2014年8月17日日曜日

グレンスミス:『Stevenson Screen』(ディスク・ユニオン/MYRD-73)


 宮崎貴士を中心とした音楽ユニット、グレンスミスがファーストの『ロマンス・アルバム』から4年振りとなるニューアルバムの『Stevenson Screen』を8月20日にリリースする。
 今作から筆者がインディーズ~メジャー時代を通して高く評価していた、シンガー・ソングライターのクノシンジが新メンバーとして加わり、このユニットに新たな化学反応を起こしたようだ。
 宮崎にdetune.の郷拓郎と石塚周太、クノという4人がソングライティングを手掛けることで、各々の持ち味が絶妙に溶け合って完成度の高いアルバムに仕上がっている。

 そもそもグレンスミスは、シンガー・ソングライター(以下SSW)田中亜矢らとのユニット図書館で活動中の宮崎が、たまたまラジオで耳にしたポップデュオdetune.のサウンドに惹かれてメンバーにコンタクトを取ったことからスタートしている。
 ドラマーに元フリーボの廣瀬方人、作詞にはスタディストとして多くのメディアで活躍している岸野雄一をはじめ、漫画家の西島大介、ライターの足立守正が参加したファースト・アルバム『ロマンス・アルバム』を10年にリリースし各所で高い評価を得た。
 その後クノシンジが正式メンバーとして参加し、12年にはSSWタニザワトモフミ(現在は谷澤智文で活動)の『何重人格』のレコーディングにグレンスミスとして3曲に参加している。
 ユニットとしてグレンスミスの魅力だが、4者4様のソングライティングが絶妙に共存している点とメ、イン・ヴォーカリストである郷の唯一無二の個性と表現力であろう。

 では今作の主な収録曲について解説しよう。
 リード曲で冒頭の「The Great Escape」は、宮崎の作曲と足立の作詞によるスケール感のある曲で、タイトル通り、映画『大脱走』を思わせる詞のフレーズも出てくるが、曲調やコーラスを含めたアレンジにはポール・マッカートニーの影響を強く感じさせる。特にヴァースとサビを繋ぐブリッジはこの曲の肝であり、一聴してポールイズムを察知してしまった。無駄を排除した楽器配置と新ドラマーとなった堀江研介の的確なプレイも聴きどころだ。




 続く叙情的なワルツの「こいやみ」はクノの曲だが、これまでの彼のイメージから想像できなかった劇的な転調を繰り返す。あがた森魚にも通じる郷と足立による詞の世界観も相まって完成度が高い。クノはベースとアコースティック・ギターの他、マンドリンとキーボードもプレイしている。印象的なアコーディンオンはZABADAK等のセッションに参加する藤野由佳による演奏だ。
 今作中唯一のカバーは、滋賀県立大学教授で今年出版された著書『うたのしくみ』で知られる、細馬宏通作による「街頭行進」(細馬のバンド"かえる目"のレパートリー)である。
 細馬自身もヴォーカルでゲスト参加しており、愛すべき歌声でこの陽気な曲に花を添えている。しかし宮崎の人脈の広さにはただ驚くばかりだ。
郷と宮崎の共作に足立が詞をつけた 「ティーンエイジ・ウルフ」は、3分弱の小曲ながらプログレッシヴな展開を持つ曲で、ストリングス・シンセやウクレレが効果的な響きをしている。
 ピアノのみをバックに歌われる「ネジの雨」はクノの作曲、足立の作詞による美しいバラードで、間奏のアコギ・ソロはクノによるものだ。特にこの詞の世界観は秀逸で、ムーンライダーズ中期の鈴木博文を彷彿とさせて耳を奪われてしまった。
 アルバム・ラストの「Meaning of Tonight」は宮崎の作曲、足立の作詞で、宮崎自身がリード・ヴォーカルを取り、コーラスには本作の殆どの作詞を手掛けた足立をはじめ、近年活動を再始動した東京タワーズの加藤賢崇と中嶋勇ニ、元有頂天のリーダーでナゴム・レコード主宰、現在は劇団「ナイロン100℃」主宰で鈴木慶一とのNo Lie-Sense(ノー ライ・センス)での活動で知られるケラリーノ・サンドロヴィッチ、また前出の細馬や前アルバムに作詞で参加した西島大介等々、宮崎の人脈によるゲストが一挙参加して大団円を迎えている。

 デビュー当時から筆者が高評価しているクノシンジが全面参加したアルバムというポイントもさることながら、そのサウンドはムーンライダーズ及びその一派のファンは必聴であり、拘り派ポップス・ファンである本誌読者にも大いにお勧めしたい。
 彼らの活動情報は下記へアクセスして欲しい。

グレンスミス・オフィシャルサイト
『Stevenson Screen』特設サイト
(ウチタカヒデ)






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