあったがテルミンの音程が不安定でサウンドも薄く出来がイマイチなので、この曲と「God Only Knows」「Wouldn’t It Be Nice」は19671119日ワシントンDCDaughters Of The American Revolution Constitution Hallでのライブでも収録した。1966年の前述のライブは、歴史的価値はあるが「God Only Knows」はオルガンのイントロなど演奏がシンプル過ぎてライブとしての出来はあまりよくない。「Wouldn’t It Be Nice」はそこまでは劣らないが、こちらの方が弾むようなリズムがあった。3回目の「God Only Knows」は19721123日ニューヨークのカーネギーホールのライブで、ホルン風のキーボードも入り、演奏とコーラスの厚みが格段に進化し、レコードに近くなっている。4回目登場の「God Only Knows」はさらに10年後の1982年のジャマイカのモンティゴ・ベイのライブで、カールの歌とコーラス、バッキングの演奏はさらなる厚みを増した。そして「Sloop John B.」も23年後の1989523日カリフォルニアのユニバーサルスタジオのライブも収録、こちらも歌・コーラス・演奏が比較にならないほどの進化を遂げていた。ラストの2曲は19931126日のニューヨークのパラマウント劇場のライブでの「Caroline No」と「You Still Believe In Me」のライブだが、この時期以降だとオリジナルとの再現レベルを追及してしまうので、ブライアン・バンドでのブライアン・ウィルソンのソロ・ライブとの比較をしてしまう。そのため面白味が下がってしまうのは自分だけか。そのあと、あれ?昔の予告では2012827日ロイヤルアルバートホールのライブの「Pet Sounds」「I Just Wasn’t Made For These Times」「Good Vibrations」が入っているのでこの2枚組の方も買ったのだが入っていない。海外盤も見たが入っていないのでいつの間にかカットされたようだ。それならあと一週間後予定のSuper Deluxe Editionのディスク4はこの曲目のライブとア・カペラ集(インスト集の本盤とそこを分けているがどちらも初登場ではない)なので、このDeluxe Editionにしか入っていない予定の前述の3曲がないのだから本盤は必要ないということになる。Super Deluxe Editionを購入する予定の人は購入する必要がないので気を付けよう。(佐野邦彦)