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2018年11月3日土曜日

Vacation Three:『One』(TOO YOUNG RECORDS/TYG-VT01)



 男女3人組のアコースティック・トリオ“Vacation Three(ヴァケーション・スリー)”が記念すべきファースト・アルバムを11月7日にリリースする。Vacation Threeは、クルーエル・レコードに所属したギターポップ・バンド“ARCH”のリーダーであったヴォーカル兼ギター、メイン・ソングライターの中村大を中心としたユニットだ。現在彼は海外でも評価が高いニューウェーブ・ファンク・バンド“BANK”と平行してこのユニットで活動しているという。
 彼を支えるメンバーには、過去WebVANDAで紹介したELEKIBASSやFULL SWINGのサポートをはじめ、最近新作シングルを紹介したばかりのWack Wack Rhythm Bandのサックス奏者である仲本興一郎と、同バンドに参加する女性パーカショニストおきょんが加わっている。
 彼等のデモ音源は以前から、元ピチカート・ファイヴでプロデューサーの高浪慶太郎氏のFM番組で特集されるなど、耳の肥えた音楽通には知られていた。
 筆者も昨年初めに十数年来の友人でもある仲本に紹介されて以降、そのサウンドの素晴らしさにいたく共感したのだ。同世代的音楽趣向へのシンパシーなのかも知れないが、ヤング・マーブル・ジャイアンツ~ウィークエンド、エブリシング・バット・ザ・ガール等に通じるネオ・アコースティックと程よい中南米フレイバーがブレンドされたそのサウンドは、聴く者を心地よく包み込むのだ。
 本作は全10曲を収録し、レコーディングはメンバー3人の演奏のみでおこなわれ、ミックスは中村自身が担当している。またマスタリングには中村と元レーベル・メイトで、カヒミ・カリィやPort of Notes等のプロデューサーとしても高名な神田朋樹が迎えられているのも注目だ。




 では筆者が気になった主な収録曲を紹介していこう。
 冒頭の「New Voyage」は、アコースティック・ギター(主にアコースティックなので以下ギター)によるボッサのリズムを基本に、スルドとタンボリムがビートを刻み、ソプラノ・サックスがフリーに絡んでいくという展開で、中村とおきょんの2人によるコーラス、ヴォーカリゼーション、左右のエレキ・ギターとトライアングルやカバサのパターンが実験的だ。
 続く「Sweet Magic」はアップテンポなギター・カッティングとカホンのビートをバックに、中村の爽やかなヴォーカルが蒼い歌詞にマッチしていてギターポップ・ファンにもお勧めである。
 そして本作中白眉の名曲と推したいのが「欲望」である。デモ・ヴァージョンからダイヤモンドの原石であったこの曲には、中村の才能が集約されていると言って過言ではない。ネッド・ドヒニーの「Get It Up For Love(恋は幻)」(『Hard Candy』収録 76年)に通じる非常にクールなブルーアイド・ソウルで、不毛の愛を綴った歌詞との相性も非の打ち所がない完成度なのだ。
 本作のヴァージョンではギターにシンセ・ベース、パンデイロとアゴゴという珍しい組み合わせのリズム・セクションでニュー・アレンジされており、ジャジーなテナーサックス・ソロもこの世界観を更に高めている。筆者的にも今年の個人的ベストソングの1曲に確実に入るだろう。


 「Blue Submarine」はボッサ・ギターにシェイカーとトライアングルいうシンプルなリズム・セクションをバックに中村とおきょんが交互にヴォーカルを取る小曲だが、仲本を加えた3人のコーラスではコール・ポーターの「Night And Day」(32年)が引用されており、嘗てエブリシング・バット・ザ・ガールが同曲をカバーしたのを彷彿とさせてリピートしてしまう。中村とおきょんのハーモニーが美しい「あたらしいうた」もシンプルな編成ながら、中村によるリリカルな歌詞とソングライティングが光っており耳に残る。
 アカペラから始まる「Mirai」からラストの「海のない街」の流れも興味深い。「Mirai」は1分半の小曲ながら凝った構成で、コーラスとメッセージ性のあるブリッジからテナー・ソロへと繋がる。
 全編おきょんがリード・ヴォーカルを取る「海のない街」は、リヴァーブが効いたエレキ・ギターのカッティングとミッドテンポのパーカッション・ループによるバックトラックに前曲からの変奏パート的なコーラスが被さってくる。一夏の思い出を無垢に描いた歌詞が美しく本作のエンディングにピッタリである。
 このレビューを読んで興味を持った音楽ファンは本作を入手すると共に、都内を中心に沖縄や鹿児島にまで遠征するという彼等のライヴを是非体験して欲しい。詳しいスケジュールは下記のオフィシャル・サイトでチェックしよう。
younger than yesterday
http://www.tooyoung-records.com/younger/

(ウチタカヒデ)



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