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2021年10月30日土曜日

ポニーのヒサミツ:『Portable Exotica』(TETRA RECORDS / TETRA-1038)


 昨年4月のサード・アルバム『Pのミューザック』から約1年半、シンガーソングライター前田卓朗のソロユニット“ポニーのヒサミツ"が、11月3日にフォース・アルバム『Portable Exotica』をリリースする。
 前作でも紹介したが、ポニーのヒサミツはシャムキャッツのボーカルである夏目のバンド、“夏目知幸とポテトたち”のメンバーだった前田のソロユニットで2008年から活動をスタートしている。これまでに3枚のフルアルバムをリリースしており、昨年12月にはEテレの番組でおやすみソングとして流れる「冬毛の歌」を、妻である中川理沙(ザ・なつやすみバンド)と歌唱して話題になり、また同年の年末には、グレンスミスや図書館などのユニットで活動する宮崎貴士と2人で、ポール・マッカートニー流の実践ユニット“Frozen Japs”を結成し、ファーストシングルとして「Social Distance」を配信リリースしており、その活動は多岐に渡っている。
 ポニーのヒサミツの魅力は、前田の素朴で個性的な声質とアメリカン・ルーツミュージックをベースとしたサウンドであったが、本作では環太平洋のエッセンスを加味しており、新たな世界を探求しているのが高い評価に値するのだ。

(写真:柳宙見 / 提供:前田卓朗)

 本作『Portable Exotica』にはゲスト・ミュージシャンとして、前作から引き続き、前田も加わるSpoonful of Lovinʼのメンバーが主に参加しており、先月セカンドアルバム『CIRCLES』をリリースしたばかりのbjonsのギタリスト渡瀬堅吾が2曲で、同作でサポート・メンバーながら大きく貢献していた、元“森は生きている”のキーボーディストの谷口雄、サボテン楽団こと服部成也がバンジョーで主要曲に参加している。 
 また谷口とは元バンド同僚で、弊サイトのベストプレイ企画でもお馴染みの増村和彦はドラムと各種パーカッションで全面的に参加し、元シャムキャッツのベーシスト大塚智之と本作のボトムを支えている。他にも中川が3曲でコーラス、トランペット奏者兼アレンジャーとして寺尾紗穂や折坂悠太などの作品で知られる高橋三太が2曲に参加しているのも注目だ。
 ジャケットデザインにも触れておこう。ミヤザキノブエとトモエの姉妹によるイラストレーター・ブランド、STOMACHACHE.(ストマックエイク)が手掛けており、本作のサウンドとマッチしたアルカイック且つ無国籍なムードが非常に親しみやすい。

 
ポニーのヒサミツ 4th ALBUM『Portable Exotica』 TRAILER #2

 さてここでは筆者が気になった本作の主要な収録曲の解説をしていこう。 冒頭メジャーキーのカントリー・ブルース「ごあんない」は、前田の一人多重でレコーディングされており、ガットギターを中心にリズム・セクションとマリンバを彼が一人でプレイしている。多重録音の独特な空気感ながら本作全体の雰囲気を早くも示唆しているのが面白い。 
 続く「散歩娘」は5連符変形シャッフルというべきリズムが特徴で、ニューオリンズのセカンドライン・ファンクと沖縄民謡を融合させたビートが肝である。ハイハット抜きでこのリズムパターンをキープして叩けるのには鍛錬が必要であり、増村のドラミングありきの曲といえるだろう。また前田のハンドクラップと右チャンネルのエレキの刻み、左チェンネルの服部のバンジョーのパターンも加わり有機的なポリリズムが独特の世界感を生んでいる。ドクター・ジョンの『Dr. John's Gumbo』(72年)などの影響下にある、細野晴臣の『泰安洋行』(76年)をこよなく愛する音楽マニアには特にお勧めだろう。 

ポニーのヒサミツ - 散歩娘 (Official Music Video)

 ハイテンポなカントリー&ウエスタン調の「ハネムーン・ラグ」でも増村とベースの大塚のリズム隊が活躍し、ここでは渡瀬のジェームズ・バートンばりのギターソロが聴きものである。
 10月12日に先行配信された「カウボーイ気取り」と「雨が癒すものは?」は、ゆるいスワンプ・リズムに谷口のラグタイム・ピアノや前田のマリンバがアクセントになっている前者と、カルメン・ミランダの「Chattanooga Choo Choo」(42年)よろしくトラディショナルなサンバのリズムを持つ後者は心が弾む。この曲では前田と中川に谷口が加わったコーラスが特に印象的だ。 
 「君は逃げ水」は主にニューオリンズのセカンドライン・ファンクのビートで演奏されるが、4ビートのパートをブリッジを挟んだ構成で新鮮である。谷口のテクニカルで軽快なピアノと高橋のミュートトランペット・ソロなど聴きどころも多い。 

(写真:柳宙見 / 提供:前田卓朗) 

 ラストの「タイフーン・マンボ」は9月28日に配信されたシングルとは異なるアルバム・ヴァージョンで13秒程長い。ヴァースのメロディを一聴して気付く上級ナイアガラーも居ると思うが騙されてはいけない。全体的なリズムやサウンドは細野晴臣の「Yellow Magic Carnival」(Tin Pan Alley名義『キャラメル・ママ』収録/75年)や「Exotica Lullaby」(『泰安洋行』収録 / 76年)への愛溢れるオマージュであり、コーダの持続音までとは恐れ入ってしまった。「散歩娘」の「蝶々-San」(『泰安洋行』収録 / 76年)からこの曲まで一貫して手垢の付いた研究熱心なオマージュは大歓迎であり、当の細野氏も喜んでいるのではないだろうか。

 
ポニーのヒサミツ - タイフーン・マンボ 

 アルバム全体的にリズム・セクションの演奏力に支えられているので聴き飽きないのは勿論であり、70年代の細野晴臣や大滝詠一のアルバムが今でも手放せない熱心なファンはもとより、弊サイトの読者であるポップス・マニアは入手して聴くことを強くお勧めする。 
テキスト:ウチタカヒデ


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