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2015年10月4日日曜日

☆Paul McCartney: 『Tug Of War(Super Deluxe Edition)』(HRM/37278)3CD+1DVD☆Paul McCartney: 『Pipes Of Peace(Super Deluxe Edition)』(HRM/37291)2CD+1DVD


さて、今回のポール・マッカートニーのArchive Collectionは、ウィングスを離れ、ジョージ・マーティンをプロデューサーに据えて作った1982年の『Tug Of War』と1983年の『Pipes Of Peace』という2枚の力作が登場した。1980年の『McCartneyⅡ』が超軽いプロダクションのアルバムだったので、ここでポールの力を見せつけた感じだ。ジョージ・マーティンをプロデューサーに、リンゴもゲストに呼び、そしてスティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソンという大スターとも共演して、PVも超力作、乗りに乗っていたのが伝わってくる。オリジナル・アルバムはどちらも素晴らしい曲が揃っているが、聴いた事が無い人などいないとしてアルバム自体は紹介しない。聴いたことのない人は無視だ。オリジナル・アルバムは、『Tug Of War』のみ2015 RemixOriginal2枚をそれぞれ収録、2015 Remixの音像の良さには驚かされた。さて紹介するのはスーパー・デラックス・エディションを買わないと入手できない未発表トラックなどを集めたボーナスCDPVなどを集めたボーナスDVDだ。なお、輸入盤でもDVDはリージョン・フリーなので、高い日本盤ではなく、安い輸入盤で十分だと言う事をはじめに書いておこう。ではまずは『Tug Of War』(Super Deluxe Edition)のボーナス
CDから。
冒頭の「Stop, You Don't Know Where She Came From [Demo]」は軽快なスウィングするロックナンバーの完全未発表デモ。「Wanderlust [Demo]」はデモにしてはハーモニーも入っているし、完成ヴァージョンと同じピアノをバックにしたかなり完成した出来。逆にデモ然としているのが「Ballroom Dancing [Demo]」で、ピアノとドラムのバックのみで肝心なギターが入っていないので印象が大きく違う。「Take It Away [Demo]」はバンドでのデモだが、リズムから違うのでかなり初期のデモで逆に興味深い。「The Pound Is Sinking [Demo]」はアコギ中心の初期デモでエレキギターが入っていないので、地味な曲に聴こえてしまう。アレンジの力は大きい。「Something That Didn't Happen [Demo]」は未発表のアコギ中心の地味な曲。「Ebony And Ivory [Demo]」はエレピをバックに歌うシンプルなデモだが、デュエット曲なのでハーモニーパート入り。「Dress Me Up As A Robber/Robber Riff [Demo]」もエレキが入っていないシンプルなアコギバックのデモだがこれはこれで味わいがある。中間以降はテンポアップし、ギターソロも加わってジプシー・キングス風になってなかなか良い。さてここからは未CD化のレア・オフィシャル曲が並ぶ。まず「Ebony And Ivory [Solo Version]」。この曲は「Ebony And Ivory」の12インチ・シングルのみ収録のテイクで、タイトルのとおりスティーヴィー・ワンダーのパートもポールが歌うソロ・デュエット。あっさりと聴けるので個人的にはこちらの方が好きかも。「Rainclouds」はその12インチにも入っていたが、基本は7インチのB面。特に盛り上がりのない曲だが、中間のフィドルがポイント。「I'll Give You A Ring」は次のシングル「Take It Away」のB面のみの曲だった。10代の頃にポールが作った曲だが、なかなか楽しいポップな曲で、ようやくCD化されて良かった。続いてボーナスDVDへ移ろう。まずは、スタジオでのポールやジョージ・マーティンの姿を中心に構成した「Tug Of War Version1」。まだポールが若い!ジョージ・マーティンと一緒だとまさにお似合い。アコギを弾きながら歌うスタジオ風景などもあるが、演奏シーンは少ない。2回、日本人とおぼしき集団とスタジオで握手をしたりするシーンも入っている。「Tug Of War Version2」はアコギでポールが歌うシーンが基本だが、そのシーンに数多く古い様々な綱引きをしているフィルムがインサートされ、キングコングと人間が綱引きしている映画のシーンなどもあった。そういえば初回オリンピック競技には綱引きがあったそうで、最古のスポーツでもあった事を思い出した。このDVDの目玉は次の「Take It Away」。最初はポールがリーゼントにした10代の時のように扮した演奏シーンからスタートするが、その後は観客を前にしたバンドでの演奏シーンで、ポールのバックでドラムをたたいているのがリンゴ、これは最高だ。そしてキーボードはなんとジョージ・マーティン。他にエリック・スチュワートとリンダが演奏している。このフィルムは最高だった。「Ebony & Ivory」は数多く流されたのでお馴染みのピアノの後ろでポールとスティヴィー・ワンダーが歌うプロモ・フィルム。巨大なピアノの白鍵と黒鍵のところで二人が歌うシーンなどもある。考えてみると目の見えないスティーヴィーには黒人と白人の区別など最初から存在しない。見た目の美しさや醜さも一切関係なく、まさに魂と魂だけが判断基準であり、目が見えることが果たして本当にいいことなのかと一瞬、考えさせられた。余談になるが、箱根の老舗旅館の大和屋ホテルの方に聞いたが、スティーヴィーは来日公演で大和屋ホテルに宿泊した時のエピソードがちょっと面白かったので紹介しよう。目が見えないスティヴィーにとっては朝も夜も関係ない訳で、目を覚ました時が「朝」ということになる。もうスーパースターだったので、スティーヴィーが目を覚ました時に、真夜中であろうがスタッフは動きださないといけないので大変だったとか(笑)最後はオマケの「Fly-TIA Behind The Scenes On Take It Away」で最初はあの演奏シーンのセットが組立てられ人が集まってライブが行われセットが壊されるまでの早回しが冒頭、その後ははスタッフへのインタビュー。あの10代の演奏シーンではリンゴはブラシで叩いていたことが分かったし、ジョージ・マーティンのコミカルなダンス・シーンがあって驚かされた。

続いて『Pipes Of Peace』(Super Deluxe Edition)だ。まずボーナスCDから。「Average Person [Demo]」はかなりスローなデモ・ヴァージョンで、演奏もエレピで極めてシンプル。中間の叙情的な間奏も作られていなかった。「Keep Under Cover [Demo]」もスローでシンプルなデモで、一人で録音したような仕上がり。後半のエレキギターのあとのストリングスといったドラマティックなパートは作られていない。「Sweetest Little Show [Demo]」も非常にスローでシンプルなデモで、後半のアコギが続いてガラッと展開が変わる部分は全く作られていない。「It's Not On [Demo]」は未発表曲だが、前半は調子っぱずれのようなヴォーカルが入る奇妙な曲。一瞬きれいにハモるが、その後は「You Know My Name」みたいな変なヴォーカルが...。未発表が正解だ。「Simple As That [Demo]」は同アルバムがCD化された時にボーナストラックに入っていた1986年のコンピ『The Anti-Heroin Project - It's A Live-In World』収録曲で、そのデモだが、ディレイが目いっぱいかかったギターに乗せて歌われるまったく印象が違うデモ。さて一番の問題はマイケル・ジャクソンとデュエットした「Say Say Say [2015 Remix]」だ。これは12インチ・シングルに入っていた「Say Say Say(12 Inch Mix)」思っていたが、尺が535秒だったのに比べ、2015 Remix655秒と120秒も長い。そして歌がいったん終わりハーモニカが入るまでの間に2015 Remixの方にはマイケルのスキャットがずっと入っている。これは通常ヴァージョンにも入っていないので、ミックスで消されていたものを出してくれたのだろう。新登場の最長ヴァージョンなので注目だ。ただそうなると12 インチ・シングルに入っていた「Say Say Say(12 Inch Mix)」と「Say Say Say(Instrumental)」は未CD化のまま落ちてしまった訳で、こういう高額のボックス・セットから外されるのは納得いかない。その「Say Say Say」の7インチ、12インチのどちらにも入っていたロッカ・バラード調の「Ode To Koala Bear」は収録された。またこれは『Pipes Of Peace』の1993年のCDのボーナストラックに収められた同名の美しいサントラ曲「Twice In A Lifetime」はこのボーナス・ディスクにも収められた。ただ、同ボーナストラック収録のオリジナル・ヴァージョンの「Sinple As That」と、サントラの「We Al Stand Together」は落ちたので、こちらは他のArchivesシリーズに入るのだろう。ボーナス・ディスクのあと1曲は「Christian Bop」というインストの小品。そして今回のハイライトがこのボーナスDVDで、こちらは『Tug Of War』のそれを上回る内容。まず冒頭の「Pipes Of Peace」は非常にお金をかけたプロモで、時は第一次世界大戦、舞台はフランスの地獄の塹壕戦だ。ポールはイギリス軍、ドイツ軍の両方の司令官となり、クリスマスの休戦で、白旗を上げお互いの兵を引き連れて出会い、写真を交換したり、チョコや酒を分け合ったり和気あいあいの一瞬を過ごすが突然の砲撃でお互いの塹壕へ戻る...という映画のようなプロモでこれは凄い。「So Bad」は再びリンゴをドラムに配したライブ仕立てのプロモで、ポール、リンダ、エリック・スチュワートの4人でのバンドになっていて、表情豊かなリンゴが目立っていい感じのフィルムだ。そしてまた非常にお金のかかったプロモが登場する。マイケル・ジャクソンとのデュオの共作曲「Say Say Say」だ。今度の舞台は西部劇時代のアメリカが舞台で、始めはポールがパワーが出るという薬をとある町で行商していて、若きマイケルがその薬を買って飲む。そして腕相撲となり相手は巨漢の黒人。ところがはるかに小さなマイケルが勝ってしまい住民が大喜び、飛ぶようにその薬は売れていく...お金が溢れるカバンを持ったポールとリンダが乗った車の運転手はあの巨漢の黒人、そして最後にマイケルが車に飛び乗る。そう、グルだったのだ。その後、ポール一行はショーパブでリンダは手品、そしてポールとマイケルは道化になってダンスを踊るが、やはりマイケルのダンスは最高。カッコイイの一言。バックスライドをやるか?と思ったが、同じ年の1983年のモータウン25年コンサートで伝説のムーンウォークが披露されるので出るわけないか。大騒ぎの観客の中に保安官が一人、二人と見える。それに気づいたポール達は手品で火を出して、「火事だ!」と叫ぶと大混乱のすきに抜け出していく...という「Pipes Of Peace」と並ぶ映画そのもののPVだった。このアルバムの時のポールは本当に気合が入っているな。他はオマケの「Hey Hey」をバックミュージックした「Hey Hey In Montserrat」で、モントセラト島にバカンスでみんなが集まった時のプライベート・フィルム。1981年なのでデニー・レーンも写っている。なんといってもここでも遊びに来ていたリンゴが主役で、走り回ったり、子供を追いかけたりとまあ、楽しい。リンゴがいるだけで明るくなるね。「Behind The Scenes At AIR Studio」はエアー・スタジオでのポールとジョージ・マーティンのやり取りを中心のフィルムで、冒頭はポールがピアノを弾きながら「Keep Under Cover」を歌う。後半のボーナスCDに収録の未発表の「It's Not On」で、アコギでまだあの奇妙な声を入れる前のヴァージョンだった。最後の「The Man」はこのポールとマイケルの共作曲をバックに、「Say Say Say」のPVを撮った時のオフ映像が流れる。ポールが自分の娘たちを馬に乗せて乗馬、後にマイケルも馬に乗って乗馬を楽しむシーンが映っていた。次回は『Flowers In The Dirt』の予告が入っていて、ちょっとガッカリ。このアルバムは内容がいいが、色々なシングルでアルバム未収録曲が山ほどあり、それを整理したボーナスCDの可能性が高いからだ。『Wild Life』と『Red Rose Speedway』を待っているが、まだまだ待たないといけないようだ。(佐野邦彦)


 







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