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2022年3月12日土曜日

青野りえ:『Rain or Shine』(FLY HIGH RECORDS / VSCF-1776/FRCD-071)リリース・インタビュー


 女性シンガー・ソングライターの青野りえが、セカンド・アルバム『Rain or Shine』を3月16日にリリースする。音楽通のシティポップ・ファンの間で話題となった2017年のファースト・アルバム『PASTORAL』(VSCD-3197)から約5年、前作同様に鬼才シンガー・ソングライター関美彦のプロデュースにより、待望のニュー・アルバムが完成したのだ。
 筆者は2月初頭にマスタリング音源を入手し、聴き続けた結論から先に言ってしまうが、「2022年に必ず聴くべきアルバム」ということを弊サイト読者にお伝えしておく。

 レコーディングには、弊サイトでも高評価している流線形のサブメンバーでもあるドラマーの北山ゆう子とギタリストの山之内俊夫をはじめ、Negicco等のアレンジャーとして活躍するユメトコスメ主宰でキーボーディストの長谷泰宏、細野晴臣や堀込泰行のレギュラー・サポート・ベーシストである名手の伊賀航が参加している。またミックスとマスタリングは近年多くの良作を手掛けているマイクロスターの佐藤清喜が担当と、ベスト・スタッフが脇を固めている。 
 青野は昨年9月に弊サイトで紹介したThe Bookmarcsのサード・アルバム『BOOKMARC SEASON』(VSCF-1775)収録の「君の気配(duet with 青野りえ)」に参加し、その縁もあり洞澤徹の作編曲とプロデュースにより配信限定シングル「Never Can Say Goodbye」を10月末にリリースしたのも記憶に新しいだろう。 何よりヴォーカリストとして実力派である彼女の最新作をいち早く紹介出来て筆者としても非常に嬉しい。
 ここでは本作『Rain or Shine』の曲作りやレコーディングについて、青野へのテキスト・インタビューと、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで彼女が聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。




●ファースト・アルバム『PASTORAL』(VSCD-3197)から約5年経った訳ですが、この期間はどのような活動をされていましたか?
また2019年に配信リリースされたThe Bookmarcsの「君の気配」に参加された経緯と、その後の活動にプラスになった点はあったでしょうか? 

◎青野:『PASTORAL』以降はしばらくライブもあまりせず、のんびり過ごしていました。humsやfeeloops(いずれも青野を中心とするユニット)で新曲を作ったりデモ制作は少し行っていました。 
The Bookmarcsのお二人と会ったのは『PASTORAL』のリリース直後くらいで、ライブにお邪魔した時に「何かあったらご一緒したいですね」、という話をしていました。 こういう話は社交辞令で終ることもあるんですが、洞澤さんはちゃんと覚えていてくれて、半年後くらいに連絡が来て、コーラスをお願いしたい曲があるということで送られてきたのが「君の気配」でした。 元々、音楽性も近いものがありましたし、この時のコラボがとても楽しくしっくりきたので、2021年10月のシングル「Never Can Say Goodbye」の制作にも自然に繋がったと思います。

「君の気配(duet with 青野りえ)」/「Never Can Say Goodbye」

●ブクマ洞澤君の律儀さが滲み出た良いエピソードですね。僕は「君の気配」に青野さんをコーラスでオファーしていることは、確か2019年の5月頃ブクマのお二人と飲んでいた時に聞いて、それから『PASTORAL』を聴いたんです。 
洞澤君とのコラボ曲「Never Can Say Goodbye」もメロウ・グルーヴ然とした素晴らしい曲で、7インチなどフィジカルでのリリースを待望しています。 

『PASTORAL』に話を戻しますが、冒頭のタイトル曲を一聴して関美彦さんのアレンジの引き出し力や参加ミュージシャンの巧みなプレイ、そして何より青野さんの歌唱力や表現力に惹かれました。
この曲でスティーヴ・ガットを彷彿とさせるドラムを叩いていたのが、Carnival Balloonのメンバーの頃から知人である北山ゆう子さんだったというのもポイントでしたね。 ところで関さんや参加ミュージシャンの方々との出会いの切っ掛けや時期は? 

◎青野:2011年にaoyamaというユニットでライブイベントに出演した際、対バンで関さんが演奏されていて、その時にご挨拶したのが最初になります。
そのあとすぐに関さんのイベントに呼んでいただいて、彼のバンドと私の弾き語りのツーマンでライブを行ったんですよね。その時の関さんバンドメンバーは北山ゆう子さん、山之内俊夫さんでした。関さんのバンドメンバー(伊賀さん、ゆう子さん、山之内さん)は当時から(おそらくもっと前から)ずっと固定でした。
メンバーの中で一番交流の歴史が長いのは伊賀さんです。

90年代中頃、まだ私が大学生の頃に、初めてバンドを組んで吉祥寺の曼荼羅でライブをしたんですが、その時対バンだったのがbenzoで、benzoのベースが伊賀さんでした。そのライブがきっかけでbenzoのメンバーと仲良くなり、シンガー・ソングライターのイノトモと私の2人でbenzoのコーラスのお手伝いをしたり、仲良くさせてもらっていました。
まだみんなデビュー前で若くて。伊賀さんも今となっては細野晴臣さんのバンドに呼ばれるようなスター・プレイヤーになりましたけど、昔から気さくなお兄さんという印象で、今でも全く変わらず接してくれるので大好きです。 長谷さんは『PASTORAL』の時に、関さん経由で弦のアレンジをお願いしたのが最初です。 

●成る程、対バンで知り合ったのが切っ掛けというのは自然な流れですね。特にbenzo時代の伊賀さんと古くからの知り合いだったというのは貴重です。現在COUCHを率いている平泉光司さんが中心になっていた名バンドですね。 
ところで本作の曲作りとレコーディングに入った時期はいつだったでしょうか?2020年からコロナ禍もあった訳で、スケジュールに大きく影響されたとお察しします。

◎青野:関さんに話をして具体的に曲づくりがスタートしたのは2021年の4月です。レコーディングは10月〜12月でした。コロナの影響はあまり関係なくて、どちらかというとメンバーの皆さまが超売れっ子なので全員揃う日程が年内3日しかなく、3日でプリブロとベーシックの録音を全て終えました。

後列左からプロデューサーの関、山之内、一人おいて伊賀
前列左から青野、北山、長谷

レコーディング中の特筆すべきエピソードをお聞かせ下さい。
前作から継続参加の方が多いですが、プロデューサーの関さんをはじめミュージシャンの方々の印象についてもお願いします。 

◎青野:関さんが事前に用意するのはギター弾き語りのボイスメモのみで、それを元に口頭でメンバーにアレンジを伝えて、メンバー全員でせーので演奏しながらアレンジを固めていくスタイルです。
時々、関さんが思っていなかった方向にアレンジが進むこともありますが、そちらのほうが良ければそのまま採用されます。伊賀さんやゆう子さんもどんどんアイデアを提案してくれます。長谷さんは細やかなコードの調整をしてくれます。山之内さんは口数少ないですが音で仕掛けるタイプです。バンドメンバーの才能がぶつかりあうマジックで曲がどんどん形になっていく様子はとてもわくわくする体験です。

レコーディングはかなり短時間でしたが、メンバーの皆さんが上手すぎるのでほぼ全曲2テイクでOK。2日で8曲のレコーディングは、かなり無茶ぶりですが皆さんの才能のお陰でやりきることができました。
ポストプロダクションでは関さんがシンセの打ち込みを加えたりしてアレンジを最終的に固めていきます。長谷さんと山之内さんにはリモートで追加録音もお願いします。どの曲も最後に関さんがまとめれば必ず良い感じになるので、やっぱり天才だと思います。

●関さんがイニシアティブを取ってのヘッド・アレンジのようで、一歩間違えれば喧々諤々とミーティングが長引いて時間が掛かると思うんですが、各者の技量と気心が知れたミュージシャン同士ならでのレコーディング・セッションでスムーズに進んだ風景が目に浮かびます。
しかし8曲のベーシック・トラックをたった2日で終わらせるのはかなり早いと思います。
 
 本作冒頭の「Waiting for you」の2小節だけのイントロは凄くセンスとインパクトがあって、直ぐに全体の完成度の高さを計り知れました。あとリフレインするコーラスの”Waiting for you・・・”に呼応するコーラスやアナログ・シンセのオブリなど、細部に渡って完璧さを感じましたね。
また「Rain Rain」の後半ブレイクの後、サンバへのリズム・チェンジ、「Blue Moon River」では所謂「That's The Way Of The World」(Earth Wind & Fire/1975年)系のボッサが入ったミッドテンポの難しいグルーヴなんですが、2テイク程で録り終えたのが信じられないです。
関さんのディレクションが的確で、それに応えられるミュージシャンが揃ったということなんでしょうね? 私が挙げた曲など本作のセッションならではのマジックの瞬間を教えて下さい。

◎青野:関さんバンドのメンバーはずっと固定というのもあって、もう関さんがあまり語らずとも、皆さん関さんの頭の中が見えているのかな、というくらいアレンジのセッションはスムーズです。 
関さんが「こんな感じ」と言って例に出すキーワードは一つか二つですが、1〜2テイクでもう関さんからOKで出るので、それがすでにマジックなんじゃないでしょうか。

「Blue Moon River」はプリプロのセッションの最初のテイクでもうほぼ完成形だったと思います。皆さん息をするようにどんどん曲が仕上がっていくので驚異的だと思います。
 「Waiting for you」、「Rain Rain」はベーシックを録った後の関さんによる打ち込みのアレンジが効いています。これも驚異的なんですが、関さんは全てのアレンジをiPhoneのGarage Bandのみで完結しています。スマホ一台であのクオリティです。

今回、一番アレンジでマジックが起きたのは「エンドロール」です。 
プリプロの時はよくあるボッサ系のゆったりした曲調でしたが、レコーディング当日にガラッとアレンジが変わりました。前の感じも良かったのですが、メンバーの皆さんが今までやった事のないテイストのアレンジにチャレンジするような雰囲気になり、皆さん「これは今の時代にアリなのか、無しなのか?大丈夫なのか?」「安全地帯みたいだね笑」と半分冗談みたいな、遊びみたいな感じで盛り上がりました。 アレンジで好き嫌いが分かれるかもしれませんが、個人的に、曲自体は一番好きな曲です。シングルカットしたいくらいです。 
ひと昔前だったら私は避けて通っていた濃厚な80年代テイストも感じますが、今の時代にどんな風に響くのか、とても興味があります。私は80年代角川映画でこれからデビューする女優さんのような心持ちで歌ってみました(笑)。 

今回のアルバムでは全体的に、本気で遊びをするような、そんな雰囲気が少しあるんです。フェイクを楽しむような。そのあたりも楽しんでいただけたらと思います。 

青野りえ「エンドロール」PV

●関さんとバンドメンバーとの意思疎通自体がマジックというのは、エピソードを聞けば聞くほど興味深いです。それとあの完璧なアレンジをスマホアプリのGarage Bandだけで完結させるというのは驚異的です。正に「弘法筆を選ばず」ですね(笑)。 

 「エンドロール」のサウンドにそういう経緯があったとは・・・、確かにアルバム中この曲だけ毛色が違って、これまでの青野さんのイメージとは異なるので意外でした。言われるように80年代角川映画のタイアップ曲でアイドル女優が歌いそうな雰囲気がありますよね、安全地帯というのも分かります。「熱視線」(85年)に雰囲気が近いです(笑)。同時代のイギリスだとフィクス(The Fixx)みたいなニュー・ウェイヴ・ファンクのサウンドね。
関さんは多くの個性的なアイドルもプロデュースされているので、「エンドロール」に関して言えば、そっち方面のテイストを持つサウンドで、バリバリのプロシンガーさんに歌わせてしまったという、一種ミスマッチかも知れないけど逆に新鮮だったという。 

アルバム全体のサウンド的には前作『PASTORAL』よりバリエーションの幅が広くなって、青野さんの新たな魅力が出たのでは、と思いますがいかがでしょうか? 

◎青野:関さん曰く、今回のアルバムはアレンジで80年代を意識されているということなので、その点で前作と比べて幅が広がったと思います。ただ関さんの曲の本質はあまり変わってないし、私の歌い方も変わっていないんですよね。 
前作と違うのは関さんがポストプロダクションでシンセを入れたり、打ち込みの作業をしている点です。あとは、佐藤さんのミックスとマスタリングで音がぐっと現代的になったのではと思います。 新しい音が好きな方にも自信を持ってオススメできる作品になりました。


●ソングライティングやレコーディング期間中、イメージ作りで聴いていた曲を 10曲ほど挙げて下さい。

■Maureen / Sade(『Promise』/ 1985年) 

■Vôo sobre o horizonte / Azymuth

■Dream Come True / THE BRAND NEW HEAVIES 

■The Sweetest Taboo / Sade
(『The Sweetest Taboo』シングル / 1985年) 

■Love Theme - From "Spartacus" / Bill Evans
『What's New』 1969年)

■Chovendo Na Roseira / Elis Regina,Antonio Carlos Jobim
 (『ELIS & TOM』/ 1969年)

■A Dream Goes On Forever / Todd Rundgren(『Todd』/ 1974年)

■All The Same feat. Gretchen Parlato, BIGYUKI / 坂東祐大 

■虹の向こうへ / 広瀬愛菜(『17』/ 2020年・関美彦プロデュース作) 



●リリースに合わせたライブの予定があればお知らせ下さい。 

◎青野りえ『Rain or Shine』発売記念ライブ 
●2022年3月26日(土)
●会場:神保町 試聴室 
●時間:16:00開場 16:30開演
●出演:青野りえ、伊賀航、北山ゆう子、山之内俊夫、
     長谷泰宏、関美彦 
●予約:3500円(1drink込み)/ 20名様限定
●ご予約は試聴室まで:http://shicho.org/1_220326/ 


●では最後に本作『Rain or Shine』のピーアールをお願いします。 

◎青野:ここしばらく、世界的に不安な状況だったり、雨がやむのを待ちわびるような時間が長く続いていますけれども、プロデューサーの関さんのつくる曲はこのご時世でもどんなときでも軽やかな明るさがあるんですよね。 
このアルバムを聴いた人が少しでも明るい気持ちになったり、元気が出たり、明るい夜明けの気配を感じてもらえたら嬉しいです。 

 
青野りえ『Rain or Shine』全曲試聴トレイラー

【青野りえのサインCD屋さん】https://aonorie.booth.pm/
※本作の他、大手CDショップのサイトで入手困難となっている1stの『PASTORAL』など過去作品も購入可能なのでお勧めです。

(インタビュー設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ

 

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