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2026年3月1日日曜日

The Bookmarcs 4thアルバム『BLOOM』 レコ発ライブ


 昨年11月26日にフォース・アルバム『BLOOM』(FLY HIGH RECORDS/VSCF-1781)をリリースしたThe Bookmarcs(ブックマークス)が、同アルバムのレコ発ライブを4月29日に開催するので紹介したい。


 彼らブックマークスは、作編曲家やプロデューサー、ギタリストとして活動する洞澤徹と、the Sweet Onions(スウィート・オニオンズ,以下オニオンズ)やソロ・アーティストとして活動する近藤健太郎が、2011年にタッグを組んだ男性2人のユニットで、本作『BLOOM』は2021年の『BOOKMARC SEASON』(VSCF-1775/FRCD-070)に続くフォース・アルバムでる。今年1月31日には各サブスクでの配信も開始されたので、耳にしている弊サイト読者もいるだろう。

◎関連記事:The Bookmarcs『BLOOM』こちらをクリック

 今回のレコ発ライブは、これまでブックマークスのレコーディングにレギュラーで参加してきた、手練ミュージシャンである足立浩(Drums)と北村規夫(Bass)、佐藤真也(Key)がバッキングするフルメンバーである。ゲストとして、『BLOOM』にフューチャーリング・ボーカルで参加したSwinging Popsicle(スウィンギング・ポプシクル)の美音子Fujishima、FLY HIGH RECORDSのレーベル・メイトで、2019年11月のシングル「君の気配」にデュエット参加したシンガー・ソングライターの青野りえ、昨年12月その青野が作詞、近藤が作曲した新曲『青いカケラ』、洞澤はカップリング曲に編曲で楽曲提供した、声優兼シンガーの藍田理緒の出演もそれぞれ予定されている。
 なおオープニング・アクトは、同じくFLY HIGH RECORDSから2022年10月にソロアルバム『Nostalgic hour』をリリースし、ブックマークスの2人とは関係性が強い男性ソロユニットKARIMAが務める。

 以上の様にブックマークスのレコ発ライブであるばかりか、多くの豪華ゲストが顔を揃える貴重なイベントになるだろう。ゴールデンウイーク初日ということもあるので、興味を持った弊サイト読者は前売りチケットを予約しよう。

The Bookmarcs
4thアルバム『BLOOM』
レコ発ライブ4/29(水・祝)
12時〜渋谷gee-ge. にて開催決定

FLY HIGH RECORDS PRESENTS
THE BOOKMARCS
 “BLOOM”RELEASE PARTY

2026年4月29日(水・祝)
会場 : 渋谷gee-ge @shibuyageege
時間 : OPEN 12:00 START 12:30
料金 : 前売り4000円(税込)+1d(700円)
           当日 4500円(税込)+1d(700円)

GUEST MUSICIANS :
KARIMA(Opening Act)
美音子Fujishima
青野りえ
藍田理緒

The Bookmarcs BAND MEMBER :
Drums : 足立浩
Bass : 北村規夫
Key : 佐藤真也

※前売り予約特典として未発表音源CD-Rプレゼント

チケット予約 :

ライブハウスでのステージは約3年振りとなります✨
皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。

ご予約心よりお待ちしております


(テキスト:ウチタカヒデ




2026年2月21日土曜日

Jim Croceについて


 ジム・クロウチの「Operator」を初めて聴いた時、優しいメロディと輪郭のはっきりした心地いい歌声に聴き惚れた。電話をかけるには交換手(Operator)に繋いでもらう必要があった時代。交換手へ語りかけながら、過去の恋人に電話をしようかしまいか、心境が変化していく様子が歌われている。5枚あるスタジオアルバムのうち、初ヒットとなった3作目『You Don't Mess Around with Jim』(ABC Records-ABCX756)からのシングル曲だ。

Operator / Jim Croce

 ペンシルベニア州南フィラデルフィア出身のジム・クロウチは、幼い頃からアコーディオンを演奏したり、様々なジャンルの音楽を聴いて育ったそうだ。ヴィラノバ大学に進学してからはヴィラノバ・スパイアーズというサークルで音楽活動を行い、審査員として参加した音楽コンテストの出演者イングリッド・ジェイコブソンを誘って彼女とデュオでの活動も行った。1965年の卒業後は陸軍州兵に入隊し、訓練生活を送りながら音楽活動も続けていたそう。翌年、クロウチとイングリッドは結婚し、この時両親からの結婚祝い金で500枚自主制作されたのが最初のアルバム『Facets』だ。

 兵役の任務が解かれた1968年、大学の友人でもある音楽プロデューサーのトミー・ウエストの勧めで夫妻はニューヨークへ移住し、キャピトルレコードからデュオでのアルバム『Jim & Ingrid Croce』(Capitol Records-ST-315)をリリース。しかし商業的には恵まれず、ニューヨークでの生活にも疲れた2人はペンシルベニア州リンデルの田園地帯に移り住むことにした。ここでのクロウチは工事現場の作業員やトラック運転手など様々な仕事で生計を立てていたそうだ。この生活の中で出会った人々は、後の曲作りのテーマとして登場しているらしい。

 1970年になって、大学の友人で音楽プロデューサーのジョー・サルヴィオロから紹介されたシンガーソングライターのモーリー・ミューライゼンとパートナーを組みABCレコードと契約。この頃息子が生まれたクロウチは決意を新たに再びニューヨークへ向かい、ミューライゼンをリードギターに、トミー・ウェストとテリー・キャッシュマンのプロデュースでアルバムを制作する。こうして1972年4月にリリースされたのがヒットアルバムとなった『You Don't Mess Around with Jim』だ。収録曲のひとつ「Time In A Bottle」は息子のために書かれた曲だそう。この時から、全米中をツアーしてまわる多忙な日々が始まった。ツアーと並行してレコーディングも進められ、ABCレコードでの次のアルバム『Life and Times』』(ABC Records-ABCX756)は1973年1月にリリースされた。このアルバムからのシングル曲「Bad, Bad Leroy Brown (邦題: リロイ・ブラウンは悪い奴)」は2週連続全米1位を獲得。フランク・シナトラやドリー・パートンにもカバーされた。クイーンの「Bring Back That Leroy Brown」という曲で歌われているのは、このクロウチの「Bad, Bad Leroy Brown」の歌詞に登場する悪党リロイ・ブラウンのことだ。

 1973年9月20日、クロウチとミューライゼンはルイジアナ州ナケテシュにある、ノースウェスタン州立大学でのコンサートを終え、翌日のテキサス州シャーマンのコンサートに向かうところだった。しかしナケテシュの空港で2人が乗り込んだ小型チャーター機は、離陸した直後に木に激突し6人の乗客全員が死亡。ジム・クロウチは30歳、モーリー・ミューライゼンは24才という若さで突然この世を去った。シングル曲「I Got A Name」がリリースされる日の前日の事故だったそうだ。11月には、これまで『You Don't Mess Around with Jim』の中の1曲だった、息子のための曲「Time In A Bottle」がシングルカットされ、全米1位を獲得する。そして事故の1週間前にレコーディングを終えていた、「I Got A Name」を含む同名のアルバム『I Got a Name (邦題: 美しすぎる遺作)』(ABC Records-ABCX797)が1973年12月にリリースされ、「I Got A Name」の他、「I'll Have To Say I Love You In A Song」、「Workin' at The Car Wash Blues」がヒットを獲得した。

Workin' at The Car Wash Blues / Jim Croce

 その後も、生前未発表だったデモ音源やライブ音源などがいくつかリリースされているのだけれど、最近知って興味深かったのは2003年リリースのコンピレーションアルバム『Home Recordings: Americana』(Shout!Factory-DK30266)で、この音源は1967年に自宅のキッチンテーブルで、ウォーレンサック製のオープンリール式テープレコーダーを使って録音されたものだそうだ。

The Wall / Jim Croce (Harlan Howard カバー)
『Home Recordings: Americana』


参考・参照サイト

https://jimcroce.com/

https://web.archive.org/web/20090813083353/http://www.philly.com/inquirer/local/20090810_Croces_capture_time_in_a_bottle.html

https://web.archive.org/web/20100611020306/http://www.pabook.libraries.psu.edu/palitmap/bios/Croce__Jim.html

https://www.rhino.com/article/happy-45th-jim-croce-i-got-a-name

https://agreenmanreview.com/music-2/jim-croces-have-you-heard-jim-croce-live-and-home-recordings-americana/


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。



【リリース】

■ 2026年3月18日発売
2枚組 NEWアルバム
『Songularity - ソンギュラリティ』

「Harbinger」(『Songularity』)Official PV













■ 2026年2月20日〜配信中
『Songularity - ソンギュラリティ』
先行シングル第一弾「California Again」
(ショートMV)













■ 2026年2月20日
先行シングルCD4作 同時発売
(ペンパルレコード通販にて販売)

先行シングル4作
4週連続 配信
2/20「California Again」
2/27「Got To Be Rock And Roll」
3/6「Grow」
3/13「Lily’s Smile」

【LIVE】

[Songularity - ソンギュラリティ]
レコ発ワンマンツアー

■2026年4月25日(土・昼)
東京・渋谷LOFT HEAVEN

■2026年5月2日(土)
大阪・天満橋RAW TRACKS

■2026年6月20日(土)
名古屋・鶴舞KDハポン

チケット予約









































2026年2月13日金曜日

We Gotta Groove – Brian’s Back!の真実と、その音が生まれた場所–


   
  1976年、The Beach Boysのツアー告知や広告に踊った「Brian’s Back!」という言葉は、当時のロック・シーンにおいてきわめて異例なキャッチコピーだった。新曲でも新作でもなく、「Brianが戻ってきた」こと自体が最大の商品価値として打ち出されたのである。それは同時に、Brian Wilsonという存在が、いかに長く“不在”だったかを物語っている。
    1960年代中葉以降、彼はステージから退き、スタジオに引きこもり、やがて精神的にも音楽的にも崩壊と再生を繰り返す存在となった。『SMiLE』の挫折以降、バンドは「Brian不在でも前に進むバンド」として存続してきたが、ファンもメディアも“いつか戻ってくる天才”の幻想を捨てきれずにいた。1975年末、その幻想に現実味を与えたのがEugene Landyによる24時間管理プログラムだった。この治療によってBrianは確かに安定し、社交性を取り戻し、そして何よりも再び音楽を量産し始める。


 重要なのは、ここでの「回復」が必ずしも健全な回復ではなかった点だ。Landyの管理下でBrianは強烈なプレッシャーと期待にさらされ、「Brianが戻った」という物語は、本人の内面よりも先に周囲によって作られていった。1976年夏、Brianは久々のツアー復帰を果たすが、観客は彼の現在地よりも「天才の帰還」という物語を見に来ていた。その延長線上に生まれた『15 Big Ones』は、そこそこ商業的に成功を収めたが、その内容はファンやメンバーに複雑な反応を引き起こした。求められている“復活した天才”と、彼自身がやりたい“個人的で衝動的で管理されない音楽”。この内面のねじれこそが、当時の彼の音楽の核心にある。
 また、1970年代後半という時代背景と、このアルバムが放つ異様なまでの「ズレ」がある。
1977年といえば、世界はEaglesが描く洗練された「Hotel California」の憂鬱に浸り、一方でパンクの衝動やディスコの狂騒が世間を焼き尽くそうとしていた。そんな中、Brianが提示したのは、最新鋭の洗練でもなければ、破壊的な怒りでもなかった。彼が差し出したのは、重厚なアナログシンセが奏でる、狂った子供部屋のBGMだった。
 『Love You』を聴いてまず耳を打つのは、粘り気のある、時に「下品」とも形容されるほど図太いシンセサイザーの音色だ。かつての『Pet Sounds』でオーケストラを自在に操った指揮官は、ここでは一人スタジオに籠もり、おもちゃを手にした子供のようにシンセのノブを弄り倒した。 その結果生まれた音像は、洗練とは程遠い。低音はブヨブヨと波打ち、メロディはまるで遊園地の壊れたアトラクションのように不規則に跳ねる。この洗練の完全な放棄こそが、当時の批評家を困惑させている。
 かつての天使のようなファルセットはここにはない。長年の喫煙と不規則な生活によって、Brianの歌声は低く、掠れ、時に吠えるような野太い質感へと変貌していた。 しかし、その「ボロボロになった大人の声」で「惑星(Solar System)」や「テレビ司会者(Johnny Carson)」への素朴な愛を歌うという異常なコントラストが、このアルバムに唯一無二の切なさを与えている。この居心地の悪さの正体は、この「老いた肉体」と「退行した精神」が同居する、Brian Wilsonという人間の生々しすぎる実像そのものなのだ。
 その内面をあらわにした一例が『I Wanna Pick You Up』である。本作は甘美なポップソングの体裁をとりながら、成熟したパートナーを徹底的に赤ちゃん扱いする描写で、聴き手に強烈な生理的違和感を突きつける。体を洗い、足を拭うといった乳幼児への身体的介護を連想させる歌詞は、慈しみを超え、対象の主体性を剥奪する幼児化の様相を呈している。現代の倫理的視点で見れば、相手を無力な存在として固定化し、ケアを通じて支配欲を充足させるこの構図は極めて不均衡で危うい。「抱き上げられない現実」を認めつつ「心の中で抱き上げる」と歌う執着は、相手を完全に管理可能な存在として定義したいというエゴイスティックな願望の露呈に他ならない。この違和感の正体は、Brianが抱えた孤独の深淵であり、自らの救済のために他者を「無力な存在」へと作り替えようとする愛の恐ろしさそのものである。※1
 当時のThe BeachBoysは、世間からは「永遠の夏」を歌うノスタルジーの象徴として求められていた。そんな中、Brianがこの奇作を持って現れたことは、バンドにとってもファンにとっても一種のテロ行為に近かった。 『Love You』は、ヒッピー・ムーブメントの残滓からも、パンクの喧騒からも、ディスコの快楽からも完全に切り離された「孤島」だった。Brianは時代の潮流に乗り遅れたのではない。最初から、彼は自分だけの時間軸の中に、自らを閉じ込めてしまったのだ。
  このボックスが暴き出したのは「天才の完成された遺産」ではない。そこにあるのは、時代に背を向け、ボロボロの声で、無機質に鳴り続けるシンセ音に救いを見出そうとした、ひとりの男の孤独なつぶやきである。

 『SMiLE』から『Love You』へ、一本の線で結ぶ再解釈

The Beach Boys - We Gotta Groove (Visualizer)

 長らくThe Beach Boys史の中で、「未完の大作」と「奇妙で幼稚なカルト作」として正反対の位置に置かれてきた『SMiLE』と『Love You』。だが、この二枚を断絶ではなく一本の線として聴いたとき、まったく別の風景が立ち上がる。
 『SMiLE』でBrianが目指したのは、音楽によって世界を説明することだった。米国建国神話、歴史、自然、共同体。そのすべてを断片化されたモジュールとして組み上げ、編集によって巨大な構造体を作ろうとしたのである。しかし、その構想はあまりに過剰で、持続不可能だった。『SMiLE』の崩壊とは、単なるアイデアの失敗ではなく、「世界全体を背負おうとした」ことの限界だったと言える。
 約10年後に現れた『Love You』は、その反動のように見えるが、実際には重要な「方向転換」であった。Brianがここで捨てたのは音楽的野心ではなく、「説明しようとする意志」である。構造は極端に縮小され、言葉は幼児化し、楽曲は短い反復の中で完結する。しかしその内側では、『SMiLE』と同じ思考が脈打っている。断片化、反復、感情の宙づり、意味より響きを優先する態度。これらは形を変え、『Love You』の中に確かに息づいているのだ。
 『SMiLE』が世界を外側から捉えようとした音楽だとすれば、『Love You』は自分の内側だけを見つめた音楽である。Brianはもはや神話を必要としない。テレビ司会者、ベッド、恋心、その日の気分といった極めて私的な題材が、そのまま音楽になる。スケールは縮んだが、純度は高まった。ここにあるのは未処理の感情を未処理のまま鳴らすという、極端に誠実な表現だ。
 Brianは「Good Vibrations」の成功を経て、楽曲を最初から最後まで順番に書くのではなく、30秒から1分程度の「Feel」を大量に録音し、後でそれらをパズルのように組み合わせるモジュラー・アプローチを確立した。彼は音のテクスチャーや雰囲気を、それ自体で完結した一つの「制作単位」として扱っていたのである。 この思考は『Love You』へと直結している。かつての膨大なオーケストラによる「Feel」は、ここでは簡素なシンセサイザーの「執拗な反復(ループ)」へと姿を変えた。「Ding Dang」や「Let Us Go On This Way」に見られる、同じ衝動を別角度から叩き続ける手法。それは、断片を愛でるBrianのモジュラー思考が、一切の虚飾を剥ぎ取られ、剥き出しのまま提示された姿といえる。
 両作に共通するのは、ヴァース〜コーラスという伝統的な起承転結からの逸脱だ。『SMiLE』が各セクションを唐突に切り替えることで未知の風景を提示したように、『Love You』もまた、展開を拒絶するかのような短絡的なリフレインによって聴き手を迷宮へと誘う。そこにあるのは物語を語るための音楽ではなく、響きのテクスチャーそのものを提示する態度だ。音楽が時間軸に沿った進行を止め、その場に留まり続けるような「静止したダイナミズム」は、Brianがこの二つの頂点でのみ到達した特異な境地である。
 『SMiLE』の「Wonderful」等に見られた、高度な和声語法と童謡のような言葉の乖離。この「構造の複雑さ」と「意味の単純さ」のねじれこそが、Brianのアイデンティティだ。『Love You』の「I’ll Bet He’s Nice」の複雑な転調や、「The Night Was So Young」の解決を拒むコード進行。これらが子供の独白のような歌詞と密着して響くとき、そこにはフィルターなしの、無垢なBrianが露出する。
 モジュラー思考と言えば聞こえはいいが、単なるネタ切れや構成力の欠如ではないかということもあるかもしれない。確かに、かつての多層的なオーケストレーションに比べれば、あまりに短絡的なリフレインの連続に、ブライアンの才能の枯渇を見てしまうのは否定できない。 しかし、もしそれがネタ切れの結果だとしても、その『行き詰まり』を隠さず、そのまま音にしてしまう潔さこそが、この時期のブライアンの凄みなのだ。


『Love You』を「縮小されたSMiLE」として読む

 表層の音色や語彙を超えて、そこには『SMiLE』の中核的な発想が形を変えて生き残っている。
「Let Us Go On This Way」:セクションの唐突な切り替えや循環するコード進行、発展せずに同じ衝動を別角度から叩くメロディ。これはかつてのモジュール思考の極端な簡略化である。
「The Night Was So Young」:ベースラインが感情を牽引し、安定しないコードとメロディが常に“途中”の感覚を保つ。これは感情を解決しないまま宙づりにする『SMiLE』的叙情性の純化と言える。
「I’ll Bet He’s Nice」:幼児的な独白のような歌詞と、異様なほど洗練され転調の多い和声の乖離。意味は単純だが構造は複雑というBrian独特のねじれが露出している。

このボックスセットは、完成されたアルバムを単に並べたものではない。 幻のアルバム『Adult/Child』の「もしも」を追体験し、『Love You』の歪(いびつ)な純真さを解剖し、そしてカセットテープに吹き込まれた天才の独り言に耳を澄ます。
ここにあるのは名曲の羅列ではなく、Brian Wilsonという迷宮の「未加工の地図」である。以下に、その膨大なディスク内容の全貌と、各パートが持つ音楽的意義を詳しく見ていこう。

 DISC 1の核となるのは、2025年最新リマスターが施された『Love You』本編だ。近年の過度な音圧意識のミックスとは一線を画し、テープが持つ本来のダイナミクスを尊重したマスタリングが光る。シンセサイザーのざらついた質感や重厚なベースの響きが、不自然に削られることなく耳に届く。無理にクリアにしすぎず、当時の録音現場の空気を守り抜いた誠実な仕上がりだ。Disc 1後半のアウトテイク集では、その多くに当時のミックスを採用するという大胆な手法が取られている。これは現代の視点で整えられた音ではなく、Brianが当時スタジオで聴いていたであろう「その瞬間の音」に立ち会う体験を優先した結果だろう。
 「Sherry She Needs Me」特筆すべきはこの曲の収録だ。2013年の『Made in California』で聴けたヴォーカル追加版はどちらかといえば、資料的価値の高さという意味で貴重だった。本作では1976年当時にもし正式リリースされたらどうなったか?という原初の姿が、余計な現代的補正がなく、当時のエコー処理・定位が生々しい荒削だが純度の高い音質で収められている。この時代ならではの瑞々しさと切なさが同居する響きを体験できるのは、ファンにとって格別の喜びと言える。「Ruby Baby」や「Marilyn Rovell」、「Lazy Lizzie」といった楽曲群が、1976年当時の生々しい質感で蘇る。
 最新ミックスされた「We Gotta Groove」は、長年欠落していたリード・ヴォーカルが本来あるべき位置に据えられ、ついに完成形を見た。ザクザクとしたリズムと地鳴りのようなチャント風コーラスが絡み合う様は、この時期のBrianの力強さを証明して余りある。また、アルのリードによる「Love Is A Woman」、奇妙だが楽しい長尺ギター・イントロ付きの「Johnny Carson」などの別テイク群も秀逸だ。
 ディスクの掉尾を飾る「You’ve Lost That Lovin’ Feelin’」は、今回のオリジナル・ミックス。Phil Spectorの畏敬と、Brian独自の狂気的なまでの音の厚みが、かつてない明瞭さで迫ってくる。
 このセッションに詳しいファンなら、「Hey Little Tomboy」が収録されていないことに気づくだろう。まず、レコード会社とBrian Wilsonの管理団体がおそらく最も優先したのは、Brianという個人の尊厳を守ることだった。『Adult/Child』制作時のBrianは「大人と子供の境界」が崩壊していた。この曲に含まれる「膝の上に座らせる」といった、現代の基準では性的搾取と直結する描写を「Brian Wilsonの芸術」として再提示することは、彼のレガシーに拭い去れない泥を塗るリスクがあると判断されたのだろう。つまり、楽曲を削除することは、彼を「加害者」的な視線から守るための、苦渋の選択だったと思われる。

   Disc 2の幕開けを飾るのは、幻のアルバム『Adult/Child』セッションから厳選された9曲のオリジナル・ミックスだ。この素材は長年にわたり、マニアの間で多種多様な音源クオリティやミックスが入り乱れる形で流通してきた。それだけに、あえて当時のミックスを体系的な形で提示した今回の判断は、実に素晴らしいと言わざるを得ない。そこにはBrian特有のメロディ感覚や和声の妙が随所に息づいてはいる。しかし、何より必要だったのは、これこそが一切のフィルターを通していない「濾過されていないBrian Wilsonそのもの」なのだ。
「Life Is For The Living」は本作の中でも目立つ一曲であり、このアルバムがしばしば「ビッグバンド作品」と誤解される理由でもある。とはいえ、全体の感触はむしろ『Love You』に近い部分も多い。テンポ修正された「It’s Over Now」も収録されている。「Still I Dream Of It」は1993年以来初の公式リマスターとなり、明らかに音質が向上している。
 「New England Waltz」は、オリジナル・ミックス群の最後に配置されているが、これまで劣悪な音質でしか聴けなかった音源が、ようやくまともな形で聴けるようになった。
続いて「Life Is For The Living」「Deep Purple」「It’s Over Now」「Still I Dream Of It」のバッキング・トラックが収録される。後半3曲は2025年ミックスで、特に充実した選曲だ。

Disc 2の後半は、この時代の多種多様な楽曲が散りばめられ、主役の座がCarlとDennisへと引き継がれていく。
   Carlの熱狂的なファンならば、このDennisの名曲「Holy Man」に吹き込まれたCarlのガイド・ヴォーカルは諸手を挙げて歓迎するだろう。ほぼ全編をスキャット的な歌唱でなぞっており、そのミックスの仕上がりは素晴らしい、の一言に尽きる。続くCarlの未発表曲2曲のうち、「Carl’s Song #1 (It Could Be Anything)」もレアな一曲だ。「Surf’s Up」から『Carl & The Passions』期に至る彼の最良の瞬間が結晶化したような楽曲で、ここでも瑞々しいガイド・ヴォーカルが深い余韻を残す。一方の「Carl’s Song #2」は、後に『L.A. (Light Album)』へ収録される「Angel Come Home」の原型にあたる。ヴァースやブリッジはほぼ形を成しているが、あの特徴的なサビがまだ生まれていない制作途中の姿を捉えている。
    Dennisはここで、70年代半ばの彼らしい壮大なサウンドを2曲提示している。「String Bass Song」は、後に『Pacific Ocean Blue』に結実する「Rainbows」の萌芽であり、二部構成の「10,000 Years Ago」は、前半が『Bambu』期の「Are You Real」へと繋がり、後半はMikeも制作に関与した「10,000 Years Ago」そのものの形をとっている。
   また、Brianによる1977年版「Gimme Some Lovin’」にも注目したい。近年の90年代以降のソロ作品を彷彿させるアプローチとなっており、彼が特定のモチーフやリフを反復し、再構築していく創作過程を追えるのは非常に興味深い。Marilynが歌う「Honeycomb」は、優しくも切ない仕上がりだ。独唱から始まり、徐々に伴奏が重なっていく構成も実に美しい。
 Disc 2の終幕を飾るのは、1975年に録音された「In The Back Of My Mind」のデモ・新ミックスである。かつて『No Pier Pressure』の限定特典として陽の目を見た音源だが、今回ついに正式収録となった。ライナーノーツが記す通り、Brianの歌唱とTandyn Almerのピアノで綴られるこの音源は、アルバムの締めくくりにふさわしい深い感慨を抱かせる。

 Disc 3の幕を開けるのは、いわば「もうひとつの『15 Big Ones』」とも呼ぶべき音源群だ。マニアックな聴き手であれば、本作に『15 Big Ones』のオリジナル・テイクが丸ごと収録されていない事実に、一瞬の戸惑いを覚えるかもしれない。しかし、シリーズが深まるにつれて対象がより先鋭的なファン層へと移行するなか、既発のアルバムを型通りに再録することに拘泥しないという、確固たる編集方針がここには貫かれている。
 「Just Once In My Life」の鮮烈な新ミックスを合図に、アルバム本編からは漏れたオールディーズ・カヴァーが次々と繰り出される。「Mony, Mony」「Running Bear」「Shake, Rattle And Roll」「On Broadway」「Sea Cruise」……いずれも音質の見違えるような向上には驚かされるばかりで、エンジニアであるやSaezの手腕には、ただただ舌を巻く。中でも「On Broadway」は、Alのリード・ヴォーカルを堪能できる逸品だ(邪魔な観客SEが排されているのも最高だ)。さらに「Chapel Of Love」や「Short Skirts」もリミックスが施されたことで、その真価を改めて世に問う仕上がりとなっている。
 また、「TM Song」「Rock And Roll Music」「Solar System」の3曲は、にコーラス付きバッキング・トラックでの収録。特筆すべきは「Solar System」で、最終的にヴォーカルのみが残る構成へと移行していく様は、実に壮麗というほかない。
 「Had To Phone Ya」と「Mona」のミックスはユニークだ。曲が進むにつれ、楽器が増減しボーカルが出たり消えたりする、制作の時系列を再現した構成。とりわけ「Mona」のエンディングは秀逸で、簡素なシンセサイザーと歌声が美しく溶け合いながらエンディングに向かっていく。
 聴きどころはまだ続く。「Just Once In My Life」のバッキング・トラックは音場が劇的に広がりを見せ、「Let Us Go On This Way」ではCarlのリードを前面に押し出した別ミックスを聴くことができる。また、Bill Hinscheがリードを取る「Honkin’ Down The Highway」や、エディットされる前の生々しいセッション風景を伝える「Ding Dang」など、資料的価値と音楽的感動が同居したトラックが並ぶ。そして、圧巻なのはやはり「The Night Was So Young」のヴォーカル・オンリー版だろう。その純度の高い響きの美しさを再認識させられる。「Let’s Put Our Hearts Together」には未発表のコーダが付け加えられており、古風で甘美なハーモニーがいつまでも続いていくかのような錯覚に陥る。
 ラストを飾るのは、カセット・デモ。 長年知られていたテープだが、長年マニアの間で語り継がれてきたプライベート録音の究極の復元である。かつてない鮮明なリアリティで蘇ったその音場からは、Brianが紡ぎ出す旋律の魔法に、Mikeが魂を奪われている様子が克明に伝わってくる。思わずハミングで寄り添い、感極まったように称賛の言葉をこぼすビジネスマンではなく朋友としてのMike。その剥き出しの反応は、ビジネスとしての「復活」という虚飾を剥ぎ取った先に残る、真の巨匠の閃きの記録に他ならない。
 しかし、この親密な芸術的瞬間に冷や水を浴びせたのが、あまりにも非情な現実――シングル「Honkin' Down the Highway」の歴史的爆死であった。前年に全米5位のヒットを飛ばしていたグループが、チャート100位圏外という前代未聞の惨敗を喫したのである。
この結果を危惧したMikeは、ビジネスとしての冷徹な判断を下す。「これ以上Brianの奇行に付き合えばバンドは持たない」と確信した彼は、主導権を変更。Brianが次に完成させていた、未発表アルバム『Adult/Child』を「売れない」と一蹴し、お蔵入りへと追い込む。
本作を境に、バンドは新らしいアイディアで勝負する表現者としての看板を下ろし、過去の栄光をなぞる「懐メログループ」へと舵を切ることとなる。Brianは再び深い隠遁の淵へと沈み、ファンにとっては長きにわたる「冬の時代」が始まった。
ブックレットには、完全なセッショノグラフィーが収録されており、テープ形式に至るまで詳細に記録されている。

 完成度や成功といった既存の物差しでは、この時期の音楽を測ることはできない。しかし、このボックスセットに収められた音源は、復活という名の狂騒の裏側で、ひとりの作曲家が何を掴み、何を捨てようとしたのかを克明に伝える、あまりに切実な痕跡だ。The Beach Boysが単なるポップ・グループではなく、ひとりの天才の魂の生存記録であるならば、このセットは彼らの歴史の中で最も人間味に溢れ、そして最も美しい証言集となるだろう。

P.S Top画像はAI生成画像である、あくまでシャレ・戯れに過ぎず、実在のスタジオ風景とは無関係であることを申し添える。


※1 編集部補足:歌詞の解釈については、作者であるBrian Wilson本人の1976年の発言に沿ったものであり、執筆者の主観的考察だけではないのでご留意願いたい。以下引用。

"The song is descriptive of a man who considers this chick a baby, and he says, 
"Well, you still have a baby in you. You're still like a baby to me. You just sorta have that thing and I want to pick you up." Even though she's too big to pick up, of course. 
But he wants to; he wants to pretend she's small like a baby: He really wants to pick her up!"


2026年2月4日水曜日

生活の設計 『長いカーブを曲がるために』

”大塚兄弟主演、フェリスはある朝突然に” 

 ロックバンド“生活の設計”が、セカンド・アルバム『長いカーブを曲がるために』を2月11日にアナログLPでリリースする。今月7日には本リリースを記念したワンマンライブを開催するので参加する読者もいるだろう。

 本作『長いカーブを曲がるために』は、昨年10月15日に配信で先行リリースしたアルバムなので、既に愛聴している読者も多いと思うが、そんな配信音源より再生周波数の帯域が格段に広く、高音質で聴けるばかりか、所有感を味わえるなどアナログLPのメリットは多々あるので、拘りを持つ音楽ファンは是非入手して頂きたい。

左から大塚薫平、大塚真太朗
 
 彼ら生活の設計のプロフィールは、先月のワンマンライブの記事で触れたばかりだが、リーダーでボーカル兼ギター、ソングライターの大塚真太朗と、実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平による2人組のロックバンドである。前身バンド“恋する円盤” や“Bluems (ブルームス)”時代を含め、9年以上の活動経歴を持っており、2023年4月にファースト・フルアルバム『季節のつかまえ方』、同年11月に7インチ・シングル『キャロライン』をリリースしている。なお本作『長いカーブを曲がるために』に収録された内2曲は、GREAT3(1994年~)の片寄明人がプロデュースを手掛けており注目なのだ。
 またバンドのデビュー当時から、元ピチカート・ファイヴで著名クリエイターの小西康陽氏から高評価を得ており、ファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』では対談記事が掲載され、その存在は音楽マニアから一般層にも広がっている。特筆すべきことに今年1月11日には、テレビ朝日の人気音楽番組『EIGHT-JAM』の【プロが選ぶ年間マイベスト2025】にて、元SUPERCARのギタリストで現在作詞家兼音楽プロデューサーとして活躍する、いしわたり淳治氏に、本作収録曲「小東京(リトル・トーキョー)」を選出されるという快挙もあり、今後彼らの活動もより一層注目されるだろう。


 ここでは筆者による収録曲の詳細解説と、メンバー2人が本作の曲作りやレコーディング中、イメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。
 冒頭の「街とダンサー」は、大塚(真)作らしい青春ブルーアイドソウルと呼べる、ポジティブながら散文詩的歌詞と躍動的なグルーヴが眩しい。サビの「しかめつらでもいいよ 帰り道はでかい音で音楽を聴くよ・・・」というライン、右チャンネルやセンターで聴ける、ゲスト・ギタリストの元Seukolの廣松直人によるブルージーなリフが強く耳に残り、曲の重要なエレメントとなっている。歌詞と曲の完成度が高く、冒頭のリード曲として相応しい。
 続く「稀代のホリデイメイカー」は昨年9月17日に先行配信リリースされたシングルで前出の通り、片寄明人がプロデュースをした2曲の内の1曲で、レコーディングにはGREAT3のサポート・キーボディストで数多くのセッションで知られる堀江博久と、セッションマンとしてメジャー・ワークも多い井上真也が参加している。
 アップテンポなシェイクビートに、Pico(樋口康雄)の「I LOVE YOU」(1972年)を彷彿とさせる和製ノーザン・ソウル風コード進行とスキャットのイントロでまずは耳を奪われるが、「とにかく外へ出て、旅に出て、さまざまなものを体験しよう」というテーマを持つ歌詞と大塚(真)の溌溂したボーカルが、メロディアスでポップなロック・ミュージックの心地良さを思い起こさせるナンバーに仕上がっている。大塚(薫)のやや前乗りのドラミングに、井上のバックビートにアクセントを持つべース・ラインが独特なグルーヴを形成し、堀江によるオルガンもメインのコード・ワークの他、グリッサンドのアクセント、スタッカートを活かせたオブリガード的リフなど多彩なプレイを繰り広げている。曲が持つべき方向性に的確に導いていくという、片寄のプロデュース力(りょく)を垣間見れる。

片寄明人

 3曲目の「いちょう並木の枯れるまで」は、弊サイト読者にも強くアピールする東海岸シャッフルのリズムを持つソフトロックで、アルバム・リリース前のライブでも披露されており、筆者も生で聴いて直ぐに気になった曲である。弊サイト前進のVANDA監修書籍『ソフトロックA to Z』で発掘された、ジェリー・ロス(Jerry Ross)のプロデュースでジョー・レンゼッティ(Joe Renzetti)がアレンジした、Keithの「Ain't Gonna Lie(嘘はつかない)」をオマージュしており、ソフトロック・マニアは唸る筈だ。
 A面ラストの「いさかいないせかい」は、片寄がプロデュースしたもう1曲で、フィラデルフィア・ソウル風のギター・リフ、Stax Records~Hi Recordsでドラマー兼プロデューサーとして活躍したアル・ジャクソン(Al Jackson Jr.)が編み出したリズム・パターン、ノーザン・ソウル風のフレーズ(「Am I The Same Girl」(「Soulful Strut」でも知られる))がモザイクでオマージュされたポップスだ。歌詞のテーマがユニークで、日常の情景から反戦イズムに繋がっていくというのが、作者である大塚(真)の世界観なのだろう。サウンド的にも大塚(薫)と井上によるリズム隊のグルーヴ、堀江のアープ系アナログ・シンセの温かみのあるソロなど聴きどころは多い。


 B面冒頭の「タイニー・シャイニー」は昨年12月6日にアナログ・7インチでシングルカットされていて、ポール・ウェラーがフロントマンだったThe Jam(1972年~1982年)に通じる、パンキッシュなネオモッズ感覚のサウンドが特徴だ。大塚(真)による退屈な日々から逃避行したクラビングのワンシーンを切り取った歌詞が瑞々しく、彼のボーカルもこのようなアップビート・ナンバーでは一層映える。ゲスト参加したHedigan's(ヘディガンズ)のギタリスト、栗田将治がプレイするリード・ギターの存在感は極めて大きく、双方にとって意義のあるコラボレーションとなった。また大塚(薫)の激しいドラミングとコンビネーションするのは、ゲスト参加したLIGHTERSのべーシスト清水直哉だ。
 同曲7インチのカップリングだった「君に起こりますように」は、レギュラー・サポートメンバーであるベーシストの大橋哲朗とキーボーディストの眞﨑康尚が参加し、大塚(真)のジェントルな歌詞とボーカル、眞崎による印象的なピアノが耳に残るラヴソングだ。ミドルテンポでメロディックなソフトロック調のサウンドで、米東海岸シャッフルのブリッジを挟んでいてアレンジ的にも凝っており、弊サイト読者にもアピールした好ナンバーに仕上がっている。

 続く「ポモドーロ」は、眞﨑のウーリッツァー系エレピがメインコードを刻む、変拍子パートを持つ2分15秒の小曲だ。大塚(薫)と大橋のリズム隊も特殊なテンポ・チェンジを巧みにプレイしている。タイトルのポモドーロはイタリアンのトマトソース・パスタ名で、歌詞のモチーフの一つで、ガールフレンドとのローマ旅行がテーマになったラヴソングに仕上がっている。
 B面ラストの「小東京(リトル・トーキョー)」は、前出の通り、『EIGHT-JAM』の【プロが選ぶ年間マイベスト2025】でいしわたり淳治氏に取上げられたばかりでなく、日本テレビ系ニュース番組の天気コーナーで一時タイアップされていた軽快なポップスだ。レギュラー・サポートメンバーであるパーカッショニストの關街によるコンガに絡むクランチ気味な廣松のエレキギター、大塚(薫)のビートも乗って展開していく。
 この曲も歌詞の世界観がユニークで、ラヴソングの要素もあるが、高倍率ズームレンズでその視点が瞬時に移動していくのが興味深く、大塚(真)の高い作詞能力を感じさせる。その他のゲスト・ミュージシャンは、キーボーディストの眞﨑、べーシストの清水が参加している。
 

生活の設計『長いカーブを曲がるために』
プレイリスト  
 
大塚真太朗
 アルバムを聴いてもらった人でソフトロックやソウルミュージックを愛好しているリスナーだったらすぐ分かる、というかこのWebVandaの読者の方々にはすぐわかってしまう曲ばかりを元ネタにしているので、列挙するのも野暮かもしれませんが、、

でも曲名やアーティスト名をこうして書いてみるだけで心がウキウキする大好きな曲ばかりです。
  「タイニー・シャイニー」に多大なる影響を与えた「恋はヒートウェーヴ 」はもちろん原曲も大好きですがあえてTHE COLLECTORS版で。ザ・リボンズというバンドの『君に届かない歌を大いに歌う』という作品に興奮した体験も曲に入れています。

 何卒『長いカーブを曲がるために』をよろしくお願いいたします。

■A Week Away / Spearmint(『A Week Away』1999年)
■Ain't Gonna Lie / Keith(『98.6 / Ain't Gonna Lie』1967年)
■I’ll Be Around / The Spinners(『Spinners』1973年)
■恋はヒートウェーヴ / THE COLLECTORS(『愛ある世界』1992年)
■Too Young To Be One / The Turtles(『Happy Together』1967年) 


大塚薫平
 友達のミュージシャンや日頃支えてくれているサポートミュージシャンとの共作を通じて身近なバンドの音楽に触れる機会が増えた。それと同時に、ソリッドでいて勢いのある60、70年代のロックのドラムやそこのリファレンスを受けた音楽を意識して制作にあたっていました。
 「稀代の〜」のリハでKey堀江さんに「(そのような)勢いあるドラムは年取ると出来なくなるよ」と言われました。なるべくずっとやれるよう筋トレしてます。

■In The Modern World / Fontaines D.C.(『Romance』2024年)
■マンション / Hedigan‘s(『Chance』2025年)
■It’s Not True / The Who(『My Generation』1965年)
■It’s Ok To Cry / Phoebe Katis(『It’s Ok To Cry』2020年)
■Deadstick / King Gizzard And The Lizard Wizard 
(『Phantom Island』2025年)



 なお本作はプレス枚数限定のアナログLPで、インナースリーヴの歌詞とクレジットの裏面にメンバーの大塚兄弟とプロデューサーの片寄明人への“ここでしか読めないインタビュー”が掲載された特別仕様となっている。
 筆者の収録曲の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは、早期にリンク先のショップで予約して入手しよう。

disk union 予約:こちらをクリック

(テキスト:ウチタカヒデ





高音質配信
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2026年1月24日土曜日

生活の設計 『長いカーブを曲がるために』リリース記念 ワンマンライブ


 昨年10月15日にセカンド・アルバム『長いカーブを曲がるために』を配信で発表していた“生活の設計”が、同アルバムを2月11日にアナログLPでリリースする。それを記念したワンマンライブ が2月7日に開催されるので紹介したい。

 まずは彼ら生活の設計のプロフィールに触れよう。リーダーでボーカル兼ギターの大塚真太朗と、実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平による2人組のロックバンドで、前身バンドの“恋する円盤” や“Bluems (ブルームス)”時代を含めると、9年以上の活動経歴になる。2023年4月にファースト・フルアルバム『季節のつかまえ方』、同年11月に7インチ・シングル『キャロライン』をリリースしており、最新作『長いカーブを曲がるために』に収録された2曲は、GREAT3(1994年~)片寄明人がプロデュースを手掛けて話題になっている。
 デビュー当時から元ピチカート・ファイヴの小西康陽氏から高評価を得ており、ファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』にも取り上げられ、その存在は音楽マニアから一般層にも広がっている。更に今年1月11日には、テレビ朝日の人気音楽番組『EIGHT-JAM』の【プロが選ぶ年間マイベスト2025】にて、元SUPERCARのギタリストで現在作詞家兼音楽プロデューサーとして活躍する、いしわたり淳治氏に収録曲「小東京(リトル・トーキョー)」を選出されるなど、彼らの前途は非常に明るいと言える。

 そんな彼らの『長いカーブを曲がるために』アナログLP・リリース記念ワンマンライブだが、サポートメンバーには、サブメンバーと言えるキーボーディストの眞崎康尚、べーシストの井上真也、パーカッショニストの關街に加えて、ゲスト・ギタリストとして、昨年12月に7インチでシングルカットした『タイニー・シャイニー』でフューチャーされたHedigan's(ヘディガンズ)の栗田将治も参加する。
 そしてライブの前後を飾るDJ陣には、収録曲の「稀代のホリデイメイカー」と「いさかいないせかい」をプロデュースした片寄明人に加えて、彼らの良き理解者である小西康陽氏も参加ということで、嘗ての渋谷系重要人物が顔を揃えるという極めて貴重なライブとなるので、興味を持った音楽ファンは直ぐに予約して欲しい。
 生憎であるが、この記事を執筆後の1月19日に前売り予約分がソールドアウトしてしまったので、当日券のアナウンスを彼らのSNSでチェックしよう。


生活の設計 『長いカーブを曲がるために』
リリース記念 ワンマンライブ 

日時:2026/2/7(土) 開場19:00 開演19:30 

会場:月見ル君想フ (東京都)
東京都港区南青山4−9−1

出演者:生活の設計
サポートメンバー
Key. 眞崎康尚
Ba. 井上真也 
Per. 關街
+Guest Gt. 栗田将治


開演前DJ:片寄明人

終演後DJ:小西康陽

前売り予約券SOLD OUT!!
※当日券の情報はコチラをチェック


(テキスト:ウチタカヒデ







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2026年1月11日日曜日

Megu:『めしませルルボン』インタビュー★ゲスト~フレネシ

 
 新潟在住のアイドル・ユニットNegicco(ネギッコ)のメンバーMegu(メグ)が、才女フレネシのプロデュースによるニューシングル『めしませルルボン』(Fall Wait Records / FAWA-0035)を1月14日にリリースする。 

  Negiccoとしては、2024年に結成20周年記念ミニアルバム『Perfect Sense』5thオリジナルアルバム『What A Wonderful World』をそれぞれリリースして弊サイトでも紹介したのが記憶にあると思う。そんな彼女達はリーダーのNao☆をはじめ、MeguとKaedeも2021年までに全員既婚者となり、翌年揃って出産も経験している。昨年9月にはKaedeが第2子を出産し現在育児休暇期間だが、全員がこうした経験をしているアイドル・ユニットというのは稀であり、現在も活動続行中というのは、音楽業界やファンにとって素晴らしいことである。
 過去弊サイトではメンバーのソロ作品として、Nao☆のソロ・シングル『菜の花』(2018年)Kaedeの『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』(2020年)を紹介しているが、今回初めてMeguのニューシングル、しかも11年振りに音楽活動を本格的に再開したフレネシがソングライティングとアレンジ、プロデュースまでおこなっているということで紹介したい。


 本作『めしませルルボン』は前出の通り、唯一無二の世界観を持つ女性シンガーソングライターのフレネシがソングライティングとアレンジ、プロデュースを担当しており、Megu の声質を活かした、陽だまりを感じさせるシャッフルの愛らしいフレンチ・ポップ風に仕上げている。 イントロ無しで始まるサビのキャッチーなリフレインが最も特徴だが、シャッフル・リズムのヴァースAとBでハイハットのパターンを細かくチェンジさせたり、ブリッジはアンディ・パートリッジ(XTC)作品を彷彿とさせる英国モダンポップの捻じれたメロディーラインにするなどフレネシならではの拘りのセンスを感じさせた。
 パッケージにも触れるが、Meguのソロ作ではお馴染みとなっている、”CD+フォトブック”仕様で、本作の世界観からインスパイアされたクラシカルなロリータ・ファッションに身を包んだビジュアルはMegu も初挑戦ということで、ファンの興味を湧かせるだろう。 
 さてここでは、昨年10月の無果汁団11月の長谷川カオナシのレビュー記事と同様に、本作をプロデュースしたフレネシへのインタビューをお送りする。


特別インタビュー★ゲスト~フレネシ

◎活動再開で多忙な中ありがとうございます。
まずはNegiccoのメンバーであるMeguさんとの出会いを聞かせて下さい。Negiccoが新潟地区のアイドルから全国的に知られるようになる以前に、ご自分のコラムでインタビューされていたとか。北園みなみもそうでしたが先見の明がありますよね。

フレネシ:「先見の明」とは恐れ多いです。私より耳の早いリスナーが紹介していたのを目にして、音を聞き、ぜひインタビューをしたいと思っただけで…。私よりも先に紹介していた誰かの拡散力があってこそ私にも届いたのだと思いますし、何よりNegiccoさんや北園さんが魅力的だったということに尽きると思います。 

 ◎そうですか、フレネシさんが取り上げたことで彼女達のことが更に知られるようになった切っ掛けの一つになったと思いますよ。ご自分でNegiccoを聴いて興味をもったということで、きっかけになった曲を教えて下さい。
因みに 私が今でも好きなのは『ティー・フォー・スリー』(2016年)収録ヴァージョンの「おやすみ」でして、ユメトコスメの長谷泰宏君のストリングス・アレンジ含め完成度が高いと思っています。 

フレネシ:きっかけになった曲は「圧倒的なスタイル」だったかな…。「トリプル!WONDERLAND」あたりも大好きですね。

「圧倒的なスタイル」/「トリプル!WONDERLAND」
 

◎今回そんなMeguさんに楽曲を提供するに至った経緯は? 

フレネシ:一番最初は、6月19日にマネージャーさんからフレネシの通販サイト「フレネシ学園洋品店」あてにオファーが来たと、ディストリビューターのブリッジさんから連絡を受けました。その時点のメールには具体的なことは書かれておらず、私もまだ活動再開という状態ではなかったものの、奇しくも先にオファーを受けた長谷川カオナシさんと最初のミーティングをした日で、いよいよCubase(Steinberg社製DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)ソフト)を立ち上げて、トラック組んでいくぞ!と決意をした直後で…休眠状態から創作モードに脳が切り替わったタイミングだったんです。
翌日のメールで、Meguさんの声にフレネシの曲が合うのではないだろうかというところで、オファーをいただいたことが明らかになりました。 

 ◎そういう経緯だったんですね。確かにNegiccoの中では高域でウィスパー系の声質を持つMeguさんにはフレネシさんの楽曲は合うと思います。
Meguさんの歌唱スタイルや声のキャラクターにはどういう印象を持ちましたか?

フレネシ:ふわふわとした、羊毛のような綿雲のような柔らかさでしょうか。
ソフトフォーカスの似合う声には、デジタル候なアレンジよりもクラシカルな生楽器的サウンドに軸足を置いたアレンジが合うように感じました。 

◎では本作『めしませルルボン』のテーマ、コンセプトをお聞かせください。

フレネシ:Negiccoの拠点の新潟といえば、とあるお菓子が有名かと思いますが、そのお菓子を擬人化した楽曲となっています。
お菓子の「勝手にCMソング」を作る構想はずっと前からあって、ここでようやく実現したというわけです

◎昭和から多くの家庭で親しまれた洋菓子がヒントになっているんですね。お米の生産量が日本国内で長年トップの地なので、米菓(せんべい、あられ)メーカーさんはよく知られていますが、そのカテゴリー外の洋菓子で全国に広まりロングセラー商品を多数発売したという、新潟県発祥商品のポテンシャルの高さを物語っていますね。そんなお菓子の「勝手にCMソング」というコンセプトは非常に面白いと思います。さすがですね! 
曲作りやアレンジのアイディア、レコーディング時のエピソードなどはありますか?

フレネシ:Meguさんからフレネシ「8:30のテーク」のようなアレンジで…とリクエストいただき、シャッフルのリズムパターン、メジャーコードを軸に組み立てていきました。
「8:30のテーク」直系というよりも、Meguさんのソフトなイメージにフィットしそうな、マーゴ・ガーヤン的なマイルドさを目指しました。 

◎アレンジの参考で「8:30のテーク(八時半のテーク)」(『ドルフィノ』収録/2013年)をリクエストで挙げられたということは、Meguさんやスタッフの方々はフレネシさんの作品を熱心にチェックしていたということですよね。この曲の牧歌的なシャッフルのリズムは、それこそ洋菓子のCMソングをイメージさせますよ、某社の◎◎◎エクレアとか。
今回フレネシさんがモチーフの一つにされたマーゴ・ガーヤン(Margo Guryan)は、弊サイト前進のVANDAが監修した書籍の『ソフトロックA to Z』で発掘され取上げたことが切っ掛けで、渋谷系ミュージシャン達に広く知られるようになったと思います。元々ジャズを専攻していて若くしてアーメット・アーティガンやクリード・テイラーに認められた才女ですが、今でもソフトロックの範疇で信奉者が多く、ジャケット・デザインまでオマージュされています。
そしてマスタリング直後の本作『めしませルルボン』を先日聴きまして、イントロ無しで始まるサビのリフレインや独特なメロディーラインで直ぐに心を掴まれました。シャッフルになるヴァースは確かにガーヤンの「Thoughts」(『Take A Picture』収録/1968年)などに通じます。何よりMeguさんの声質にマッチしているので、理想的なオファーだったと考えます。
 
『Take A Picture』/ Margo Guryan
『ソフトロックA to Z』シリーズ

フレネシ:マーゴ・ガーヤンが広く知られるようになったきっかけが『ソフトロックA to Z』というのは、まさにその通りでしょうね。雨の滲む窓越しにこちらを向いたご本人のアンニュイな表情が印象的なカバーデザインの「テイク・ア・ピクチャー」が唯一のアルバムとして知られていますが、リファレンスが明確にあるというわけではなく、今作のAメロに「雨樋はメトロノーム」という歌詞があり、雨がモチーフのひとつとなっているあたりにオマージュ要素があったりします。


◎では本作『めしませルルボン』のピーアールをお願いします。

フレネシ:楽曲のテーマにまさにぴったりな、Meguさんの初ロリータ衣装に注目! 本当に良くお似合いで、これまで衣装としてお召しになったことがなかったのが不思議なくらい…フォトブックを眺めつつ、メルヘンでスウィートなお菓子たちの宴ソングに浸っていただけたら嬉しいです。


◎そう言えば、フレネシさんは昨年12月22日に新曲「おやすみルナモス」を配信リリースされたばかりでしたね。この曲のテーマや曲作りのアイディアも聞かせて下さい。
またレコーディングにはテルミン奏者の方が参加されたそうで、エピソードがあればお願いします。

フレネシ:この曲は、まだ20代だったころに、渋谷のミニシアターで「ラジュテ」のオールナイト上映を観た帰りだったかと思うのですが、夜明け前の路上で季節外れのオオミズアオが死にかけて震えているのを見かけて、それがずっと記憶の片隅に残っていて…。「呪い」がコンセプトのアイドルグループ、じゅじゅの元メンバー、ねうちゃんへの提供曲として、バレエをモチーフにしつつ、あのときのオオミズアオを主役にワルツの曲に仕上げました。

今回、セルフカバーするにあたって、コーラスのラインを新たに追加し、サビのストリングスのラインをテルミン奏者の街角マチコさんにテルミンで演奏していただきました。

◎多忙な中今回もありがとうございました。


フレネシ・プロフィール 
8歳で、ささやき声しか出なくなる。20歳で衝動的に音楽活動を開始し、大学卒業までの2年間に50曲余りを作曲。 
2009年6月、乙女音楽研究社からリリースした初のフルアルバム『キュプラ』が、HMV インディーズチャート1位、カレッジチャート1位を獲得し注目を集める。
その後、『メルヘン』『ゲンダイ』『ドルフィノ』の3枚のアルバムを発表したのち、2014年12月27日のワンマンライブ「フレネシ学園 伝説の終業式」をもって活動を無期限休止。
2020年にストリーミング配信が開始されたことで海外の音楽ファンを中心に新たな注目を集め、 累計再生回数は数千万回に達し 「渋谷系のビョーク」とも称される。
2025年10月31日に11年ぶりの新作『除霊しないで』を発表し活動再開を宣言、さらには12月22日に『おやすみルナモス』を発表し、大きな話題を呼んでいる。
★フレネシofficial site:https://frenesifrenesi.com/ 
◎関連記事「ネシ子が会う」Negicco・Megu (第二十回)
◎最新配信シングル「おやすみルナモス」









【Megu「めしませルルボン」発売記念イベント】

【出演】Megu、フレネシ

【日時】2026年1月16日(金)18:30スタート

【会場】タワーレコード錦糸町パルコ店 イベントスペース

【内容】トーク&特典会

フレネシ告知動画

詳細はNegicco・official site内NEWSを: https://negicco.net/live_information/detail/30324


(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ