2010年9月8日水曜日

フレネシとblue marble対談レビューVol.2

フレネシ:『メルヘン』(乙女音楽研究社/OTMSH-003)
blue marble:『ヴァレリ(乙女音楽研究社/OTMSH-004)

 

フレネシとblue marble対談レビューVol.1(blue marble編)からの続き

ウチタカヒデ(以下 U):ではフレネシさんの『メルヘン』に関する質問に移ります。 前作『キュプラ』が広く受け入れられた訳ですが、今作を制作するにあたってスタンス的にどう変化しましたか?


フレネシ(以下 F):山口君(フラッシュバックあの人)にプロデューサーとして立ってもらった前回もアレンジの方向性を決めたり、展開を構成したりするのは、基本的に自分で行っていたのですが今回大きく違ったのは、取り掛かる前と作業をFIXする際に相談する相手・判断する人が自分以外にいなかったという点でしょうか。 私の場合、周りの音楽通のアーティストに比べもともとインプットがそれほど多くない方なので 相談役がいないとなると参考とするものも非常に限定的になるのですが今回に限ってそれはアリなのではないか、という判断で進めました。 つまり、いかに少ない情報量でアウトプットの幅を広げるか、というのが、実は重要な課題のひとつだったのかもしれません。と言う割には、あまり意識していたわけでもないけれど 

U:今作はセルフ・プロデュースということですね。音楽的知識のインプットがあまり多くないとのことですが、アレンジングの拘りは一筋縄ではいきませんよね。後でも触れますが「不良マネキン」と「街」といった一見アンビヴァレンツな感受性を持つ曲が同じアルバムに収録されているというのは凄いことですよ。そういった感覚を含め、アーティストのフレネシとして大事にしているポイントはなんでしょうか?

F:意図しているわけではないのですが、創作を行う際は、常に冷静さを失っています。 冷静になればなるほど迷いが生じ、次に進めなくなるので、鍵盤に向かっているときは別人格なほどポジティヴで主観主義になりますね。(主観主義は多分デフォルト)そうなることで、結果作業時間が劇的に短くなります。 このやり方、仕事ならば完全にアウトですが、好きなものを作っていいといわれたのなら、そういう正義もあっていいかな、と思います。

U:常に冷静を失ってしまう(笑)というのは面白い表現ですが、なんかイメージ通りですよ。 天性のヒラメキでバランスをとっている。コツコツ地道に曲作りしているシンガーソングライターから見れば、一種アクロバティックですが、それがフレネシさんの個性だと思います。 フレネシさんのサポート・メンバーとして数年に渡ってキーボードを担当されているショックさんから見て、アーティストとしての彼女の魅力とはなんでしょうか?


ショック太郎(以下 S):曲がまともに作れないことを「変なことをやっている」という表現で逃げて個性にしているアーティストが多いなかで、フレネシさんは、ちゃんと最初から曲が書けるアーティストなんです。だから直感のおもむくままに作った作品でも安心できるんですね。奇抜な形をしたある建築物が、実は耐震性に優れていて住みやすい家だった、という感じでしょうか。 あと投げやりのように見えて、実はすごい責任感が強い女性だということを常に思いますね。それと何でも仕事が速い(笑)。いつ寝ているんだろう、と思うくらい。

F:恐れ多いです...。 音大で作曲科を専攻していたというショックさんに曲について触れられると、どきっとします。私のバックグラウンドには確固たるものがなく、地盤が軟らか過ぎて年中揺らぐレベルなので、免震システムを採用して建てるのがベターかもしれません。

U:次にアルバム収録曲について伺います。先ずは「インフレイション II」。この曲は前作の特典楽曲として一部で知られた「インフレイション」の別ヴァージョンですが、前作よりダンサンブルになりましたね。原曲ではスペイン語の歌詞で高速バンプになるブリッジからフックへのパートが、スティーリーダンの「緑のイヤリング」(『幻想の摩天楼』収録 76年)を彷彿させて凄く好きでしたが、今回アレンジ的に工夫したポイントは?

F:ピンポイントで言うと、間奏でサブメロディを奏でる、銀河鉄道っぽいレトロ浮遊系ハミングと、Bメロに裏打ちで入れたシモンズのタムの音でしょうか。タムは、ミックスをお願いしたシュガー・スペクターさんのアイデアなのですがこうした遊びを入れることで、クールにまとめたオリジナルとは対照的な、やんわりとおバカさを醸し出す展開になっています。

U:銀河鉄道って999のことですよね。音楽を担当した青木望氏は劇伴オーケストレーションの名匠ですが、恐らく女性ハミング(スキャット)はエンニオ・モリコーネ作品におけるエッダ・デッロルソを意識していると思います。ところで長身コンプレックスを題材としている歌詞も非常にユニークなのですが、そのモチーフとは? 

F:歌詞については乙女社社長が書いていますが、女性シンガーソングライターのシーナアキコさんの「フレネシバンドは背の高い人が多いんだね、不思議」という発言がアイデアの元となっているようです。実際にショックさんを始め、メンバーの多くが長身なのですが、もちろん選り好みしたわけではないですよ。演奏が素晴らしいということで、お声をかけた方々です。 

U:前作以上にエッセンスとしての80'S感覚が濃くなっていますが、タイトルからキュッチュな「不良マネキン」や「コンピューターおばあちゃん」のカバーなど、リアルタイムでは幼児期に当たるこれらの体験は今でも鮮烈に残っているのでしょうか? あるいは後追い的に熱中していたんでしょうか?

 

F:「不良マネキン」に関しては、言うまでもなく大映テレビです。幼い頃、好きで良く見ていましたね。この曲は「ヤヌスの鏡」のOPからヒントを得ています。毎3裏に入るシンセ・タムとゴスペルコーラスを聴いた瞬間に閃き、タムだけの譜面を書くところから曲を作っていきました。 「コンピューターおばあちゃん」は、シーナさん企画のみんなのうたイベントで歌ったのがきっかけで、社長からのリクエストがありまして......。 

U:「不良マネキン」はPVのインパクトがかなり凄いですが(笑)、サウンドは完全にテクノ歌謡ですね。いわれるシンセ・タムのフィルやスラップ・ベースのアクセントは、トニー・マンスフィールド(元NEW MUSIK、80年代英の一流プロデューサー:ネイキッド・アイズ、キャプテン・センシビル、A-ha等々)が元祖だと思うんですが、近年ではPerfumeの「NIGHT FLIGHT」などもその流れですね。ところで80'S感覚といえば前作『キュプラ』の「覆面調査員」の中国語ヴァージョンをボーナス・トラックとして収録していますが、このヴァージョンを制作された経緯とは?

 

F:「覆面調査員」は、オリジナルができた時点で動画配信用に中国語ヴァージョンも作る予定だったのですが、PCの事故によりバラの音源が消えてしまったため、あきらめていました。が、2ミックスの未精査音源なら手元にあったので、それを生かす方向で歌だけを録り直しました。 

U: 「街」は80年代初期、坂本龍一がサウンド・プロデュースを手掛けていた頃の大貫妙子あたりを彷彿させる曲ですが、独特な音像とアレンジでフレネシ・テイストに仕上げています。 これをバンド・アレンジでやると最近の流線形などに通じるシティポップになると思いますが、フレネシさんにとって、大貫妙子やユーミンなど80年代に隆盛を極めたシティポップからの影響はありますか? 

F:お察しの通り、シティポップの影響は少なからずあると思います。大貫妙子さんは、小学生の頃、姉が持っていたアルバムを聴いてファンになりました。収録されていた「カイエII」と「都会」が特に好きで。どうしたら、あんな洗練されたアーバンな曲が書けるんだろうと幼心に憧れつつ、耳コピして電子オルガンで弾いたりしていましたね。わからないコードは大分端折っていましたが。。

 U:PVも印象的なタイトル曲の「メンヘン」ですが、フランシス・レイあたりを彷彿させるアンニュイなメロディーが耳に残ります。当然ヨーロッパ映画やフレンチポップからの影響もありますよね?具体的に影響を受けたアーティストや作品などはありますか?

 

F:ヨーロッパ映画、フレンチポップの影響は大きいと思います。イントロもなく始まって、間奏も繰り返しもなく終わるような、コンパクトで濃密な映画音楽の構成はやはり魅力的。一回聴いただけではおなか一杯にならないようなさじ加減を、構成を考える際のお手本にしています。 ヨーロッパ映画ばかりでもないですが、ジョルジュ・ドルリューの『Theme From The Day Of The Dolphin』、サークルの『The Minx』、ジャネットの「Porque Te Vas」、アレックス・ノースの『Love theme from spartacus』、『ボッカチオ'70』でソフィア・ローレンが歌っていた「soldi soldi soldi」、Los 3 Sudamericanosの「Yeh, Yeh」(これは65年リリースですが、比較的最近の映画に使われていました)などです。

U:なるほど興味深いアーティストやタイトルが出ていますね。ソフトロック・ファンには『The Minx』は馴染みが深いです。映画音楽の作家もジョルジュ・ドルリューやアレックス・ノースなど通好みで感服しました。 今回のレコーディング中の面白いエピソードなどはありませんか? 

F:「コンピューターおばあちゃん」は、当初は全然違うアレンジだったのですが、納得がいかず、ラスト1日で一から作り直しました。ゴール直前で振り出しに戻ったのは、冷静さを取り戻した証拠ですね。他の曲も、冷静さを取り戻していたらどうなったことか。。 あとタイトル曲「メルヘン」なのですが、元々は「勝手にCM」企画用に書いた曲でした。その企画はお蔵入りの気配ですが、どこかで発表できる機会があればと思います。 

U:曲作りからレコーディングなどアルバム制作中、はまっていたアーティストのアルバムや映画など、少なからず影響を与えてくれた作品はありますか?

F:佐々木昭一郎監督の映像作品「夢の島少女」にインスパイアされ、「メルヘン」を制作しました。といっても、書いた当初は作品の全容を知らなくて。。浅はかではありますが、「夢の島」という言葉からイメージを膨らませて詞を書いています。

U:ショックさんが『メルヘン』を聴いたファースト・インプレッションはどうだったですか? 

S:レコーディングに参加しているときは、オケだけ聴いて、よりテクノ化しているかなぁという印象でしたが、それが単純にテクノというより、フレネシさんの脳で考えるイメージと作品との間に、何の仲介も入ってないダイナミックな脳天直撃サウンド、という印象に変わっていきました。その後、マスタリング後のCDを聴いたら、作品全体の「集中力」に、更にただならぬ気配を感じましたね。 前作『キュプラ』は、以前のフレネシさんのイメージと、新しい展開との狭間で揺れているような感じも多少ありましたが、「メルヘン」は、これだけいろんなタイプの曲があるにもかかわらず、方向性がまったく拡散していないんです。それがスゴイ。 「街」やタイトル曲で聴ける切ないノスタルジー感覚もいいですよね。こういう曲にピアノで参加できたのも、素直に嬉しかったです。

U:フレネシさんから『メルヘン』の聴きどころをアピールして頂けますでしょうか。

F:全体的にリバーブが強く、またヴォーカルがとても近いのは前作までと明らかに違う点です。聴きどころは、テクノ歌謡といわれる「不良マネキン」でしょうか。テクノ歌謡が何か、実は良く知らないのですが。 また、打ち込みメインの曲が多い中、「メルヘン」はアコーディオン、アップライトベース、ピアノをゲストの方にお願いしています。特に、ショックさんによる流麗なピアノのクライマックスは必聴。ヴォーカルが消えた後、音量を上げてお楽しみくださいませ。

●フレネシ オフィシャルHP
http://www.otomesha.com/frenesi/
●blue marbleのマテリアル・ワールド(ショック太郎blog)
http://d.hatena.ne.jp/bluemarble/





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