2008年9月8日月曜日

☆Brian Wilson:『That Lucky Old Sun』(EMIミュージックジャパン/TOCP70601)

ブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)にとってスタジオ録音で通産8枚目となるこのアルバムは、私にとって、いや、多くのビーチ・ボーイズ・ファンにとって最も感銘の深いアルバムになった。ブライアンの復活を喜びその変わらぬイノセンスに涙した1988年の『Brian Wilson』よりも、37年の時を経て想像を超えるクオリティで「伝説」を完成してくれた2004年の『Smile』よりも感動があった。芳醇なメロディ、美しいコーラス・ワーク、完璧なバッキングとアレンジ、そして今回はその歌詞が素晴らしかった。
アルバム・タイトルはジャズのスタンダード・ナンバーで、この曲のみオリジナルではない。ここに描かれているラッキーな太陽とは、悩みが多いこの世に暮らす我々を映し出す鏡である。その他の曲は1曲を除き歌詞をブライアン・バンドのスコット・ベネットが書き、このコンセプト・アルバムの形を浮かび上がらせるために4箇所の語りを入れ、それは旧友ヴァン・ダイク・パークスが担当した。カリフォルニアに生まれ育ったブライアン、前半はその街を中心に描いているが、後半は自分の人生の述懐になっていく。約20年にも及ぶ深い鬱の時代、乗り越えていったブライアンの歌う歌詞は前向きだが、間に挟まる短い「been too long」は本音を垣間見るようで胸が痛い。最後の「Southern California」の"I had a dream singing with my brothers in harmony, supporting each other"で私は涙ぐんでしまった。もういなくなってしまった最愛の弟2人。でもブライアンは"There's a time to live reason to live"と歌ってくれた。実はこのアルバムが出るまで、ブライアンは何が作れるのだろうと少し不安があった。全曲オリジナルのアルバムは『Brian Wilson』のあとは『Imagination』『Getting' In My Head』とクオリティは正直下がっていた。『Pet Sounds』をソロで歌い、『Smile』を完成させた今、もうやることがなくなってしまったのでは、創作意欲も枯渇してしまうのではと危惧していたが、本作でブライアンの才能、音楽の意欲はまったく衰えていないことがわかった。メロディ・メーカーとしての能力も、『Smile』以降、以前よりいい曲を書いていたので、これだけの作品を残せる予兆はあったのだ。どれもいい曲ばかりだが、個人的なベストトラックは「Good Kind Of Love」「Forever She'll Be My Surfer Girl」「Midnight's Another Day」「Southern California」と「That Lucky Old Sun」。なお日本盤のDVD無しの1枚物は、LPのジャケットをミニチュアにした紙ジャケで、これは日本のみの仕様だ。(佐野)

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