Pages

2015年6月18日木曜日

☆『The Who Live At Shea Stadium 1982』(ヤマハ/10593)DVD

フーほどの個性的でテクニカルなメンバーが揃ったバンドは他にはなかった。ストロークの名手で手を風車のように回して正確にピッキングできるピート、リード・ギターのようなベース・ランニングで圧巻のフレーズを叩き出せるジョン、そしてまさに縦横無尽、手数足数の多さ、自由さで他のドラマーを寄せ付けないキースと、フーは最高のパフォーマーでもあった。特にキース・ムーン。デビュー時から可愛らしいマスクながら群を抜くドラミングをみせてくれたので、デビューの「I Can't Explain」のテレビ映像を見ると、リード・ヴォーカル並みにキースのカットがインサートされ、ドラムへの注目度が他のどのグループとも違っていた。キースのドラミングはスタジオでも十分発揮され、『Tommy』『Who's Next』『Quadrophenia』など、ああキースのドラムだとすぐに分かり、フーのサウンドはキースのドラムが核という部分が実に多かった。しかし破天荒なキースは1978年に突然この世を去る。ピートは旧交があった元スモール・フェイセスのケニー・ジョーンズを新メンバーとして受け入れ、1979年にツアー参加、スタジオ・アルバムでは1981年に『Face Dances』、1982年に『It's Hard』を出すが1983年にフーはいったん解散する。1982年のツアーの模様は1984年に『Who's Last』としてリリースされた。その後1985年のLIVE AIDなどのイベントライブがあり1988年まではドラマーとして参加したが、1989年の結成25周年記念コンサート(『Join Together』としてリリース)以降は参加していない。(ゲストでセッション参加はあったが)その後、ドラマーの座はサイモン・フィリップスを挟みながら現在はザック・スターキーが多く担っており、ザックは手数足数が多いし多彩に繰り出せるのでフーのファンの間でも人気は上々で、キースの時代、そして昨今はキースのDNAをついだようなザックがいるので、その間のケニー・ジョーンズの時代は忘却の彼方に行ってしまっていた。正直に言おう。自分もあまり評価していなかった。「You Better You Bet」は大好きだがアルバム『Face Dances』『It's Hard』は、『Who Are You』よりもずっと前の『The Who Sell Out』から比べてしまって、下に見ていたのは事実。ケニー時代の解散記念ライブ『The Who Live From Toronto』はリアルタイムで買ったLDを長い間隅の方に置いたままにしていた。そして今、温故知新というべき同時期のライブの『The Who Live At Shea Stadium 1982』が出た。2時間半を超える長尺の本作をじっくり見たら、昔のケニー時代の「違和感」がすっかりなくなっていた。それは「キースと比べても遜色ないじゃないか」という技術的なものではない。その違うスタイルのドラミングがとても心地いいことに気付いたのだ。ケニーのドラムはキースよりも正確無比、そのかわりトリッキーな部分は少ない。フーのライブは、キースのその何が飛び出すか分からないトリッキーさと、暴走気味のドラミングにフーの持つロックンロールのパワーをより多く感じとっていた訳だが、ケニーのドラミングは重戦車のような安定感でライブ全体を支えていて、円熟期に入ったピートとジョンは逆に演奏しやすいようだ。ロジャーのヴォーカルも絶好調であり、歌いやすさが伝わってくる。この時の4人のコンビネーションはとても良かったに違いない。それは画面からも伝わってくる。本作は先のトロントのライブとは違って妙なカメラ操作をしないので、カメラワークが安定していてその時のライブがリアルに感じされる。19821013日のシェイ・スタディアムのライブを丸ごと収録してある点もいい。ボーナス映像では1012日からの5曲が入りその中で「My Generation」(!)と「A Man Is A Man」「5:15」は本編には入っていないものだ。この後、1217日に行われたカナダのメープル・リーフ・ガーデンのライブがお馴染みのトロント・ライブとして1980年代にビデオ・ソフト化されLDになり今はDVDで購入できる。音だけでも2006年にCDとして『Live From Toronto』としてリリースされたが、そのどれにも「Behind Blue Eyes」「Dr.Jimmy」「Cry If You Want」の3曲はカットされてしまい22曲仕様。それに比べて本作は25曲がフルで入り、曲目が異なることから「Substitute」「I'm One」「The Punk And The Godfather」「Tattoo」「I Saw Her Standing There」「Summertime Blues」と「Behind Blue Eyes」「Cry If You Want」はトロントの方では聴けない。ジョンが歌うビートルズ・ナンバーの「I Saw Her Standing There」なんてこのDVDでしか聴けない珍しい選曲だ。逆に「Boris The Spider」「Love Ain't For Keepin'」「Squeeze Box」と「My Generation」「5:15」はトロントのみ(後の2曲はボーナス映像で聴けるが)となっている。どちらも見ておくべくライブだが、トロントを持っている人は特に「I'm One」「The Punk And The Godfather」をオススメしておこう。見ないともったいない名演。なんだか『Quadrophenia』関係の曲は調整用に使われるので悲しいが、こうやって集めて聴いて欲しいもの。フーの伝道師である犬伏功さんの解説を読みながら、ケニー・ジョーンズ時代のフーのライブの凄さを堪能しよう。(佐野邦彦)


0 件のコメント:

コメントを投稿