Pages

2025年7月4日金曜日

短冊CDの日 2025 -シングルCDの祭典-


 2023年から展開されていた『短冊CDの日』のイベントが今年も7月7日”七夕の日”に開催される。
 これは1988年に8cmサイズのCDを短冊型パッケージにしたシングルCDが生産開始されて35周年となった、2023年から展開されている『短冊CDの日』のイベントで、再ブームの兆しを見せているのだ。90年代に青春時代を送った世代にとっては懐かしく、デジタル配信で育った令和の若い世代にとっては、この8cmサイズのCDのフォーマットは、アナログ盤やカセットテープと同様に音楽産業のリバイバル・ブームと言えるのだ。
 ここでは『短冊CDの日 2025』にエントリーされて、7月7日に同時リリースされる中から、弊サイトのカラーや筆者の好みやで選出した作品を詳細レビューで紹介したいと思う。

●短冊CDの日 2025 -シングルCDの祭典-公式サイトリンク



Wink Music Service 
『素直な悪女/ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』(VSCD9747)
 『Fantastic Girl/Der Computer Nr.3』(VSCD9748)
 『ミツバチのささやき/ロマンス』(VSCD9749) 

 昨年のキャンペーンでファースト・シングル『ローマでチャオ/ヘンな女の子』を取上げたWink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)は、同年7インチでリリースした3作の『素直な悪女/ラ・ブーム ~だってMY BOOM IS ME~』、『Fantastic Girl/Der Computer Nr.3』、『ミツバチのささやき/ロマンス』を今年はエントリーしている。それぞれタイトル曲とカップリング曲に各インスト・ヴァージョンの計4曲を収録しており、7インチを所有するファンにもコレクターズ・アイテムとして必携である。
 
 各曲の詳細レビューはリンク先の当時記事を読んで欲しいが、弊サイト的にはソフトロック色が強く、筆者(管理人)が2024年のベストソングに選出したオーバンドルフ凜(りん)歌唱の『Fantastic Girl』が特にお勧めである。
 またこのパッケージでのヴィジュアルでもゲスト・ボーカルの美少女ハーフ・モデルのアンジーひよりと前出のオーバンドルフ凜、現役アイドルの白鳥沙南の存在感は大きく、WMSを主宰するベテラン・クリエーターのサリー久保田と高浪慶太郎による究極のポップ・ユニットの戦略は、音楽面以外にも成功しており、今後の活動にも期待するばかりだ。


Wink Music Service (左から高浪慶太郎、サリー久保田) 

アンジーひより    オーバンドルフ凜   白鳥沙南

◎『素直な悪女』+『Fantastic Girl』:詳細レビューはこちら
◎『ミツバチのささやき』(『It Girls』収録時):詳細レビューはこちら


 
平野友里(ゆり丸)『世界でいちばん熱い夏』(NRSD-3156)

 同じく昨年『超ゆり丸音頭』(プロデュース:ムーンライダーズ白井良明)をレビューしたアイドル・シンガーのゆり丸こと平野友里は、80年代後半にヒットした、PRINCESS PRINCESSの「世界でいちばん熱い夏」(1987年/最高順位:1位)と、渡辺美里の「恋したっていいじゃない」(1988年/最高順位:2位)のカバーをカップリングしたシングルでエントリーしている。サウンドプロデューサーには近年マスタリング・エンジニアとしても著名なmicrostar佐藤清喜が起用され、全ての演奏も手掛けおり、彼が得意とする英国エレクトロ・ポップのカラーも見え隠れしている。収録は各曲のカラオケ(インスト)・ヴァージョン含めた4曲に、「超ゆり丸音頭」を佐藤によりダブミックスした「超ゆり丸音頭(nicely nice dub mix)」を加えた計5曲となっている。 


 ゆり丸のプロフィールは前回のレビューを参照頂くとして、このカバーについて解説しよう。「世界でいちばん熱い夏」は、PRINCESS PRINCESSのボーカル奥居香の作曲、ドラム富田京子の作詞で、原曲のアレンジはバンドとプロデューサーである笹路正徳(フュージョンバンド元マライア出身)が共同クレジットされている。
 この曲を聴いてポップス・マニアは直ぐに分かると思うが、サビのオマージュ元はフランキー・ヴァリの「Can't Take My Eyes Off You」(1967年)だろう。ここでのカバーはオリジナルと異なり、このキャッチャーなサビを冒頭に持ってきて聴き手にインパクトを与えているのがグッドアイデアだ。基本アレンジは完成度が高かった原曲を踏襲しながら、コーラスやギター・カッティング・パターンを変え、シンセ・ドラムのアクセントを入れている。

 カップリングの「恋したっていいじゃない」は、渡辺美里による作詞、作曲は後にダンス&ボーカルグループSPEEDのプロデューサーとして活躍する伊秩弘将で、アレンジは大貫妙子やEPOなどを手掛けたベテランの清水信之。このオリジナルは渡辺自身が出演するコーヒーCMのタイアップ曲だったこともあり、アップテンポで躍動的な曲だった。遡る1984年にカセットテープCMのタイアップ曲で、日本でもヒットした米女性シンガー、Teri DeSarioの「Overnight Success」に通じる明快さはいかにも当時のヒットポップスである。
 ここでのカバーは佐藤がリスペクトする英国人プロデューサーのトニー・マンスフィールド風のシンセサイザーのサウンドが聴けてマニア心をくすぐる。両曲ともゆり丸の非凡な歌唱力によりオリジナルの完成度にも引けを取らないので、80年代ポップス・ファンにもお勧めである。
 またボーナストラックの「超ゆり丸音頭(nicely nice dub mix)」は、英国プロデューサーのエイドリアン・シャーウッドが1979年に設立したOn-U Sound Recordsに通じるダブミックスで、オリジナルを換骨奪胎した大胆なサウンドは新鮮に聴けてダンス・ミュージックとしても面白い仕上がりだ。 



TAMAYURAM (まゆたん✖️ルカタマ)
『bye-bye, tape echo』(NRSD--3153)

 TAMAYURAM(たまゆらむ)は、シンガー・ソングライターのルカタマと、嘗て『三宅裕司のいかすバンド天国』(通称イカ天)への出演で一躍知られた伝説のガールズバンド“マサ子さん”のボーカルまゆたんで結成された女性2人組ユニットだ。
 本作『bye-bye, tape echo』は、今年2月にリリースされたファースト『She’II ―あの子が世界を赦すまでー』と同様に短冊CDのフォーマットに拘ったセカンド・シングルとなる。
 アイドルグループ ”めろん畑a go go”出身のルカタマは、筆者の2024年ベストソングで選出した広瀬愛菜の「LA BLUE feat.MCあんにゅ ルカタマ」でフューチャーされるなど、その活動は多岐に渡るので記憶に新しいと思うが、このユニットもユニークな存在なのでここで取上げたい。 

左からまゆたん、ルカタマ

 タイトル曲の「bye-bye, tape echo」は、本作のプロデューサーである音楽ユニットdetune.(デチューン)の郷拓郎(ごう たくろう)がソングライティングとアレンジを手掛け、ギター以外の全ての演奏とプログラミングまで担当している。高域のまゆたんと中音域の柔らかいルカタマの声質のブレンドがこのユニットの魅力であるが、郷はそんなボーカル・パートが引き立つサウンド作りをしている。ラグディなドラム・ループにウーリッツァー系エレピや各種シンセで上物を構築し、サエキけんぞう率いる”ハルメンズX”のメンバーでもあるギタリストの吉田仁郎が複数のギター・トラックでプレイしている。

 カップリングは、ムーンライダーズが1986年にリリースし、筆者が最高傑作候補に挙げる『Don't Trust Over Thirty』のB面3曲目に収録された「A Frozen Girl, A Boy In Love」(作詞:滋田みかよ)のカバーである。ここでは同曲の作曲者でライダーズの武川雅寛がヴァイオリンとコーラス、また昨年古希を迎えた鈴木博文もコーラスでゲスト参加するという豪華さである。アレンジ的にはオリジナルより音数を減らしテンポをやや下げて空間を活かし、まゆたんとルカタマの個性あるボーカルのコントラストがより楽しめる。先人二方のコーラスもこのボーカルを引き立てながら、各々爪痕を残すパフォーマンスをしているのが、らしくて嬉しくなる。 

 また今回ここで紹介した、ゆり丸やTAMAYURAM以外のレーベルメイトも同日短冊CDをリリース予定なので触れるが、XOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム)から一色萌に続いてソロデビューした小日向まおの『永遠』(NRSD-3155)、富士山ご当地アイドルグループの 3776 (みななろ)の『さよなら渦巻きの中の私』(TANZ-3776)、そして嘗てヒットしたアニメ『らんま1/2』(1989年/原作:高橋留美子)の主題歌をカバーした、シンガー・ソングライター兼アイドルの小日向由衣の『じゃじゃ馬にさせないで』(NRSD-3152)と、個性派ぞろいなので是非注目してほしい。 

小日向まお『永遠』
(NRSD-3155)disk union 予約
3776『さよなら渦巻きの中の私』
(TANZ-3776)disk union 予約
小日向由衣『じゃじゃ馬にさせないで』
(NRSD-3152)disk union 予約



Usabeni & MaNaMaNa『女ともだち』(AVOC-1005)

 ムーンライダーズ絡みでは、鈴木慶一が作編曲とプロデュースを手掛けた野宮真貴のデビュー・シングル「女ともだち」(1981年/作詞:伊藤アキラ・資生堂CM曲)を、アイドルのUsabeni(宇佐蔵べに)と、ミライスカート出身のMaNaMaNa(林奈緒美)が、Usabeni & MaNaMaNaのデュオ名義で今回カバーして短冊CDでリリースする。
 彼女達は歌詞の世界そのままに実際の友達であるということもあり企画されたらしく、収録曲は同じバックトラックで、UsabeniとMaNaMaNaがそれぞれリードボーカルを取ったヴァージョンを収録し、お互いが双方のヴァージョンでコーラスを取っているという稀なレコーディングが施されている。

左からUsabeni、MaNaMaNa

 今回のカバーでは元相対性理論集団行動(活動休止中のため復活希望!/ドラム:西浦謙助)のリーダーである真部脩一がアレンジを担当し、オリジナルが持っていた慶一イズムなチャイニーズ・スケールのニューウェイヴ感覚を、よりキッチュなサウンドでリメイクしている。コーダにはオリジナルにはないアンニュイなシンセサイザーソロがあり、ライダーズの「鬼火」(『MODERN MUSIC』収録/1979年)を彷彿とさせてライダーズ・マニアとしては嬉しい。
 これらは嘗て『ハイファイ新書』(相対性理論/2009年)で聴けた真部の感覚にも近く、今回この組み合わせを実現させ、これまでにBase Ball Bearやフジファブリック等々多くのバンドを発掘、育成したA&Rマンで、プロデューサーの加茂啓太郎の企画力には敬服してしまう。
  Usabeni、MaNaMaNaのファンの他、初期相対性理論から近年真部が楽曲提供とバックバンドで参加するano(あの)のファンにもアピールするだろう。



スワンスワンズ
『お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~』(SW-005)

 最後に今回プレスキットが送られてきて初めて知ったのが、2人組アイドルグループのスワンスワンズで、新曲の『お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~』を初短冊CDでリリースする。
 彼女達は2022年4月に結成された完全セルフ・プロデュースのグループで、メンバーのあみは作詞を、あかりが振り付けを各々担当し、作編曲とバックトラックは彼女達が気に入ったクリエイター達に発注するというプロダクションで楽曲制作をおこなっている。大阪を拠点に活動し、東京や京都、名古屋など都市部でのライブイベントにも多く参加しているようだ。
 本作にはタイトル曲とカップリングの「パーフェクトスコール」、各インスト・ヴァージョンの計4曲を収録している。 

左からあみ、あかり

 アーテイスト写真をご覧の通り、まずは彼女達のロリータファッションに目を奪われてしまうだろうが、筆者はタイトル曲「お星さま採集~白鳥倶楽部のテーマ~」を一聴してその高度な音楽性に直ぐに魅了されてしまった。
 3分弱の尺なのだが、パート毎に転調とテンポチェンジを繰り返しメロディも極めて複雑で、あみのファンタジーな歌詞の世界にインスパイアされたであろうサウンドに仕上がっている。敢えて言えば、サイケデリックロックやプログレッシブロックのマニアにしか作れない楽曲であり、特にサビの「わたしたちは白鳥倶楽部・・・」からのパートのメロディはクラシック音楽の素養がないと編み出せないし、続くブリッジのペンタトニック・スケールのメロでクールダウンさせるテクニックも巧みだ。
 作編曲は大阪で活動するマルチプレイヤー兼エンジニアの吉井大希で、全ての演奏も彼が一人多重録音で担当しており、そのセンスも含め令和のシド・バレットロイ・ウッドと呼んでしまいたい。 

 カップリングの「パーフェクトスコール」は、一転してステディな打ち込みシティポップ・サウンドで、リズムパターンは竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」(1984年)を踏襲している。不毛の恋愛を綴ったあみの歌詞もサウンドにマッチしていて、ドライブミュージックとしてリスニング可能だ。作編曲は大阪音大卒の若き作編曲家のマキシコーマで、キーボード類とプログラミングなどバックトラックも一人で担当している。ライブでの再現性が難しそうな転調が多い「お星さま採集」に比べ、この「パーフェクトスコール」は今後ライブ・レパートリーの定番になるかも知れない。


 以上紹介した各作品は短冊CDのフォーマットにより数量限定のため、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った読者は、各リンク先から直ちに予約し入手して聴いて欲しい。

(テキスト:ウチタカヒデ) 

0 件のコメント:

コメントを投稿