Pages

2020年9月3日木曜日

Kaede:『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』(T-Palette Records/TPRC-0256)



 新潟在住のアイドル・ユニットNegicco(ネギッコ)のメンバー、Kaede(カエデ)が、セカンド・ミニアルバム『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』を9月8日にリリースする。
 彼女は今年の元旦にファースト・フルアルバム『今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。』をリリースしており、9ヶ月というペースは異例ではないだろうか。

 弊サイトではこれまでにもNegiccoのサード・アルバム『ティー・フォー・スリー』(2016年)、リーダーであるNao☆のソロ・シングル『菜の花』(2018年)をそれぞれ取り上げているが、本作のプロデューサーとして名を連ねているのは、弊サイトで評価が高く常連であるLampの染谷大陽、先月15日にマキシシングル『くらげ』をリリースしたばりのウワノソラの角谷博栄の二人ということで、取り上げない訳にはいかないのだ。
 そもそもNegiccoと彼らの繋がりは、角谷が『ティー・フォー・スリー』の先行でリリースされた7インチ・シングル「土曜の夜は」を編曲含む楽曲提供をしたのが始まりである。3年後の19年6月にはKaedeのファースト・ミニアルバム『深夜。あなたは今日を振り返り、また新しい朝だね。』に染谷が「あなたは遠く」を提供したのが記憶に新しい。
 その「あなたは遠く」について染谷は、Lamp色を抑えて職業作家的スタンスでガール・ポップをクリエイトしていた。 一方本作では全面的に角谷と共同プロデュースすることで、自分達のカラーを色濃く打ち出しつつ、ヴォーカリストとしてのKaedeの新たな魅力を開眼させることに成功している。 
 本作にはLampとウワノソラの各セッションから選抜されたミュージシャンが主に参加しており、基本のリズム・セクションはウワノソラ側のベーシストの熊代崇人、山中千尋トリオなどジャズ・フィールドで活躍するドラマーの橋本現輝、Lamp側のキーボーディストの鈴木潤、ギターとシンセサイザーは染谷と角谷自身がプレイしている。
 アディショナルではLampセッションではお馴染みで、兄弟ユニットと言えるMinuanoを主宰するパーカッショニストの尾方伯郎をはじめ、両バンドの関係者が多く参加している。またバッキング・ヴォーカル(コーラス)ではLampの榊原香保里と永井祐介、ウワノソラのいえもとめぐみが参加しているのが嬉しい。


 では本作『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』の収録曲を解説していこう。
 冒頭の「秋の惑星 -Opening-」は次曲の変奏曲的導入部となる染谷のインスト作品でKaedeは不参加だが、Lampの『ゆめ』(2014年)に通じるサウンドだ。左チャンネルの榊原と右チャンネルのいえもとの高域のコーラスの対比、センターの永井に深町仰と田中ヤコブ(家主)が加わったコーラスのバランスが素晴らしい。榊原はフルート、いえもとはトランペット!も披露していてその多才さをうかがい知れる。パトリース・ラッシェンの「Remind Me」(『Straight From The Heart』収録 / 82年)を彷彿とさせる、シンコペーションが効いた鈴木のフェンダー・ローズのプレイも印象に残った。編曲は染谷と角谷の共同である。
 続く「君が大人になって」は染谷単独の作詞作編曲で、透明感があるKaedeの歌声が映える洗練されたポップスだ。サウンド的には変拍子のドラミングを持つヴァースからセカンドヴァースを経てサビに至るパターンが、2コーラス目からテンポアップした16ビート化して展開するが、3分余りの尺にコンパクトに収められている。鈴木のクラビネットと尾方のコンガのプレイは職人技の粋で聴き応えがあり、『木洩陽通りにて』(05年)辺りが好きな古くからのLampファンにもアピールするだろう。
 なお染谷が手掛けた歌入りの3曲は、Kaedeのヴォーカル定位が右チャンネル側、橋本のドラムが左チャンネル側にミックスされているのが興味を惹く。これはマルチ・レコーダーのチャンネル数が少なかった60年代サウンドに憧憬を抱く染谷らしい実験精神からだろう。

 榊原が作詞した「モーニングコール」も一聴して染谷イズムな技巧的旋律で歌手としては難易度が高いが、Kaedeは自らの個性を活かしつつうまく表現している。この曲ではコーラス・アレンジも素晴らしく、2コーラス目から複雑に展開する榊原と永井のハモリと、ブリッジでテンションの様に鳴っているヤコブの個性的なコーラスなどよく構成されている。 
 作詞:榊原と作編曲:角谷という「さよならはハート仕掛け」は、本作ならではのレアな組み合わせで、ロマンティックな歌詞をメロウ・グルーヴのアレンジで包み込んだエクレアのような甘いナンバーだ。本作中Kaedeの声質的にも最もマッチしているサウンドではないだろうか。デニース・ウィリアムスの「Free」(『This Is Niecy』収録 / 76年)に通じるサビの展開などガール・ポップスとしての完成度が極めて高い。この曲では鈴木はアコピのみに回り、その他のキーボードはウワノソラの諸作で知られる宮脇翔平が担当していて、ハモンド・オルガンのオブリやソロで光るプレイを聴かせてくれる。

 「セピア色の九月」は作詞:榊原、作曲:永井、編曲:染谷というLampの強力なトライアングルによるブラジリアン・テイストの曲で、『東京ユウトピア通信』(11年)に収録されていてもおかしくないサウンドだ。随所でKaedeの魅力的なファルセット・ヴォーカルが聴けるのでファンは必聴だろう。ハチロクのヴァースは永井らしい旋律で、アンニュイなブリッジを挟んで疾走感あるサビへと雪崩れ込む。
 「冷ややかな情景」(『東京ユウトピア通信』収録)にも通じる比類なき多幸感を持ったサビの美しさは本作中随一で、筆者個人的にもベスト・トラックかも知れない。また複雑な展開に対応したリズム・セクションと尾方のパーカッションのプレイは聴きものである。 

ジュピター / Kaede

 角谷単独の作詞作編曲の「ジュピター」は、「セピア色の九月」に対するウワノソラからのブラジリアン・サウンドでの回答で、『陽だまり』(17年)の後半部で展開したサウンドを彷彿とさせる。この曲も目まぐるしく展開するが、パート毎にKaedeの表現力あるヴォーカルが聴けるのだ。リズム隊のプレイに角谷のクラシック・ギター、鈴木のアコピとローズ、尾方のコンガが有機的に絡むグルーヴはよくアレンジされており、ジャズ・フィールドで活躍する荻原亮によるギター・ソロも光っている。 
 ラストの「ハートはナイトブルー」は、既出の「モーニングコール」をモチーフにしたと思しき染谷作のムーディーなインスト曲で、主役のKaedeにNegiccoファンには嬉しい2人が参加したプリティーなコーラスが聴けるので本作を入手してクレジットを確認しよう。ジャズ・テイストのリード・ギターは角谷で、編曲も染谷と角谷によるものだ。 

 総評として、弊サイトで高評価しているLampの染谷とウワノソラの角谷が全面プロデュースしていることで、各バンドのサウンドを想起させることは容易なのだが、今回Kaedeというヴォーカリストとのコラボレーションによって計算を超えた化学変化が起こったことは間違いなく、希なポップス・アルバムがクリエイトされている。 
 興味を持ったKaede及びNegiccoファンは元より、Lampとウワノソラのファンも是非入手して聴いて欲しい。 
(ウチタカヒデ)



0 件のコメント:

コメントを投稿