2007年3月1日木曜日

☆Paris Sisters:『The Complete Phil Spector Sessions』(Varese Sarabande/302066752-2)

フィレス以前のフィル・スペクターのワークスで最も成功していたのが、このパリス・シスターズだ。プロデュースを担当した5枚のシングルの内4枚が全米チャートでランク・イン、その中の1枚はトップ5入りしたのだから、大成功と言えるだろう。しかし長くこのシングル5枚はまとめてCD化されることはなく、ヒットしたA面がバラバラに収録されるのみだったので、こうしてまとめてCD化されることは価値がある。曲は全て1961年から1962年にリリースされたものなので、フィレス時代のあの華麗なスペクター・サウンドというのには出会えない。それはゴールド・スター・スタジオの特徴的な深い、深いエコー、ハル・ブレインの自由奔放なドラミング、強力なリズム隊などがまだ確立されていなかったからで、バッキングがモノラルの中で溶けあった平面的なカンバスにストリングスの筆が絵を描いていくサウンドは、テディ・ベアーズに近いテイストがある。しかし1954年にデビューし、11枚のシングルをリリースしていた彼女らは、マクガイア・シスターズに近いジャズ・コーラス・グループだったのに、プリシラ・パリスのハスキーな癒し系ヴォーカルのソロに変えたスペクターの手法はさすがだ。A面曲はセンチメンタルなバラードが並び、ウィスパリングに近いプリシラのヴォーカルの魅力を引き出している。第一弾の「Be My Boy」はスペクター本人が書いて全米56位、2枚目はバリー・マンが書いた「I Love How You Love Me」で全米5位と大ヒット、3枚目はキャロル・キング=ゲイリー・ゴフィンの「He Knows I Love Him Too Much」で34位、4枚目は再びバリー・マンで「Let Me Be The One」が87位と、4枚連続でヒットを獲得した。5枚目のスペクター本人が書いた「Yes-I Love You」はヒットしなかったが、どれも魅力的なミディアム・スローのバラードばかりだった。B面曲もまだこの頃は手抜きがなく、捨て曲ではない。特筆すべきは5枚のシングルB面「Once Upon A While Ago」の作者がThe Paris Sistersだったことだ。スペクター以降、パリス・シスターズで3枚のアルバムと、ソロになってさらに3枚のアルバムを出すプリシラ・パリスは、曲が書けるため、多くの曲がオリジナルになるのだが、1962年の段階で既に曲を書き始めていたのだ。プリシラは声だけでなく、容姿も美しく、華奢ではかなげな美女だったが、実は曲も書けるこの時代では画期的な女性シンガーのひとりだったのである。なんだかカッコいい。(佐野)
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