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2023年3月11日土曜日

Snow Sheep:『WHITE ALBUM』(*blue-very label*/blvd-034)


  男女3人組のポップ・バンド、Snow Sheep (スノー・シープ)が初の単独作品でファースト・アルバム『WHITE ALBUM』を3月15日にリリースする。 
 彼らは幣サイトでも評価しているThe Bookmarcsthe Sweet Onions、またシンガー・ソングライターとして活動する近藤健太郎と、同じくthe Sweet Onionsのメンバーでthe Carawayのサポート・ドラマーも務める高口大輔、そして元Harmony Hatch(ハーモニー・ハッチ)のヴォーカリスト兼ソングライターとしてデビューし、現在ソロや他多くのバンドのサポート・コーラスで活動している小林しのから構成されている。 
 

 バンド結成の経緯は2000年に小林が所属したHarmony Hatchが、空気公団やMaybelle(VANDA誌読者だったらしい劇伴音楽家の橋本由香利が所属)を輩出したCoa RecordsからデビューCDをリリースする際、特典カセットを制作するにあたり結成されたという。
 翌2001年から2019年までに3作のコンピレーションCD、小林のファースト・ソロアルバム『Looking for a key』(PHA-13/16年)の特典をはじめ3種のCD-R作品と、コンピレーション・カセットに楽曲提供してきた。

2001年のライヴショット/ 2003年のオフショット

 言わば3名のミュージシャン達の出会いとなった古巣といった存在だったのだろう。結成23年目に満を持して、オフィシャルでの単独アルバムをリリースすることとなった。これは偏にリリース元の*blue-very label* (*ブルーベリー・レーベル*)を主宰する、ナカムラケイ氏の熱心なオファーにより実現したということで、その情熱には敬服するばかりだ。
 本作に収録されたのは、これまでの既出曲をリアレンジしリレコーディングした4曲と、このアルバムのために書き下ろした新曲4曲の合計8曲。全曲英語で作詞を小林、作曲を近藤がそれぞれ担当し、高口を加えた3名でアレンジをしている。ドラムやキーボード類からベースまでを担うマルチ・プレイヤーの高口は演奏面で貢献する他、ミックスも手掛けており、3名の役割が合理的に分担されているのがこのバンドを長続きさせた秘訣の一つなのかも知れない。またマスタリングは以前弊サイトで2作品を紹介した、Small Gardenの小園兼一郎が担当しているのも注目である。
 ジャケットにも触れるが、インナーのアーティスト写真はフォト・クリエーターのdavis k.clain、デザインはfumika arasawaがそれぞれ担当していて、CDながら7インチサイズにデボス加工を施した、非常に凝った紙ジャケになっており、英語詞の対訳インサート、小林が特別に描いたプリティーなイラスト・シールが装入されて、所有欲を刺激するパッケージとなっている。

 ここからは筆者による全曲レビューと、メンバー3名が曲作りやレコーディング、ミックス中のイメージ作りで聴いていたプレイリストを紹介する。

 
WHITE ALBUM Snow Sheep Trailer 

 冒頭の「Good Day Today」は今作のための新曲で、小林と近藤のデュエットで歌われるヴァースから近藤の一人多重でリードとコーラを取るブリッジを経て、再び二人のデュエットでサビへと向かう。朝の風景を切り取った歌詞を優しいメロディが包み込むギターポップだ。
 アルバム全体の楽器編成はアコースティックとエレキ・ギターは近藤、それ以外のドラム、ベース、キーボード類を高口が主にプレイしている。この曲ではエイトビートを基調としながら、「Ticket to Ride」(1965年)でのリンゴ・スターのプレイを彷彿とさせる手数の多いドラム・パターン、主旋律に呼応する穏やかなギターのアルペジオとピアノのオブリのコントラストが面白い。また長野県松本市のコミュニティFM局で『Hickory Sound Excursion』という番組のパーソナリティーを務める久納ヒサシ氏が、効果的なバードSEでゲスト参加している。 

 続く「Driving Snow」も新曲で、アコギとセミアコのカッティングと近藤自らプレイするマリンバのリフが爽やかな空間を作っている。ここでも近藤のスウィートなボーカルにハーモニーをつける小林のシルキーな声のブレンドが素晴らしく、冬の雪道ドライブ風景が目に浮かぶ歌詞をよく表現しいている。印象的なアナログ系シンセのリフとピアノは高口、ギターソロは近藤がそれぞれプレイしている。
 「Frozen Heaven」は、作詞家として著名な磯谷佳江氏が自主出版しているガール小冊子『My Charm』Vol.9(2005年)の付録コンピレーションCDに提供されたのがオリジナルで、今回リレコーディングしている。アレンジ的には大きな変化はないが、最新ヴァージョンではBPMをやや落としてドラムのレベルも低めにしたミックスにより、近藤と小林のボーカルを生かした風通しのいいサウンドに生まれ変わっている。
 非常に哲学的な歌詞で、”凍った天国”というキーワードは文学的である。随所で巧みな高口のピアノ・プレイが聴けるのも特徴だ。

※『My Charm』Vol.9
2005年当時の筆者のレビューはこちらをクリック


再び新曲の「Cloudy Bossa」は他の収録曲とはカラーが異なっており、小林がリードを取る、しっとりとしたボサノヴァだ。ここでは近藤はアコギ以外にクラシック・ギターもプレイし、高口は金物パーカッションも担当してそれぞれ器用さを聴かせてくれる。
 短い歌詞であるが、リフレインされるCloudyが耳に残り、小林の声質やサウンドからLampにも通じており、Snow Sheepとしては新境地といえる曲である。


 
Snow Sheep Live 〜 A Way To The Northland, Frozen Heaven
disques blue very 20th anniversary & renewal PARTY 

 「A Way To The Northland」は、インディー・ギターポップ・レーベルbluebdge label (ブルーバッジ・レーベル)のコンピレーションCD『Pop Comes Up! Bluebadge Compilation Vol.2』(Bluebadge Label – bbcd-002/2002年)に提供されたのがオリジナルで、今回リアレンジされ尺も2分44秒から4分10秒に延長されてリレコされた。
 近藤のポール・マッカートニー趣味が滲み出た曲調で、導入部のアコギのアルペジオやメロトロン系鍵盤など踏襲しているパートもあるが、よりファンタジックな展開に仕上げていて、幻想的な小林の歌詞の世界観をより際立たせている。ゲスト参加したPatrascheこと諏訪好洋のラウドなギターソロが大きく貢献しているので聴きこんで欲しい。

 4曲目の新曲となる「Windy Northward」は、一転して軽快なエイトビートのギターポップ・ナンバーで、近藤のリードに小林がハーモニーをつけている。
 コーラスの展開や高口によるソリッドなベース・ラインやハモンド・オルガンのプレイなどから、弊誌VANDA的にはThe Carnivalの「Hope」(『Carnival』収録/1969年)に通じて高評価したい青春ソフトロックでもある。


Snow Sheep』(非売品特典カセット)

 「Another October」と「Good Night,Good Night」は、初音源のHarmony HatchデビューCDの特典カセット『Snow Sheep』に収録されたのがオリジナルで、両曲共に今回リアレンジしリレコされている。
 前者はBPMをかなり落とし尺も3分52秒から5分13秒に延長して、高口の絶妙なタイム感を持つドラミングによりロッカ・バラードのような渋いテイストに生まれ変わった。
 元々は終始近藤と小林のデュエットで歌われていたが、ここではファースト・コーラスは小林、セカンドは近藤のそれぞれのソロ歌唱で、サード以降はデュエットとなる構成になっている。このリアレンジにより原石が磨かれて理想的なサウンドになったと確信する。筆者のファースト・インプレッションでもベスト・ソングに挙げたい。この曲で近藤はベースとピアノ、オルガンもプレイしていて、ギターソロまで披露している。 

 後者は初期トレイシー・ソーンに通じるドラムレスで狭い空間だったオリジナルから、より成熟したサウンドに仕上がっている。
 近藤と小林がソフティーにデュエットするスタイルは、80年代初頭の英国ネオ・アコースティックの文脈からアプローチしたボサノヴァに近く、「Cloudy Bossa」とは異なるが、新たに高口のドラムを加えたことでリズムを強化している。近藤によるクラシック・ギターソロもこの幻想的な歌詞のラヴソングに彩を与えている。 
 
2018年のライヴショット 


Snow Sheep プレイリスト・サブスク 

 
◎小林しの
どことなく気怠げで優しい声の女性ボーカルで、暗めの曲を聴くことが多かったです。 ロキシー・ミュージックは職場の方に教えていただき、懐かしい洋楽の感じが好きで昨年よく聴いていました。 
■Hello,rain / The softies(『It's Love』1995年)
■More Than This / Roxy Music(『Avalon』1982年)
■Smoke / Gia Margaret(『There's Always Glimmer』2019年)
■Breath / Kathryn Williams(『Over Fly Over』2005年)


◎近藤健太郎
Snow Sheep結成時によく聴いていた、Sean Lennonの「Into The Sun」を筆頭に、物憂げな浮遊感と、繊細かつキャッチーな楽曲の世界観に浸っておりました。
■Blossom / Porter Robinson(『Nurture』2021年)
■Into The Sun / Sean Lennon(『Into The Sun』1998年)
■California / Mindy Gledhill(『Anchos』2012年)
■横顔 / 大貫妙子(『MIGNONNE』1978年) 

 
◎高口大輔
今回のアルバムでミックスを担当したので、普段よく聴いている曲の中からミックスする上で参考になりそうな曲という観点で選びました。 歌とオケのバランス、リバーブの深さなど、結果として2000年以降のアルバムからのみのチョイスになりました。 Buffalo Daughterはこの中で異色ですが、最近になって聴いてみて、ミックスがとても良いアルバムだったのでリストに入れました。
■La Puerta / Laura Fygi (『The Latin Touch』 2000年)
■Ailleurs / Karen Ann (『Not Going Anywhere』 2003年) 
■La Mer / Chantal Chamverland (『The Other Woman』 2008年) 
■Volcanic Girl / Buffalo Daughter (『I』 2001年) 
 


◎ディスクブルーベリー(*blue-very label*):http://blue-very.com/?pid=173312435 

 (テキスト:ウチタカヒデ/過去画像提供:近藤健太郎 

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