2015年4月29日水曜日

Kidsaredead:『The Other Side Of Town』(Botanical House / BHRD-002)



Lampのメンバー3人が新たに立ち上げたレーベル、Botanical House(ボタニカルハウス)から早くも第2弾のアーティスト、Kidsaredead(キッズ・アー・デッド)のファースト・アルバム 『The Other Side Of Town』が5月1日にリリースされる。
Kidsaredeadはフランス人のVincent Mougel(ヴィンセント・ムジェル:以下ヴィンセント)によるソロ・プロジェクトで、00年代後半からネット音楽通の間では注目されていたらしい。
因みに本作は13年にベルギーのHot Puma Recordsからリリースされた同タイトルに、ボーナス・トラック4曲を加え日本独自に新装しており、Botanical House第1弾の新川忠と同様にLamp染谷の熱望によって今回実現した。
プログレ好きの父とソフトロック好きの母に育てられたというヴィンセントだが、影響を受けたミュージシャンとしてビーチ・ボーイズ、トッド・ラングレン、10ccを挙げており、WebVANDAで取り上げない訳にいかないのだ。

Kidsaredeadはヴィンセントが一人で全てのソングライティングとアレンジ、主なインストルメントのプレイをしているソロ・プロジェクトで、そのスタイルの祖といえるトッド・ラングレンに通じる感覚の持ち主なのだろう。つまり頭の中で鳴っているサウンドをめざし、自らワンパートずつ構築していく典型的な自己完結型の才人なのだ。
では拘り抜かれた楽曲を収録した日本初リリースとなるこのアルバムの主な曲を解説していこう。

冒頭の「Sistereo [ Part I ]」は"Sister"と"Stereo"の造語と思われるタイトルから、妹を題材にルイス・キャロル的世界を現代風に表現したのだろうか。本アルバムにはPart IとPart IIの2ヴァージョンが収録されており、アルバムの中でもヴィンセントは拘りを持っていそうだ。
5拍子を軸にした変拍子で刻まれるヴァースから始まるこの曲、Part Iではエフェクティヴな処理は控えめに尺も約2分半でフェードアウトしている。全編でプログレ系のキーボーディストに愛されたイタリア製のヴィンテージ・シンセCrumar Multimanの音が聴ける。
一方8曲目収録されたPart IIでは、トッドの「International Feel」(『A Wizard, A True Star』収録・73年)よろしくエフェクティヴな音像によって混沌とした世界観に仕上げている。
このヴァージョンでは生ピアノ、フェンダー・ローズにローランドのアナログ・シンセSH系の音も聴ける。テンポ感などから「International Feel」のオマージュの一つであるのは間違いないだろうが、オペラ風コーラスにパート・チェンジしていく様は10ccやクイーンをも彷彿とさせる。
なお同曲のアコースティック・セットでのスタジオ・ライヴ・ヴァージョンがボーナス・トラックとして収録されており、そちらも必聴である。



「Band From The Past」は筆者が音源を入手して真っ先に飛びついた曲で、フランク・ザッパやスティーリー・ダン(テンプレートは「Pretzel Logic(さわやか革命)」だよね?)のエッセンスもあり聴き応えがある。基本はブルース進行風コードをローズで刻み重い8ビートでドライヴしているが、ゴスペルやフィリー・ソウル風のコーラスからSHシンセのフレーズやカントリー・ブルース風のバンジョーまで飛び出す折衷感に脱帽してしまう。
ベックの「Where It's At」(『Odelay』収録・96年)を初めて聴いた時の衝撃にも近いというか、個人的にはこのアルバムを代表する一曲として大推薦したい。
パワー・ポップの「Taking A Walk」は、4分弱の尺ながらパート転回や全体の構成もよく練られており、トッド以外にブライアン・ウィルソンや10ccの影響も感じさせる。金属的なリフはギター・シンセだろうか、Crumar Multimanのパッド音やSHシンセとのコントラストも素晴らしい。
一転して内省的な「School Returnz」は、ヴァースにジョン・レノン作の「Julia」(『The Beatles』収録・68年)に似たメロディを持つバラードで、続くエモショーナルなセカンド・ヴァースを聴いてこのパターンでサビへ大団円するのかと思いきや、唐突に転調パートが挿入されて一筋縄ではいかない。
「She Loves Me」はアルバム中屈指の名バラードで、Crumar Multiman(多用し過ぎだが、プログレ好きの父親に買ってもらったお気に入りなのか?)の儚く美しいパッド音に導かれて入ってくるコーラスが実に効果的である。音数少なく空間が狭い感じはロバート・ワイアットのソロ作にも通じ、クワイア・コーラスのパートが挿入される瞬間は崇高な気持ちになってしまう。
デイヴ・ギルモア風の抑制されたギター・ソロもマッチしており、さすがにこの曲は自信作なのだろう、極端にムードを逆撫でする転調はない。
WebVANDA読者必聴といえる『SMILE』的世界観の 「Van Dyke Parking Carol」をアルバムのラストにしたのはヴィンセントの拘りだろうか。多くは語らないが、この脳内箱庭サウンドは彼の指向を如実に現している。

ボーナス・トラックは「Sistereo」と「She Loves Me」(美しい!)のアコースティック・セットでのスタジオ・ライヴ・ヴァージョンの他、"Breakfast Science Remix"と題された「Captain Achab Boyfriend」の別リミックスと未発表インストと思われる「Toothbrush」の計4曲である。
筆者の解説で興味を持った読者や音楽ファンは直ぐに予約して入手すべきである。とにかく唯一無二のニュー・クリエイター(兼シンガー・ソングライター)であることは保証しよう。



(ウチタカヒデ)




0 件のコメント:

コメントを投稿