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2024年3月3日日曜日

鈴木祥子:『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE...2009-20XX』


 シンガー・ソングライターとして36年目となる鈴木祥子(すずき しょうこ)が、自身が主宰するレーベルBEARFOREST RECORDS(ベアフォレスト・レコード)より発表した、アナログ・7インチシングルやCDシングル等から16曲を選出したコンピレーション・アルバム『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE...2009-20XX』(BEARFOREST RECORD / BECD-30/31)を3月8日にリリースする。

 昨年12月のなんちゃらアイドルのカバー・アルバム『Sentimental Jukebox』へのスペシャル・ゲスト参加も弊サイト読者には記憶に新しい鈴木だが、2009年6月の『超・強気な女(I’ll Get What I Want)』(BEEP-001)から、2021年3月の『助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!』(NRSP-795)までの現在入手困難な音源や初CD化された貴重音源が本作で一挙に聴けるのだ。また付録の8cm ボーナス・シングルでは、カップリングとして収録された洋楽カバーが4曲収録されており、彼女のファンにとってはメモリアルなアルバムとなった。
 なお本作のプロデュースは鈴木本人と、BEARFOREST設立時からレーベルを支えてきた、現なりすレコード主宰の平澤直孝との共同でおこなっており、アナログ・レコーディングに拘った全曲のリマスタリングをビクター・スタジオのチーフ・エンジニアの中山佳敬が手掛け、音質向上の点でも特筆すべきポイントとなっている。
 ジャケット・デザインにも触れるが、パブロック・ファンには一目瞭然の通り、ニック・ロウのベストアルバム『16 All-Time Lowes』(1984年)を彷彿とさせる。アート・ディレクターとして著名な坂村健次がデザインを担当しているが、アルバート・グロスマンが設立しトッド・ラングレンの諸作で知られる、Bearsville RecordsのロゴをBEARFORESTのそれでオマージュした鈴木らしい、実にマニアックでセンスを感じさせる。 


 彼女のプロフィールにも触れよう。1988年9月にEPIC SONYよりシンガー・ソングライターメジャー・デビューし、現在までに13枚のオリジナル・アルバムを発表している。またデビュー前の86年からドラムやパーカッション、キーボード・プレイヤー、コーラスのセッション・ミュージシャンとして、原田真二、ビートニクス(高橋幸宏と鈴木慶一のユニット)から小泉今日子のツアー・メンバーとして活躍するなどマルチプレイヤーであるばかりか、ソングライターとしてもこれまでに、大ヒットした小泉今日子の「優しい雨」(1993年)をはじめ、松田聖子「We Are Love」(1990年)、PUFFY「きれいな涙が足りないよ」(『FEVER*FEVER』収録/1999年)等々メジャー・アイドル歌手への提供も多く、職業作家としても活躍している稀有な存在なのだ。 

 なお本作には23頁におよぶ豪華ブックレットが付き、全収録曲のセルフ・ライナーノーツが掲載されており、そこでの鈴木自身による詳しい解説を読んで頂きたいので、ここでは筆者が気になった収録曲のみ解説していく。 
 冒頭の「超・強気な女(I’ll Get What I Want)」は2009年リリースの7インチ・シングルで、スリーリズムのシンプルな編成でピアノとドラム(リズムボックス含め)が鈴木、ベースをCHAINSのラリー藤本がそれぞれ担当している。当時デビュー20周年を迎えた鈴木のドキュメンタリー映画『無言歌~romances sans paroles~』の主題歌で書き下ろされ、強気というか勝気な女性の一人称の歌詞が、50年代アメリカのリーバー&ストーラー作のコーラス・グループ風の曲調で歌われる。シングル盤ジャケットはトッドの『The Ever Popular Tortured Artist Effect(トッドのモダン・ポップ黄金狂時代)』(1982年)のオマージュだ。
 美しいバラードの「センチメンタル・ラブレター」は2012年のバレンタインデーにリリースされたCDシングルで、平澤の助言もあり初期~中期オフコースのサウンドと小田和正のソングライティングに影響されているという。鈴木による鍵盤類のみの一人多重録音で構成され、コード進行やコーラス・アレンジ、間奏のProphet-600のソロやウインド・チャイムのアクセント等オフコース・サウンドをオマージュしている。筆者的には鈴木の声質からローラ・ニーロを彷彿とさせてしまった。 

『青空のように』 
(BEEP-004/2011年/現在7インチは廃盤)

 弊サイト読者なら巨匠と称する大瀧詠一(大滝詠一)作「青空のように」(オリジナル・同名シングル及び『NIAGARA CALENDAR』収録/77年)のカバーは、2011年1月にリリースされた7インチ・シングルで、ブリッジ・パートに同じく大瀧作の「ニコニコ笑って」(『GO! GO! NIAGARA』収録/76年)を挟んだハイブリッドな構成になっている。基本アレンジはオリジナルを踏襲しており、ボーカルの他、全てのコーラス、ドラム、オルガン、ピアノ(クレジットにはないがウーリッツァーも聴こえる)、スレイベル、カスタネットを鈴木の一人多重録音、ホーン・アレンジとバリトン、テナー、アルトの3管のサキソフォンは山本拓夫がプレイしたという、たった2人のレコーディングで完結させとは思えない仕上がりなのだ。
 何しろフィル・スペクターのフィレス・サウンドを源流とするドラムのリバーブ感やカスタネットのヒスパニック系リズムのパターン、また複雑なコーラス・アレンジのトップで進行するファルセットのライン(オリジナル・ヴァージョンはノンクレジットだが山下達郎らしい)など、細部に渡った研究により再現されていて今更ながら脱帽してしまう。

 続く「You take me,you make me」は同じ2011年の CDシングルで、一転してザ・バンド風のサウンドでピュアな歌詞を持つラヴ・バラードである。鈴木はドラムの他、ピアノ、ハモンドオルガン、ウーリッツァー、チェンバロまで演奏し、ホーン・セクションにはムーンライダーズのヴァイオリニストとして著名な武川雅寛、栗コーダーカルテットの川口義之と関島岳郎が参加し、川口は巧みなテナーサックス・ソロもプレイしている。なにより鈴木の表現力豊かでソウルフルなボーカルは圧巻で感動してしまう。
 2012年に7インチ・シングルとCD2枚組という変則的形態でリリースされた『(To)my Sweetest Fantasy」』のリード・トラック「愛と幻想の旅立ち」は、同年2月18日に渋谷のクラブ、サラヴァ東京にて一人多重で公開レコーディングされ話題となってリリース後即完売していた。本作には2022年の『鈴木祥子私的讃美歌集1』に収録されたニューミックス・ヴァージョンが収録されている。溌溂としたエイトビートのポップスで、サビへの展開などはシルヴィ・ヴァルタンの「Irrésistiblement(あなたのとりこ)」(1968年)に通じており、コーラス・アレンジにはドゥーワップからの影響を感じさせる。曲後半には公開レコーディングに参加した観客達のハンドクラップが挿入され臨場感が加えられている。
 鈴木としては異色コラボであろう2021年の7インチ・シングル「助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!」は、アイドル出身ながらエレクトロ・ポップ系シンガー・ソングライターとして注目されている加納エミリが、アレンジとサウンド・プロデューサーで参加している。加納は昨年5月にリリースされたFrancisのシングル『裁かるゝエミリ』でフューチャーされていて、本曲でも彼女が得意とするネオ80’sサウンドをバックに鈴木のキュートさを引き出している。


 アコースティックピアノのみのバックで歌われる「北鎌倉駅」は、夏のひと時の記憶を切り取った短い歌詞を、10ccの「I'm Not in Love」(1975年)に通じる幻想的なマルチトラック・コーラスが演出する曲で、鈴木の繊細なピアノ演奏も含め聴くべき曲だろう。
 本作ラストに収録された「ファーラウェイ・ソング(遠く去るもの)」は、2008年のデビュー20周年アニバーサリー・アルバム『SWEET SERENITY』の10年後にアナログ盤でリイシューされた際、新規録音で追加されたうちの1曲で、アレンジを担当した菅原弘明による、12弦アコースティック・ギターとエレキギターのリフがリードするロック・ナンバーだ。菅原はベースとシンセサイザーのプログラミングも担当し、鈴木はドラムとピアノをプレイしている。ギターリフのアルペジオ・パターンからThe Byrdsを彷彿とさせるので、フォークロックやアメリカ西海岸ロック・ファンも必聴である。

 8cm ボーナス・シングルにも触れておこう。いずれもこれまでのシングルにカップリング収録された洋楽カバー曲で、フィル・コリンズの「Against All Odds(見つめて欲しい)」(1984年)、エイジアの「Heat Of The Moment」(1982年)という、いずれも鈴木が青春時代に聴いていていたUKロックのヒット曲。またリンダ・ロンシュタットの『Heart Like a Wheel(悪いあなた)』(1974年)収録の「Heart Like A Wheel」、そしてSINDEE & FORESTONES名義で発表された、リーバー&ストーラー作でクリフ・リチャードがヒットさせた「Lucky Lips」(1957年)を収録している。いずれも現在CD音源で聴くのは困難な曲ばかりなのでこの機会に入手すべきだ。


 なお本作は取扱店舗が現時点では限られているため、東京都心以外に在住する読者は、鈴木のオフィシャルサイトから入手して欲しい。


●取り扱い店舗:
 パイドパイパーハウス(タワレコ渋谷7F) 
 ディスクユニオンお茶の水駅前店
 武蔵小山ペットサウンズレコード>通販あり

(テキスト:ウチタカヒデ

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