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2017年7月9日日曜日

集団行動:『集団行動』 (ビクター/VICL-64801)

 
 自主製作アルバム時からこのサイトで筆者が高評価していた、“相対性理論”(以下 理論)の初期中心メンバーでメイン・コンポーザーでもあった真部脩一が今年1月に結成したバンド・プロジェクト、「集団行動(しゅうだんこうどう)」がファースト・アルバムをリリースした。
 メンバーは真部の他に、理論の派生元バンド“進行方向別通行区分”からの盟友でドラマーの西浦謙助が参加し、フロントのヴォーカリストには、講談社が主催するアイドル・オーディション“ミスiD2016”でファイナリストとなった、齋藤里菜(さいとう りな)を迎えている。

 理論については、耳の早い音楽ファンやサブカル業界関係者から熱い視線を受けつつ、多くのフォロワーも生み出したので説明不要だろう。
 真部の功績としては、『シフォン主義』(06年に自主製作盤でリリース、翌年全国流通盤を再リリース)『ハイファイ新書』(08年)で全曲のソングライティングを手掛け、『シンクロニシティーン』(10年)までバンドを牽引した。
 惜しくも12年に西浦と共にバンドを脱退するが、前後してアイドル・ユニットのタルトタタンを西浦とプロデュース(アゼル&バイジャン名義)し、同年には女性シンガーのハナエも手掛けるなど裏方での仕事が主となっていく。
 13年にはロック・バンド“Vampillia”にギタリストとして加入するが、今回紹介する集団行動こそが、真部の新たなバンド・プロジェクトとしてこれから注目されるだろう。

 本作では全てのソングライティングと編曲は真部が単独でおこなっており、レコード会社の資料を見る限り、レコーディングはメンバー3名を中心におこなわれている。真部はギターの他、理論時代に担当していたベース、キーボード及びプログラミングも彼によるものだろう。一方”メスコランサ“のレギュラー・メンバーの他、Luminous Orangeやトミタ栞等様々なセッションに参加する西浦のドラマーとしての存在感も重要だ。
 ヴォーカリストの齋藤は、若干23歳になる現在まで音楽経験が一切無いというノンミュージシャンだが、逆にその新鮮さと何色にも染まっていないところが、今後バンドの化学反応に作用すると期待している。


 では収録曲を解説していこう。 リード・トラックの「ホーミング・ユー」は、2台のギター・リフと複数のシンセ・フレーズにより絶妙なハーモニーが構築され、真部が作るメロディは理論時代から独特なペンタトニック・スケールで耳に残る。
 この曲での齋藤のヴォーカルはフラットで特徴のない声質だが、サウンドにうまく溶け込んでいると思う。


   

続く「ぐるぐる巻き」はアルバム中最も短いメロコア風の疾走感あるナンバー。辛辣なメッセージを持つ歌詞と無個性な齋藤のヴォーカルのギャップが面白い。短い曲ながら西浦のドラム・アクセントが随所にあって聴き応えがある。
「東京ミシュラン24時」は、ペンタトニックというか“真部スケール”と呼ぶべき独特のメロディに字余りの歌詞が乗る摩訶不思議なポップスだ。理論の「ふしぎデカルト」から連なる脱力感覚はここでも健在だった。
一転してクールなギター・アルペジオと16ビートのドラミングがリズム・チェンジを繰り返す「バイ・バイ・ブラックボード」は、2コーラス目からはベースが細かいビートを刻み、聴き飽きないアレンジにして工夫している。このサウンドには、理論の「テレ東」のラフミックスを初めて聴いた時の感動が再来した。
蛇足だがタイトルは、ポピュラーなジャズ・スタンダード「バイ・バイ・ブラックバード」からもじったと思しいが洒落ているね。

「土星の環」はアルバム中筆者がベスト・トラックに推す曲だが、スケールの大きいアレンジが、これまでの真部ワークスからは想像出来なかった。空間の隙間と絶妙なエコーを活かしてドラミングのダイナミズムを聴かせるエンジニアリングにも目を見張る。
例えが陳腐になるかも知れないが、U2が『The Joshua Tree』(86年)でモデルチェンジして得た風格を感じさせる。齋藤のヴォーカルもリヴァーブ効果なのか説得力が増している。
「AED」も一筋縄ではいかないアレンジが施されていて、アイディアの引き出しが豊富であることを想像させる。且つギター・ソロでは、ブルース・スケールを元にしたストーンズのキース・リチャーズ風だったりしてハイブリッドな感覚が真部らしさなのかも知れない。
ラストの「バックシート・フェアウェル」は、5分を超えるアルバム中唯一のバラード系の曲で、「ホーミング・ユー」と共にアルバムを象徴する曲である。
理論時代から韻を踏ませる歌詞のセレクトと配置が桑田佳祐並みに素晴らしいと感じていたが、この曲はそれを象徴している。また唐突な大サビの転調が、ポール・マッカートニー風(「Golden Slumbers」から「Carry That Weight」の感じね)になるのが意外だが、非常に新鮮でこのバンドの可能性を感じた。

   

最後になるが、この集団行動の記念すべきファースト・アルバムは、サムシングな新しさを求める拘り派のロック、ポップス・ファンに大いにお勧め出来る内容なので、興味を持った方は是非購入して聴いてほしい。
またこのリリースを記念したワンマン・ライブが9月13日に渋谷WWWで開催されるので、詳細は下記のリンクからチェックしてほしい。
 https://www.syudan.com/news-1 

(テキスト:ウチタカヒデ


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