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2025年12月26日金曜日

WebVANDA管理人選★2025年のベストソング


 今年も恒例のWebVANDA管理人が選ぶ年間ベストソングを発表したい。
 幣サイト母体のVANDA誌が指向するソフトロック系ではないカテゴリーの楽曲も一部選出しているが、これまで同様に分け隔てなく音楽の多様性を許容することが管理人の信条であるので、どうか理解して頂きたい。選出した楽曲は、今年2025年にリリースされ、弊サイトで取り上げた作品を中心に、管理人が執筆前に幾度もリピートした収録曲であり、アルバムを象徴する曲である。
 今回もインディーズ・レーベルからリリースされたミュージシャンの作品が多く、プロモーションがメジャーに比べて限定的な彼らを応援する意味で今後も続けていきたいと思う。毎年の繰り返しであるが、この記事で改めて知った各アルバムは、これからでも遅くないので、リンク先から是非入手して聴いて欲しい。
 今年も選出趣旨からコンピレーション、セルフカバーを除く他者のカバー作品は除外とした。昨年同様、順位不同のリリース順で紹介する。
    ※サブスク登録ベストソング・プレイリスト 


 ☆She Is Mine / 近藤健太郎 
(『Strange Village』収録・レビュー記事はクリック 
シャッフル・ビートで始まる、とっておきのソフトロックであるこの曲は、レジェンド・シンガー・ソングライター杉真理がコーラスで参加し、その美声でこの曲を格調高くしている。アレンジ的にもよく練られていて、共同プロデューサー及川雅仁がプレイするヴィブラフォンの旋律を聴いて切なくなるビーチボーイズ・ファンもいるだろう。詞曲共に完成度が高く、ファースト・ソロアルバム『Strange Village』を代表する曲である 。


 ☆子午線 / 北園みなみ
(『Meridian』収録・旧作レビュー記事はクリック
 Lampの2014年の『ゆめ』でその手腕を発揮していた鬼才クリエイターの10年振りの新作であり記念すべきファースト・ソロアルバムの冒頭曲である。転調とテンポチェンジを繰り返す、音楽を深く考える人のためのジャズファンクだ。ストリングス・セクションは、今も戦禍の中にあるウクライナはキーウのスタジオ”Kaska Records”にて、同スタジオの主でプロデューサーのアナトリー・シュマルグンの下でレコーディングされ、これ以上ない緊張感をこの曲に与えている。 


 ☆贅沢な週末を / Nagakumo
(同名配信シングル・旧作レビュー記事はクリック) 
2023年にも年間ベストに選出し、今も音楽通から熱く注目されている大阪の4人組ネオネオアコ・バンドの今年春の配信シングル曲。得も言われぬ疾走感と極上で甘酸っぱいサビのメロディ、表現力豊かで透明感のある紅一点コモノサヤのボーカルなど、そのスタイルはデビュー当時からであるが、メイン・ソングライターのオオニシレイジのソングライティング・テクニックも更に向上したように思える。来年にはニューアルバムを期待できるだろう。 


 ☆お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~ / スワンスワンズ
(同名シングル・レビュー記事はクリック
偶然出会ったセルフ・プロデュース・アイドル・デュオのシングルで、3分弱の尺なのだがパート毎に転調を繰り返してメロディも複雑で、歌詞の世界にインスパイアされたこのサウンドは、サイケデリック・プログレッシブロック・マニアでないと作れない。特にサビのメロディはクラシック音楽の素養がないと編み出せないし、ブリッジのペンタトニック・スケールのメロでクールダウンさせるテクニックも巧みだ。そのセンスも含め令和のシド・バレットかロイ・ウッドと呼べる。 


 ☆Night In Soho / Wink Music Service
(同名7インチ・レビュー記事はクリック
拘りのポップ・グループWMSの7インチ・シリーズの第5弾。ロンドンのウエスト・エンドの一角にあったソーホー地区への憧憬の歌詞を持ち、曲調やサウンドも歌詞の世界そのままに60年代へのオマージュに満ちている。ジミー・ウェッブ作「Up, Up And Away」のリフが引用され、イントロやコーラスを含めたサウンド全般は、ソフトロックのエッセンスを濃縮して1989年に制作された英国のSwing Out Sisterの「You On My Mind」をオマージュしている。


☆いちょう並木の枯れるまで / 生活の設計
(『長いカーブを曲がるために』収録・関連作レビューはクリック) 
今月初頭7インチでリリースされたばかりの「タイニー・シャイニー」や、片寄明人がプロデュースした先行配信シングル「稀代のホリデイメイカー」も悪くないが、このサイトに相応しいベストソングとしてはこの曲を選ぶ。アルバム・リリース前のライブでも披露されていた、シャッフルのサンシャイン・ポップ然としたソフトロックで、弊団体監修書籍『ソフトロックA to Z』でピックアップしたKeithの「Ain't Gonna Lie(嘘はつかない)」をオマージュしている。


 ☆ナサリー / 無果汁団
(『ナサリー』収録・レビュー記事はクリック
普遍的バラードでサビの8小節目で解決させるテンション・コードが入る瞬間は鳥肌が立つ。新主流派以降のジャズ・ミュージシャン(ドナルド・フェイゲン含む)やスティーヴィー・ワンダーとそのフォロワー達しか自在に使いこなせない高度なコード進行というか、こういった無垢なバラードに、そんなサムシングなスパイスを付けられるのが、彼らの音楽理論の教養の高さやセンスを強く感じさせる。本曲収録の4thアルバムは彼らの最高傑作となった。


 ☆A White Heron/白い鷺 / Cambelle
(『Magic Moments』収録・レビュー記事はクリック) 
ローラ・二ーロ風コード進行のイントロのピアノから耳に残り、歌詞と曲が高次元で溶け合った、その世界観にはノスタルジーを超えたサムシングが潜んでおり、熊谷慶知のソングライターとしての能力や歌詞の世界を表現するソフトなボーカルには感心するばかりだ。アナログシンセ・ソロやエレキギターのリフ、歌詞に呼応するドラミングも曲を構築する重要なエレメントとなってこの曲の完成度を高めている。初期オフコースの匂いもする。 


 ☆NOVA ERA / Saigenji
(同名配信シングル・関連作レビュー記事はクリック) 
バークリー音楽大学でアジア人初の助教授となったYUKI KANESAKAとのコラボレーション第2弾で、ライヴパフォーマーとしての彼を如実に現している。ミナス・サウンド系のコード進行とポルトガル語の歌詞に、激しいビートが映えており、YUKI の新主流派風ピアノ・ソロ、Saigenji 自身によるフルート・ソロも繰り出され、正にブラジリアン・エクスペリメンタル・ダンスナンバーとなった。来年はこのコラボレーションがアルバムとして結晶することを願っている。


 ☆街のレヴュー / The Bookmarcs
(『BLOOM』収録・レビュー記事はクリック
男性2人組ユニットのフォース・アルバムの重要曲で、イントロからAzymuthの「Fly over the Horizon」に通じるアナログ・シンセのポルタメントが効いたフレーズから引き込まれる。横浜関内にあるレンガ作りのカフェ”馬車道十番館”を舞台にしたと思しきラブソングで、近辺のロケーションが織り込まれており完成度も高い。サウンド的には前出のアナログ・シンセやエレキベースのアクセント、シンセタムのフィルによって、横浜のナイト・シーンが目に浮かぶ演出で脱帽してしまう。



音楽活動再開☆特別枠

☆除霊しないで / フレネシ
(同名配信シングル・関連作レビュー記事はクリック) 
音楽活動再開後初の配信シングルで、11年もの長いブランクを感じさせないクオリティである。テーマから極めて独自過ぎるが、サビでキャッチーなリフレインにしてしまうという言葉選びをした歌詞、音数をそぎ落としたレトロフューチャーなエレクトロポップ・サウンドは健在で、唯一無二なフレネシ・ワールドが炸裂している。来年にはニューアルバムも期待できそうなので、更に不可思議な楽曲を期待している。


(選曲及びテキスト:ウチタカヒデ

2025年12月17日水曜日

Wink Music Service:『Little China Girl / かたことの恋』


 サリー久保田と高浪慶太郎による拘りのポップ・グループ、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)が、7インチ・シリーズの第6弾『Little China Girl / かたことの恋』(VIVID SOUND/VSEP866)を12月24日にリリースする。なおタイトル曲はあの伊藤銀次の書き下ろしなのだ。
 
 弊サイト読者には説明不要かも知れないが、伊藤銀次は日本音楽界の至宝だった故大滝詠一(大瀧詠一)氏の一番弟子で、プロデューサーやアレンジャー、ソングライターとしてデビュー当時の佐野元春をはじめ、松原みき、歌謡界のトップスターだった沢田研二など多くのミュージシャンの作品に関わってきたレジェンドである。そんな伊藤の完全書き下ろしによる新曲というこれまでに無い展開で、温故知新派の読者には大いにお勧めしたい。
 ゲスト・ボーカルには、昨年4月リリースの第3弾『Fantastic Girl』のオーバンドルフ凜らとのガールズ・グループ ”She’s A Rainbow”(サリー久保田プロデュース)のメンバーで、中国とタイにルーツを持つ14歳の若きアジアン・モデルの心愛(ここあ)を迎えている。
 WMSとしては今年9月24日にリリースした『Night In Soho/オードリィ・ヘプバーン・コンプレックス』が記憶に新しいので、彼らのプロフィールは前回の記事を参照してほしい。

Wink Music Service

心愛(ここあ)

 ここでは筆者による本作の詳細解説をする。タイトル曲の「Little China Girl」は前出の通り、あの伊藤銀次が書き下ろした新曲で、WMSサブメンバーのマイクロスター飯泉裕子が作詞してラブソングに仕上げている。
 この曲における伊藤のコンポーズ・スタイルは、1982年9月リリースのソロ・サードアルバム『Sugar Boy Blues』収録の「Dear Yesterday」に通じていて、イントロのあとサビから始まり、その切ないメロディが強く耳に残るのだ。飯泉の歌詞もティーンエイジャーの不毛の恋愛を綴って伊藤の曲にマッチさせており、まだ幼さが残る心愛のボーカルとのギャップも新鮮に聴かせてしまう。
 このように大滝詠一の下ナイアガラ・レーベルからデビュー予定だったバンド、ココナツ・バンクのリーダーとして、また山下達郎が率いたSUGAR BABE(シュガー・ベイブ)を大滝に紹介して自らも一時同バンドのメンバーで筆頭ブレーンであった、日本のロック、ポップス界の重要人物の伊藤がWMSに関わった事実は極めて大きい。
 そんなポップ・マエストロが提供したラブソングを、WMSと岡田ユミは英国のジェフ・リン率いるELO風のサウンドでアレンジしている。べースのサリー久保田とドラムの原"GEN"秀樹のリズム隊は、70年代後半のディスコ・ファンクよろしく軽快なグルーヴでダンス・チューンとして料理し、ネロ(ゲントウキなどのサポートで知られる)によるギターリフやソロも英国風で、空間系エフェクターやハーモナイザーを駆使して、複数のトラックでその巧みなプレイを聴かせている。

『Sugar Boy Blues』/ 伊藤銀次


 カップリングの「かたことの恋」は、2002年に高浪慶太郎がソングライティングとアレンジを担当し提供した、TVアニメ『ちょびっツ』のエンディングテーマのセルフカバーだ。オリジナルでは同アニメでヒロインの”ちぃ”の声を演じた声優女優の田中理恵の歌唱で、「ビートでジャンプ(Up,Up and Away)」(The 5th Dimension / 1967年)などをオマージュしたサウンドが、ピチカートファイブやソフトロック・マニアには知られていた。
 本作のカバー・ヴァージョンは、オリジナルのエッセンスを少々残しつつ、これまでに岡田がWMSで披露してきたサウンド・バリエーションを総動員して、モザイク的にコラージュした大胆でマニアックなものだ。聴きものはミッシェル・ルグラン風ヨーロピアン・ジャズ・パートでのサリーと原によるタイトな演奏をバックに、縦横無尽に繰り出されるスキャット、ストリングスやホーンセクション、各種SEの融合だろう。SEの中にはマニア心をくすぐるネタもいくつか聴けて、例えばジェームス・ブラウンの70年代楽曲でよく聴けた、ワウペダルをかましたエレキギターにモジュレーションを極端に効かせたあの音だったり、最新作『ナサリー』が傑作の無果汁団ショック太郎が、blue marble時代に「街を歩くソルジャー」(『ヴァレリー』収録/2010年)でオマージュした、ビートルズの「I Am The Walrus」(1967年)やトッド・ラングレンの『A Wizard, a True Star』(1973年)に通じる、”音楽のロバート・ラウシェンバーグ”状態で脱帽してしまう。
 またタイトル曲同様に高浪とのデュエットで歌う、心愛の夢心地なボーカルが微笑ましく、イントロのセクシーな英語のモノローグまで彼女自身が担当しているというから驚きだ。若くしてトリリンガルもしくはクァドリンガルな才能に恵まれた心愛の才能を今後も注目しよう。

 最後に筆者の詳細解説を読んで興味を持ったポップス・ファンは必聴なのだが、本作は数量限定のリリースのため、ディスクユニオンなどでは既に予約受付が終了しているので、大手外資系レコード・ショップの店頭発売分を事前チェックし、是非入手して聴いて欲しい。 

(テキスト:ウチタカヒデ






2025年12月7日日曜日

cambelle:『Magic Moments』

“インディーズ新人バンドの1stアルバムとしては
稀なサウンド・プロダクション” 

 インディーポップバンドcambelle(キャンベル)が、ファースト・フルアルバム『Magic Moments』(OLD JOY RECORDS/OLDJ-1)を11月19日にリリースした。
 彼らは東京を拠点に活動する男女3名組で、バンド編成も去ることながら、そのソングライティングやサウンドからはLampウワノソラを彷彿とさせる。
 先月の本作リリース直後SNS経由で管理人宛にメンバーからDMが届き、弊サイトやVANDA監修の『ソフトロックA to Z』(初版96年)シリーズの熱心な愛読者であることを知り、遅ればせながら取り上げるに至った。

左から川上遥、市原諒、熊谷慶知

 先ずはcambelleのプロフィールに触れよう。ケイチ&ココナッツ・グルーヴ(2022年~2024年)のメンバーだった熊谷慶知(ボーカル、ギター、ピアノ他)、市原諒(プロデューサー、プログラミング他)、川上遥(キーボード、ボーカル、トランペット)の3名により2024年に結成された。60年代ポップスや70年代ソウルからAORやボサノヴァ等々温故知新派の若きメンバー達によりクリエイトされた楽曲は、前出の通りLmapやウワノソラの初期に通じるので、耳の肥えた弊サイト読者にも強く響くはずだ。

 本作ではメイン・ソングライターの熊谷を中心に、川上も1曲で作曲しており、アレンジはメンバー3名か2名の合議制で進めている。バンド内プロデューサーである市原の立ち位置がユニークだが、レコーディングでは殆ど生演奏に参加せず、プログラミングを担当しており、例えばセイント・エティエンヌ(Saint Etienne)のボブ・スタンリーのように膨大な音楽知識を基にアレンジのアイディアを出しているのではないだろうか。蛇足だがボブ・スタンリーがSNSのXでフォローする数少ない(唯一?)の日本人アカウントに、筆者が管理する弊サイト・アカウントもあり、ポピュラー音楽研究家の末席として光栄の至りである。

 レコーディングは都内のstudio CRUSOEでおこなわれ、エンジニアにはポストロック・バンドtalkを率いていたKensei Ogata、ミックスはMagic Sonやセッション・ドラマーの山本直親がそれぞれ担当して、ミュージシャンならではのセンスで本作に貢献している。またマスタリングはstudio CRUSOEのオーナーである西村曜が手掛け、サウンド・クオリティを更に向上させているのだ。
 懐かしも新しいジャケットのイラストレーションと全体のアートワークは、イラストレーターのサカサノカサによるもので、本作『Magic Moments』のサウンドを如実に現わしており、本年度リリースされた数多のアルバム・ジャケットの中でも高ランクではないだろうか。


 ここでは筆者による収録された全曲の詳細解説をお送りする。
 冒頭のタイトル曲「Magic Moments」は、熊谷のソングライティングとメンバー3名のアレンジによる現代のソフトロックで、イントロから独特なヴォイシングのコーラス、空間系エフェクターが効いたシンセサイザー・パッドとデジタル・エレピ、彼方で聴こえるホーン、眠りから目覚めさせる金物パーカッションとグロッケンと、この構築力で本作全体のクオリティを計り知れる素晴らしいサウンドだ。
 また夕暮れのマジックアワーを綴る歌詞をビビッドに浮かび上がらせるのは、熊谷の甘くソフトなボーカルと、サビに追い足したトランペットのオブリガードで、このアレンジにはニック・デカロの匂いがしてよく研究されている。熊谷はボーカルとコーラスの他にべース、川上は鍵盤類とトランペットをプレイし、ゲストではpersimmonの川島健太朗が各種ギター、ミキシングを担当した山本直親は本職のドラム、コーラスでマオ、パーカッションで筋野優作と亀山響吾でそれぞれ参加している。川島と山本は本作収録曲の多くに参加し、全体のサウンドプロデューサー・チームのメンバーとしてクレジットされている。
  続く「Gloom/親密さについて」は先行配信されたファーストシングルで、前曲同様のパーソナリティによるソングライティングとアレンジだが、一転してメロウなグルーヴでネオシティポップ以降に出てきたバンドのサウンドらしい。Lampの「街は雨降り」(『そよ風アパートメント201』収録/2003年)を彷彿とさせるが、エレピが刻むボサノヴァとソウルを融合させたリズム感覚は、チック・コリアの「What Game Shall We Play Today」(『Return to Forever』収録/1972年)にまで遡るだろう。編成的に特筆すべきは川上がコーラスに加わって、市原がエレキギターをプレイしている点だ。


A White Heron/白い鷺/cambelle

 筆者が本作中ファースト・インプレッションで惹かれたのが、3曲目の「A White Heron/白い鷺」である。ローラ・二ーロ風コード進行のイントロのピアノから耳に残り、歌詞と曲が高次元で溶け合ったその世界観にはノスタルジーを超えたサムシングが潜んでおり、熊谷のソングライターとしての能力や歌詞の世界を表現するソフトなボーカルには感心するばかりだ。その熊谷はべースの他、アコースティックギターとポルタメントを効かせたヴァイオリンまでプレイしている。川上による間奏のアナログシンセ・ソロや川島のエレキギターのリフ、歌詞に呼応する山本の巧みなドラミングも曲を構築する重要なエレメントとなって、この曲の完成度を高めている。初期オフコースの匂いもして、弊サイトで同バンドのコラムを連載していた音楽家の吉田哲人にも勧めたいし、筆者の本年度年間ベストソング候補に入る一曲である。
  セカンドシングルとして先行配信された「Giddy Parades/街場」は、シングルとしてチョイスされたのが意外なブリリアントな熊谷のソングライティングで、『SMILE』(1967年、2004年)期のビーチ・ボーイズやそのフォロワーであるハイ・ラマズに通じるバースがイントロ無しで始まり、転調とパート・チェンジを繰り返していく。コーダのコーラスではまた中期ビーチ・ボーイズ風で締め括っている。この曲ではバンジョーに片野修作、フリーキーなアルトサックスは中澤義也がゲスト参加し、この曲のソフトサイケなサウンドに貢献している。
 続くインスト小曲の「Interlude」も熊谷作で、前曲からの雰囲気を引き継いだSMILEフォロワー・サウンドだ。熊谷は一人多重コーラスとピアノ、中澤はバリトンサックスに持ち替えて2人のみの演奏で完成させている。約1分半の尺ではあるが、サムシングな余韻を残してくれる。


 本作中盤6曲目の「Dream in Bossa /しずかなふたり」は、熊谷の詞に川上が作曲して、熊谷とデュエットでボーカルを取るボサノヴァ・ポップだ。スティーヴィー・ワンダーの「You Are the Sunshine of My Life」(1973年)に通じるイントロから、2人の異なる声域のボーカルがブレンドすることで相乗効果をもたすクールなボサ・ラブソングである。川上はエレピの他、シンセサイザー・べースもプレイしており、ガットギターは片野、ドラムに山本、パーカッションは筋野がそれぞれ担当している。中澤はこの曲ではフルートをプレイし、マルチ木管奏者として本作に貢献している。
 再び熊谷の単独ソングライティングによる「Our Suburban Friends/火粉」は、尺の長いアコースティックギターのカッティングから始まる抒情的歌詞を持つバラードだ。本作中他の曲とは毛色が異なり、じわじわと感動を呼び起こすサウンドで、コーダではフェイドアウトせず唐突に終わるのがcambelle流なのだろう。ボーカルを取る熊谷はべース、ピアノと各種キーボードをプレイし、川上がグロッケン、川島はアコースティックギターを担当しており、ドラムレス編成である。
 幅広いソングライティング・スタイルを持つ熊谷は、続く「Christopher/クリストフ」では米東海岸風シャッフルのスウィートなソフトロックを披露している。歌詞の世界観も実にサンシャイン・ポップ的であり、詞曲共に器用に書き分けられる才能に脱帽してしまう。そんな熊谷はべースとキーボード、川上はコーラス、ピアノとヴィブラフォンをプレイし、ゲストの川島はアコースティックギターとコーダでエレキギターのソロ、山本はドラム、筋野はパーカッションで参加している。

 終盤9曲目の「Sleep Warm/微睡の午后」は、熊谷作のラテン・フィールがあるドラムレスの美しいスローバラードで、ビーチ・ボーイズをこよなく愛する弊サイト読者なら初見でオマージュ元のいくつかのエレメントが分かる筈だ。「Caroline, No」をべースに、間奏のテルミン風ソロは「I JustWasn't Made For These Times」(共に『Pet Sounds』収録/1966年)からだろう。それ以外にもシュガー・ベイブの山下達郎作「過ぎ去りし日々"60's Dream"」(『SONGS』収録/1975年)経由で、The Cyrkleの「The Visit (She Was Here)」(『Neon』収録/1967年)やOhio Knoxの「Pound Or My Dog Dad For Robert Downey (A Prince)」(『Ohio Knox』収録/1971年)のバース部など温故知新派の真髄であるが、何より重要なのはこの曲自体が本当に良い曲だということだ。熊谷はべースとキーボード、川上は各種鍵盤でチェンバロ(ハープシコード)、テルミンをシミュレートしたシンセサイザーも担当しているではないだろうか。ゲストの川島はアコースティックギター、筋野はボンゴとクラベスをプレイしている。 
 本作ラストの「Akegata/明け方のブルース」は、熊谷のソングライティングだがアレンジは川上と市原が担当しており、演奏も川上のシンセサイザーのみで構築した小宇宙のようなサウンドである。「Our Suburban Friends/火粉」同様に、人生を達観した哲学的作風を持っているのは、他の同系統のバンド・メンバーには無い、熊谷の才能であり今後強みになっていくだろう。


 最後に本作『Magic Moments』の総評として、才能あるソングライターが生み出したダイヤの原石を、バンドメンバーとサポートメンバー達がきめ細かく丁寧に磨き上げてクリエイトしたという、インディーズ新人バンドのファースト・アルバムとしては稀なサウンド・プロダクションの在り方を感じて、彼らcambelleの今後の作品にも非常に期待が高まった。
 繰り返しになるが、本年度リリースされた新人バンドのアルバムの中でも特に音楽性が高く、有望な存在なので、筆者の詳細解説を読んで興味を持った読者は是非入手して聴いて欲しい。 

(テキスト:ウチタカヒデ








2025年12月4日木曜日

生活の設計:『タイニー・シャイニー/君に起こりますように』

”大塚兄弟主演、フェリスはある朝突然に”

 セカンド・アルバム『長いカーブを曲がるために』を10月15日に配信でリリースした“生活の設計”が、同アルバムから『タイニー・シャイニー/君に起こりますように』を、12月6日”レコードの日”に200枚限定で7インチ・シングルカットする。
 アルバム中最もラウドなエレキギターが鳴り響き、典型的なロックンロールのタイトル曲は、Hedigan's(ヘディガンズ)のギタリスト、栗田将治をフューチャーしており、ライブでも人気のナンバーでもある。 

左から大塚真太朗、大塚薫平

 弊サイトでは9月に『長いカーブを曲がるために』の先行配信シングルで、GREAT3(1994年~)の片寄明人がプロデュースを手掛けた「稀代のホリデイメイカー」以来の紹介になるが、生活の設計のプロフィールに少し触れておこう。
  彼らはリーダーでソングライター、ボーカル兼ギターの大塚真太朗と、実弟でドラム兼コーラスの大塚薫平による2人組のロックバンドである。前身バンドの“恋する円盤” や“Bluems (ブルームス)”時代を含めると9年以上の活動経歴を持っている。2023年4月にファースト・フルアルバム『季節のつかまえ方』、同年11月に7インチ・シングル『キャロライン』をリリースしている。
 前出の片寄氏の他、元ピチカート・ファイヴの小西康陽氏など拘り派の音楽家からも高評価を得ており、昨年11月にはファッション・カルチャー雑誌『POPEYE』にも取り上げられるなど、音楽通以外の一般層にもその存在は浸透しつつある。


「タイニー・シャイニー」ライブ

 ここではタイトル曲とカップリングについて解説していく。「タイニー・シャイニー」は若き日のポール・ウェラーがフロントマンだった英国のThe Jam(1972年~1982年)に通じる、パンキッシュなネオモッズ感覚のサウンドと、退屈な日々から逃避行したクラビングのワンシーンを切り取った歌詞が瑞々しく、大塚(真)の溌溂としたボーカルもこのようなアップビート・ナンバーでは一層映える。ゲスト参加した栗田がプレイするリード・ギターの存在感も極めて大きく、双方にとって意義のあるコラボレーションとなった。また大塚(薫)の激しいドラミングとコンビネーションするのは、ゲスト参加したLIGHTERSのべーシスト清水直哉だ。なお栗田が所属するロックバンドHedigan'sは2023年に結成され、あのSuchmos(サチモス)のボーカリスト、YONCEもメンバーとして参加しており、大きく注目されている。 

 カップリングの「君に起こりますように」は、レギュラー・サポートメンバーであるベーシストの大橋哲朗とキーボーディストの眞﨑康尚が参加し、大塚(真)のジェントルな歌詞とボーカル、眞崎による印象的なピアノが耳に残るラヴソングだ。タイトル曲とは一転して、ミドルテンポでメロディックなソフトロック調のサウンドで、米東海岸シャッフルのブリッジを挟むなどアレンジ的にも凝っており、弊サイト読者にもアピールした好ナンバーに仕上がっている。 

 なお繰り返しになるが、本作は200枚限定の7インチ・シングルで、インナースリーヴには大塚(真)による、“ここでしか読めない”創作メモを掲載し、制作背景や楽曲のイメージが垣間見える特別仕様となっているそうだ。筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは早期にリンク先のショップで予約して入手しよう。


(テキスト:ウチタカヒデ







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2025年11月26日水曜日

長谷川カオナシ:『お面の向こうは伽藍堂』インタビュー★ゲスト~フレネシ

“クリープの末っ子・ファンタジスタが
独自の世界を開花させた
記念すべきファースト・ソロアルバム” 

 ロックバンド ”クリープハイプ”のベーシスト、長谷川カオナシが初のソロアルバム『お面の向こうは伽藍堂』(おめんのむこうはがらんどう/ユニバーサルミュージック・UMCK-1810)を11月26日にリリースした。

 小説家としても著名な尾崎世界観を中心としたロックバンドとして知られるクリープハイプ(以降クリープ/2001年結成)だが、メインコンポーザーの尾崎以外に、長谷川も自らソングライティングしてボーカルを取った楽曲をアルバム毎に1曲のペースで提供してきたので、クリープにおけるジョージ・ハリスン的立ち位置のメンバーと言えるだろう。
 1987年9月生まれの長谷川は、2009年からクリープにべーシストとして加入し、2012年に『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビューした際のメンバーでもある。べース以外にヴァイオリンやヴィオラ、ピアノなど鍵盤楽器もプレイするなど、マルチ・ミュージシャンとしても才能を発揮している。

長谷川カオナシ

 ファースト・ソロアルバムとなった本作では、ジャンルやキャリアを超えたゲスト・アレンジャーを迎えていて、十代から”ヤング101”後期メンバーとして業界で活動していた、レジェンド・シンガー・ソングライター(以降SSW)の谷山浩子と、長年谷山の音楽プロデューサーとして知られている石井AQ(いしいエーキュー)を筆頭に、CM音楽家として多くの作品を手掛けてきたjoe daisque、『ニコニコ動画』の音楽で知られるsimoyuki(しもゆき)が参加している。
 そして先月の無果汁団『ナサリー』の対談レビュー等、弊サイトでもお馴染みの鬼才SSWのフレネシも1曲にアレンジで参加しており、彼女にとっても本格的な音楽活動再開のきっかけとなった。
 レコーディングに参加したゲスト・ミュージシャンも多彩で、ヒトリエのドラマーのゆーまお、KEYTALKのリーダーでギタリストの小野武正 、Official 髭男 dismのベーシスト兼サックス奏者の楢﨑誠、Nanakambaのドラマーの矢尾拓也など、長谷川が共に音楽シーンを作り上げてきたバンドマン達が参加している。またクリープからは尾崎世界観がコーラス、小川幸慈がギター、小泉拓がドラムでそれぞれ1曲に参加しているのでファンにとっても嬉しい。

 ここでは本作で筆者が気になった収録曲の解説と、アレンジャーとして参加したフレネシへの特別ミニ・インタビューを紹介する。
  収録された全12曲は全て長谷川のソングライティングで、外部アレンジャーが参加した4曲以外は、長谷川がイニシアティブを取ってセッションに参加したミュージシャン達とヘッドアレンジで詰めたと思われる。「刹那の夏」においては全楽器を長谷川が一人多重レコーディングで完成させていて、マルチ・ミュージシャン振りを発揮している。

 
『お面の向こうは伽藍堂』全曲トレーラー 

 冒頭の「ねんねんころり」はワルツを基調にして変拍子のパートを持ち、英国トラッド~プログレ・ミュージックの匂いがする。独特な歌詞の世界は長谷川の個性をよく現わしており、シンプルなアレンジと楽器編成で、長谷川自身はべースとアコースティック・ピアノをプレイし、ギターとドラムは元JUGONZのチバソウタと入交盾(イリマジリジュン)が各担当し巧みな演奏を聴かせてくれる。ボーカリストとしての長谷川は、歌い上げるタイプではなく、アルバム全体的に感情を抑制したフラットなピッチと声量で、1970年代の欧米SSW系で聴けるようなストーリーテラー・スタイルに近いものだ。
 一転してプログラミングされたトラックをバックした「恋する千羽鶴」は、simoyukiがアレンジした四つ打ちキックのチープなテクノ・サウンドに、憂さ晴らし的な歌詞ながら人生応援歌と解釈できるのが痛快である。ハイプなコーラスで長谷川の関係者8名が参加して盛り上げている。

 10月29日に先行配信された「ハエ記念日」は、先月前半にプレスキット音源を初見で聴いて、マイク・オールドフィールド風のイントロや久保田早紀の「異邦人」(1979年)に通じるバース・パートの中近東風和声とテンポ感覚に興味を惹いた。この曲は谷山浩子と石井AQが共同アレンジしており、プログラミングされたオブリガードの楽器音色は「異邦人」でも使用され、トルコ(ペルシャ)発祥とされる打弦楽器のハンマー・ダルシマー(映画『犬神家の一族』のテーマ曲「愛のバラード」で有名)やアコーディオンなど現在のポップスとは隔世したサウンド作りをしていて、『Istanbul mambo』(1977年)期のムーンライダーズやあがた森魚に通じる。長谷川はべースとヴィオラ、谷山はアコースティック・ピアノ、石井は全てのプログラミング、ドラムには元X-RAYのメンバーで、バンド解散後はセッション・ドラマーとして活動していた高橋ロジャー和久が参加している。
  一早く9月23日に先行配信されたリードトラックの「金木犀」は、本作中最もキャッチャーなサビのリフレインを持った、長谷川の代表曲となる曲だ。King Harvestの「Dancing in the Moonlight」(1970年)を彷彿とさせるローファイで空間狭い16節のイントロ部から劇的に転回していく楽曲とアレンジ、不毛の恋愛を綴った歌詞などポップスとして完成度が高く、筆者もファースト・インプレッションでベストトラックに挙げた。セッションに参加したミュージシャンは本作中最も多く、長谷川はこの曲でもべースとヴィオラをプレイし、アレンジとプログラミングはjoe daisque、ギターは前出のチバソウタ、キーボードはSSWの? Meytél(メーテル)、ドラムにはヒトリエのゆーまお、コーラスにはSSWの星野菜名子が参加している。キュートなコーラスが特徴的な星野は本作5曲目「あなたはきっと」ではコーラス以外にキーボードもプレイしている。

 フレネシがアレンジとプログラミングで参加した「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」はシアトリカルな世界観とポルカ風サウンドで、コーラスには尾崎世界観が参加している。本作中重要曲であるが、この後のテキスト・インタビューでフレネシ本人が詳しく解説しているので、そちらを読んで頂きたい。
  牧歌的ながら哀愁を感じさせる歌詞を持つ「ウサギとオオカミ」は、クラリネットとワウをかましたギターのイントロからその不思議な世界に引き込まれる。メジャー・キーからサビでマイナーに転調してシリアスになる感じなど日本人好みだ。長谷川はべース、ギターはクリープの小川幸慈、サックスとクラリネットは馬場レイジ、アコースティック・ピアノはモリモトマイ、ドラムは八月の微睡みのミナカワがプレイしている。
  本作ラストの「馬の骨に候」は、ノイジーな倍音が鳴り響くギターリフから始まり、まるでセルフポートレートのようなアイロニー溢れる歌詞が印象的だ。間奏のピアノ・ソロには「金木犀」など収録曲のフレーズを忍ばせこませるなど、本作の大団円として相応しい。長谷川はべースとピアノ、ドラムはクリープの小泉拓、ギターはTHE RODEOSの坂本陽平が参加している。

 最後に本作の総評として、弦楽器やピアノを習得しているなどクラシック音楽の素養を持っていそうなファンタジスタが、尾崎世界観という天才肌の文学系ミュージシャン率いるロックバンドに最年少で加入して16年、独自の世界を開花させた記念すべきファースト・ソロアルバムに仕上がっている。


特別インタビュー★ゲスト~フレネシ

●今回フレネシさんにアレンジのオファーがあった経緯と、「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」の曲を聴いたファースト・インプレッションを聴かせて下さい。

◎フレネシ:青天の霹靂でした。カオナシさんとはこれまで交流がなかったもので、どうして私にオファーをくださったのか分からず、本当に驚きました。
そして、素材をいただいた際は「随分とトゲトゲとした言葉の乗った曲だなあ…これを私が…?上手にアレンジ、できるかなあ?」と正直なところ、不安もありました。
そもそも、私は11年も休眠していたわけで。もはやミュージシャンと自称するのはおこがましいような状況でありまして。その上、アレンジ単体のお仕事はこれが初めて。さらに困ったことに、いただいた素材はポップなロック調にすでにアレンジされていて、その時点ですでに私の引き出しにはないテイストだったのです。

ご本人からは、私のアレンジで歌ってみたいという長年の夢があったと伺いました。私の楽曲の「スプロウル」(『キュプラ』収録 2009年)がお好きだそうで、「GO ROPEWAY」(『ドルフィノ』収録 2013年)くらいのトラック数でどうだろうか…とご提案いただきました。
これらは、本件のオリジナルとは曲調が近くなかったので、トラック数は参考とするにしても、直接のリファレンスとするよりは、一旦真っ新な状態から自分なりに再構築するのがいいだろうと思いました。
行間に潜むトゲトゲの裏の真意を探り、自分の引き出しとカオナシさんの世界観にフィットしそうな共通項のテーマを掲げ、リファレンスを集めてみることにしました。


 ●「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」のアレンジにおけるアイデアを可能な範囲で教えて下さい。

◎フレネシ:タイトルを拝見しての第一印象は、ボリス・ヴィアン『お前らの墓につばを吐いてやる』のようなタイトルだなあと。
どこかつかみどころのないカオナシさんのキャラクターは、シャンソン歌手であり、トランぺッターであり、俳優であり、作家であり…と、さまざまな顔を持つ(おまけにアメリカ人と偽って執筆)ヴィアンのようでもあるなあと思いました。



まず最初にテーマを考えました。詞を読み込むと、舞台はインターネットで、生贄を欲しては誰かの失態を餌に正義を振りかざす善意のオーディエンスたちが背後に見えました。
続いて、なぜか韓国人作家・シュークリーム氏の『全ての人が美しい世界』という漫画に出てくる、ピエロとバレリーナの格好をしている2人の主人公の絵が浮かんで…あと、これは単なる勘違いなんですが、カオナシさんの「火まつり」(クリープハイプ『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』収録 2012年)という曲の「地平線を『探す』」を「サーカス」と聴き間違えて、それらをきっかけに「サーカス」をテーマとすることにしました。



で、次にサーカスの世界にフィットする楽曲をリストアップしました。まずは何と言ってもユリウス・フチークの「剣士の入場」。サーカスと聞いて誰もが思い浮かべる曲ではないだろうかと思います。

Einzug der Gladiatoren


そして、レトロフレンチな見世物小屋テイストがまさに私っぽいと思い、ジャディス・オルセンのチューバ・ベースを要素として組み込みました。大学時代に初めて作った音源がこの人のサウンドと雰囲気が似ていると言われ、後追いで好きになった90s仏アーティストです。

 Petit amant frimeur / Jadice Holsen


カオナシさんはベーシストでありながらヴァイオリンやヴィオラも弾く方で、そんな立ち位置がネオロカバンドのファビュラス・プードルズのボビー・ヴァレンティノっぽいと思い…ブルーグラス的な裏打ちとフィドルのプレイは「The Man Who Invented Jazz」からの引用です。

The Man Who Invented Jazz / Bobby Valentino


それから、マーチ要素はミッチ・ミラー楽団の「テキサスの黄色い薔薇」を参考にしました。

テキサスの黄色い薔薇 / ミッチ・ミラー楽団


ブリッジの落としどころでの私の笑い声は、ロスト・グリンゴスの「バーゲルド・アモーレ」にヒントを得ました。

Bargeld Amore(1983)/ Lost Gringos 

ラストサビとキラキラしたピアノのエンディングのストーリーは市川春子『宝石の国』(※漫画です)を参考にしました。自分対自分以外の激戦、そして浄化後の穏やかな時間、そんな情景を音で表現してみました…とはいえ、漫画をリファレンスに上げるってちょっと何言ってるか分からないかもしれないですね。



そして、ラストのもじょもじょ何か言ってる風の部分は、les escrocs「Qu'est-ce qu'on ferait pas」のイントロをリファレンスとして提案しました。20代の前半にどハマりした仏バンド・トリオで。余談ですが、当時はこの曲が好きすぎて、着メロにイントロ部分を8トラックで打ち込むなどしていました。

Qu'est-ce qu'on ferait pas / les escrocs



●最後に本作『お面の向こうは伽藍堂』の総評をお願いします。

◎フレネシ:あどけなさと禍々しさという相反する成分が混在する、一聴するとポップだけど奥行きのある童謡集。
清涼感のあるボーカルは、顕微鏡で観察するとおそらく針状結晶なんだろうと思います。
つまり、かわいく見えて、実は殺傷能力が高いってことですね。そうした二面性に、何か自分の音楽性との共通点を感じずにはいられませんでした。


フレネシ・プロフィール
-唯一無二のウィスパーボイスに、かわいさと潔さが同居する-
海外の音楽ファンから「渋谷系のビョーク」とも称される、フレネシ。2009年6月に乙女音楽研究社からリリースされた『キュプラ』は、HMV渋谷店のインディーチャートで1位を獲得し「ネオ渋谷系」の代表作として各所で話題を呼んだ名盤。この秋、満を持してLP盤(国内流通分は完売)が発売となる。
 2015年より活動休止中であるものの、2020年にストリーミング配信が開始されたことで再び注目を集め、海外のSNSでも人気が拡大。クリープハイプのベーシスト、長谷川カオナシのソロアルバムにアレンジャーとして参加し、今秋ついに活動再開の機運が高まりつつある。
★フレネシofficial site:https://frenesifrenesi.com/
◎ 「ネシ子が会う」長谷川カオナシ (第十九回):https://frenesifrenesi.com/column/381/
◎最新配信シングル「除霊しないで










(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ













2025年11月16日日曜日

The Bookmarcs:『BLOOM』


"ブクマ・サウンドのパレットに新色が加わった。
この第二章を心より歓迎したい。"

 The Bookmarcs(ブックマークス)が、前作『BOOKMARC SEASON』から4年振りとなる新作で、フォース・アルバムの『BLOOM』(FLY HIGH RECORDS/VSCF-1781)を11月26日にリリースする。

 作編曲家やプロデューサー、ギタリストとして活動する洞澤徹と、the Sweet Onions(スウィート・オニオンズ,以下オニオンズ)やソロ・アーティストとして活動する近藤健太郎が、2011年にタッグを組んだこの男性2人のユニットThe Bookmarcs(以下ブクマ)は、これまでに3枚のアルバムをリリースしており、本作は前作『BOOKMARC SEASON』(VSCF-1775/FRCD-070)から4年のインターバルで、同アルバムとセカンドの『BOOKMARC MELODY』(VSCF-1769/FRCD-061)に比べてややスロー・ぺースとなった。
 それというのもこの間にブクマで作編曲とミュージシャンのアサインなどサウンド・プロデュースを担当する洞澤は、女性シンガー・ソングライター(以下SSW)青野りえのシングル「Never Can Say Goodbye(2021年10月)とサード・アルバム『TOKYO magic』(2023年11月)の作編曲とプロデュース、それと同様に男性SSWのKARIMAのファースト・アルバム『Nostalgic hour』(2022年10月)の半数の曲とその後複数の配信シングルのサウンド・プロデュースを手掛けていた。更にYouTube でリラクゼーション・ミュージック・チャンネル「natural sonic」(登録者数9 万以上)を主宰して、アコースティックギターやウクレレの演奏を発表し多忙していた。
 作詞とボーカル、コーラス(アレンジ含む)を担当する近藤も前出のKARIMA『Nostalgic hour』の共同プロデュース、オニオンズの高口大輔や女性SSW小林しのとのユニットSnow Sheepの23年越しのファースト・アルバム『WHITE ALBUM』(2023年3月)、そしてソロとしての記念すべきファースト・アルバム『Strange Village』を今年3月にリリースしたばかりと、別プロジェクトの活動が目まぐるしく充実していたのが、ブクマの制作ペースに影響していたのは言うまでもない。
 またラジオ・パーソナリティとしても、横浜市のコミュニティ放送局マリンFMで彼らの冠番組『The Bookmarcs Radio Marine Café』、静岡県のFMラジオ局 K-MIX(静岡エフエム放送)の『ようこそ夢街名曲堂へ!』の準レギュラーをそれぞれ務めるなど、その活動は多岐に渡っている。

The Bookmarcs
左から洞澤徹、近藤健太郎

 本作は2022年から今年2025年8月までに配信でリリースしていたシングル4曲と、新録の7曲からなら合計11曲を収録している。ゲスト・ミュージシャンとして、1995年Sony Recordsからメジャー・デビューしたSwinging Popsicle(スウィンギング・ポプシクル)の美音子 Fujishimaがフューチャーリング・ボーカルで参加しているのをはじめ、コーラスで和製オーガニック・ソウル女性シンガーのAloha Ichimura、これまでのブクマのレコーディングではお馴染みのドラマーの足立浩、べーシストの北村規夫、ジャズ・ピアニストの佐藤真也といった手練なミュージシャン達も参加してバックアップしているのが頼もしい。 
 マスタリングは今月1日に紹介したばかりの小林しの『Winter Letters』同様に、microstarの佐藤清喜が手掛け、ジャケットやインナースリーヴのデザイン、アートワークは近藤の『Strange Village』で共同プロデュースを務めた及川雅仁、フォトグラフは尾崎康元がそれぞれ担当している。


The Bookmarcs 4th Album『BLOOM』Trailer

 ここでは筆者による収録曲の詳細解説と、洞澤と近藤が本作の曲作りやレコーディング中、イメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。 
 
 冒頭の「青いループ」は、2トラックのアコースティックギターのアルペジオとリフ、キーボードのフレーズのイントロから導かれて始まるギターポップ系不毛のラブソングで、近藤による歌唱と韻を踏むサビの歌詞が耳に残る。リズムセクションは洞澤の各種ギター、足立のドラムと北村のべースによる生演奏に洞澤によるプログラミングされた上物が乗る。この上物のストリングス・アレンジもシンプルながら曲を演出している。
 続く「Follow The Rainbow」は今年8月に配信リリースされた最新の先行シングルで、山下達郎の某曲にも通じるサマー・アンセム感漂うシティポップだ。近藤の爽やかなボーカルに洞澤のエレキギターのリフが絡むなど聴き応えがある。コーラスのトップではAloha Ichimuraが特徴的な声を聴かせるのも嬉しい。
 一転して陰影のあるスローナンバーの「花びら」は、洞澤の作曲能力と近藤の作詞家としてのセンスが見事に調和したソングライティングだ。佐藤のよる表現力豊かなジャズテイストのアコースティック・ピアノ、洞澤によるエレキシタールのオブリガードも効果的だ。

 アコースティックギターのアルペジオとそれに呼応するべースのイントロに導かれ、サビから始まる4曲目の「Hello, Bluebird」はポール・マッカートニーの匂いがする。近藤の持ち味でもあるが、洞澤の作曲であり、ヴァースでは「真夜中のドア〜Stay With Me」(松原みき/1979年)のオマージュ元として知られる、Carole Bayer Sagerの「It's The Falling In Love」(1978年)に通じる洗練されたAOR風に変貌し、ビートルズ風(ジョン・レノン寄り)のブリッジを挟んで、またサビに戻るという凝った構成で感心させられる。
 続く「水色」は近藤の作詞、洞澤と近藤による作曲なので、ソングライティング的には近藤のソロに近いテイストがあるミドルテンポのバラードだ。前曲同様に洞澤の各種ギターに足立と北村のリズム隊による演奏は、近藤のレイジーなボーカルをバックアップする。洞澤による巧みなアコースティックギター・ソロや近藤自身による美しい一人多重コーラスが聴きどころだ。

美音子 Fujishima

 「誰もが夢を」は、ゲスト・ボーカルに美音子 Fujishimaをフューチャーリングしてデュエットで歌われるボサノヴァ・ポップだ。近藤によるフランス語をちりばめた歌詞からイメージするのは、クロード・ルルーシュ監督が手掛けた映画であり、洞澤によるガットギターの刻み、左チャンネルのウーリッツァー系エレピや彼方で聴こえる深くリバーヴが効いたアコースティック・ピアノのフレーズ、フルートのオブリガード、近藤とFujishimaによる間奏のスキャットなど、映画音楽家フランシス・レイをオマージュしている。日曜の昼下がりに聴きたい好ナンバーである。

 本作後半には先行配信曲が多く収録されており、「Maybe」は2024 年8 月の作品でブクマの曲としては珍しく全編マイナーキーの曲である。特徴的なリフから発展して生まれたこのファンキーなサウンドに、佐藤によるビリー・プレストン風のブルース・フィールなピアノが乗り、非常に玄人好みでもある。ブラック・ミュージックを聴かない読者に分かり易く例えると、刑事ドラマで主人公が容疑者を捜索するシーンの挿入歌風と言えばいいだろうか。
 同じく「Looking For The Light」は2023 年3 月、「街のレヴュー」は2022 年12 月に先行配信されており、前者のヴァースは古くはビートルズでジョンが主に書いた「No Reply」(『Beatles for Sale』収録1964年)やSteely Danの「Only a Fool Would Say That」(『Can't Buy a Thrill』収録1972年)に通じるメロディが印象的で、洞澤による各種ギターとプログラミングされた音数少ないバックトラックが、近藤のジェントルなボーカルを引き立てる。
 後者はイントロから筆者の好みで、ブラジリアン・フュージョン・バンドAzymuthの「Fly over the Horizon」(『Light As A Feather』収録Ver 1979年)に通じるアープ・オデッセイ系アナログ・シンセのポルタメントが効いたフレーズから引き込まれてしまう。歌詞のディテールから横浜関内にあるレンガ作りのカフェ”馬車道十番館”を舞台にしたと思しきラブソングで、近辺のロケーションが織り込まれており完成度も高い。サウンド的には前出のアナログ・シンセや北村のエレキベースのアクセント、シンセタムのフィルによって、横浜のナイト・シーンが目に浮かぶ演出で脱帽してしまう。


 曲順は前後するが、8曲目の「悲しみのウィークエンド」は再び作曲に近藤が加わったワルツのトーチソングで、メジャーキーで風通しが良いサウンドと、タイトルや失恋を綴った歌詞の世界とのギャップが面白い。北村のべースに足立はブラシを使ったドラムのリズム隊、洞澤はアコースティックギターの他マンドリンもプレイし器用なところを聴かせてくれる。
 本作ラストの「Bloom Again」にも近藤が作曲にクレジットされていて、「悲しみのウィークエンド」と同様の編成でプレイされる静かなバラードの小曲だ。この曲ではAloha Ichimuraが再びコーラスで参加し、その柔らかい美声で近藤の歌声に寄り添っている。近藤のソロ作にも近い世界観なので、『Strange Village』で彼を知った音楽ファンにもお勧めである。

 本作の総評として、これまでの3作品には無かった作曲面で近藤が3曲も参加したことで、The Bookmarcsの第二章が始まったと考えていいだろう。オニオンズやシンガー・ソングライターとして実績がある近藤が洞澤の作曲に協力したことで、今までには無かったブクマ・サウンドのパレットに新色が加わったのだ。この第二章を心より歓迎したい。


The Bookmarcs『BLOOM』プレイリスト
 
 
洞澤徹
 「BLOOM」アルバム制作期間中に創作のモチベーションを
保つためによく聴いた曲(特にアレンジに煮詰まった時)をセレクトしました。
アレンジの参考になった曲、作曲の着想になった曲もあります。
ほとんどが今年発表された楽曲です。

▪️Love Ride(Alternative Version)/(『Fighter For Love』/ 2025年) 
▪️In It To Win It / Matt Johnson,Triple H Horns(『Warrior Princess』/ 2025年)
▪️Simple Imagination / Young Gun Silver Fox
(『Ticket To Shangri-La』/ 2022年)
▪️Cycle deux - partie 2. / Hippie Hourrah
(『Il y eut un rythme』/ 2025年)
▪️Swoon / Fickle Friends (『Fickle Friends』/ 2025年)
▪️Love You Out Of Your Mind / Byrne & Barnes
(『An Eye for an Eye』/ 1982年)
▪️Oyo / Origami.(Single『oyo』/ 2025年)
▪️Never Givin’You Up / Pascal Bedoire
 (Single『Never Givin’You Up』/ 2025年)
▪️Sweet / Mörk(『Still Dreamin’』/ 2024年) 
▪️Je reviens / Gilles Rivard(『En couleurs』/ 1981年)


近藤健太郎
静謐で繊細、味わい深く円熟した歌声とサウンド。
それぞれに耳を傾けていると、しばし心は軽くなるのです。 
過去の名曲から現代の柔らかなポップスまで、
アルバム制作中に寄り添ってくれた魅力あふれる楽曲達です。

▪️Dating Me Ain't Hard / Whyte(Single『Dating Me Ain't Hard』 / 2025年)
▪️All My Candles / Men I Trust(『Equus Asinus』/ 2025年)
▪️Make It with You / Bread(『On the Waters』/ 1970年)
▪️Let Me Be The One / Paul Williams
 (『Just An Old Fashioned Love Song』/ 1971年) 
▪️Who Do You Think You Are / Bo Donaldson & The Heywoods 
(『Bo Donaldson And The Heywoods』/ 1974年)



(テキスト:ウチタカヒデ