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2015年7月29日水曜日

『ミシェル・ルグラン自伝』(アルテス)




本書は2013年にフランスで刊行されたミシェル・ルグランの自伝の日本語版である。ルグランに丹念なインタビューを行ってそれをもまとめたのはステファン・ルルージュ。日本語版の監修は日本のルグラン研究の第一人者、濱田高志氏である。濱田さんはルグランの信認が厚く、ルグラン邸に招かれ宿泊したほど。そんな濱田さんだが、私が濱田さんと知り合った時は一介のファンだった。私が1990年頃、「VANDA」という音楽のミニコミを始めた頃、その前の「漫画の手帖」という頃から読んでいただいたようで、私に「VANDAでミシェル・ルグランの特集を希望します」という手紙を送ってこられた。その手紙を読んで並々ならぬ知識と熱意が伝わってきたので、私の方から「ご自身でVAMDAにルグラン研究の連載をお書きになりませんか」と提案したところ快諾をいただき、それ以来、毎回ルグランの連載が始まった。その連載を目にとめた方が、ルグランが来日した時に濱田さんを呼び、ルグランにその研究の資料を見せたところ、大変に驚き、以降、ルグランは日本での様々な仕事の際に濱田さんをスーパーバイザーとして重用するようになった。その信頼の醸成が進んでついにはルグランの家に呼ばれるまでになる。泊まった際に、ルグラン邸の広大な敷地に灯る別の家の明かりは、ルグランの使用人のものだった...などの話を濱田さんから聞いて、一介のファンだった方が、最も憧れた、それも外国の方にこれほどの信頼を勝ち得てフランスまで呼ばれていて宿泊するなんて...とあまりのサクセス・ストーリーに我ながら仰天したものだ。まさにマンガの中でしか出てこないようなエピソード。ルグラン以外、日本の作曲家の研究に合わせたCDのリイシューあど多方面でご活躍の濱田さんの一面だが、今でもルグランが中心にいるのは間違いない。さて、申し訳ないが、ルグランに関しては、私は門外漢に近い。子供の時に、こんな美人がいるのかと憧れたカトリーヌ・ドヌーヴから知った『シェルブールの雨傘』。スティーヴ・マックイーンの『華麗なる賭け』のテーマの「風のささやき」などはもちろん大好きで知っているが、その程度。超ロングヒットという『ルグラン・ジャズ』は聴いたことがなく『I Love Paris』もしかり、この本を読んでチェックしたくらいなので、紹介するのが申し訳ないレベルなのだ。でも本を読むとサウンドトラックの仕事でその妥協しない姿勢、特に『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』などでの盟友ジャック・ドゥミの依頼を脚本の内容が納得できないと自家用機でドゥミの元までいって激論を戦わせ結局引き受けないなど、映画業界のやり取りはルグランも相手方も非常にシビアな戦いだ。「風のささやき」を歌ったノエル・ハリソンが、歌詞の内容を気に入らずヒットするはずないとまったく乗り気でなかったのに実は映画と合わせメガヒットとなり、ルグランに素直に謝罪しるなど興味深いエピドードもたくさんある。クラシックのきちんとした教育を受けていたルグラン、恩師達はジャズをバカにしていたが、ルグランはアメリカのジャズ、R&Bのシンガー達に深いリスペクトと愛情を持っていて、マイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスなどとの仕事は夢のように語る。またハリウッドで活躍するヘンリー・マンシーニと知り合いルグランを気に入ったマンシーニがハリウッドの仕事を紹介していってくれたとか、もうキラ星のような人達と仕事を進めていくようになる。4つのアカデミー賞、5つのグラミー賞を獲得するなど、その活躍はもの凄い。ただ文中の映画や映画人の名前に疎いし、ジャズに関してはまったくの門外漢でどんな凄腕のミュージシャンが集まってもその凄さがわからない。ただそういう事を抜きにしても着飾った伝記とは違って「人間ミシェル・ルグラン」が読んで分かるので、読み物としても十分楽しめる。この本を読んで文中の知らない曲は、昔ならリップ・サービスで「買って聴いてみようと思う」など書いていたところだが、今はYou Tubeで本当にすぐに聴けるので、私のようなレベルの人でも是非購入して、知らない部分はYou Tubeで補いながら読み進めていこう。本書の出版元もアルテスは元・音楽之友社の木村元さんの作った会社で、木村さんとは音楽之友社時代『ソフトロックA To Z』などを一緒に作り、VANDAの版下を作ってくれた人が結婚で辞めた時は、木村さんが丸ごと1VANDA26号を無料で版下作りの全てをやっていただいた恩人なのだ。この本が濱田さんと木村さんのコラボというのも強い縁を感じる。最後にルグランは、今でもいくらでもメロディが浮かんでくるそうで、まさに天才だ。手塚治虫がマンガのストーリーはいくらでも浮かぶが描く時間がない...とう事を言っていたと思うが、こういう人達が真の天才というのだろう。(佐野邦彦)






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