2015年8月30日日曜日

☆Various:『Here Today!The Songs Of Brian Wilson』(Ace/1445)

Here Today!The Songs Of Brian Wilson』の紹介が遅れてしまったがワーナーの『She Rides With Me-Surfin' & Hot Rod Nuggets』のコンピが出たばかり、同時発売のGirl Groupコンピも2つ紹介したいのがあるが今日は入院前日、こちらは退院後で。本CDのまず目玉が、M&Mの『Brian Wilson Still I Dream Of You』の中でしか聴けなかった1965年のBasil Swift & The Seegrams名義のシングル「Farmers Daughter」だ。プロデュースはニック・ベネットとあるがそのパンキッシュなアレンジといいブライアンがやっているのは明白、ただしリード・ヴォーカルはブライアンと言われていたが、解説を書いたBBの専門家の一人、キングスレイ・アボットはダニー・ハットンと断定していた。この人が言えば説得力はある。このダニー・ハットンはブライアンの親友でご存知スリー・ドッグ・ナイトのリード・ヴォーカリスト。その前身のRedwoodというバンドで、ブライアンから「Darlin'」と「Time To Get Alone」をもらって吹き込んだもののビーチ・ボーイズで使うからとオクラになった。ただ後者は1993年の『Celebrate-Three Dog Night』のコンピにだけひっそりと納められていたので持っていなかった人は収穫。メリハリの利いた仕上がりで一聴の価値がある。聴けそうでなかなか聴けないブライアンの隠れた傑作がHondellsに書き下ろした「My Buddy Seat」。実際はゲイリー・アッシャーのプロデュースで、コーラスはブライアンとブルース・ジョンストン、テリー・メルチャー、ゲイリー・アッシャーにメンバーで中核のチャック・ギラードなどという超豪華メンバーで、曲も迫力満点でスリリング、小ヒットしかしなかったのがもったいない快作だ。あとブライアンが「Don't Hurt My Little Sister」の原曲をフィル・スペクターに提供したもののスペクターはラリー・レヴィンに曲をまかせてアメリカ政府の雇用キャンペーン用のプロモとしてのみ使用されたというほろ苦い曲があるが、その「Things Are Changing」はSupremesBlossomsJay & The Americans3グループが同じオケで吹き込んだ。Supremes1995年のコンピ『Anthology』で、Blossomsは日本のM&M1993年のCDBrian Wilson Still I Dream Of You』のみで、そしてJay & The Americans1991年のベスト盤『Come A Little Bit Closer』でCD化されていた。このレアな曲は目立たずひっそりと入っていたので、今回本CDに収められたこのJay & The Americansのヴァージョンは持っていない方が多いと思う。
ブライアンが作曲・プロデュースを担当した傑作、Castellsの「I Do」はここにも入っているが、以前本CDと同じAceからリリースされたブライアン作曲・プロデュース集『Pet Project The Brian Wilson Productions』に本来入るべき音源だった。以前がプロデュース編、今回はカバー編という位置づけだ。ただ少し前に紹介したCastellsのコンプリートCDに入っていたので、それすら持っていない人はマスト・バイ。ここには本CDに収録のKeith Greenのカバーも一緒に収められていた。その他のJan& Dean2曲や、TokensBruce & TerryTony Rivers & The Castaways, Hugo MontenegroNick DeCaroSurfaris(「Wipeout」のインストバンドと思っていると歌もの多し)のカバーはそれぞれのグループのCDを持っていればお馴染みの曲。ブライアンが作曲・プロデュースしたPaul Petersonの「She Rides With Me」は、そのオリジナルは上記のワーナーのコンピに久々に収録されたが、本CDではJoey & The Continentalsのカバーが収められた。ブライアンのプロデュースではないが、Paul Petersonのようにヴォーカルにエフェクトがかけられていないのですっきりしている。「Guess I'm Dumb」もブライアンのプロデュースではないJohnny Wellsのカバーが入った。エコーも十分でいい出来だが、アボットの解説のオリジナルより出来がいいというのはまったく同意できない。驚きはあの「So Much In Love」で有名なTymesの「Surf City」だろう。まったく黒さが無く、白人のグループのよう。Super Stocksの「My First Love」はたいした曲ではないが、アルバム『Surf Route 101』にしか入っていないので持っていない人はこれでリストを埋められる。ビッグネームで気が付かないのはまずBobby Veeの「Here Today」。このシンガーはいい曲が多いのだが、このカバーはアレンジのセンスがダメでブライアンのフリーフォームなベースがないので出来はよくない。Peggy Marchの「Aren't You Glad」はこの渋い曲を選んだセンスだけで二重丸。その他Louis Philippeの「I Just Wasn't Made For These Time」、Kirsty MacCollの「You Still Believe In Me」、Betty Everettの「God Only Knows」はなかなかベスト盤に入らなかったので助かる。最後にCarmen McRaeの「Don't Talk」はしっとりとしたジャズ・バラードでこれは聴かせる。収穫。あ、忘れてた。DarianSahanajaは冒頭で「Do You Have Any Regret?」をカバーしているがこれはマニアック。ブライアンの幻のセカンド・アルバム『Sweet Insanity』では「I Do」と呼ばれていた曲で、さすが一番弟子だけある。メロディ的には「Thank You」の方がいいが、歌詞がヤバ過ぎてこれは決して使えないから仕方ないか。(佐野邦彦)




 

2015年8月16日日曜日

北園みなみ:『lumiere』(ポリスター/UVCA-3027)



昨年10月22日にミニアルバム『promenade』でソロ・デビューした、若き鬼才シンガー・ソングライター北園みなみが、早くもセカンドの『lumiere』を7月15日にリリースした。
紹介が遅れてしまったが、筆者は先月初頭から音源を聴いており、前作を踏襲した構築力の高いそのサウンドにまたも惹かれてしまった。
シティポップというようなカテゴライズで括るのが陳腐なほど、彼がクリエイトするサウンドは様々なエレメントを内在しており、聴く者の音楽的知識量を試されているようでもあるが、決して排他的ではなく、ポピュラー・ミュージックの本質を絶妙に捉えているのが特徴である。




北園は長野県松本市在住のシンガー・ソングライター(以下SSW)で、ソングライティングとアレンジは元よりドラム以外のリズム・セクションの楽器演奏とプログラミングを自らやってのける、極めて今日的なクリエイターである。特に生楽器の演奏能力には評価が高く、セッションに参加したLampの『ゆめ』(14年)でも耳にすることが出来き、本作でも手練なプレイを随所で聴けるのだ。
そんな彼をサポートするミュージャンには、前作に引き続きドラマーの坂田学が全曲に参加しているのをはじめ、コーラスにはLampの榊原香保里と女性SSWのマイカ・ルブテのお馴染みのシンガーが起用されており、橋本歩ストリングカルテットも前作からのメンバーである。
今回新たにクリエイター中塚武とのコラボレーションで知られるトロンボーン奏者の五十嵐誠率いるイガバンBBが起用され、より強力なホーン・セクションを披露している。

では本作の主な収録曲を解説していこう。アルゼンチンの作曲家、バンドネオン奏者としてばかりでなく、ポピュラー・ミュージックにも多大な影響を与えたアストル・ピアソラの「Libertango」をAOR的解釈で展開したリードトラックの「夕霧」。アクセントに使われているパーカッションは和楽器の締太鼓であり、ピアソラに和太鼓という絶妙な組み合わせのアイディアが北園の独創性を高めていて興味深い。また3管(ソプラノ、アルト、バリトン)のサックスによるホーン・アンサンブルの展開もさることながら、主旋律に呼応する個々のオブリガートのフレーズが極めて複雑で、アレンジャーとして一流であることを証明している。




続く「つぐみ」は一転してリラックスしたカントリー・ミュージックをベースにしながら、アコースティックギターの他、マンドリン、バンジョーにウクレレと全ての弦楽器を自らプレイして、これまでにないアンサンブルを試みている。フリューゲル・ホルンのオブリガートやヴィオラの間奏ソロも効果的で、周波数帯だけでなく細やかなニュアンスを熟考した楽器編成には恐れ入る。バッキングのフェンダー・ローズのプレイにしてもブルース進行による細やかなフレーズを織り込んでいて、曲が持つ不毛の恋愛といった世界観に一役買っている。
筆者はクリエイターとしては「夕霧」を高く評価しながらも、SSWとしての北園の魅力をこの曲に強く感じてしまう。素直にいい曲だと思うし10年後も風化しないだろう。
「リフロック」から「ミッドナイト・ブルー」の流れはドナルド・フェイゲンのソロに通じるものがあり、ジャズ・ピープルの解釈によるポップスの良質な部分が滲み出ている。前者ではWindows に標準内蔵されているソフトウェアMIDI音源のMSGSまで使用しているらしいが、自然に溶け込んでいて違和感はなく、弘法筆を選ばずといったところだ。
後者は前作収録の「Vitamin」同様マイカ・ルブテ(昨年The Pen Friend Clubと対バンしたライヴでお会いしたことがあった)をフィーチャーしたデュエットだが、ここではビッグバンド・サウンドでアレンジされている。FM音源系のデジタル・エレピを使用したことで生のホーン・セクションに埋もれることなく効果的な響きをしており、楽器選択も成功していると思う。

前作『promenade』のサウンドを踏襲しながらも、SSWとしての個性が開花した作品であり、今後期待されるフル・アルバムへの伏線として今年聴くべきアルバムであるので、興味を持った拘り派のポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)


2015年8月8日土曜日

☆シュガー・ベイブ:『SONGS(40th Anniversary Edition)』(ワーナー/WPCL12160/1)☆大滝詠一:『Niagara Moon(40th Anniversary Edition)』(ソニー/SRCL8712/3)

入院している間に自宅に届いていたので、もうタイムリーじゃないなと書いていなかった2枚の発売40周年記念盤を退院して自宅で聴いていた。シュガー・ベイブの『Songs(40th Anniversary Edition)』(ワーナー)で「Down Town」がかかった時に、山下達郎ファンというわけではない妻が「40年前の曲?全然古くないね」とポツリ。この曲は「ひょうきん族」テーマソングにもなったので聴き覚えがあるから出たんだろうけど、本当に曲に古さがないのだ。この頃は『Physical Graffiti』や『Night At The Opera』『With You Were Here』『Burn』など大ヒットしていた時代だ。この時代にはない新しい音楽にトライしたのはよく伝わってくる。ただ1974年はビーチボーイズのベスト盤『Endless Summer』が全米1位かつトリプルプラチナになるなど、ハードな音楽だけが受け入れられて訳ではないことも事実。今回は30周年のアルバムをリマスター、さらに大滝詠一が音源を既に良好にデジタル化していたことからリミックスもつくられ、どちらも収録された。その違いに関しては、私は詳しく言及できない。このアルバムが最初にCD化された1986年版は吉田保がリミックスしていたので、一発で「違う!」と分かったものだが、山下達郎本人のリマスター&リミックスなので、原曲の雰囲気を壊すような変更はない。そこは耳のいい他の方にまかせるとしてボーナストラックのみの変遷だけ押さえておこう。ボーナストラックが入ったのは1994年のオリジナル・マスターのEast West盤(1999年のWarner盤も同じ)。ここで「Show」「夏の終わりに」「指切り」「パレード」のデモが収録(1981年の『Niagara Fall Stars』で2曲、1996年の『Dawn In Niagara』で全曲が既発表)、さらに1976331日~41日荻窪ロフトのライブ「すてきなメロディー」「愛は幻」「今日はなんだか」が初収録された。2005年の30周年記念盤では、アルバム本体は大滝詠一のリマスター。ボーナスは1994年版のデモ4曲(「夏の終わりに」はリミックス)に加え、19744月池袋シアターグリーンのライブ「想い」「いつもどおり」が初登場、さらに初登場で「ためいきばかり(Diff.Mix Version)」「SugarWild Mix Version)」「Down Town(カラオケ。ただしクラビネットが入っておらず10秒短い)」が入り、1994年版のライブは差し変わった。そして今回の40周年記念盤だ。ディスク1のボーナスは1994年版のボーナスと同じ荻窪ロフト解散ライブより197641日の「パレード」「こぬか雨」「雨は手のひらにいっぱい」。そしてたとえ音質が劣ってもシュガー・ベイブ史上ベストライブと山下本人が言う1976128日仙台電力ホールでの「Windy Lady」「Down Town」「愛は幻」「今日はなんだか」がFMでは放送していたがついに初のCD化。ディスク2は「今日はなんだか(Original Piano Version)」は大貫のピアノが元の消されず残っていたのでそれを収録したもの。「Down Town」は1975717日文化放送の番組エアチェックでクラビネットが入っている。「風の世界」は1975912日中野公会堂の大貫ヴォーカルのライブ。そしてリミックスの際に作成できた「Show」「Down Town」「蜃気楼の街」「いつも通り」「雨は手のひらにいっぱい」のカラオケ5曲。これは「Down Town」も含め真正カラオケである。ということで、1994年版、30周年記念盤、40周年記念盤の3つはそれぞれ違うので必須アイテム。1975年の「Down TownSingle Version)」はモノラルに近いミックスだったが、それは1982年のCDシングルに収録されている。(マスターがないのでそっくりに作ったとも言われている)あと『SONGS』の1986年の吉田保ミックスは、ヴォーカルのエコーが深く誰でも分かる別ミックスなのでこれは聴いておくべき。単品より初代『Niagara CD Book1』がオススメ。こちらの大滝詠一の『Niagara Calendar』も吉田保のミックスによるエコーが深く、特に「Blue Valentine's Day」はエコーたっぷりで、個人的には気に入っている。(もともと好みが『ロンバケ』以降なんでネ)少し前に出た大滝詠一の『Niagara Moon40th Anniversary Edition)』(ソニー)はのディスク1は大滝が計画したものの未発表で終わった1995年リミックス・ヴァージョンを計画した曲順に通りに収録した超マニアックCDだった。サイダーが75だけだったり、冒頭の「Niagara Moon」もなく、歌詞も一部違うなど、別モノなので、オリジナルの仕様30周年記念盤を持っていないと意味がない。ボーナスは超豪華で、77年の「ファースト・ナイアガラ・ツアー」から「ナイアガラ・ムーンがまた輝けば 」「三文ソング」「論寒牛男」「きみに夢中」「楽しい夜更し」「シャックリ・ママさん」「ハンド・クラッピング・ルンバ」「福生ストラット (パートII)」と8曲のライブが高音質で収録され、FM放送があったと言うがまずビックリ。そしてこちらは完全未発表のアーリーミックスに大滝が鼻歌程度の歌を入れたDemonstration Rough Mix Version12曲も収められた。30周年記念盤で登場した未発表曲「ジダンダ」「夜の散歩道」のデモもあったが、ムッシュかまやつに提供した「お先にどうぞ」のデモがあったのには驚いた。リード・ヴォーカルはなく演奏とバックコーラスのみのデモ。ディスク2も完全コレクター向き。(佐野邦彦)