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2025年7月21日月曜日

bergamot romance:『1 dozen』


 新鋭男女ツインボーカル・ユニット”bergamot romance(ベルガモット・ロマンス)”がファースト・アルバム『1 dozen』(*blue-very label*/blvd-052)を7月24日にリリースする。   
 まずはグループ名のインパクトに目を引くが、”Maybelle(メイベル)”のボーカリストWAKAKOと、ギターポップ系バンド”the Sweet Onions””Snow Sheep”のメンバーで、マルチプレイヤーの高口大輔により2022年に結成された。

 そんなbergamot romanceのプロフィールに触れよう。WAKAKOは高校時代よりネオアコースティック系インディーズ・アーティストのファン向け同人誌(ファンジン)の制作、イベントの企画などを行うマニアで、音大声楽科を卒業後、作編曲家の橋本由香利と組んだ女性二人組ユニット”Maybelle”の作詞家・ボーカリストとして2000年にデビューし、空気公団などで知られるcoa recordsより2枚のアルバムをリリースした。(現在活動停止中)近年では本作リリース元のblue-bery label関連のコンピレーションアルバムへの参加やイベントに多く参加している。
 一方高口は、幼少期から母親の影響でクラシックピアノを習い、その後ドラムやベース、ギターまで習得したマルチプレイヤーである。ギターポップ系バンド”the Sweet Onions”(以降オニオンズ)や”Snow Sheep”のメンバーとして活動しながら、多くのアーティスト、バンドのサポート・ドラマーやプロデュースもおこなっている。またオニオンズの近藤健太郎とインディーズレーベル philia records を主宰し、所属アーティストのプロデュースも行っており、昨年2月にリリースした小林しのの『The Wind Carries Scents Of Flowers』でサウンドプロデュースしたのも記憶に新しい。
 

 本作は2人が共作した楽曲を中心に、WAKAKOがボーカル、高口がアレンジとほぼ全ての演奏、ミックスを担当してレコーディングされており、マスタリングはSnow Sheepの『WHITE ALBUM』同様にSmall Gardenの小園兼一郎が起用されている。収録曲の内1曲はMaybelle活動休止後に作曲家として劇伴で活躍する橋本が提供しており、小林の『The Wind Carries ・・・』からも1曲をカバーしている。またリリース元のblue-very labelを主催する中村佳が初めて作詞した曲も収録されていて、話題性にも事欠かないのだ。
 更にゲストミュージシャンには、The Bookmarcsや高口とのオニオンズでの活動で知られ、今年3月にファースト・ソロアルバム『Strange Village』をリリースしたばかりの近藤健太郎、Swinging Popsicleでメジャーデビューし、高口がドラムで参加するthe Carawayを率いている嶋田修、正統派ネオアコバンドTHE LAUNDRIESのTerry、kolchack名義で活動するシンガーソングライターのキモトケイスケが参加している。
 アートワークにも触れるが、ジャケット・イラストはred go-cart等、様々なアーティストのジャケットやフライヤーのイラストで知られるイラストレーターのAkiko Hattoriが手掛け、全体のトータルデザインは近藤の『Strange Village』を共同プロデュースした及川雅仁が担当するなど、メンバー2人の多岐に渡る交友関係を反映している。

 ここでは筆者による全収録曲の解説、WAKAKOと高口、本作のレコーディングに参加したサポート・ギタリストのキモトケイスケが、ソングライティングやレコーディング期間中にイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。


 
bergamot romance 『1 dozen』 トレーラー

 冒頭の「ラプラスの砂時計」はWAKAKOが作詞し、高口と2人(WAKATAKの連名クレジット)で作曲した、ノイジーなギターリフが印象的な80年代中後期ブリティッシュのインディー・ギターポップ風サウンドで、本作のリードトラックとして相応しい曲だ。イントロのギターSEやディストーション・ギター、アルペジオ・ギターなど複数のトラックをよく計算してミックスされており、研究成果が出ていると感じた。透明感あるWAKAKOの美しいボーカルをメインに、高口は意外にも女性のような高域でハーモニをつけている。ゲストのキモトはセカンド・ヴァースとサビの左チャンネルでアルペジオ・ギターを弾いている。
 続く「サーチライト」は、WAKAKOの作詞で高口が作曲したハイテンポで爽やかなギターポップで、全てのギター含め全演奏を高口が担当している。この手の曲では本職ドラマーである高口のプレイが発揮されて聴き応えがある。またこの曲ではオニオンズの近藤がコーラスと同アレンジでゲスト参加し、一人多重の3声コーラスを披露し、WAKAKOのボーカルをサポートしている。
 「Spring Swan」もWAKAKO作詞、高口作曲の作品だが、前曲と異なりオルタナティブロック色が濃い英語詞の曲であり、以前弊サイトで紹介したshinowaに通じるサウンドで、サイケデリック・ロックの系譜と考えられる。不穏なイントロからいきなりスタートする格好良さなどはMy Bloody Valentineを彷彿とさせて、好きにならずにいられない。

 WAKAKOが作詞し、橋本由香利が曲を提供した「沈黙のあいだ」は、Maybelleの未発表曲で、正確には高口のリアレンジでカバーしたと捉えていいだろう。定期誌VANDAの読者だったらしい橋本による曲は、不毛の恋愛を綴ったWAKAKOの歌詞の世界にもマッチした青春のソフトロックである。The Carnivalの「Hope」(『The Carnival』収録/69年)に通じるマイナーキーで、ジョー・オズボーンを意識した高口によるベース・プレイや間奏のチェンバロのソロなど演奏面でも秀一である。
 「Chirality〜君と鏡像の世界へ〜」は、WAKAKOの作詞、2人の作曲による「ラプラスの砂時計」と感触が近いギターポップで、WAKAKOの作曲スタイルが滲み出ていると思われる。この曲ではダブル・ボーカル曲の中で高口のボーカルのミックスレベルが他曲より高いパートがあり、彼の声質の特徴が出ている。
 2分少々の短い尺の「Candy drip」は、WAKAKOによる英語詞に高口が曲をつけている。所謂渋谷系の系譜にあるサウンドは、WAKAKOが青春時代に愛聴していたバンドやアーティストへのオマージュと言っていいだろう。全編で聴けるアコースティックギターはキモトがプレイしている。

 
bergamot romance '1 dozen' 特典CDティザー

 本作7曲目の「おかしの国 Lonely tea party」は、一聴してユーミン(松任谷由実)・ファンを公言する、作曲者の高口の趣味が滲み出ていて、本作のポップス・サイド(7曲目以降)の冒頭を飾っている。WAKAKOの歌詞も本作前半収録曲のようなクールさが排除されたメルヘンな世界で、無垢な歌唱法と相まって微笑ましい。NYのブリル・ビルディング系の柔らかなシャッフルのリズムに八分刻みのピアノ、チェンバロのオブリガード、オーバードライブをかましてダブル・トラックにした松原正樹風のエレキギター(ルーツはJay Graydonだろう)等々、1980年頃のユーミン・ソングの中でも「5cmの向う岸」(『時のないホテル』収録)や「まぶしい草野球」(『SURF&SNOW』収録)など、キュートなテイストが好きなファンは必ずハマるだろう。筆者も好みのサウンドであり、70年代アメリカンポップの影響下にあり完成度が高い。 
 続く「夢の隨に」は、blue-very label中村の作詞、高口の作曲による60年代ガールポップ系のビート感のある失恋ソングだ。中村によるサビの英語詞のリフレインは、メロディとマッチして処女作としてはまとまっている。1コーラス目終わりのギターリフが、フランソワーズ・アルディの「Comment te dire adieu(さよならを教えて)」(1968年)を意識していて、サビのメロディはクリストファー・クロスの「Arthur's Theme(Best That You Can Do)」(1981年/アカデミー主題歌賞獲得)を彷彿としていたりと、ポップスの構造として凝っている。イントロの左右2チャンネルのアルペジオをはじめ、全編でキモトがエレキギターをプレイしている。 

 「forget me not」は前説明の通り、小林のソングライティングで彼女のセカンド・アルバム『The Wind Carries Scents Of Flowers』収録曲のカバーである。オリジナルはThe Laundriesの遠山幸生によるエレキギターをフューチャーした硬質なネオアコ・サウンドだったが、ここではブルース系シャッフル・ビートで、ボーカルと全ての楽器を高口が一人で担当したワンマン・レコーディングで完成されている。オリジナルでサウンドプロデュースを担当した本人が、全く異なるスタイルでアプローチしているのは興味深く、彼の幅広い音楽性を現わしている。 
 一転してWAKAKOの素朴な歌詞とナチュラルな歌声による「こがらしの子守唄」は、児童唱歌のようなイノセントな佇まいが、本作中では稀有な存在だが、音大声楽科出身の彼女の素養と、幼少期からクラシックピアノを習っていた高口だからこそ完成出来た曲だろう。WAKAKOによるコーラスアレンジもこの曲をよく演出しており、子供達(彼女の教え子達か)の歌声も参加して、崇高な気持ちにさせてくれる。

 クラシカルなピアノのイントロから高口のボーカルで始まる「Taupe velvet」は、WAKAKOの作詞で高口が作曲したシティポップで、サビでは70年代ソウル・ミュージック系のコード進行を内包していて聴き飽きない。2コーラス目のサビから入るトランペットは、The LaundriesのTerryが担当して効果的なプレイをしている。
 ラストの「Fluttering Snow」はWAKAKOの作詞、高口の作曲によるギターポップで、イントロから全編でthe Carawayの嶋田修がアコースティックギターをプレイして、この曲の爽やかな雰囲気に貢献している。この曲が斬新なのは、1コーラス目がフィールド・レコーディングされた素材をほぼそのまま使用し、周辺の環境音も残していることだ。2コーラス目からのデッドなスタジオ・レコーディングのサウンドとの繋ぎもさほど違和感がないのは、高口のミックスがよくなされているからである。またコーダでリフレインするフォークミュージック系スキャットも耳に残って完成度が高く、本作の大団円曲として曲順の見事さも感じさせた。


bergamot romance『1 dozen』プレイリスト  

 
高口大輔

●Lets Make Some Plans / Close Lobsters
(『Forever, Until Victory! The Singles Collection』/ 2009年)
 ◎アルバム1曲目収録の『ラプラスの砂時計』を作る際の
原型といってもいい曲です。
気品のあるギターフレーズを探している中で
この曲を参考にさせていただきました。 

●ビュッフェにて / 松任谷由実(『昨晩お会いしましょう』/ 1981年)
◎アルバムラスト収録の『Fluttering Snow』のコード進行を決めている時に
参考にした曲です。物悲しげで切ないAメロの進行が好きです。

 ●Country / Keith Jarrett(『My Song』/ 1981年)
◎コード進行を考えるのが好きなので、ジャンルに関係なくいい進行の曲を日々探しています。その中で出会った素晴らしい進行の曲です。

●ヒム・トゥ・フリーダム / 佐山雅弘
(『ヒム・フォー・ノーバディ』/ 1995年)
◎キースジャレットのCountry同様、素敵な進行のピアノ曲はないかなと
探した中で出会った一曲です。

●Les saisons(The Seasons)Op.37b:Ⅲ.March:Song of the Lark
 / Tchaikovsky,P.I:Seasons(『Piano Sonata in C-Sharp Mionor』/ 1991年) 
◎クラシック曲もショパン・シューベルト・ドビュッシーなど色々聴きつつ、
チャイコフスキーのこの曲もよく聴いていました。
物悲しい気分に浸れるメロディです。 

●Pavane,Op.50(Version for Piano / Jorge Federico Osorio
(『The French Album』/ 2020年)
◎クラシック曲では知人からの勧めもあって、
フォーレの曲もよく聴いていました。
今回のアルバム制作時は短調の曲を聴く機会が多かった気がします。

●花 / 藤井風(『花』/ 2023年)
◎最初に聴いたときに一発で好きになった曲です。
直接的に制作の参考にしたというわけではないですが、
大事な1曲に出会ったという存在です。

●push / the Cure(『The Head On The Door』/ 1985年)
◎アルバムの中でも1,3,5曲目収録のWAKATAKA名義曲を作っている時に
キュアーをよく聴いていました。このアルバムの中でも一番好きな曲です。

●Old Canvas / The fin.(『Old Canvas』/ 2021年)
◎The fin.の作る音は日本ぽいテイストもありながら
世界の様々な音楽を感じられる
ジャンルレスな格好良さがあってとても好きです。

●Always There / Ronnie Laws(『Pressure Sensitive』/ 1975年)
 ◎レアグルーヴ・スムースジャズ系の音楽は、移動中などによく聴いています。
この曲も、のちの渋谷系に通じる音で、サックスも素敵です。



 WAKAKO

 ●The Velvet Underground, Nico / Sunday Morning
(『The Velvet Underground and Nico』 / 1967年)
◎アルバムの制作初期頃に,こんな気だるげな雰囲気を
日本語詞で歌いたいなと思いながら聞いていました。
日曜日の朝というテーマにも影響を受けています。

●Prefab Sprout / Appetite (『Steve McQueen』 / 1985年)
◎男女のツインボーカルをやるならこんな感じにしたいと思っていました。
透明感のある二人の声が絡み合う感じを目指したいと思っていました。

●Blueboy / Sea Horses(『If Wishes Were Horses』/ 1992年)
◎Blueboyも男女のツインボーカルをやるなら
こんな感じがいいなと思って聴いていました。
ジャカジャカギターに男女のボーカルが物憂げに絡む感じが好きです。

●another sunny day / you should all be murdered
(『London Weekend』/ 1992年)
◎高口さんにネオアコやアノラックについて色々と語っている時に、
よく引き合いに出していた1曲。
迫りくる切なくもの悲しいギターのイントロから始まり、
曲を貫くムードに胸がキュッとなる1曲。

●The Hit Parade / You Didn’t Love Me Then(『With Love From』/ 1988年)
◎高口さんにネオアコって何なの?と聞かれて勢い余って
この曲を何回も送るくらい自分のなかでこの曲の気分がとても好きです。
青くて勢いがあって,不安定なアンニュイさが堪らないのです。

●sunnyday service / picture in the sky 
(『COSMO-SPORTS ep』 / 1990年)
◎「Fluttering Snow」のデモを聞いたときに,狭い空間が似合うと思い
こんな閉塞感のあるアレンジにしてほしいと伝えるときに
の曲を聞いてもらいました。
いい具合の閉塞感が出せたと思うので、
どんな手法で録音したのかCDで確認してみてください。

●b-flower / 日曜日のミツバチ (『Clover Chronicles I』 / 1994年)
◎「こがらしの子守唄」のデモを受け取ったときにこの曲の目指す
最終的な音楽的な着地点と世界観の共有のためにこの曲を高口さんに送って、
b-flowerのもつネオアコ要素を理解してもらいました。

●the Hang Ups / Top of Morning(『So We Go』 / 1997年)
◎「サーチライト」は1番初めのデモのメロディや世界観が
あっけらかんとした広がりすぎるエバーグリーン具合だったので、
もう少し引き締まったネオアコっぽさを出したいと色々と考えていた時に目指したい方向性の参考にしました。「サーチライト」は歌詞もなかなか決まらなくて、
メロディも何度も修正してもらいました。

●group_inou / BLUE (『MAP』 / 2015年)
◎「Spring Swan」の素案のコードを送ったあとに私の頭の中にこの曲がぐるぐるとうごめいていました。素案のメロや雰囲気の参考にしました。

●Virginia Astley / Darkness Has Reached Its End
 (『Hope in a Darkened Heart』 / 1986年)
 ◎世界の闇を克服する愛の力について歌い上げるこの曲を聞くたびに、
不条理で理不尽な世界を憂いてばかりいてはいけないと励まされます。
ボーカルの目指す方向性としてVirginia Astleyのように清涼感を感じさせつつも
物憂げさや儚さがある歌い方を参考にしています。



キモトケイスケ

●what you want / My Bloody Valentine (『loveless』/1991年) 
(アルバム参加曲 ♪ラプラスの砂時計) 
◎一番初めにレコーディングに参加した曲でした。
お二方のイメージにない曲調だったので、新鮮な驚きとともに、
他にどんな曲が出てくるのかを楽しみにしていました。

●Big Bad Bingo / The Flipper’s Guitar
(『CAMERA TALK』1990)
(アルバム参加曲 ♪Candy Drip) 
◎デモ音源をその場で聴いてすぐにレコーディングしました。 
ノリと勢いで弾いたアコースティックギターが
曲の雰囲気に合ってるかなぁと思ってます。
なんとなくフリッパーズの2ndに入っていそうな感じの曲です。

●T’en va pas / Elsa(1986年) 
(アルバム参加曲 ♪夢の隨に) 
◎哀愁を感じる曲です。なんとなくヨーロッパの雰囲気があって、
すぐにこの曲が思い浮かびました。
儚げな雰囲気が出せればと思ってギター弾きました。

●Under The Jamaican Moon / Nick Decaro(『Italian Graffiti』/1974年)
 ◎歌の伴奏でギターを弾く時に、まずDavid T.Walkerが頭に浮かびます。
曲に寄り添いつつも、自分の色もしっかり出せるギターは永遠の憧れです。
いつかはあんな風に弾いてみたいなぁと思っています。
 名演は数々ありますが、最近よく聴いてるアルバムの冒頭の曲です。



 最後に本作の総評になるが、これまでドラマーやキーボディスト、アレンジャーとして裏方的立ち位置だった高口が、優れたソングライターとしても開眼して、音大出身でボーカリストとしてプロであるWAKAKOと組んだことで、確かな成果を発揮したファースト・アルバムに仕上がったと確信した。
 筆者の詳細な解説を読んで興味を持った読者は、リンクしたECサイトから予約入手して聴いて欲しい。 

(テキスト:ウチタカヒデ










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