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2020年10月25日日曜日

一色萌:『Hammer & Bikkle / TAXI』(なりすレコード / NRSP-789)

 

 女性プログレ・アイドルグループXOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ エクストリーム)のメンバー、一色萌(ひいろもえ)がソロデビュー作となる7インチ・シングル『Hammer & Bikkle / TAXI』を11月3日(レコードの日)にリリースする。 
 カップリング曲を見て気付いた人は、なかなかの英国ロック・マニアだ。70年代に活動した伝説のパブロック/パワーポップ・バンド、デフ・スクール(Deaf School)の代表曲「TAXI」(77年)の日本語カバーである。  

 まずは一色と彼女が所属するXOXO EXTREMEについて紹介するが、2015年5月結成のxoxo(Kiss & Hug)(キス・アンド・ハグ)を母体に、翌年12月に一色萌らが参加してXOXO EXTREMEとなり、現在4名のメンバーで都内のライブ・イベントを中心に活動している。プログレッシヴ・ロックでパフォーマンスするという斬新さで注目されており、現メンバー中一色が最も活動歴が長いのでリーダー格といえる。

 ここでは筆者による収録曲の解説と、一色が本作のレコーディング中に聴いていた曲を選んだプレイリスト(プラス 筆者選デフ・スクール・ベスト)を紹介しょう。 
 「Hammer & Bikkle」は、佐藤望と共にカメラ=万年筆の活動で知られるキーボーディストの佐藤優介のソングライティングとアレンジによる書き下ろしのオリジナル曲だ。筆者は8月半ばに入手した音源を聴いて気付いたのだが、この曲のイントロはニック・ロウの「Half a Boy and Half a Man」(『Nick Lowe and His Cowboy Outfit』収録 / 84年)のそれをオマージュしている。
 このモッドでパブロック色の強いサウンドと、一色の正確なピッチで艶のあるキャンディ・ボイスとのギャップは新鮮でいたく感動した。パンキッシュなコンボ・オルガンを中心に殆どの楽器は佐藤がプレイ(及びプログラミング)しており、ギターのみbjonsの渡瀬が参加している。その渡瀬はいつものギター・スタイルとは異なるクランチ・サウンドでプレイしており、この曲に大きく貢献している。 


 カップリングの「TAXI」は、熱心な英国ロック・マニアには説明不要だが、リバプールで結成された70年代英国のパブロック/パワーポップ・バンド、デフ・スクールの77年のシングル曲の日本語カバーである。しかも今回そのデフ・スクールのメンバー本人達が、本カバー・プロジェクトのためにリレコーディングを敢行してくれたというのから信じられないニュースなのだ。

Deaf School

 因みにこの曲は彼らのセカンド・アルバム『Don't Stop the World』(77年)にも収録され、バンド史でも代表曲の筆頭に挙げられるが、チャート的には振るわなかった。このバンドには強烈な個性と才能のあるメンバー達が多く在籍し、元アップル・レコード重役のデレク・テイラーがA&Rマンだったのにも関わらず大きな成功には至らず、3枚のオリジナル・アルバムを残して78年にバンドは解散してしまう


 その後ギタリストでメイン・ソングライターだったクライヴ・ランガーは、エンジニアのアラン・ウィンスタンリーと組んでプロデューサー・チームとして、マッドネスの『One Step Beyond...』(79年)やデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの『Too-Rye-Ay』(82年)、エルヴィス・コステロの『Punch The Clock』(83年)等々名作を数多く制作している。筆者は特にコステロの2枚やゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの『Flood』(90年)、モリッシーの『Kill Uncle』(91年)を愛聴していたので、クライヴのことは一流プロデューサーとして認識していたのだ。
 またベースのスティーヴ・リンジーは、79年にニューウェイヴ・バンドのThe Planets(ザ・プラネッツ)を結成し2枚のアルバムをリリースしており、レゲエのビートをロック的解釈で取り入れて注目される。そのサウンドは日本のムーンライダーズや一風堂(リーダーは土屋昌巳)にも大きな影響を与えた。  

 今回の一色のカバー・ヴァージョンの話題に戻すが、実に43年の歳月を経てデフ・スクールのメンバー達にリレコーディングさせてしまった、彼女とレーベル代表やスタッフの情熱には敬服するばかりだ。激しいパート転回を持つ3分半のソナタというべきこの曲は、それ相当の演奏力を伴うがここでも色褪せることはなく、オリジナル・ヴァージョンより円熟感を増したプレイを聴くことが出来る。
 ここでも一色のキャンディ・ボイスとのギャップは成功していて、不毛の愛をテーマにした歌詞の世界観を引き出している。
 日本語の訳詞とナレーションは、伝説のバンド“シネマ”(日本のデフ・スクールといえる。リード・ヴォーカルは松尾清憲)のベーシストで、現在“ジャック達”を率いる一色進(いっしき すすむ)氏が担当しているのも見逃せない。

【一色萌がレコーディング中に聴いていたプレイリスト・プラス】

●TAXI / Deaf school(『Don't Stop The World』/ 1977年)

●The Celtic Soul Brothers / Kevin Rowland & Dexys Midnight Runners (『Too-Rye-Ay』/ 1982年)

●So It Goes / Nick Lowe(シングル『So It Goes』/ 1976年)

●Believe me / Madness(『One Step Beyond...』/ 1979年)

●The Invisible Man / Elvis Costello & The Attractions (『Punch The Clock』/ 1983年)

●あ!世界は広いすごい / ゆるめるモ!(『Talking Hits』/ 2017年)

●恋のすゝめ / 僕とジョルジュ(『僕とジョルジュ』 / 2015年 )


 数量が限られた7インチ・シングルなだけに、興味を持った音楽ファンは大手レコード・ショップで早急に予約して入手しよう。
JETSET  

(ウチタカヒデ)

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