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2020年10月17日土曜日

bjons:『抱きしめられたい』(なりすレコード / NRSP-775)



 
ポップスバンド、bjons(ビョーンズ)が7インチ・シングル『抱きしめられたい』を10月24日にリリースする。なおこのシングルはカップリング曲を含め既に配信リリースされていたが、7インチ・アナログという温かみのあるメディアで聴くことを勧めるので紹介したい。
 
 彼らbjonsは、2017年にヴォーカル兼ギターの今泉雄貴、ギターの渡瀬賢吾とベースの橋本大輔の3人で結成された。サポートメンバーにドラムの岡田梨沙(元D.W.ニコルズ)、キーボードの谷口雄(元森は生きている、現1983)を加えて都内を中心にライヴ活動をしている。2018年5月にはファーストアルバム『SILLY POPS』をリリースして、ポップス・マニアからの評価も高い。同年7月には同アルバアムから7インチで『ハンバーガー / そろりっそわ』をシングル・カットしており、ジャケット写真が熱心なソフトロック・ファンには知られるThe Paradeの日本編集盤のそれをオマージュしていて楽しい。
 2018年12月にはアルバムの大瀧詠一作品カバー集『GO! GO! ARAGAIN』にも参加しており、「雨のウェンズデイ」をカバーしている。またメンバーの渡瀬は、Spoonful of Lovin'とroppen(橋本も参加)のメンバーで、今年6月に紹介したポニーのヒサミツの『Pのミューザック』でもプレイしており、セッション・ギタリストとして様々なレコーディングやライヴで活躍している。弊サイト企画の『名手達のベストプレイ第8回~デイヴィッド・T・ウォーカー』に参加してくれたのも記憶に新しいと思う。 


 ここでは筆者による収録曲の解説と、bjonsの3人が本作のレコーディング中に聴いていた曲を選んだプレイリストを紹介しょう。
 タイトル曲の「抱きしめられたい」は、カーティス・メイフィールドによる「We've Only Just Begun」のカバー(『Curtis/Live!』収録/ 71年)よろしく、ナチュラルトーンの繊細なギターのフレーズに導かれて静かに始まるスローナンバーだ。
 ソングライティングを担当した今泉の気怠そうな鼻腔から響く声質は一度聴いたら忘れられず、スタイルのみを踏襲したネオ・シティポップ系とは明らかに異なるメロウネスなサウンドと共にこのバンドの個性となっている。渡瀬のデイヴィッドT系の巧みなギター・プレイと、チャック・レイニーを彷彿とさせる橋本の職人的ベースラインにも聴き惚れてしまうのだ。

 
抱きしめられたい / bjons  

 カップリングの「フォロー・ユー」は、谷口の小気味良いウーリッツァーのコード・ワークがリードするリズミックな曲調で、ドラムの岡田を含めた手練達によるリズム・セクションのコンビネーションがとにかく素晴らしい。70年代のジェームス・テイラーとセクションの関係性にも通じる歌と演奏である。

 【bjonsがレコーディング中に聴いていたプレイリスト】
 

●Running Away / Joey Dosik(『Game Winner』/ 2018年) 
◎David T. WalkerとJames Gadsonが参加したVulfPeckバージョンも素晴らしいですが、本人名義の録音では柔らかいアレンジで楽曲の強さが際立っています。「抱きしめられたい」のアレンジの取っ掛かりになった楽曲です。(今泉)

●So in Love / Curtis Mayfield
 (『There's No Place Like America Today』/ 1975年)  
◎楽曲制作〜アレンジ期間中、何年かに一度くる”カーティスにぞっこん”期が来ていました。シンプルなグルーヴに緩めのホーン、カーティスのヴォーカルも最高。飽きの来ない楽曲です。(今泉) 

●Honest Man / Fat Night(『Honest Man』/ 2017年) 
◎アレンジ期間中にプレイリストで知ったシカゴの4人組バンド。素性はほとんど知りませんが、絶妙な湯加減の演奏が気持ち良く展開も鮮やかです。(今泉)  

●Voce E Linda / Caetano Veloso(『Uns』/ 1983年)
◎とにかく美しい楽曲。シンセの音に80年代っぽさを感じますが、それがまた妙な郷愁感を醸し出していて、なんだか儚い。レコーディング期間に繰り返し聴いていました。(今泉)


●Dupree / Kirk Fletcher(『Hold On』/ 2018年) 
◎個人的にブルース回帰している近年、最も影響された人。洗練されたコード感、歌うようなソロ、リズムギターの躍動感などどれも素晴らしく、REC期間中もヘビロテ。来日公演も最高でした。(渡瀬)

●Rosalee / The Chris Robinson Brotherhood 
 (『Big Moon Ritual』/ 2012年)
◎夏は毎年グレイトフル・デッドの季節ですが、去年のREC期間はその影響下にあるCRBもよく聴きました。ニール・カサールの空間系とファズの使い方は「フォロー・ユー」などで参考にしています。早すぎる逝去がなんとも残念。(渡瀬) 

●Love is the Key / Isaiah Sharkey
 (『Love is the Key』/ 2019年)
◎いわゆるネオ・ソウル文脈の中で最初に気に入った人。まるでカーティス!なこの曲は言うまでもなく、他の曲もヒップホップを通過したビートにワウを絡めたメロウなギターがよく合います。(渡瀬) 


●Dear Abby / Clarence Carter
 (『Lonelines & Temptation』/ 1975年) 
◎御大C.Cが、プライベートスタジオで制作したアルバムから。3分程の曲中、半分は語っていますが、得意の高笑いはないので安心して身を委ねられます。
George Jacksonとの共作、南部産スウィートソウルの佳作。(橋本) 

●This Is Your Night / Johnnie Taylor
 (『This Is Your Night』/ 1984年) 
◎同年亡くなった、Z.Z.Hillの魂を引き継ぐかのようなMalacoからの1枚目。作曲にGeorge Jackson、御大J.Tが歌えば、極上のスローバラードに仕上がるのは当然なのです。(橋本) 

●I Touched A Dream / The Dells
 (『I Touched A Dream』/ 1980年)
◎Dells史上、最高のバラードと言っても差し支えのない曲。クレジットを眺めるだけで、胸高なるシカゴサウンドが聞こえてきます。50年代から活動し、とにかく素晴らしい作品だらけ。愛しています。
(橋本)
 

 数量が限られた7インチ・シングルなだけに、興味を持った音楽ファンは大手レコード・ショップで早めに予約して入手しよう。 

(ウチタカヒデ)

 

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