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2022年11月25日金曜日

IKKUBARU:『LAGOON / THE FOUR SEASONS』(CA VA? RECORDS / HAYABUSA LANDINGS / HYCA-8046


 現日本のシティポップ・ブームの後押しで注目される、インドネシアのAOR~シティポップ・バンドのイックバル(IKKUBARU)が、新曲「LAGOON」を7インチ・シングルで12月3日にリリースする。
カップリングの「THE FOUR SEASONS」もシュガー・ベイブ(SUGAR BABE)の「DOWN TOWN」に通じる小気味良いグルーヴで必聴チューンなので紹介したい。

 昨年8月リリースの『Summer Love Story』(HYCA-8023)のレビューでもプロフィールを紹介しているが、彼らはソングライターでフロントマンのムハンマド・イックバル(Muhammad Iqbal、以降ムハンマド)を中心として、2011年にインドネシアのジャワ島西部の州都バンドゥンで結成された4人組だ。ムハンマドはボーカルとギター、キーボードを担当し、ボーカル兼ギターのRizki Firdausahlan、ベースのMuhammad Fauzi Rahman、ドラムのBanon Gilangからバンドは構成されている。
 2015年から来日公演の他、TWEEDEES、脇田もなり、RYUTistなど国内アーティストとのコラボレーションも多く、日本との繋がりは極めて強い。今年7月には日本テレビ系の地上波番組『世界一受けたい授業』のシティポップ特集にリモート出演し、その存在を一般層にも広げており、今後の展開にも期待出来るのだ。 
 これまでに『Amusement Park』(2014年)、『Chords & Melodies』(2020年)の2枚のオリジナル・アルバムをリリースしており、21年6月には『Amusement Park』のExpanded Edition2枚組で、同年7月には『Chords & Melodies』をアナログ盤LPでそれぞれリイシューしている。繰り返しになるが昨年8月にはRYUTistへ提供した「無重力ファンタジア」のセルフカバーをカップリングにした『Summer Love Story』を7インチ・シングルでリリースして好評だった。
 

 本作は「LAGOON」、「THE FOUR SEASONS」共にムハンマドのソングライティングによるオリジナルの新曲で、アレンジとプロデュースも彼自身が担当しており、「LAGOON」にはバンド・メンバー以外にパーカッショニストとしてRezki Delian Kautsarが参加している。
 ジャケット・デザインにも触れるが、『Summer Love Story』に続き、KADOKAWA発行の隔月刊漫画誌『青騎士』連載中の「音盤紀行」を初単行本化して話題の漫画家、毛塚了一郎(けずか・りょういちろう)が描き下ろしのイラストを提供している。珊瑚環礁に囲まれた海岸を眼下にしたひと夏のシーンがサウンドをイメージさせてくれる。

 では本作の収録曲を解説していこう。タイトルの「LAGOON」はオーバードライヴの暖かみのある歪みとコーラスで広げたギター・ソロがイントロから間奏、コーダまで活躍しているサマー・アンセムで、Rizkiのギター・プレイは高中正義に通じて興味深い。高中のヒット曲「BLUE LAGOON」(1980年)へのオマージュと思しきスケール感に思わずニンマリしてしまう。Fauziのベースはフレットレスで、Banonのラテン・テイストなドラミングとのコンビネーションもマッチしている。またゲストのRezkiはコンガの他、ウッドブロック、シェイカー、ツリーチャイム、トライアングル、レインスティックまで多種多様にプレイして曲を演出しているのが聴ける。
 この曲に因んで今回特別に筆者も10代の頃ファンだった高中正義のベストプレイのサブスクのプレイリストにしたので聴いて欲しい。

 
高中正義ベストプレイ・プレイリスト

 カップリングの「THE FOUR SEASONS」は冒頭の通り、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」(1975年)に通じる小気味良いグルーヴが印象的なプリティーなラヴソングだ。歌詞の内容は四季を通して恋を高め合うというものだが、夏から始まり春には溶けてしまうという発想が面白い。
 「DOWN TOWN」に関してだが、以前他アーティストのレビューで触れたので再掲するが、クレジット通り伊藤銀次氏の作詞で山下達郎氏の作曲と認識しているファンも多いと思う。しかし実際はサビのリフレインは伊藤氏のソングライティングであったことがマニアにはよく知られている。また散々指摘されているが、この曲はアイズレー・ブラザーズの「If You Were There」(『3 + 3』収録/1973年)へのオマージュではなく、ザ・フォー・トップス「I Just Can't Get You Out Of My Mind」(1973年)を意識していたことを伊藤氏はラジオ番組でも公言しているので要注意である。
 またそれを遡るとこのグルーヴはStax RecordsでBooker T. & the MG'sのドラマーとして活躍したアル・ジャクソンJr.が、後にHi Recordsで編み出したパターンが基ではないかと思われるのだ。アル・グリーンの稀代の名曲「Let's Stay Together」(1971年)のドラム・パターンのテンポを上げると、「I Just Can't Get You Out Of My Mind」のそれに近いという。何とも興味は尽きない訳であるジャクソンだ(笑)。

 
WebVANDA管理人が考察するDOWN TOWNプレイリスト

 なお本作『LAGOON / THE FOUR SEASONS』も『Summer Love Story』同様、数量限定の7インチ・シングルなので、筆者の解説を読んで興味を持ったシティポップ・ファンは、リンク先のオンラインショップ等で予約して入手することをお勧めする。
JET SET RECORD & CD ONLINE SHOP:https://www.jetsetrecords.net/i/716006103419/

(テキスト:ウチタカヒデ

2022年11月21日月曜日

Hack To Mono-Goldringがやってきた、そしてウクライナからのおくりもの


Art Laboe

 Art Laboeが2022年10月7日に97歳の大往生を遂げた。現役ラジオDJとして死の直前まで活躍し、彼の生み出したフレーズ「Oldies But Goodies」はラジオ番組のみならず、創業者として立ち上げた自身のレーベルからリリースした同名のコンピレーションはベストセラーとなった。また、Morgan家と実父Murryを通じて15歳のBrianをオーディションに向かわせた先は彼のレーベルであった。(リリースは実現せず)

 R&B〜Rock’n Roll黎明期の立役者の物故が相次ぐ昨今モノラル音源を大切にしたい。

 モノラル再生に大志を抱き1年経った、最近の収穫は英国製モノラルカートリッジだ。

 Goldring社はドイツで創業し蓄音機周りの製造を中心としたが、英国へ製造拠点を移転後はカートリッジ中心に現在でも定評がある。モノラル時代に発売された500は人気を博しステレオ時代の幕開けに登場した600以降ステレオカートリッジにその座を譲る。


 今回600を譲るとの報があったが、詳細を確認せずオファーを二つ返事返したのはいけなかった。英国より届いた筐体はGoldringと言う割には鈍い銅褐色だ。


Goldring 600のハズだったが?
ヘッドシェル付きで入手したもののボディの色が違う?
ヘッドシェルを外してみた

 よく調べると600の前の580のようだ。きんさんぎんさんに続いて銅も獲得した訳だから、これも何かの縁、と割り切るしかない。テスタで通電を確認し、問題ない。改めて筐体を確認する、この鉄仮面は2つの顔があるのだ。先端のノブを押し込むと回転する、再生針が表裏についているのだ。SP盤からLP盤への転換期の時代背景がこの二面性の原因といえよう。

 今回は両面LP対応にすることとした、事前に入手した交換針がなかなか雑な作りである。そもそも純正と思われる方の針も変わっている。針を装着する箇所にパテ状の物質で覆われており、この弾力がダンパーの役割なのか?

「仮面」をとった状態

 といっても50年以上の歳月が固化を生じて錠剤並に変化してしまっていた。取り外すだけでもヤスリで少しづつ削らねばならなかった。交換針もクセモノで、樹脂の部分のサイズがやや大きい、こちらも削りながら位置調整が必要だった。

謎の交換針----赤い部分を削らなけらば入らない!

謎のパテに覆われた純正針

 あとはアームへの装着だけだが、新たなハードルが!現代のトーンアームとはそもそも形状が全く違うので通常のヘッドシェルでは対応しないのだ。60年近く前の製品だから絶版なのは覚悟の上だがどうするか?

「カーソル」を装着した状態 このパーツがあれば....

 自分で作る?いやいや、Murryが英国から輸入したような工作機械が必要だ。しかし世の中には予想もつかない好き者がいるものだ、当方の所有機種のパテント元の米国機種のクローンを製造販売していたのだ。さらに予想もつかない事態が!

そう、当人の住まいChernihivとある、なんとUkraineの北方の都市だった。

 Chernihivで検索すると露軍の侵攻や制圧にミサイル攻撃のニュースがこれでもかという位出てくるのだ。これでは当人宅から旋盤や加工素材など露軍兵士に持っていかれてもおかしくは無いはずだ、思わず弱気になる。恐る恐る本人にコンタクトを取ると数日後「今でもフル操業中」との返事があった。もうここまで来たらSerge(本名)君に任せた、送金しよう。たとえパーツが露軍に差し押さえられてもいい、ほぼお布施感覚だが送金は成功した。数日後「送ったよ」の連絡があった、本人は航空便で送ったとのこと、しかし当地の情勢では日本に向けて航空機を飛ばせば露国の勢力圏に入り撃墜されるのではないか?

 この懸念も杞憂に過ぎなかった、ある日ニュースで宇国から海外への空輸はPolandへ一旦陸路で配送し、波国から空輸するとの報道があった。このため宇国と波国の国境にはトラックの大渋滞で、国境を超えるのに数週間要するとの事。実際追跡番号で検索したが、首都Kiewへ持ち込みの後2週間も動いていなかった。発送メールから一ヶ月強、とうとう自宅へ到着した。


 早速開封し件のカーソルに580をネジで固定し、アームへ装着。パテントは同じと思われるが国内製造メーカーによっては形状が異なるのが懸念事項だったが、

60年の隔たりを感じさせない寸分違わぬ見事な出来だ、楽曲なら極上カバー!。

戦火をくぐり抜けてたどり着いたぶん、ありがたみは大きい。

ありがとうSerge!

さて、初めて聴くレコードは如何に?

英国製なら英国盤で応えよう、モノラル時代なのでクラシック?

ある意味Phil Spector並の破天荒なビーチャム卿指揮のエニグマ変奏曲か?

いやいやもっと大衆的なのがいい、ということで

The Rolling Stonesのデビュー盤「Come On」にしてみよう。



 tax code入の初期オリジナル盤をあえて選び聴いてみよう。彼らのファンならご存知の通り当盤は本人たちはレコーディングに不承不承の状態で参加したようなので、出来としては今一つだが、エコーや音の重なりが心地よく、Brian Jonesのハープも背後で子気味よく聴こえてくる。




 本項作成中に宇国南部Kherson州において露軍撤退の報が入る、KhersonといえばPhil Spectorの父祖由来地である、冥府で本人も喝采を送っているだろうか?宇軍はドニプル川渡河を決行し露軍をクリミア半島へ押し返そうと企図している。
 思えば約80年前独ソ戦において当時のソ連邦は逆の立場でドニプル川渡河作戦を行い独軍をクリミア半島へ押し返したその際米国から供与のジープが活躍したと聞く、加州からの便が寄与したとのこと。現在の宇軍の通信インフラは衛星インターネットだ、供給元は米国のElon Musk率いるSaceX社である。SpaceX社の本拠地はWilson兄弟及びThe Beach Boys由来のHawthorneに置く、今後の戦況はいかに?

2022年11月15日火曜日

RYUTist:『(エン)』(PENGUIN DISC / PGDC-0013)


 新潟在住の4人組ガール・ヴォーカル・グループRYUTist(リューティスト)が、『ファルセット』(PGDC-0012)以来2年振りの5thフルアルバム『(エン)』を11月22日にリリースする。
 本作には2021年5月にシングルとして配信されていた「水硝子」をはじめ、今年8月10日から11月9日までに「うらぎりもの」と「しるし」、「朝の惑星」、「オーロラ」の計5曲を先行発表し話題を集めていた。

 弊サイトでは、The Pen Friend Clubの平川雄一が楽曲提供し演奏にもバンドで参加したセカンド・アルバム『日本海夕日ライン』(RR-012/2016年)から紹介しているので、読者の皆さんはご存じかも知れないが、彼女達のプロフィールを再度紹介しよう。 
 2011年 5 月に新潟県最大の専門学校グループ「NSGカレッジリーグ」が主催した、オーディションにより選ばれた5名のメンバーで佐藤乃々子をリーダーとして結成された。その後2名が卒業し16年には佐藤と宇野友恵、五十嵐夢羽に、小学生の頃からソロ活動をしていた最年少の横山実郁を加え、現在の4人組となっている。生まれ育った新潟のご当地アイドルという枠を飛び越えて、実力知名度共に全国区となっている。

左から五十嵐夢羽、横山実郁、佐藤乃々子、宇野友 恵

 本作は前作『ファルセット』同様に新鋭クリエイターが多く楽曲提供し、各者の強烈な独自性を持つサウンド・プロダクションによりRYUTistワールドを更に拡大させているのが特徴だ。
 新たに参加したクリエイターから紹介していくが、いち早く先行配信された「水硝子」をはじめ3曲を提供している君島大空(きみしま おおぞら)は、多くの女性シンガー・ソングライターのレコーディングやライヴに引っ張りだこの若手ギタリストとして知られている。
 その他にもKing Gnuの前身バンドのメンバーで東京芸術大学出身のジャズ・ドラマーとして知られる石若駿(いしわか しゅん)、2016年にユニット“神様クラブ”として活動をスタートし19年からはソロでも活動しているエレクトロポップ・アーティストのウ山あまね、日本人とアイルランド人のハーフ女性シンガー・ソングライターのermhoi(エルムホイ)。彼女の夫マーティ・ホロベックは、前出の石若が率いるSMTK (エスエムティーケー)のベーシストでもある。
 『ファルセット』から引き続き参加している組では、今年5月に6thアルバム『ぼちぼち銀河』をリリースした女性シンガー・ソングライターの柴田聡子、独自の活動を続ける打ち込みユニットのパソコン音楽クラブ、同作のリードトラック「ALIVE」で良い仕事をした蓮沼執太も健在で、彼らは新たなRYUTistサウンドにとって掛け替えのない存在となっているようだ。 
 このように個性の異なる鬼才クリエイター達に、サウンド・プロダクションを任せているプロデューサーの安部博明の存在は極めて大きい。彼は相対性理論フレネシなど筆者も早くから評価していたアーティスト達を熱心にチェックしていたらしいので、その先見性や審美眼がRYUTistの活動にフィードバックされているのは言うまでも無い。 
 ジャケット・デザインにも触れておくが、グラフィック・デザイナーとして国内外のコンテストやビエンナーレでの受賞歴が多く、アンビエント・ユニットを結成してミュージシャンとしての側面もある大澤悠大が手掛けている。淡い色彩を円状にエフェクティヴ処理して、興味を引くコンセプチャルなデザインである。

   RYUTist - 朝の惑星 【Official Audio】   

 ここからは収録曲の解説をしていく。冒頭の「支度」は続く「朝の惑星」の導入部的サウンド・コラージュで、両曲のソングライティングとアレンジ、全ての演奏とプログラミングを君島が一人多重録音でおこなっている。本編の「朝の惑星」はカットアップを多用したマジカルなサウンド・スケープにより、半醒半睡状態を綴った歌詞の世界観をよく表現しており、RYUTistのヴォーカルもエレメントとして効果的に配置されてサウンドとの一体化を生んでいる。高度なHDレコーディングの編集技術に裏打ちされ結晶した曲と言えるだろう。 
 続く「うらぎりもの」も一筋縄ではいかないサウンドで、作編曲の石若を筆頭に、手練なミュージシャン達によるフューチャー・ジャズをバックにした、アブストラクトな集団ヴォーカリーゼーションと呼べばいいだろうか。ラップ・グループ Dos Monosの没a.k.a NGSによる歌詞も極めて観念的で、聴く者を異次元に誘ってくれる。
 演奏は精鋭ジャズ・バンドのSMTKで、リーダーの石若はドラムの他フェンダー・ローズも担当し、ベースのマーティ・ホロベック、ギターの細井徳太郎からなるリズム・セクションに、バークリー音楽大学を首席で卒業したサックス奏者、松丸契がフリーキーに絡んでいく。高度で複雑なコーラス・アレンジを担当した小田朋美は、ceroの4thアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018年)と同ツアーにも参加し準メンバーとしても知られてる才女である。

 
RYUTist -オーロラ【Official Audio】

 マスタリング直後の音源を入手して聴いた際、ファースト・インプレッションで筆者が最もリピートしたのは「オーロラ」で、柴田聡子がソングライティングとアレンジを手掛けている。音数を削ぎ落としたプリミティヴなアフロ・ビートをルーツとするR&Bサウンドをバックに、歌詞割りしたソロ・パートとメンバーのコーラスがリフレインするサビのコントラストが非常に新鮮である。そのソロ・パートも各メンバーの声質で綿密に配置しているのは感服する。
 全てのトラックのプログラミング、コーラス・アレンジとディレクションまで柴田が手掛けており、自らコーラスにも参加している。歌詞の世界観は友人との再会をオーロラ・ツアーで演出するという設定だが、風景描写と心情描写が絶妙に交差し合って完成度の高いものである。
 本作中最もポピュラー・ミュージックのフォーマットを成していて、一般的にも聴き易いのは「しるし」でだろう。前作に提供した「春にゆびきり」と比較して、より成熟したソングライティングとアレンジを手掛けたのはパソコン音楽クラブで、等身大のRYUTist達をうまく表現している。
 再び君島が手掛けた「水硝子」は最も早い段階で発表された収録曲で、「朝の惑星」同様に高度な編集技術によって緻密に構成されていて耳を奪われる。歌詞の世界観を映像化させるサウンド・エフェクトも効果的だ。 
 君島の提供曲群より更に前衛的なサウンドを持つのが、ウ山あまねが手掛けた「たったいま:さっきまで」だろう。編集手法も非常に感覚的であり、歌物の既成概念を壊した際だった斬新さである。そんな中でもRYUTist達のヴォーカルの存在感を残しているはさすがである。


 前作『ファルセット』でコアとなった「ALIVE」の作者である蓮沼執太が本作に提供した「PASSPort」は、前作とはアプローチが全く異なる、プログラミングされたダンス・ミュージックで興味深い。同作収録の「時間だよ」(Kan Sano作)にも通じる、“大人のRYUTist”を演出しているのかも知れない。
 使用された機材はARP社のRhodes ChromaやSEQUENTIAL社のProphet-6のアナログ・シンセサイザーから、Buchla社のモジュール・シンセMusic Easel、往年の名器Roland 社のTR-808といった拘りのヴィンテージ実機が多い。シーケンサーはElektron社のAnalog Rytm MKIIを使用しているようだが、TR-808のキックやハイハット、クラップの他、Rytm MKII本体のプリセットとサンプリング音源も使用して構築させたハイブリッドなドラム・トラックである。上物はChromaでエレピ系、Prophet-6でパッド系を使い分けているのだろう。またMETAFIVEやanonymassのメンバーで、多くのセッションでも知られる権藤知彦がユーフォニアムとフリューゲルホルンで参加しているのも注目だ。彼が生演奏する金管のオブリがこの曲に厚みをもたらしている。
 ラストの「逃避行」はermhoiが手掛けており、エクスペリメンタルでチルアウトなトラックをバックに、無垢で浮遊感に満ちたRYUTist達の歌声が大団円に相応しい美しさだ。日本の他アイルランドにもルーツを持つermhoiが昨年リリースした最新作『DREAM LAND』(PECF-3263)のサウンドにも通じる、“夢と現実の世界”がここでも展開されている。

 最後になるが、前作『ファルセット』以上に強烈で独自性を持つサウンド・プロダクションには、正直面食らってしまうファンもいるかも知れない。だが昨今は多様性を許容していく時代であり、作品毎に成長するRYUTistの新たな魅力を受け入れるという意味でも、筆者の解説で興味を持った音楽ファンは是非入手して聴いて欲しい。


RYUTist結成11周年秋冬ツアー【(エン)】

@新宿ReNY 
■日時:11月27日 開場13:00 開演14:00 終演予定15:30
■会場:新宿ReNY
(東京都新宿区西新宿6丁目5−1 アイランドホール 2F)

@梅田Shangri-La
■日時:12月3日 開場16:00 開演17:00 終演予定18:30
■会場:梅田Shangri-La(大阪府大阪市北区大淀南1丁目1−14)

@仙台MACANA
■日時:12月11日 開場13:00 開演14:00 終演予定15:30
■会場:仙台MACANA
(仙台市青葉区一番町2丁目5-1 大一野村ビルB1F)

@NIIGATA LOTS
■日時:12月17日 開場15:00 開演16:00 終演予定17:30
■会場:NIIGATA LOTS(新潟県新潟市中央区幸西4-3-5)

 (テキスト:ウチタカヒデ

2022年11月5日土曜日

Don Cooperについて

 近頃フォーキーな音楽が耳に留まることが多くて、前回はDon Crawfordについて書いたけれど、もう1人気になっていたのが70年代前半頃に活動していたカンザス州出身のDon Cooperというシンガーソングライター。フォーク、ジャズ、ソウル、ブルース、ソフトロックなど様々な要素が入り混じりながらも、それらが不自然なく楽曲に心地よく溶けこんでいて、とても味わい深く感じる。


Mad George / Don Cooper
(『Bless The Children』)

 彼は幼い頃にウクレレを弾き始め、そのうちにカントリー音楽に興味をもつようになる。高校生の頃は、James Brown、Buddy Holly、The Beach Boysなどをカントリースタイルで演奏していたらしい。その後、Bob Dylanの1963年のアルバム『The Freewheelin' Bob Dylan』から人生の転機になるほど大きな影響を受けたそうだ。


 4枚のアルバムがニューヨークのRouletteレーベルからリリースされている。

1969年 『Don Cooper』(Roulette – SR-42025)

1970年 『Bless The Children』(Roulette – SR-42046)

1971年 『The Ballad of C.P. Jones』(Roulette – SR-42056)

1973年 『What You Feel Is How You Grow』(Roulette – SR-3009)


 Don Cooperの音楽はRouletteレーベルでのリリースは適切ではなかったとも言われていて、当時商業的にはそれほど成功しなかったそうだ。

 有名ではなかったものの、代表作の2ndアルバム『Bless The Children』は90年代のフリーソウルのシーンで人気が高まった作品らしい。オリジナル曲の他、James Taylorのカバー「Something In The Way She Moves」などが含まれる。タイトル曲の「Bless The Children」は、哀愁に満ちたアルバムの中でグルーヴィさが際立つ曲。


Bless The Children / Don Cooper
(『Bless The Children』)
 

『Bless The Children』のクレジット

Don Cooper(Vocal、Guitar)
Elliott Randall(Guitar)
Terry Plumeri(Bass)
Bobby Notkoff(Fiddle)

 70年代半ばからはRouletteレーベルを離れ、子供向けの音楽やテレビ、映画の音楽を制作するなどの活動をしていて、現在でも継続しているようだ。

【文:西岡利恵

参考・参照サイト


 最後に、私の所属するバンドThe Pen Friend Clubのリリース情報について紹介させてください。結成10年目の8thアルバム『The Pen Friend Club』が、9月7日にCD、サブスクリプションでリリースされました。

 収録曲のうち2曲、「The Sun Is Up」「Beyound The Railroad」のMV、全曲視聴トレーラーも公開中です。
チェックしてみていただけたら嬉しいです。

『The Pen Friend Club』全曲試聴トレーラー

The Sun Is Up / The Pen Friend Club
(Official Music Video)

Beyond The Railroad / The Pen Friend Club
(Official Music Video)